2017年12月25日、スズキは東京モーターショーでベールを脱いだAセグメントの新型クロスオーバーSUV「X BEE(クロスビー)」を発表した。Aセグメントのラインアップに力を入れるスズキの渾身のクロスオーバーのニューモデルだ。
■コンセプトとポジショニング
スズキは、すでにAセグメントではミニバン・タイプのソリオ、クロスオーバーSUVのイグニスをラインアップしているが、新型「X BEE」は、もうひとつのAセグメント・クロスオーバーSUVとして登場した。
先行したイグニスもクロスオーバーSUVだが、イグニスはスタイリッシュなパーソナルカーとしての性格が強い。それに対し、新型X BEEは、クロスオーバーSUVの要素も取り込んだワゴン、つまり超コンパクトなSUVとワゴンを融合したユニークなクルマなのだ。
そのためX BEEの開発コンセプトは、家族や仲間ともっと遠くに遊びに行きたい、もっと自分らしく人生を楽しみたいという「仲間」、「自分だけのライフスタイル」をキーワードに、Aセグメントの常識を破る広い室内空間と高い利便性、さらにラフロードや雪道での走破性能を追求している。
つまりコンパクトサイズでありながら大人5人が無理なく乗車できるスペースを確保し、使い勝手の良いシートやラゲッジスペース、SUVらしい存在感のあるデザインと4WDモデルを設定することで確かな走破性能を実現している。
また、最新モデルにふさわしく予防安全技術「スズキ・セーフティサポート」をメーカーオプションとして設定。このシステムには誤発進抑制と、後方障害物に対して自動ブレーキが作動する後退時ブレーキサポートも新たに加え、セーフティサポートカーSワイドに適合させている。
さらにX BEEは、「一目見たら忘れられない、個性的で魅力的な」デザインにこだわっていることもアピールポイントで、「クロスオーバー・ワゴン」というこれまでにない新しいジャンルのAセグメント車と位置付けている。
そのためX BEEは国産車にはライバルがいない。グローバルではフィアット・パンダがかなり近い存在だが、とにかく新しい発想のクルマであり、マーケットでも絶好のポジションに位置するといえる。
■デザイン
X BEEのデザイン・コンセプトは、都会でもアウトドア・シーンでも映えるように考え抜かれたフォルムで、Aセグメントのコンパクトなサイズであるにもかかわらず、大きく、力強く見えることだ。さらにインテリアも含め細部までこだわった作り込みと質感の高さでデザイン的な魅力を高めることを目指している。
また、軽自動車でヒット作となったハスラーとデザイン・テイストを共有し、新たなスズキのクロスオーバーSUVブランド作りの一翼も担当する。
プロポーションは前後のオーバーハングを徹底的に切り詰め、ロング・キャビンとし、さらにAピラー、フロントガラスの角度を立て、キャビンの広さとキャラクターの強さを表現。またエンジンルームを高くし、サイドのベルトラインも高めることで、堂々とした存在感、大きさを感じさせるようにしている。
ボディのサイドパネルは張りを持たせ、ボディの厚みを強調。ドアのタブには樹脂製のスプラッシュガードを設け、この部分はカラーバリエーションを設定し、ルーフ色、ボディ色、そしてスプラッシュガードの3種類のカラーによるコーディネイトができるようになっている。
フロントマスク、リヤは、ハスラーと相似した愛らしい表情とし、愛着が深まるようなデザイン処理だ。
インテリアは、かつてないほどのこだわりが感じられるデザインにチャレンジ。インスツルメントパネルは、水平方向に金属のパイプフレームを上下に2本配置しているようにをデザインし、たくましさ、力強さ、広がり感を表現。ドアを開けるとインスツルメントパネルの側面に金属パイプの端部が見えるようデザイン処理するなど、かつてないほど細部まで作り込まれている。
またインスツルメントパネル左右のエアコン・アウトレットはヘッドライトと相似したデザイン処理にしたり、ダッシュパネルの表面も金属調に仕上げ、中央部のスイッチ部は金属からの削り出し風デザイン処理するなど、独自の質感とデザイン的な作り込みで、上級セグメントのクルマをも凌ぐほどの仕上げになっている。
ボディカラーは9色で、さらにホワイトルーフ、ブラックルーフを組み合わせた2トーン、カラー・サイドスプラッシュガードとの組み合わせによる3トーンのコーディネイトも楽しむことができるなど多彩なバリエーションが選べるようになっている。
■パッケージとユーティリティ
X BEEのボディサイズは、全長3760mm、全幅1670mm、全高1705mm、ホイールベース2435mm。そして最低地上高は180mmとし、前後のきわめて短いオーバーハング、16インチサイズの大径タイヤと合わせ、SUV性能も十分備えている。
パッケージでは、ホイールベースが同じイグニスに比べて全高が約100mm高いことを前提に、着座位置をフロントで60mm、リヤで50mm高め、乗車姿勢をよりアップライトにし、前後乗員間距離は155mm大きくなっている。
このためリヤシートでもAセグメントとは思えないほどゆとりある居住スペースを実現。リヤシートが165mm前後スライドができる他、リヤゲートからもリヤシートのスライドとリクライニングを調整できるハンドルを備えている。
リヤのラゲッジスペースも見た目より広く、5名乗車で中型キャリーバッグを5個、9.5インチのゴルフバッグを3セット積載することができる。ラゲッジ容量は124L/520L。
またラゲッジスペースの床下には脱着式の大容量アンダーボックス(FFで81L、4WDで37L)を備え、このボックスをはずせば背の高い荷物も積載できるようになっている。さらにMZグレードのラゲッジスペースは防汚タイプで、濡れたもの、汚れたものも気軽に積載できるようになっている。
■ボディ、シャシー
新型X BEEは、スズキの新世代プラットフォーム「HERTECT(ハーテクト)」を採用。そしてボディは高張力鋼板を28%、980MPa級以上の超高張力鋼板が19%と従来より使用比率が高められ、さらに構造用接着剤の使用や結合形状の最適化などにより軽量で高剛性なボディを実現している。
車両重量はFFモデルが960kg、4WDモデルで1000kgと軽量だ。この軽量ボディは当然ながら走りにも燃費の向上にも貢献することはいうまでもない。
サスペンションはフロントがストラット式、リヤがトーションビーム式(4WDはアイソレーテッド・トレーリングリンク式)だ。FFは前後にスタビライザーを装備。フロント・サブフレーム、リヤのビームの取付点剛性を高め、しっかり感のあるフラットな乗り心地としている。
ステアリング・システムも専用設計され、市街地では軽い操舵フィールとなる可変ギヤレシオを採用。パワーステアリングの電動モーターも専用チューニングし、市街地では軽快に、高速ではどっしりと落ち着きのあるフィーリングにしている。
また、高速走行でも上質で静粛なキャビンとするため、ボディの結合部やカウル部の剛性向上や、ルーフパネルの振動特性を最適化するなど、振動を発生しにくいボディにしている。
キャビンの吸遮音対策として、フロア全面にフェルト・カーペットを採用。ダッシュサイレンサー、フードサイレンサー、吸音性の高い成形天井内装、全周シール化したフェンダーカバーなどを装備。このクラスの常識を破る静粛性向上対策を備えている。
■エンジン
X BEEに搭載されるエンジンは、ダウンサイジング・コンセプトの3気筒1.0LのK10C型直噴ターボ「ブースタージェット」エンジンだ。レギュラーガソリン仕様で最高出力99ps、最大トルク150Nmで、1.5Lクラス並みの出力、トルクをより低い回転数で実現している。
このエンジンはISG式のマイルドハイブリッドと組み合わされている。駆動モーターとしては3.1ps/50Nmを発生。ISGは減速時のエネルギー回生、再始動時のスターターとしての役割も果たし、減速エネルギーは助手席下側にあるリチウムイオン電池に蓄えられる。また、加速時のモーターアシストは最長30秒間行なわれる。
トランスミッションは6速ATのみで、変速比幅は6.8。このATは素早い変速により、スポーティな走りにも対応することができる。JC08モード燃費はFFモデルが22.0km/L、4WDモデルは20.6km/Lだ。
4WDモデルは、走行状態に合わせて自動的にリヤへトルク配分する、シンプルにビスカスカップリング式を採用している。
4WDは、滑りやすい路面ではホイールの過大な空転を抑制し、30km/h以下では空転するホイールにブレーキをかけるスノーモード、泥濘路などではあらかじめスイッチを押すことで空転するホイールにブレーキをかけるグリップコントロールを装備。さらに急な下り坂で車速を7km/hに自動コントロールするヒルディセント・コントロールも備えるなど、ラフロード対策も十分だ。
■予防安全システム
X BEEはカメラとレーザーレーダーによるデュアルセンサーサポートを装備し、前後方向の誤発進抑制機能、車線逸脱警報機能、ふらつき警報機能、先行車発進告知機能、ハイビームアシストを備えている。またスズキの小型車として初の後退時ブレーキサポート機能も装備されている。
この機能は超音波センサーにより約3m以内の後方の障害物を検知。警報後にもブレーキが踏まれない時は自動ブレーキが作動する。またリヤの超音波センサーは駐車時の障害物センサーとしても機能する。
また全方位モニター用カメラ・パッケージを選択すると360度のカメラ映像をモニターに表示できるが、表示は従来の室内側からの視点に加え、新たに室外から自車を見ることができる3Dビュー表示もできる。
このパッケージでは前方、後方の移動物が映像で検知されると注意表示とブザー音で警告を発生する。
スズキのAセグメントのラインアップに新たに追加されたX BEEは、ワゴンとSUVの融合という新発想により生まれ、デザイン的な魅力を加えることで、強いメッセージ性を持った注目のニューモデルである。