2012年トヨタは4月1日付けで人事異動や組織改正を実施した。組織改正では、カスタマーサービス本部の品質保証本部を「カスタマーファースト推進本部」へと再編し、同じカスタマーサービス本部のカスタマーサービス企画部、販売物流改善部、品質保証部などを「カスタマーファースト企画部」として再編した。
これは新たに設けられたカスタマーファースト推進本部が品質保証や、製品クレーム対応を一貫して担当し、カスタマー対応のスピードアップを目指す目的で、アメリカ市場でのアクセルペダル事件や日本におけるプリウスのブレーキ事件の教訓から実現されたわけだ。
技術・開発分野で注目の新たな組織としては、「BRコクピット企画室」の新設があげられる。その目的は、魅力的なデザイン、先進的なディスプレイ、使いやすい操作レイアウト、ユーザーに感動を与えるコクピットを開発するため、関係機能を集約して組織を新設。また「BRドライビングプレジャー推進室」も新設された。これは、上質な走りの実現に向け、感性性能、ボディ剛性、サスペンション、パワートレーン制御等を連動させて車両開発を行うため、関係機能を集約した組織として新設されている。
これらはトヨタでは初の組織で、機能別の開発とは異なり、クルマ全体での目標をテーマに開発組織が横断的に統一目標に向かって統合的な開発を行うバックボーンになるものと考えられる。
そして4月9日、トヨタは「もっといいクルマづくり」の具現化に向けた取り組みを公表した。2011年3月に発表したグローバルビジョンに盛り込まれた「もっといいクルマづくり」を実現するために、前述のように体制の改革を行ってきたが、今回は商品力向上と原価低減を達成するクルマづくりの方針「Toyota New Global Architecture」(TNGA=トヨタ・ニューグローバル・アーキテクチャー)の車両開発への導入を公表したのだ。
トヨタ・ニューグローバル・アーキテクチャーとは、「走る」「曲がる」「止まる」など運動性能はもちろん、ドライビングポジションなど人間工学やデザインの自由度を追求した新しいプラットフォームを開発し、世界の各地域で共用化することで、高い基本性能を備えたクルマを効率よく開発することだという。
新型プラットフォームは、設計とデザインが協力してクルマの骨格改革に取り組むことで重心を低くし、踏ん張り感のあるスタイリングにするなど、これまでにないエモーショナルなデザインと優れたハンドリングのクルマの開発を目指すためだという。これと同時に、複数車種の同時企画・開発を行う「グルーピング開発」を導入し、車種間の基本部品・ユニットの共用化率を高めることで、仕入れ先との協力とあわせて原価低減し、開発の効率化や部品・ユニットの共用化を進めるとしている。
この点に関してはVWグループのモジュラー設計戦略「MQB=モジュラー・トランスバース・マトリックス」や日産の「コモン・モジュール・ファミリー」(CMF)が大きな影響を与えたと考えられる。日産のCMFは、ボディ全体を「4つのモジュール」と「電子アーキテクチャー」に分け、それらのモジュールを巧みに組み合わせることで、小型車から大型車、SUVに至るまで効率良く、高度な要求性能レベルに応える設計を行うシステムを意味する。車種が多いトヨタでもこうした発想を採用して対応しようというものだ。
今回発表されたトヨタのニューグローバル・アーキテクチャーは、まず3種類のFF系プラットフォームから取り組む方針で、この3種のプラットフォームを採用する車両の合計生産台数は、トヨタの総生産台数の約5割をカバーするという。
また今回の発表のもうひとつの焦点は、研究・開発体制の強化で、車両開発を担当するチーフエンジニアの権限を強化することだろう。チーフエンジニア(CE)の位置付けを「お客様に一番近い開発総責任者」として明確化し、従来のセンター制に分かれていた体制から、製品企画本部長直轄として意思決定を迅速化し、CEがユーザーのことを考えながら、持続的・継続的に担当商品群を改良していく組織としたのだ。
車両開発の責任者はCE とする一方で、各車両に織り込む個別技術については実験、ボディ、シャシー、パワートレーンなどを担当する各技術領域が責任を持つ体制とし、CEが目指す「いいクルマ」の基盤となる専門技術の蓄積と先行開発を強化するという。トヨタは車両開発において主査(CE)制度を確立させた企業だが、その後はセンター制を導入して、他のカーメーカーに大きな衝撃を与えたという経緯がある。簡単に言えば今回の組織のポジショニング変更は、かつてのトヨタの主査制度の復活といえるかもしれない。
またグローバル開発体制の強化も訴求され、各地域のR&D拠点の強化と合わせ、製品企画本部内に1.北米・中国、2.日本・欧州、3.新興国(ロシア・アジア・豪州・中近東・中南米・アフリカ)の3 地域の地域統括部長を配置。各地域の営業部門や研究開発拠点と連携して、地域ニーズに沿ったいいクルマづくりを追求。「車両開発の責任者はCE」、「地域からの要望等を集約するのは地域統括部長」と役割を明確にし、両者が連携することで、よりスピーディに地域別のクルマを開発できる体制にしている。ただし、レクサス・ブランドは世界共通のブランド思想のもとで開発を行う。
さらにもうひとつ、デザイン力の体制強化も指向され、社内で車両デザインを評価・検討する「デザイン審査」への出席者を少人数に絞り込み、車両の開発責任者であるCE が主役となるプロセスを導入するとしている。
このようにトヨタは今、大きく変わろうとしていることは明らかだが、それが実際の車に反映されるのは早くても2年後であろう。今回の発表の内容が実現されれば、トヨタ車はデザインも走りも大きく変革するはずである。