マニアック評価vol86
世界ナンバーワンの低燃費というキャッチでデビューしたアクアは、月販目標1万2000台を軽く上回る12万台の受注があり、ユーザーの低燃費指向に応える形で人気を得ている。さて、このアクアだが、単に燃費が良いだけのクルマではない。低重心化ということと重量物をできるだけ前後ホイールベースに近づけ、あるいはホイールベース内に配置することにも注力し、駆動バッテリーの搭載位置や、着座位置を下げることなどが行われ、燃費だけでなく、操縦性において、誰が運転しても思い通りに動かせるクルマを目指しているのだ。
そして運転者にはハイブリッドであることを意識させないことも大切と考えている。ドライバーはガソリンを給油してみたら、非常に燃費がいい。『あ?アクアはハイブリッドだったんだぁ』というのがトヨタの目指す、「ハイブリッドを楽しもう」というコンセプトなのである。
試乗したのは15インチと16インチを装着するともにSグレードで、場所は千葉県・幕張周辺の一般道と高速道路での試乗であった。一般道では埋め立てエリアでもあるため、平坦で碁盤の目に区画された市街地が中心となった。なお10・15モードで40km/LのLグレードは、装備類が大幅に省略、軽量化されたモデルのため燃費スペシャルモデルという位置付けだ。このため販売の中心はSグレードとされる。
ハンドルの重さは軽く、クルマの動きも合わせて軽快感がある。ヴィッツのハイブリッド版という言い方をする人もいるが、アクアのほうが気に入った。ハイブリッド車にありがちな停止寸前のブレーキタッチの違和感もまったく感じられず、ポップなボディカラーと相まって、気分が明るく楽しくなる試乗だった。
アクアはその構成部品の多くをヴィッツと共有しているものの、プラットフォームやボディなどは専用に設計されたものになっている。搭載されるユニットは1NZ-FEXでヴィッツとはまったく異なる。もっともこのユニット自体も初代プリウスと同じエンジン型式なのだが、その70%は新規設計したもので、ブロックまでも新規というから、アクア専用のパワーユニットと考えたほうが素直だ。
アクアのボディデザインは燃費を追及するために空気抵抗の低減は必須項目となるが、ボンネットからルーフにかけて、一直線に伸びるラインは美しい。そしてCピラーの処理は最近再び増えてきた、逆くの字型にデザインされている。ウエストラインから下にボリュームを持たせながら、足元のキャラクターラインは後端部にかけてボリュームゾーンを広げている。正面は大きな台形の開口部を持ち、トヨタのクルマに多く見られるデザインとなっている。テールはボリュームのあるバンパーのコーナー処理が気になるが、全体的に好印象で欧州テイストなデザインになっている。
ルーフはカモメルーフと名付けられ、いわゆる波打った形状断面とすることで、剛性を上げながら、空気抵抗の低減をしている。また、空力と操縦安定性の両面から、床下をフラットボトムとすることも行われておりcd値0.28というデータは立派だ。
インテリアの仕上げは上手に処理され、樹脂製のパーツであっても表面処理をすることで、安っぽさを消し、いい塩梅に仕上げてある。メーター類はセンターに配され、ハンドルにあるスイッチで表示を変更していくことが可能。ちなみにハンドルはプリウスと共通のものが使われている。
ステアリングポストはヴィッツと共通だが、ヴィッツよりは地面対し水平方向の傾斜角になっている。これは、ヒップポイントを下げることができたドライビングポジションにあわせるためで、専用のインパネ、ダッシュボードであるために可能となったわけだ。ちなみに、ステアリングも正面に配置され、またAペダル、Bペダルともオフセットしておらず、しっくりくるポジションに座れる。
特筆はシート。フロント、リヤともにいい。前後とも座面の後傾角もあり、腰回りの収まりがいいので、おそらく長距離移動でも辛くないだろう。ドライビングシートはテレスコピックもチルトもあるので、さらに座面も上下するため、ポジションはあわせやすい。欧州を除きグローバル展開するモデルだけに、ハイレベルな装備と言っていい。
リヤシートではバッテリーがシート下に配置されたことで、シートバックに傾斜角をとることが可能になった。また、バッテリーの上に座ることになるので、薄いシート厚で構成しなければならず、苦労したポイントでもあったというが、なんの違和感もなく着座できる。むしろ、お尻だけでなく、腰でも体重を支えられるポジションで座れるので、フットスペースは広くないものの、セグメントを超えた感じすらする。
運転席は目線を低くとることができ、ヴィッツとは大きくドライビングポジションが異なることになる。このあたりでも操縦性向上に注力していることが伺える。ちなみにアクアの重心高は0.525mで、ロールセンターはフロントが0.50m、リヤが0.150m付近でホイールベースは2550mmということだ。
さらに、シャシーではタイヤサイズごとにサスペンションのセッティングを変更しているという。「バネレート、ダンパーの減衰、EPSパワステのアシスト量をタイヤの特性に合わせて変更しています」とはシャシー設計の山口宰史氏。「特にステアリングギヤ比では15インチと16インチはおなじですが、14インチでは変更しています」というきめ細かな設定変更がされている。
なお、タイヤ銘柄では15インチはブリヂストンのエコピアとダンロップ SPスポーツファーストレスポンスで16インチはヨコハマのdbE70になる。ただし、これらのタイヤはヴィッツと共用で、アクア専用にタイヤの開発は行っていないということだ。
このタイヤの違いは明確にハンドリングに影響してくる。15インチでの操舵フィールは初期の応答が穏やかだが、しっかりクルマは応答してくる。ただしその動き出しはしなやかな印象だ。一方16インチだと、同じような初期応答性では、クルマの反応が素早くしっかり動き、その動き出しもはっきりしている。
山口氏の話ではEPSのアシスト量も似たようなもので、ステアリングギヤ比も同じであることから、タイヤのキャラクターの違いによる影響が大きいということだ。もっとも、減衰やバネレートが異なるので、ステアリング操舵に対するクルマの反応は速くなるのは当然で、アクアのような省燃費モデルにもスポーティなハンドリングを求めるユーザーの声に応えている設定ということが想像できる。個人的にはマイルドな動きでありながら、しっかり反応をする15インチ仕様がベストマッチだった。
乗り心地は15インチ16インチともに、硬いアタリの入力はなく、マイルドな入力になっているので、ヴィッツよりは上質な乗り心地である。リヤシートの乗り心地が悪いというのがFFコンパクトでは多いのだが、その部分も問題ない。
気になるパワーだが、市街地でのゴーストップではまったく不自由を感じない。低速トルクも感じられ出足が悪いということはない。トヨタのハイブリッドは走行中でもエンジンは停止するので、とても静か。アタリのやわらかい乗り心地と相まって、高級感すら感じることができる。
高速道路での合流や、追い越しのタイミングなどでのパワー感だが、CVT的な無段回変速のATと高回転を苦手とするエンジン(アトキンソンサイクルのデメリット)のためか、エンジンの回転はあがるものの、車速はなかなかあがらず、リニア感に乏しい加速となってしまう。やはり元気にスポーティに走るというより、得意な部分は日常的な行動範囲での使い勝手の良さということになるのだろう。
●価格 Lグレード169万円 Sグレード 179万円 Gグレード185万円 ●排気量1.5L 4気筒 FF レギュラーガソリン仕様 ●全長3995mm×全幅1695mm×全高1445mm WB2550mm ●最大出力 エンジン部54kw(74ps)/4800rpm 111Nm/3600rpm-4400rpm モーター部45kw(61ps)169Nm ●ニッケル水素バッテリー ●電気式無段変速機 ●減速比 3.190 ●燃費JC08モード35.4km/L (各グレード共通)