BMWとの協業の成果 16年振りに復活するトヨタ スープラ

2018年3月のジュネーブショーで、トヨタは「GRスープラ レーシング・コンセプト」を世界初公開した。スープラは「2000GT」と並び、トヨタの歴史において長らくフラグシップスポーツとされていたが、2002年に生産を中止。今回初公開した「GRスープラ レーシング・コンセプト」は、「スープラ」を16年ぶりにレーシングカーとして蘇らせたコンセプトモデルとされている。

トヨタ GRスープラ・レーシングコンセプト
ル・マン仕様のLM-GTEクラスのマシンを想定した「GRスープラ レーシング・コンセプト」

■スポーツカー開発を担当するGAZOO Racingカンパニーのプロジェクト

GRスープラ レーシング・コンセプトはGAZOO Racingが手がけるスポーツカー・シリーズ「GR」のスタディモデルで、スポーツカーを表現するため、往年の「スープラ」をイメージして作られたという。このことから、GRスープラ レーシング・コンセプトは2018年1月の東京オートサロンでベールを脱いだ「GR スーパースポーツコンセプト」とリンクした位置付けだということがわかる。

GRスーパースポーツコンセプト
TGMが開発しているスーパースポーツカー「GR スーパースポーツコンセプト」

「GR スーパースポーツコンセプト」は世界耐久選手権(WEC)に出場しているTS050ハイブリッドのパワーユニットを流用した1000psの出力を発揮するスーパースポーツカーとされるが、GRスープラ レーシング・コンセプトは、ドイツ・ケルンにあるTMG(トヨタ・モータースポーツ)で開発、製造が行なわれる。

そして、ジュネーブで発表されたGRスープラ レーシング・コンセプトもTMGで製作されたプロトタイプで、ル・マンLM-GTEクラスの車両を想定しているという。このように見ると、「もっといいスポーツカーづくり」を使命とするGAZOO Racingカンパニーにとって、TMGの位置付けはとても重要であることがわかる。もちろん豊田市にもGAZOO Racingの開発拠点・製造拠点は存在しているが、こちらは今後展開するトヨタのスポーツ車種であるGR、GRスポーツの開発に忙殺されているのが実情のようだ。

ジュネーブで発表されたGRスープラ レーシング・コンセプトは、復活するスープラの前触れであり、本格的なスポーツ・クーペであることを強調するコンセプトモデルであることは間違いないが、レース仕様にされているということは市販される骨格がすでに固まっていることを意味していることも注目すべきだろう。

■トヨタ・スープラとは

1978年に2代目セリカのフロントノーズを延長し、直列6気筒エンジンを搭載したモデルが初代スープラ(スープラは海外向け、日本名:セリカXX)だった。北米市場を重視したモデルだが、この初代(A40/50系)はラグジュアリーなスペシャルティカーという位置付けだった。

1981年に登場した2代目(A60型)は、セリカの上級モデルというポジショニングを引き継ぎ、ラグジュアリー・コンセプトはソアラが担当し、A60型は従来よりスポーティさを強調していた。

トヨタ A60型スープラ
2代目となるA60型スープラ

1986年に登場した3代目(A70型)はセリカから完全に独立したモデルとなり、日本市場でも車名をスープラとした。基本コンポーネントはソアラと共用となりスポーツ色はさらに高められた。ツーリングカーレース用のホモロゲモデル「ターボA」も用意。最後期モデルでは上級モデルのパワートレーンが、直列6気筒の7M-GTEU型3.0Lターボから最新の1JZ-GTE型の2.5Lターボに変更されている。また、グループAのホモロゲーション取得用モデルとして7M-GTEに専用ターボを搭載した3.0Lターボ車「ターボA」が、1988年8月のマイナーチェンジと同時に500台限定で販売された。

ただし、グループAレースでは、フォード・シエラ、その後に登場したスカイラインGT-Rに対して思うような成績は上げられなかった。

1993年に、4代目(A80型)スープラが登場した。スカイラインGT-R(R32型)を追っての登場で、直6 3.0L 2JZ-GTE型の直6 3.0L シーケンシャル・ツインターボを搭載、ゲトラグ社製の6速MTを搭載していた。トヨタのスポーツカーのフラッグシップとされ、ドイツ・ニュルブルクリンクでテストを行なったモデルとして知られる。

トヨタ A80型スープラ
4代目のA80型スープラ。このモデルは2002年に生産中止

この4代目はスポーツモデルのフラッグシップとされたものの、同時代のR32型/R33型スカイラインGT-Rと比べると、動力性能、操縦安定性などの面で及ばなかった。

このA80型は2002年で生産を終了。さらにその後、2006年にセリカ、2007年にMR-Sも生産終了し、トヨタのラインアップからスポーツモデルが消えたことは現在のトヨタにとっては一種のトラウマになっている。

■BMWとの協業

トヨタとBMWは2011年12月に戦略的な協力関係を結ぶことを発表し、BMWの1.6L、2.0Lのディーゼル・エンジンをトヨタ車に供給すること、リチウムイオン電池の共同開発を行なうことを決定しているが、2012年には、さらに「燃料電池(FC)システムの共同開発」、「スポーツカーの共同開発」、「電動化に関する協業」、「軽量化技術の共同研究開発」を行なうことが決定し、長期的な戦略的協業関係構築を目指していく覚書に調印している。

トヨタ BMWとの協業 豊田章男社長

しかし、BMWはいち早くi3、i8を発売、燃料電池車に消極的、などトヨタとの波長が合わず協業のメリットはほとんど生み出されていないが、「スポーツカーの共同開発」だけは両者の思惑が一致してスタートし、これが次期型Z4、スープラという存在なのだ。

BMW社のZ4の初代は2003年に発売されたクーペ/オープンの2座席スポーツカーで、アメリカ市場を訴求したこともあり、アメリカ・サウスカロライナ工場で生産された。2009年に登場した2代目はドイツのレーゲンスブルク工場に生産を移転したが、いずれもBMWにとっては成功作とはならなかった。

BMW Z4コンセプト フロントスタイル
2017年8月のペブルビーチ・コンクール・デレガンスでベールを脱いだZ4 コンセプト

そのため、スープラの復活を目指すトヨタとBMWのZ4共同開発は両者の思惑が一致したといえる。なにしろ2座席のスポーツカーは、グローバルで熱烈な愛好者が存在する一方でマーケット的には小さいため、開発コストを償却するのは至難の業である。それはトヨタにとっても事情は同じである。共同開発となれば開発コストは半減するのだ。

トヨタは、86の上に位置するスポーツカー・フラッグシップを求めていた。さらにスバルとの共同開発となった86がビジネス的に成功したため、新型スープラは共同開発のスポーツカー・シリーズ第2弾とされたのだ。

BMW Z4コンセプト サイドビュー

86のトヨタ側のプロジェクト責任者を担当したスポーツ車両統括部の多田哲哉氏(現在はGazoo Racingカンパニー GR開発統括部チーフエンジニア)が新型スープラの開発責任者となり、2012年春にBMW側との打ち合わせを開始して、これがプロジェクトのキックオフとしている。

そのため、新型スープラ、Z4の発売予定とされる2019年春を想定すると、なんと開発に7年間を要していることになる。ちなみに86/BRZは2008年春に共同開発プロジェクトがスタートし、2012年春に発売されているので、開発期間は4年であり、企業文化、設計思想の違う2社の間では軋轢もあったものの4年間で全く新しいスポーツカーが作り上げられた。

BMW Z4コンセプト インテリア
この86/BRZプロジェクトと比べ、スープラ/Z4の開発プロジェクトはいかに難航したかを伺うことができる。

ちなみにスープラ/Z4開発のポイントはFR駆動と直列6気筒エンジンの搭載だとされている。確かにかつてのスープラは直6がメインモデルであり、それはZ4も同じだ。さらにFR駆動のマイスターであるBMW流の前後荷重配分50:50というポリシーも共有できる。

BMW Z4コンセプト コックピット

ただし、トヨタ側はピュアスポーツカーを主張し、BMW側はスポーツ性とラクジュアリー制のバランスを重視する姿勢で、かなり隔たりがある。このあたりは装備や、熟成の手法の違いで解消されるだろう。

企画の初期段階でトヨタ側は、ポルシェを超えるスポーツカーを作りたいと主張し、BMW側が白けたという場面もあったというが、GAZOO Racingカンパニーとしての発想と、BMWの商品哲学の発想の違いと見るべきだろう。

86/BRZと同様に、ボディのデザインはトヨタとBMWでは別物になり、現時点では86とBRZの差よりもっと大きな違いになると予想される。

BMW Z4コンセプト デザインスケッチ
Z4のデザインは、BMWデザイン本部長、エイドリアン・ファン・ホーイドンクが担当

新型スポーツカーの諸元は、全長4380mm、全幅2048mm(GTE仕様のサイズで実際は1860mm程度)、全高1290mm、ホイールベース2485mmと、4代目スープラとほぼ同レベルだ。タイヤサイズはフロントが225/50R19、リヤが255/45R19。恐らく仕様により17インチから19インチが選べるものと考えられる。もちろんエンジンはフロント・ミッドシップ配置で、シート位置はかなり後方の2シーターだ。

搭載エンジンは直4 2.0Lターボと直6 3.0Lターボで、これらはもちろんBMWが持つラインアップの「ツインパワーターボ・シリーズ」となる。トランスミッションはZF製の8速ATか7速DCTかは不明だが現時点ではMシリーズ用の7速DCTが有力とされる。

Z4、スープラの発売は2019年ジュネーブショーでワールド・プレミアされ、その直後に発売すると見られ、オーストリアのマグナ・シュタイヤー社のグラーツ工場で生産されると予想されている。

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