トヨタが開発する福祉車両「Welcab/ウエルキャブ」はWelfare(福祉)、Well(健康)、WelcomeのWelにCabin(客室)のCabを合わせた造語で、1965年ごろより開発をスタートしている。その福祉車両の最新モデルが、先ごろ発売されたヴォクシー/ノアの車両を使ったものだ。
福祉車両は障害を持つ本人がドライブする自操式のものと、介護用に利用する場合の大きく分けて2系統あるが、今回注目したのは後者の介護用の需要増を見込んでの新たな開発モデルである。トヨタによれば、この先高齢化社会において、その需要は拡大し、特に75歳以上の高齢者人口は2000年からの25年間で2.5倍に増え、ますます需要は大きくなると予想している。
一方、自操式のタイプは大きく分けて3パターンあり、右半身だけが動かせる、逆に左半身だけが動かせる、また、上半身だけ動かせるというように分け、それぞれニーズに合わせてカスタマイズしていくというのが、一般的で車両もカタログモデルというより、サプライヤーがオリジナルに製作していくケースが多い。そのため、システムをボルトオンしていくイメージの車両製作となる。
介護式車両は要介護者を助手席に乗せる、あるいは後席に乗せるなど乗車場所によって改造方法は異なる。また、回転シート、リフトアップシート、リヤリフト、リヤスロープなどのパターンも組み合わされている。
今回のトヨタ・ヴォクシー/ノアの福祉車両の開発テーマに「普通のクルマ化」がある。つまり介護用の改造車を購入しても、その必要がなくなったときに、その車両だけが残り日常使いに支障をきたすケースがあるからだ。介護の必要がなくなったとき、その車両を普通のクルマとして稼働させるというのがキーになる。
まず新型ヴォクシー/ノアにはスロープ式が設定されている。大きい車いすやストレッチャーに対応し、リヤゲートを開けスロープで乗降する。スロープはこれまで荷室に立てかけるように収納されるのが一般的だったが、今回そのスロープをさらに前側に倒れるように収納することで、フラットな床面とリヤゲートを開けた時に、普通のヴォクシー/ノアと同じように使用できる工夫がされている。
また2列目の左側シートを外し、車いすを固定するように改造されているが、車いすを乗せることがなくなった時は、その2列目に販売店で後付けシートを用意し、これを取り付けることで普通のクルマとして2列目が使用できるようにした。こうしたことで、介護が不要になったあとでも、その車両は普通の車両として使用できこれまで購入を見送っていた人たちの需要が取り込めることになる。
トヨタによればウエルキャブ購入を見送った理由に、価格が50%、いつまで使うかわからないという理由が20%、他に日常の使い勝手が10%というデータがあるようだ。さらに杖、車いす使用の老人家庭、およそ500万人への福祉車両普及率はわずか1%程度しかなく、自由に外出できる手段を持たない人が多いということも分かる。これらの理由からも「普通のクルマ化」された福祉車両の普及により、より多くの人が外出できるようにしようというわけだ。
トヨタではハートフルプラザという福祉車両の常設展示場が全国に9ヶ所あり、ウエルキャブの体験とコンサルティングも可能という取り組みを行なっている。そして販売店舗ではウエルキャブステーションという同じくウエルキャブの体験ができる店舗も208店舗あり、専門スタッフが対応している。また、ウエルキャブはすべてのトヨタ販売店で取り扱っているので、自宅に近いディーラーで購入が可能だ。