2012年9月下旬に、恒例となっている「トヨタ環境技術説明会」が開催された。佐々木眞一・副社長がプレゼンターとなりトヨタの燃費低減技術への取り組み、将来に向けての開発の方向性や企業戦略を説明した。またiQをベースにした電気自動車「eQ」の概要が明らかになり、12月以降に日米の自治体や特定ユーザー向けに限定導入すると発表された。
トヨタの開発目標は、生産される全乗用車とライトトラックの平均燃費を2005年対比で2015年に25%向上させるとしている。そのためまず第一義的には、エンジンの熱効率の向上とトランスミッションの高効率化を目指している。もちろんこれ以外に、空力性能の向上や軽量化も挙げられているが、まずはエンジンとトランスミッションという本丸を攻めるというわけだ。
トヨタの現在のエンジンラインアップでも熱効率は世界トップレベルとしていが、今後は、熱効率の更なる向上を行うためには、アトキンソンサイクル化とダウンサイジング+過給という二つの手法を挙げた。トヨタはこれまで、熱効率の向上=アトキンソンサイクル化に固執してきたが、今回初めてダウンサイジング+過給技術が登場したことが注目される。言い換えるとトヨタは一つの手段ではなく、エンジンの機種によって、アトキンソンサイクルとダウンサイジング+過給を使い分けるということで、ベースエンジンはアトキンソンサイクル、ややコストがかけられる機種はダウンサイジング+過給という選択を行うと予想され、ダウンサイジング+過給を全面展開するわけではない。またアトキンソンサイクルを採用したエンジンの熱効率は40%を目標にしているという。
↑トヨタ初のダウンサイジング+ターボの技術が登場
トヨタとしては初登場となるダウンサイジング+過給エンジンは、AR型系列となる。AR型はミドルサイズからラージサイズのクルマをカバーする4気筒エンジンで、2.7L(1AR)、2.5L(2AR)の2種類があるが、この中の2.5Lエンジンを2.0Lにダウンサイジングし、ターボ過給を行うことで2.5Lエンジンをカバーするという。車種的にはアメリカ仕様を想定し、この2.0Lターボ・エンジンは2014年のアメリカ仕様に採用される予定という。
↑商用車向けの3.0LのKD型 ↑2015年登場予定の1.4Lディーゼルターボ
ディーゼルエンジンに関しては、「トヨタはディーゼルに否定的なわけではなく、累計生産台数の実績としては世界有数のディーゼルエンジン生産台数となっている」と佐々木副社長は主張している。そしてもちろんディーゼルに関しても更なる熱効率を追求し、世界初となるデンソー製のi-ART(噴射特性自律補償システム)式ピエゾ・インジェクター、新開発のNSR(NOx吸蔵還元型)触媒、そしてコールドスタート後急速にオイル温度を高めることができる2槽式オイルパン、LPL(ロープレッシャーループ)-EGRなどの新技術を3.0Lの商用車用クリーンディーゼル(ハイラックス用KD型)に採用し、2012年4月からすでにブラジル市場に投入している。
また、新開発される乗用車用1.4L(ND型)ディーゼルターボは、ユーロ6に適合するスペックで2015年に登場予定だという。この1.4Lディーゼルはヨーロッパ向けのクルマに搭載されると予想される。
↑i-ARTピエゾ・インジェクター ↑NSR(NOx吸蔵還元)触媒
↑3.0L(KD型)に採用された2槽式オイルパン
世界初のディーゼル用i-ART(噴射特性自律補償システム)式ピエゾ・インジェクターはデンソー製で、各インジェクターに内蔵された圧力センサーが噴射圧をリアルタイムに測定してECUにフィードバックするクローズドループ制御を採用している。これによりインジェクターごとに噴射量やタイミングを格段に精密制御することができ、排ガスをよりクリーンにできるというものだ。
↑スーパーCVT-i ↑FF用8速AT
高効率のトランスミッションは、すでにカローラ系の車種に搭載されているスーパーCVT-i、多段化ATの2種類が挙げられる。多段化ATは従来からの6速ATの他に新開発の8速ATを開発。2012年8月からアメリカ向けのレクサスRX350 F Sportに搭載している(国内仕様は6ATのまま)。この横置きFF用8速ATは、アイシン製で3セットの遊星ギヤと6摩擦要素によるラビニョー型でパッケージングは6速ATと同等。変速比幅は、従来の6速ATが5.42であるのに対し、8速ATでは7.58まで広げられている。
CVTとATの使い分けは、排気量に合わせて適合が決められ、2.0L以下のクラスはCVTとなり、8速ATはラージクラス専用になると見られる。
トヨタは今後の展望として、燃料の多様化、エネルギーの多様化を見据え、電気自動車(EV)、ハイブリッド、プラグインハイブリッド、燃料電池車(FCV)を同時並行的に開発を進めている。その理由は、それぞれに一長一短があり、用途によりそれぞれを最適化させるという戦略だ。しかし、そのコア技術はトヨタ・ハイブリッドシステムのTHS-IIであり、THS-IIを搭載したハイブリッド車がメインストリームであると自負している。
そしてハイブリッドの今後はプラグインハイブリッドに進化すると予測する。2012年にはハイブリッド車の世界販売台数は100万台をオーバーしており、2013年〜2015年は毎年100万台以上のハイブリッド車の販売を達成すると見込んでいる。今回の説明会では、2015年までにTHS-IIを搭載した新型ハイブリッドカーを17車種追加し、フルモデルチェンジが予定される4車種を合わせ21モデルを投入予定だという。
THS-IIに関しては、熱効率は2代目プリウスで37%、3代目プリウスで38.5%といずれも世界最高であるが、今後登場するハイブリッド車は最終的に熱効率40%を目標にしている。
新たなハイブリッドカー用のエンジンは、2013年に登場予定の直噴化されたミッドサイズ・エンジンが発表された。このエンジンは2.5Lの2AR型エンジンをベースにアトキンソンサイクルと直噴システム(D4-S)を採用した新ハイブリッド用エンジンだ。このエンジンも熱効率は38.5%と世界最高としている。
↑新型ハイブリッドカー用の2.5L直噴エンジン
なお、ハイブリッド用エンジンに限らず、トヨタの直噴システムは今後も86/BRZ用のFA20型、レクサスGS350から採用された新世代D4-Sを採用していくという。つまり将来的にもドイツ車方式のスプレーガイド高精度直噴システムではなく、直噴&ポート式の2個のインジェクターを使用したD4-Sを使用する。そのメリットは、低負荷時に特別なデバイスなしにインテーク・スワール流を生成できることと、ロバスト(制御の安定)性が優れていることだとしている。
トヨタとして初のEVが、今回公表された「eQ」だ。iQをベースにリチウムイオン電池、モーターを搭載し電動化したもの。コンセプトは、iQベースであることからわかるようにシティコミューターで、リチウムイオン電池の容量は12kWh、電費は世界最高の104Wh/km(JC08モード)、航続距離は100kmと発表している。
このeQは2012年12月以降に市場導入するが、実質は自治体、法人向けの限定リースとなりそうで、実証実験車的な意味合いが強い。
またアメリカ市場では、テスラ社がリードして共同開発したRAV4 EVがまもなく発売される。
RAV4 EVは41.8kWhという大容量のリチウムイオン電池を搭載し、航続距離は約250kmの性能を持つが、このモデルも販売台数は限定的と見られる。このRAV4 EVのEV技術はテスラ主導で、これらの点からも明らかなように、トヨタはEVにはかなり慎重な構えといえる。
↑試作品の全固体電池
その理由はリチウムイオン電池のコストが将来的にも大幅に下がることはないという見通しを持っているからだろう。
このためトヨタはリチウムイオン電池よりはるかにエネルギー密度の高い次世代電池、固体電解質を使用した「全固体電池」、さらに将来的には「リチウム空気電池」などの基礎研究を推進している。今回の技術説説明会では思索段階の全固体電池のデモが行われた。
一方、水素を燃料として使用する燃料電池車(FCV)は、すでに2015年に市場導入することを発表しているが、その理由は世界的に2015年頃から水素ステーションのインフラ構築が開始されることに合わせたものだ。またEVでは実現できない長い航続距離などから、究極的な次世代車と位置付けていることも理由の一つだ。
発売予定のモデルはセダンタイプとされているが、2011年の東京モーターショーに出展された「FCV-R」の量産型と考えられる。スタックの出力密度は3kW/Lと世界最高で、小型化できたため床下配置ができるという。
また、高効率の昇圧コンバーターも開発し、高電圧化によりモーターの小型化とFCセルの枚数削減を図っている。また高圧水素タンクも、搭載本数を2本にまで減らし、タンク本体の製造工程でコストダウンをはかることで普及型FCVとして実現するとしている。
一方、日野自動車と共同で開発している新型FCバスは、2016年の市場導入を目指している。
FCVに関しては、開発で先行したメルセデス・ベンツ社との量産化実現競争という意味もあり、乗用車の量産化に向けての開発は順調に進行しているようだ。なお当初の販売価格は500万円〜600万円を目指している。