プリウスをベースにしたプラグインハイブリッド(PHV)モデルは2009年末に日本、海外の法人や自治体など限定したリースを開始すると発表していた。そして2010年から日本で約230台、アメリカで150台、その他220台がヨーロッパや豪州に配車されている。この時点で価格は525万円のリースとされていた。これはいわば実証試験的な意味合いでのリースだったといえる。
このリースでの走行経験をもとに改良を加えて市販化が計画され、実際にわれわれの前に登場したのは2011年の東京モーターショーであった。モーターショーの開幕直前の11月29日には同日から受注を開始することが発表され、納車は2012年1月末から開始とされていた。
2009年発表のクルマと現在の市販仕様の違いは、リチウムイオン電池の改良とそれに伴う航続距離の改善、充電口に夜間照明の取り付け、、充電タイマーの設置、防塵カバーを付加、充電ケーブルの軽量化や扱いやすさを向上、手動スイッチによるEV/ハイブリッドの運転モード切り替えの追加など多くの改良が加えられ、さらに、エクステリアにはPHVのみのメッキ・グリルガーニッシュやブルーのカラーアクセントを加えた専用ヘッドランプなどを用意している。
性能面でのポイントは、リチウムイオン電池ユニットの改良で、従来の重量は160kgで体積は201Lあったが、市販モデルはケース材料を鋼材からアルミに変更し、電池容量も5.3kWh(345.6V)から4.4kWh(207.2V)に変更し、重量80kg、体積87Lと大幅に小型・軽量化させたことだ。電池ユニットが小型になったので、ラゲッジスペースもベース車のプリウスと同等になっているのだ。ちなみに電池のメーカーもパナソニック製からサンヨー製に代わっている。
なお、4.4kWhという電池容量は、この電池のみを使用した場合のEV走行で、走行距離20km(JC08モードで26.4km)を走ることができることから逆算して決められたという。この走行距離20kmの根拠になっているのは、日本における1日当たりの走行距離が20km以下のユーザーが半数を占めるという調査結果によるものだという。逆に言えば、EV走行で多くの人の日常走行距離をカバーしながら、その一方でできるだけ電池の容量を小さくしたいというのがトヨタの狙いである。EVでの走行距離を追求するレンジエクステンド指向のプラグイン・ハイブリッドとは発想が異なるのだ。
↑リヤシート下に収納される充電システム ↑キャップにPHVならではのマークが
プリウスPHVのコンセプトは、EV車の本格普及を目指し、PHVならではの圧倒的な燃費・環境性能と、量産車にふさわしい商品性・使いやすさ、手が届く価格の3点にこだわって開発されている。つまり、ベース車のプリウスに対して、価格アップの最大要因となるリチウムイオン電池のコストを重視した選択であることがわかる。
プリウス(Sグレード)は232万円、プリウスPHV(Sグレード)は320万円で、現在施行されているエコカー補助金はプリウスが25万円、プリウスPHVが45万円で、実質は207万円と275万円という価格差になる。(各地方自治体の補助金は別)。なおビジネス、法人向けの装備を削ったグレード「L」も今回追加設定されている。
もっとも、コスト的には車両価格以外に現実的な課題もある。プラグインであるからにはEV走行重視であり、そのためには家庭での充電設備が必要で、200V電源の設置では約30万円の出費、100V電源でも20〜30A用の専用回路化をさせておく必要があるのだ。
プリウスPHVは急速充電には対応していないので、家庭充電が必須となるが、毎晩の充電を行いさえすれば片道10km圏内の通常走行であれば、ガソリン不要のクルマということになるわけだ。ちなみに200V電源での充電時間は90分、100Vの場合は180分となる。
極端に言うとガソリンを必要としないカーライフを大きな付加価値と考えれば、PHVとしての価格アップ分の負担は納得できるということになる。
なおEV走行とHV(ハイブリッド車)として走行する燃費を複合して算定した、プラグインハイブリッド燃料消費率(PHV燃費)は61.0km/L。電力消費率は8.74km/kWhを達成しているという。
プラグインハイブリッド(PHV)の定義をどのように規定するかは現在のところ自動車メーカーによって異なる。例えばシボレー・ボルトは16kWhのリチウムイオン電池を搭載し、EVモードで64kmの航続距離を持つ。GMはアメリカのドライバーの1日当たりの走行距離は64km以下だというデータに基づいて、この航続距離=電池容量を決定しているという。
従って、シボレー・ボルトのユーザー層の多くは、日常での使用でエンジンを起動することなくEVモードでのみ走行し、帰宅後に家庭電源で充電するという使用状況が多く、エンジンを使用する場面がほとんどないのでガソリンの消費はごく稀だ。言い換えればほぼEVとして使用している。つまりボルトはEVから派生したPHVで、レンジエクステンド(航続距離延長型)EVということもできる。
これに対して、プリウスPHVはもともと存在しているハイブリッドカー、プリウスをベースにプラグイン(つまりEV)化を行ったため、EVとしての電池容量は4.4kWhと、EVとして見れば小容量といえる。トヨタは日本での1日当たりの走行距離で、過半数を占める20kmを目安に電池容量を決定したとしている。だから、1日あたりの走行距離が20km以下のユーザーにとっては、急加速を多用しない限りガソリンを使用することなく生活できるが、それ以上の距離を走ることが多いユーザーなら、従来からのプリウスとあまり違いはないといえる。
その場合、ほとんどがハイブリッドカーとして走ることになり、基本的に燃費は従来のプリウスに準じるが、厳密にはニッケル水素電池を搭載する普通のプリウスより、リチウムイオン電池を搭載するプリウスPHVの方が減速エネルギー回生が20%ほど優れるため、約10%程度の燃費は向上する。
プリウスPHVならではのポイントは、EVモードに固定していない限り、アクセルの踏み込みが大きくなると即座にエンジンが始動してハイブリッド・モードになる点も挙げられる。プリウスPHVは「EV」固定と「HV」固定を選択できる手動スイッチがあり、クルマの使用ステージに合わせることもできるが、現実的にはハイブリッドを使用するステージが圧倒的に多くなる。
実際に走らせて見ると、発進加速、追い越し加速時にアクセルをじんわり踏み込むという意識を持っていないと、エンジンが始動し、通常のハイブリッドとの違いはなくなる。基本的な性能は標準のプリウスと同じエンジン、同じモーターを搭載しているため、フィーリング的な違いは感じられない。ただしEVモードで最高100km/hまで出せるのが違いだ。
プリウスPHVの基本システムはEVで発進し、まずはEV走行を続け、電池の残量が少なくなると自動的にHVに切り替わるというパターンになっている。
動力性能は、厳密にはリチウムイオン電池を搭載するPHVの方がモーターのトルク発生がすばやく、その分だけ加速性能も優れ、減速エネルギー回生もPHVの方が上だというが、2車を厳密に比較しない限りこれを実感できるとは思えない。
走りもこれまでのハイブリッドとの違いは感じられず、PHVならではのポイントは、手動スイッチによる「EV」固定/「HV」固定モードが選択できるという点だけだ。これは、HV固定で電池を満充電にし、自宅近くではEVで走行する、あるいは逆に巡航時にできるだけEV走行時間を稼ぐといった使い道になる。
クルマとしては標準のプリウスと同様に、操舵感の薄さや、ペダルの剛性感の頼りなさ、過敏なブレーキ、重厚感のない乗り心地といった印象、そしてグラフィックが煩雑で直感的に読み取りにくいディスプレイの走行モード表示などは改善点として挙げられる。
プリウスPHVは、人とクルマがネットワークを介してつながる新しいサービスとして「PHV Drive Support(PHVドライブサポート)」を全車に標準設定している。スマートフォンを通じて電池残量や充電ステーション設置場所などの情報を提供するサービスや、トヨタの販売店などに設置された充電ステーション(G-Station)を無料で利用できるサービスなど、プリウスPHVオーナー向けの5つのサービスをパッケージにして、3年間無料で提供している。これは内容的にはEV車向けのサービスと同じである。
トヨタは、純粋なEVは都市部のコミューター的な用途に限定し、ハイブリッドから派生したPHVが将来のエコカーの主流になると考えている。その意味ではプリウスPHVは近未来に向けての第1弾ともいえる。しかしPHV、つまりプラグインというからには、ガソリン給油より充電によるエネルギーソースの補給がメインと考えたい。
現状のプリウスPHVは電池容量の少なさ、言い換えればEV走行限界距離が20kmという現状では、普段の生活はプラグイン充電でまかなえるというほどではなく、まだユーザー層を限定するクルマと考えてよいだろう。