3代目ヴィッツ試乗インプレッション 動画付き

マニアック評価vol35
リッター26.5kmという 低燃費をかかげて3代目ヴィッツがデビューした。2010年12月22日の発売からわずか1ヶ月で月販目標の1万台を軽く超える2万台以上の受注と大人気になっている。その人気の3代目フルモデルチェンジの出来栄えを見てきた。

ヴィッツというクルマの性格上、走る道も選ばなければ、乗る人も選ばないという、ある意味万能なクルマでなければ一般からは評価されないという、非常に厳しいポジションにいると思う。大衆車であり、大量に販売するための宿命を背負っているということだ。

その「万能」なクルマとするために、好評だった先代のプラットフォームをキャリーオーバーし、そしてボディの改良をして総合性能をアップしてきている。具体的には、燃費にも大きく影響する車両重量を軽量化しながらもボディ剛性を高めるという相反性能を追求しているのだ。

ヴィッツ

2代目ヴィッツはボディ全体で340Mpa級の鋼鈑が49%程度であり、3代目では50%程度である。と、ほとんど変わりがないが、これまで使用されなかった590Mpa、980Mpa級のハイテン材を効果的に使用することで、重量を1020kgから990kgへ30kgもの軽量化を達成し、なおかつボディ全体の剛性をあげることに成功している。そのボディも全長で100mm、ホイールベースで50mm拡大しながらの軽量化なのである。

ちなみに「980Mpa超高張力鋼鈑はドアのベルトライン・リンフォース、Bピラーアウターの中身、ロッカーのアウターリンフォースなどに使われている」と語るのはボディ設計部の永田秀明氏だ。また、「主に北米の安全基準対策になりますが、ロールオーバー対策として、これまで270Mpa 級の材料であったものもハイテン化しています」と話すのは商品企画・主管の橋壁清史氏だ。そして製造は国内工場とフランスの工場で製造となる。

「横剛性も高めていて号口比で11%剛性があがっています」と永田氏。(号口とは試作から本製品までのひとつの量産パッケージを意味し、トヨタ独自の表現)また。「バルクヘッド周辺のパネルの形状を変えることで横剛性を高めています。ほかにも倒れこみの抑制としてルーフに向けて環状に取り付けたり、背面からのマッチ箱変形を抑制するように、リヤまわりの横方向の剛性を16%アップさせています」と橋壁氏。さらに「スポット増し打ちの見直しやスポット溶接のポイント見直しなど、最終段階まで常に見直しを繰り返してきました」と続ける。

つまりフォルクスワーゲンのポロなど欧州で直接ライバルとなるモデルは、鋼鈑そのものの厚みが違うから重量も重く、剛性も高い。そのライバル車に対し軽量としながら、剛性面ではひけをとらないというチャレンジをしているということになる。

ポロの印象だが、乗って走る印象は硬質で、硬い殻の中で運転している感じだ。インテリアでもソフトなウレタン素材を採用し上質な仕上げとなっているために、ヴィッツのライバルとしてはかなり強力な存在となる。

一方ヴィッツを試乗して、すぐにボディ剛性の高さを実感するのである。1.0Lグレードからスポーツグレードに相当するRSまで共通したボディであり、欧州のコンパクトカーと正面から戦うためには重要なファクターと位置づけていることがわかる。もちろん軽量であることを体感することはない。

したがって一般道を走行しても、高速道路を走行してもボディのしっかり感を感じ取ることができ、それは乗っていての安心感として実感することになる。また、ハンドリングにおいてはグレードのヒエラルキーが存在することを意識し、マイルドな仕上がりからスポーティなものへと味付けも変化させていることに、トヨタのきめ細かなクルマ造りを見ることができる。

具体的には、ステアリングのモーターアシスト量を各グレードで変更しているということだ。これは電動モーター自体を、従来より大型のものを採用することで、その調整幅を広く取ることができるから可能になったということだ。調整されたパワーステアリングはハンドルがまわしやすく、小舵角から大きく切り込んだときでもハンドルの重さに変化がなく、滑らかにまわすことができる。

最初に試乗したのは1.3LのFグレード2WDで、アイドルストップ機能がパッケージオプションになっているモデルだ。おそらくヴィッツの中では中心的なモデルとなるグレードで、いわゆる万人に「いいね」といわれなければならないモデルでもある。

1.3F 1.3Fリヤ

高速道路や一般道での走行は、ボディがしっかりしているから、サスペンションの動きがわかりやすい。低速域、高速域ともに良好で、凸凹での突き上げが強いとか、継ぎ目でクルマが跳ねることなどもない。しかし、より高性能なダンパーを採用すれば、さらに乗り心地もよくなるし操安性もより安定したものになると思う。これはボディ剛性に余裕があるからで、直進性も高く、まっすぐ走らせることに神経を使うようなこともなかった。

搭載されるエンジンは1NR-FEの1.3Lで、吸排気連続可変バルブタイミング機構付の新エンジンである。徹底的な低燃費を追及するには、必須の機構ともいえるもので、燃費26.5km/Lを実現している。組み合わされるCVTも低燃費には欠かせないアイテムだが、やはり燃費追求のセッティングであるためなのか、エンジン回転と実際の加速感に違和感が多少出る。しかしながら、その違和感とは、急加速・急発進や、追い越しをするような場合に限られ、通常の走行状態では逆に無段変速の滑らかさのほうが際立っている。

エンジン

Fグレードのパッケージオプションとなるアイドルストップは、頻繁に止まるという印象だ。エンジン停止にはさまざまな条件が揃わないと機能しないものだが、新型ヴィッツは信号で止まるたびにエンジンは停止していた。そして常時セルモーターギヤ噛み合い式により、再スタートも滑らかですばやく再始動する。これだけ頻繁に停止すれば燃費への貢献度も高いだろう。

スマートストップ

実はアイドルストップという機能は、トヨタのなかでは歴史は古く、先代、初代のヴィッツにもその機能はあった。また、かつてのスターレットにもエコノミーランニングライドという名称でアイドルストップ機能がついていたのだが、世間でのイメージとしては、マツダのアクセラ、日産マーチに次ぐ3番手というイメージがある。

おそらく、当時は車両価格に10万円相当プラスしてアイドルストップ機能をつけるユーザーは少なく、今回全グレードにスマートストップ(=アイドルストップ)を装備しなかったのは、その反省も含め、マストアイテムというよりオプションアイテムとして採用する、という方針を選んだのだろう。さらに、この2年で急激にアイドルストップという機能が市民権を得る、ということまでは予測できなかったのではないだろうか。

一方のRSモデルは、1.5Lエンジンを搭載し、5速マニュアルとCVTが設定さている。エンジンは1NZ-FEがキャリーオーバーされ、CVTは7速マニュアルシフトが可能なタイプだ。ステアリングにはパドルシフトも装備され、スポーツドライブが味わえる。さらにRS専用機能として、CVTスポーツモードのスイッチがつく。これはアクセル開度の応答性が高くなり、エンジン回転と加速感のズレがほぼ感じなくなるほどレスポンスがよくなるというもの。強力なパワーがなくともサスペンションのセッティングやハンドリングの仕上げがスポーティであれば、走る楽しみは十分に味わえると実感する設定である。

1.5RS 1.5RSリヤ

そのハンドリングやサスペンションは先ほどのFグレードとは設定が違い、スポーティな乗り味になっている。ステアリングのレスポンスは小舵角時の反応がより正確に反応するようになり、切った瞬間にリヤタイヤも一緒に向きがかわっているように感じられる。欧州のコンパクト、特にドイツ車の多くがもっている特長に近いと感じられた。

だから、このRSグレードがヴィッツのもっている本質であると思う。FグレードやUグレード、1.0Lモデルは運転するであろう人を想定しての味付けをしているように感じた。つまり、リニアに反応するハンドリングでは、女性や年配の人、運転を得意としない人たちからは過敏な反応と捕らえられてしまい、怖いという感触につながると考えているように思われた。それを避けるように操安性を創っているということだろう。

インテリアの質感は非常にすばらしく、ひとクラス上の上質さをもっている。インパネまわりやダッシュボード、シートなど直接触れる部分の仕上げがいいので、上位車格からのダウンサイジングするユーザーでも不満は出にくいと思う。それほど上手に内装は仕上げられていた。

1.3Fインテリア 1.3Fシート

また、居住スペースやリヤシートを含む使い勝手では、先代モデルに対して35mm室内長が拡大され、ラゲージルームの奥行きも145mm拡大されている。新たにデッキボードの高さを2段階に調整できるアジャスタブルデッキボードを採用し、収納性の向上も見られる。

アジャスタブルデッキボード

そして小さな改良点ではあるが、使う立場に立った改良もいくつかある。たとえば「リヤドアを閉めるときに、先代では少し力を入れる必要があったというお客様からのご意見があり、この3代目ではリヤドアのヒンジ角度を変更し、自然と閉まるように、そして開けるときにも支障がないようにと工夫しました」と橋壁氏。

「バックドアもゼロポイントを見直しました。跳ね上げ式のリヤゲートのため、閉めるときに自然と自重でしまるポイントと自然と開くポイントを見直して、ヒンジ部を奥に持っていくことで、ずりさがり量も改良しました」と永田氏。つまりリヤゲートの前に立ち、ゲートを開けたときに後ずさりする量を減らし、狭いスペースに駐車した際にでもちゃんとリヤゲートを開けることができるようにしたということだ。

こうした改良は発売以来からの好調な受注が示すように、多くのユーザーから支持を受けている。だから、ひとまず国内では成功したと思う。そして次なる戦いは欧州であり、ヨーロッパでの結果もまた注目してみたい。

価格表

文:編集部 髙橋 明

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