プリウスをひとまわり大きくしたプリウスα(アルファ)が待望のデビューを果たした。もはやプリウスの人気と独走ぶりは周知の事実だが、唯一ファミリー層へのアピール力が弱いことが指摘されていた。そこでキャビンスペースを広げて、よりユーティリティの幅を広げたモデルとしてプリウスαが誕生したのだ。
プリウスαには5人乗りと7人乗りの2種類のモデルがある。5人乗り仕様は開発段階ではプリウスV(ヴイ)と呼称されていたモデルで、ラゲッジスペースを広くとった、いわばワゴンタイプのモデルである。そして、7人乗り仕様は同じく開発時にはプリウス+(プラス)と呼ばれていたもので、3列シートになっているのが特徴。ちなみに今夏後半に北米で前者を、来年の年央には欧州で後者を、それぞれ「V」と「+」という当初のネーミングで投入予定だ。
ひとまわり大きくなったプリウスαは全長4615mmで従来のプリウスに比べ+155mm、全幅1775mm(+30mm)、全高1575mm(+85mm)、ホイールベース2780mm(+80mm) 、トレッドもフロントが15mm、リヤが20mm拡大されて1540mm/1545mmとなっている。特に全高がワゴンを超えてミニバンに近い高さになったことで、残念ながらほとんどの立体駐車場(1550mmまでが多数派)はNGとなってしまった。5人乗りのラゲッジルーム容量は535L(VDA法)と広く、ゴルフバッグ4セットが収納可能。プリウスではリヤシートを倒さないと2セット以上の搭載ができなかったので、かなり広くなった印象だ。
↑7人乗り3列シート車のカーゴスペース(最大時)と、5人乗り2列シート車に標準装備となるデッキアンダートレイ(大型+小型)。
というわけで、プラットフォームはプリウスと同じものを使用しているのでプリウスベースと言えるのだが、上記のようにサイズはひとまわり大きい。トヨタのミニバン、ウィッシュとほぼ同等サイズだとイメージしていい。つまり、同じプラットフォームとはいえ、全体を大きくしているため、車両重量も重く、また重心高も上がるために、サスペンションやボディ剛性などもα用にチューニングされているのは言うまでもない。
↑カップホルダーが前後の両端に見えているのが7人乗り3列シート車、前側にしか見えていないのが5人乗り2列シート車となる。
インテリアデザインはプリウスに共通したイメージであり、独特のシフトレバーやセンターメーターというレイアウトになっている。また、センターコンソールは5人乗りと7人乗りとではまったく違った形状と大きさであるが、よく見比べないとその違いが分からないほど、テイストが揃っているのは見事だ。このセンターコンソールの形状が違うのは、じつは7人乗り仕様にはトヨタの市販ハイブリッド量産車では初めてのリチウムイオン電池が採用され、センターコンソール部に設置されているためだ。一方の5人乗り仕様には従来どおりのニッケル水素電池が、リヤラゲッジ床下に搭載されている。
↑7人乗り3列シート車と5人乗り2列シート車ではバッテリーの種類と搭載位置が異なっている。
5人乗りの後席スペースは十分に広く、全高も高いためまったく圧迫感がない。前席シートバックが少しえぐられたデザインをしていることもあり、ひざとシートバックとの間には余裕があった。3列シート車の2列目も5人乗り仕様と同じ居住スペースが保たれ、1列目と2列目のヒップポイントの距離は965mmも確保されている。ちなみに3列目のシートにも大人ふたりが十分座ることが可能で、実用性はそれなりに高いと言える。ただし、長距離ドライブではちょっと厳しいことも事実だ。
↑試乗コースはアップダウンの厳しい富士山麓地帯。そんな条件でもプリウスαは元気よく走り回ってくれた。
早速、5人乗り仕様で実際に走り出してみよう。プリウスと比較して、静粛性や乗り心地の改良などを目標に開発されたαは、とても静かでエンジンノイズ、風切り音も少なくなっている。遮音材の入れ方を改良した効果なのか、ロードノイズが低下し、全速度域でのノイズバランスはいいと感じた。しかしハーシュネス、つまり、路面からの振動は拾っている。段差を乗り越えたときや凸凹の路面ではゴツゴツとした感触が伝わってくる。このあたりは、もう少し高価なダンパーを採用することで解決できるのではないだろうか。
サスペンション形式は、フロントがストラットでリヤがトーションビーム。プリウスとも共通で、欧州車でもこのサスペンション形式の組み合わせは、FFコンパクトカーのスタンダードと言える。したがって各車のフットワークの個性は基本的な構造の違いではなく、チューニングといった部分で差別化されるものだと理解していいだろう。
↑車両の伸び上がりやダイブをしようとしたときに瞬時にモーターがトルクをかけ、乗り心地をフラットに保つバネ上制御をする。
今回試乗したのは16インチタイヤを履く5人乗り2列シート車と、17インチタイヤを標準装備する7人乗り3列シート車の2台で、どちらも同じような印象だが、若干16インチのほうが乗り味がソフトだった。一方で17インチ車は電動パワステとのの相性がよく、瞬間的な入力に対して起こる反力が感じられなかったが、16インチではほんの少しだけその反力を感じることがあった。それは特に気にするレベルではなく、欠点探しのような視点になってしまったが、「電動パワステの味付けも含めて、17インチのほうがマッチングよく仕上げることができました」とは、シャシー開発操安担当の宗正茂生氏(かつてはラリードライバーとしても活躍)のコメントだ。電動アシストのステアリングでは瞬間的な入力があると、電動の反力のような反応がステアリングにほんの少しだけ残る。しかし、17インチモデルではその反応を感じることはなかったのだ。
グレードとしては「G」と「S」があり、Sは5人乗りの2列シート車だけになる。Gは5人乗り2列シート車と7人乗り3列シート車の両方に設定され、さらに従来のようにインチアップタイヤとチューニング・サスペンションを組み込んだ「Gツーリングセレクション」も設定されている。
どのモデルでも共通して、走り出しは、EVモードのスイッチを入れなくともモーター駆動のみで動きだすことが多かった。もちろんバッテリーの充電状況によって変化するのだが、EVでの走り出しは高級車のそれであり、とても上質な移動が体感できる。そして車速を乗せるためにアクセルを踏み込むと、エンジンが始動して加速を始める。パワーユニットはプリウスと同じで、1.8Lアトキンソンサイクル・エンジンに2モーターのハイブリッドシステムが搭載されている。(THSII)
プリウスと同じパワーユニットだけに、特にその走り出しは車重が100kgほど重くなったαには不利なはずだが、ファイナルギヤを3.26から3.704へと低くしたことで、トルク不足を感じさせない工夫は見事だ。さらに全速度域で不利な面はあるのだろうが、パワーや加速性能を競うようなモデルではないし、ハンドリングに主眼を置いたモデルでもないわけで、日常使いとい視点では、不満は出てこないだろう。
開発の主眼のひとつである、圧倒的な燃費性能と環境性能を両立させるという目標は、プリウスのパワーユニットを採用することで、10・15モード31.0km/Lという燃費性能を達成。排出ガスのクリーン化でも、全車が国内の最高水準である平成17年基準排出ガス75%低減レベルの認定を取得している。
さて、このプリウスαのハイブリッド走行について、おさらいをしたい。まず走行時はエンジンとモーターが協調制御され、エンジンだけ/モーターだけ/両方を使って走る…という3パターンがある。それはバッテリーの充電状況や必要とされるパワーやトルクに応じて瞬時に切り替えられているわけで、ドライバーはその様子をモニターで確認することができ、できるだけバッテリー走行したほうが省燃費になることが実感できる。特に「速度が70km/hまでならエンジンは始動せずにモーターだけで走行します。しかし減速時はそれ以上の速度でもエンジンは回転しますが、燃料を噴かないため、燃費は悪くなりません」とは、EVシステム開発担当の大島康嗣氏のコメントだ。
↑EVシステム開発担当の大島康嗣氏。
これはジェネレーターの最高回転数が1万rpmまでが許容範囲という制限があるためで、70km/hを超えるとモーターの回転数が1万rpmを超えてしまうために、エンジンを回して、モーターの回転を下げる必要があるということである。
ブレーキについては回生ブレーキと通常の油圧ブレーキがあるが、回生ブレーキは、ジェネレーターを回すときの抵抗のことであり、特別なブレーキ装置が装備されているわけではない。プリウスαの場合、通常走行時に常識的なフットブレーキを踏むとその大部分を回生ブレーキが減速を行う。油圧ブレーキも当然作動はしているが、その比率としては回生ブレーキが主になる。つまり、最初はジェネレーターの抵抗をブレーキとしているわけだ。そして、要求される制動力に対して徐々に油圧ブレーキの比率が増え、最後の停止寸前に回生ブレーキはゼロとなる。
その比率の変化が滑らかでなければギクシャクしたブレーキになり、また、同じ踏力なのに制動力が変わってしまうという乗りにくい現象が起こる。試乗したプリウスαのブレーキには、このあたりの協調制御が見事で、実際の試乗でもファーストタッチから油圧が徐々に立ち上がるという変化は一切感じられない。唯一、最後の停止寸前にブレーキタッチが変化するが、それは歩行速度レベルかそれ以下の時に感じるもので、気にするレベルではないだろう。しかしバッテリーの充電状況によって回生ブレーキ力に差があり、バッテリーが満タンに近ければ抵抗は小さく、バッテリーが消耗していればブレーキ力は大きくなる。だから、100%油圧ブレーキ(摩擦)のタッチのように制御するのは至難の業となるわけだ。逆に言えば、開発陣はこの変化を感じさせないことに注力をしているわけで、実際、初代プリウスと比較してみてば、格段に良くなっていることを実感するし、2代目と比較しても進歩していることが実感できる。
となると、ここまでTHSIIの完成度が高くなれば次なる高みを望みたくなる。勝手に想像すると、THSIIの発展型としてはクラッチを用いてセーリング走行を取り入れることや、1モーター化したハイブリッドも可能だろう。そしてサポートするエンジンをより小型化することや、燃料がガソリンではないタイプの内燃機関もあり得る。そして、ボルトのように充電だけを担当する内燃機関を搭載することも考えられるわけで、その拡張性は高く、トヨタの開発力にはこれからも期待したいところだ。
なお、プリウスαの納期については、現状で来年4月以降の工場出荷となる可能性があり、特に3列シート車については厳しい状況が続くとされている。
文:編集部 髙橋 明
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