トヨタは2011年11月29日、家庭用電源などから充電ができるプラグインハイブリッド車(PHV)の新型「プリウスPHV」の受注を開始した。販売チャネルは全国すべてのトヨタ販売店で、発売は2012年1月30日からを予定している。車両価格(東京地区、消費税込み)は320 万円からで、販売目標は国内で年間3万5000から4万台に設定。さらにヨーロッパと北米との合計で年間6万台を目指すとしている。
ご承知のようにプリウスPHVは2009年12月から、官公庁や自治体、電力会社などを対象に主にリース契約車として、限定された市場導入は開始されていた。しかしながら今回は一般ユーザーに向けた市販モデルとしての発売だ。ベース車を現行プリウスのSグレードとすることはこれまでと同様で、1.8Lのアトキンソンサイクルエンジンとモーターを組み合わせたハイブリッドシステム「リダクション機構付きTHS II」を搭載する。エンジンやモーターの出力/トルクの値は従来モデルと変更はない。
わずか2年の間に環境性能は大幅に向上
しかしながらこの約2年間にパフォーマンスが大幅にアップデートされたことは当然であり、とくに環境性能の面でそれは顕著に見られている。最も燃費性能に優れているSグレードで見てみると、充電1回あたりのEV走行距離(JC08モード、以下同)を23.4から26.4kmに、EV 走行とハイブリッド走行を複合して算定したPHV燃費は57.0から61.0km/Lにそれぞれ向上。またハイブリッド車として使用した時の燃費も30.6から31.6km/Lにと、プラグイン機能を持たないプリウスと同等レベルの数値に改善している。
また出力やトルクの値が変わらないことは述べたが、高容量・高出力な新型リチウムイオンバッテリー(総電力量4.4kWh)を採用することにより、EV走行時の性能は大幅に向上。プリウスからの重量増分(50kg)を感じさせないハイレスポンスで軽快な走りを実現したとしている。走行モードは標準モードに加えてエコとパワーの2モードが選べるほか、さらにEV/HVモード切替スイッチが新たに設定され、EV走行が可能な電池残量時なら任意で選択することが可能になった。ちなみにEVとしての最高速度は100km/hで変更はない。
バッテリーが約半分になり、充電の利便性もUP
使い勝手の面では、充電リッドやケーブルの操作性や使用性を大幅に改善するとともに、バッテリーの軽量コンパクト化が大きく貢献している。プッシュオープン式となった充電リッドには夜間に便利なLED照明とインジケーター、ダストカバーが備わり、ワンタッチで操作できるタイマー機能を追加。充電ケーブルは総重量が2.3から1.7kgに26%も軽量化され、コントロールユニットも約2分の1に小型化されて、100Vと200Vが交換可能に なっている。なお満充電に要する時間は200Vで約90分、100Vで約180分で、これは従来モデルと同じレベルだ。
プリウスPHVの従来モデルは駆動用のリチウムイオンバッテリーをトヨタでは初めて採用したが、重量は160kgで体積は201Lもあった。今回の市販モデルではケース材料を鋼材からアルミに変更したこともあり、重量80kgと体積87Lにまで軽く、小さくすることに成功している。これによりカーゴスペースは403Lから443Lにまで拡大。446Lのプリウスとほぼ同等となって、ゴルフバッグ3個も収容可能となっている。
安全装備については、S-VSC(ステアリング協調車両安定性制御システム)や6個のSRSエアバッグ、アクティブヘッドレスト(運転席&助手席)を全車に標準装備化。ミリ波レーダー方式のプリクラッシュセーフティシステムもGグレードに標準またはオプションで設定されている。全方位からの衝突安全や歩行者傷害軽減に配慮したボデイ構造を採用し、頭部傷害軽減においてはクラストップレベルの保護性能が追求されている。
見えるところでの差別化も今回は推進
室内外のデザインにおいても、先進性をアピールする変更が施されている。フロントはアッパーグリル部をメッキガーニッシュとし、ブルー加飾の専用ヘッドランプを採用。リヤはテール&ストップランプをクリアレンズにした専用のコンビランプとして、プリウスとの差別化を図っている。またアンダーグリルやドアハンドル、バックドアガーニッシュにシルバーの塗装を施したほか、PHVの専用ロゴをフロントサイド、リヤ、インストルメントパネルに配置している。
ボディカラーは8色が用意され、そのうちトゥルーブルーマイカメタリック、アティチュードブラックマイカ、ダークブルーマイカの3色はプリウスには設定のない専用カラーとしている。またインテリアカラーにはブラック、アクア、ブラウン&ブラック、ブルー&ブラックの4種類が用意されている。
なおトヨタでは今回のプリウスPHVの市場本格導入の意義として、ハイブリッド車に次ぐ次世代環境車の柱として普及させることはもちろん、将来の“スマートコミュニティーづくり”と“つながるサービス”の第一歩としたい考えも明らかにしている。
次世代に向けた“つながる”サービスも提供
発売と同時に提供されるものとしては5つのサービスをパッケージにした「PHV Drive Support」が全車に標準設定され、3年間は無料としている。ひとつ目は「オーナーズナビゲーター」で、スマートフォンやタブレット端末、パソコンなどを通じて、楽しみながら PHVの便利な使い方を理解できるサービスだ。ふたつ目は「eConnect」で、車両からトヨタスマートセンターへ送信された情報をもとに、スマートフォンで電池残量やEV走行可能距離を確認できる(写真下左)サービスだ。ほかにも燃費履歴や全国のオーナー間の燃費ランキングが確認できたり、充電ステーションの位置検索(写真下右)ができたり、スマートフォンによる冷房のON/OFF や充電開始などのリモート操作も、このサービスが可能にしている。
3つ目のサービスが「トヨタフレンド」だ。これは充電や各種点検予約などを促す情報を、PHVオーナーのスマートフォンにつぶやくほか、オーナー同士でつぶやきの会話ができるトヨタ独自のソーシャル・ネットワーキング・サービスとなる。4つ目が「バッテリーいたわりチェック」で、車両からトヨタスマートセンターへ送信されたバッテリー使用情報をもとに、バッテリーのより良い使い方について販売店がアドバイスを実施するもの。最後の「充電サービス」は、全国のトヨタ販売店に設置された充電ステーション(G-Station)での1時間の充電を無料でサービスするというものだ。
最後にトヨタでは、充電が必要なPHVの発売に対応して家庭での電力需給管理が重要であると考えて、充電を安全かつ効率的に行うための関連商品を開発し、トヨタホームを通じて2012年1月から販売する予定としている。家庭用の充電機器としては充電コンセントや壁掛け型充電器、ポール型充電器をラインアップ。また東京モーターショーにも出展された家庭用の充電サポートツールの「H2Vマネージャー」も発売される。
なお、記事冒頭で紹介した実質的な金額(275万円)については、政府が2011年12月20日以降に新規登録した車両を対象に導入したエコカー補助金が反映されていないので、興味のある方は各販売店に確認されたい。
■プリウスPHV S主要諸元
●ディメンション:全長×全幅×全高=4480×1745×1490mm/ホイールベース=2700mm/車両重量=1410kg ●エンジン:2ZR-FXE型/直列4気筒DOHC/排気量=1797cc/最高出力=73kW(99ps)/5200rpm/最大トルク=142Nm(14.5kgm)/4000rpm ●モーター出力/トルク:60kW(82ps)/207Nm(21.1kgm) ●トランスミッション :電気式無段変速機 ●燃費性能(JC08モード):PHV燃費=61.0km/L/ハイブリッド燃費=31.6km/L ●駆動方式:FF ●サスペンション(前/後):ストラット/トーションビーム ●ブレーキ(前/後):Vディスク/ディスク(油圧・回生ブレーキ協調式) ●標準タイヤサイズ:195/65R15 91H ●乗車定員:5名
文:石田 徹
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