トヨタ新型ラクティス 試乗インプレッション 桂伸一動画レポート

マニアック評価vol28
2代目となった新型ラクティスは、欧州への輸出が決定し、そのための改良点をいくつか見ることができた。つまり先代ラクティスは国内専用モデルであったため、ハンドリング、乗り心地など開発の主眼は国内だけに絞られていた。しかし、今回の2代目ラクティスは欧州基準を取り入れているために、国内で販売する標準モデルにもいくつかの変更が加えられているということだ。

そのラインアップだが、エンジンは2種類。1.3Lと1.5Lでそれぞれに2WDと4WDモデルがあり、装備の違いによって、各グレードが設定されている。そしてクルマ椅子のまま乗り込めるウェルキャブ仕様(2WDの1.3L、1.5L)がある。国内モデルの1.5LモデルにはSグレードが設定され(2WD)、このモデルが欧州で鍛え上げられたサスペンションを持つモデルである。

いっぽう、欧州で販売されるラクティスは、1.3Lの2WDと1.4Lのディーゼル+ターボになる。こちらのモデルは、国内のSグレードのサスペンションが基本となり、搭載するエンジンなどの重量関係で、多少のスペックが違うものの、車高を保つための違い程度である。ディーゼルエンジンはトヨタ製のエンジンで、すでに欧州で販売されているヤリス(ヴィッツ)、アーバンクルーザー(イスト)に搭載されているものと同じであり、トヨタの小型ディーゼルエンジンの主力である。

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↑Gグレード

さて1.5L、2WDのGグレードに試乗してみる。エンジンはアクセル開度に対して違和感なく加速する。少しのアクセル開度で急激に加速したり、踏んでいるのに加速しないということはなく、ごく自然な加速をする。がしかし、出足の瞬間だけはややもたつくフィーリングはあった。これはCVTとのマッチング制御ということになるのだろ。

この点にについてモータージャーナリストの桂氏は、「ミッションはCVTなのだが、出足のモッタリ感と、60km/hくらいからの加速で、くいつき感をもう少しいいフィーリングにしてほしい」ということだが、製品企画 主幹の後藤伴明氏によれば「実用燃費を高める設定にしているためで、山道ではスポーツモードを選択していただくことで応答性は良くなると思います」(1.5L 車に標準装備)「アクセル開度などを検知して、自動的にスポーツモードに切り替わるようになるといいですね」とは桂氏談。

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このクラスに求められる性能のひとつにユーティリティがあるが、若い世代のファミリー以外に、熟年層にも人気がでるように思われた。それは、シート座面が高い位置にあるため、運転席を含み、すべてのシートへの乗降が楽にでき、乗り込む動作ではなく腰掛ける動作に近いため、乗降性がとてもいいからだ。

さらに、フロアまわりがフラットになっているため、足元の広さが確保されている点も影響する。そして、室内空間も広く、特に天井高が高いために圧迫感はなく、コンパクトな車両であることをまったく感じさせない室内に仕上がっている。また、荷物を積み込む際のシートアレンジも、力を使うことなく容易にシートをたたむことができ、簡単に大きな容量の荷物スペースをつくることも可能で、幅広いユーザーを獲得するように思われた。

とくに、運転席の座面の高さが60cmもの調整幅があり、小柄の女性でも、また「ハンドルを抱えこむような姿勢までもカバーした」シャシー設計部 壇博貴氏。というように、多くの人のドラポジに対応していた。しかし、残念な点としてテレスコピックが欧州モデルだけに装備され、国内では省かれていることだ。車格の問題ではなく、欧州では必要で国内では不要というデータからだという。本当に体型の相違幅の違いだけだろうか。

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↑Gグレードのみに設定されるパノラマルーフ

ハンドリングに関して桂氏は「高速域でもハンドルの切り始めのロール感や、ロールへの移行などはとてもスムーズ」と評価している。実際、乗り心地も良くフワフワした不安感はない。低速域から高速域まで速度に関わらず安定感がある。これは欧州へ輸出することで、国内専用モデルにも結果的に底上げがされたことが、プラスに働いたということだろう。

「ブレーキについてもマスターシリンダー、ブースターをサイズアップし、ブレーキの踏み始めのストロークを抑えるようにしてあります」この点について桂氏は「少しの踏力なのに、ガツンと効いてしまうような違和感はなく、踏力に比例して減速するので安心してブレーキは踏める」ということで、速度レンジの高い欧州でも安心できる仕上がりで、標準モデルにも好影響を及ぼしているのは間違いない。安心してブレーキングができるという要素も安心感につながることなので、評価されるポイントだろう。

「ステアリングまわりでは、先代と比較してEPS(電動アシストパワステ)の出力を10%程度アップしています。それはモーター本体を交換し、ブッシュなども含み各部の強化を行い、ステアリング剛性をアップしています。コラム単体で10%程度の軽量化も同時にできてきます」とは先ほどの壇氏。

というように、今回の2代目ラクティスは、基本コンポーネントであるプラットフォームを先代からのキャリーオーバーとし、サスペンションやブレーキ、各部ブッシュ類などでブラッシュアップしている。さらに、欧州モデルのSグレードにはよりレベルの高いパーツを使用し、標準モデルとの違いにつながっているというわけだ。

さて、欧州で鍛えたSグレードでの試乗である。こちらは標準モデルとの違いについて「バネレートは前後とも7〜8%アップし、スタビライザー径もワンサイズアップしています。それとタイヤサイズも175/60-16から185/60-16にアップされています。いずれもロール剛性のアップを狙ったものです」と壇氏。

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↑Sグレードの欧州仕様サスペンションとスタイリング

先代のラクティスは乗り心地がフワっとした、柔らかいサスペンションという性格であったため、欧州輸出を機に見直しを行い、全体の剛性をあげ車両の安定感・安心感を増すことを目指した結果なのだろう。

実際に走りだしてみると、ステアリングから伝わる剛性感は標準モデルとは確実に差があり、全体的にしっかり感がある。ダンパー、スプリングの違いだけでなく、スタビライザー径を太くしていることが大きく好影響しているように思う。しかしその反面、乗り心地で気になる部分もあった。「クルマの動きだしのひと転がりで、タイヤのゴロゴロ感を感じる。特に低速域でのノイズが気になった。高速域になると、ちょうどいい感じの音になるので、低速時のノイズはどうにかならないだろうか」と桂氏。

このことについてサスペンションの開発に携わったシャシー設計の壇氏によれば、「確かに、リヤからの音が気になるという意見もありました。今後どこまで治せるかが課題です」ということだが、よく考えてみると、このクルマが持つ課題のひとつには低燃費がある。つまり、転がり抵抗の少ないタイヤを履くことは必至であり、そのためのネガな部分が顔を出したということだろう。桂氏によれば「タイヤのゴム感が少ないタイヤ」だそうで、トレッドの硬さを感じてしまうということだ。今後それをクルマで解決するのか、タイヤで解決するのか、という問題になるのだろう。

ちなみに、標準装着されるタイヤはダンロップとブリヂストンであり、欧州でも同じタイヤがOE装着される。欧州では、転がり抵抗の少ない省燃費タイヤより、ウエットグリップやドライグリップに優れた高性能タイヤが重要視されている現状がある。背景には高速連続走行があるからで、日本とは事情が少し違うことになる。

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現在欧州では、このモノスペースデザインのカテゴリーは人気上昇中で、今後どのようなユーザーを狙うのかというのは各社手探りの状態ということだ。だから今後、よりスポーティなモデルへと変化していくこともあるのだろう。それだけに、もっともホットなBセグメントからは目が離せないのだ。

価格

文:編集部 高橋明

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