スズキ ワゴンRシリーズ 試乗記 走りから快適性まで全方位でグレードアップ

マニアック評価vol515

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新型ワゴンRシリーズ。左からFX、FZ、スティングレー。それぞれ専用のフロントマスクで、スティングレーだけはボンネットも専用デザイン

2017年2月に発売された新型ワゴンRは、アルトに続いて新世代プラットフォームを採用し、そしてハイブリッドの採用を前面に打ち出した軽自動車としては、画期的なモデルだ。スズキの軽自動車シリーズの中で中核をなすモデル、ワゴンRはどのようなクルマに生まれ変わったか、さっそく試乗してみた。<レポート:松本晴比古/Haruhiko Matsumoto>

■渾身の力作
ワゴンRは、軽自動車ハイトワゴンに分類され、子育て世代向けに絞ったスーパーハイトワゴンより幅広い年齢層、性別を問わないなど、軽自動車マーケットのど真ん中を狙ったモデルだ。だから燃費、機能性、使い勝手のよさなど、どの点も欠かすことができないクルマで、ある意味妥協が許されない。さらに、ライバル車に打ち勝つためには技術的なブレイクスルーも必要になるのだ。

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スティングレー ハイブリッドT

新型ワゴンRは、そのために最新の「HEARTECT(ハーテクト)」プラットフォームを採用し、軽量化と高剛性化を徹底。もうひとつは、エントリーモデルのワゴンR FAグレード、スティングレーL以外の全モデルにマイルドハイブリッドを搭載しており、自然吸気エンジンのFFでJC08モード燃費は33.4km/Lとクラストップを達成している。

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今回から採用しているマイルドハイブリッドは、スズキがこれまで搭載してきた「エネチャージ」、「S-エネチャージ」技術の発展版だ。

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スティングレー ハイブリッドTのインスツルメントパネル

エンジンのクランクプーリーとベルトで結合される発電機、駆動&スターターモーター(ISG)の出力はこれまでの「S-エネチャージ」用のISGの約1.25倍に向上し、助手席下に搭載されるリチウムイオン・バッテリーも電力量120Wh、容量10Ahと従来のバッテリーの3倍になり、これまで以上に減速時のエネルギー回生とISGによる駆動力の向上が実現したため「(マイルド)ハイブリッド」と呼ぶようになったのだ。

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Ro6A型ターボ+マイルドハイブリッド

そしてシステムも、より積極的にISGによる駆動が活用され、停止からのアクセルペダルを踏まない状態でのクリープ発進が最長10秒間でき、走行中の加速では最長30秒間、100km/h付近までのモーターアシストが実現している。一見すると駆動モーターとしての作動時間は短く感じられるが、じつはこの時間でのモーターによるアシストが燃費、走りに効くのだ。

■好感度高いデザイン
新型ワゴンRのもうひとつのポイントはデザインだ。ワゴンRのようなハイトワゴンは軽自動車マーケットのメイン商品で、機能性や使い勝手が最大のアピールポイントになり、デザイン的には生活の道具、ツール感に徹している雰囲気がある。特にワゴンRには強く漂っていたが、新型はメイン商品であっても多様なユーザー層の多様な価値観にできるだけ合わせる方向に舵を切っている。

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ハイブリッドFZ

そのため、従来モデルのワゴンRはベースモデルとスティングレーという2機種の構成から、FX、FZ、スティングレーという3機種に拡大し、それぞれ独立したフロントマスクとし、FXがベースモデル、スタイリッシュ&スポーティなFZ、力強い存在感を強調したスティングレーという性格分けがされている。

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しかし、ティングレーは意図通りに感じられるが、FZはフロントマスクがミニバン系で軽快さ、スポーティさが足りないように感じた。とは言えワゴンRファミリーは、スズキの新しいクルマ造りの息吹が感じられる力作で、同じトールワゴンであり、軽自動車のレベルを大きく引き上げたダイハツ・ムーヴを上回ろうという意思が感じられるモデルであることは間違いない。

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ハイブリッドFZのインスツルメントパネル
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自然吸気R06A型エンジン+マイルドハイブリッド

■ハイブリッドの効果は?
FX、FZは共通のエンジンとCVTを搭載している。いずれも3気筒のR06A型自然吸気エンジンで、出力は52ps/60Nmと、従来モデルと変更はないが、ハイブリッド効果が加わっているのだ。信号で停止から、アクセルペダルを離すとモーターだけでゆっくり発進し、わずかにアクセルを踏むとエンジンがかかる。

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ハイブリッドFX

市街地の発進で多いこうしたゆっくりした動き出しで、クルマの軽さが感じられるのだ。その理由はクルマの重量が約20kg軽量化されていることも効いているだろうし、ISGモーターのアシストもあるように感じられる。

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また市街地を巡航している状態で軽くアクセルを踏み込んでの加速でもCVTのルーズなフィーリングが少なく、自然吸気の52psとは思えない加速フィーリングが感じられた。今までの軽自動車の自然吸気エンジンは、燃費を重視していることもあって巡航状態はともかく、加速時にはCVT特有の応答遅れによりもたつき感があるが、この新型ワゴンRはそれが大幅に改善されている。軽さとISGのアシストによる加速感のある加速は新型ワゴンRの大きな魅力だ。

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ハイブリッドFXのインテリア

■試乗レポート
今回試乗したスティングレーはターボ・ハイブリッド「スティングレー T」で、このターボエンジンは64ps/98Nmだ。さらにハイブリッドのモーターアシストが加わるので、市街地はもちろん、高速道路でもエンジンフィールは1.3Lクラスのエンジン/CVTのクルマを上回る加速、レスポンスを味わうことができた。

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ハイブリッドFXのリヤシート

■快適性も大幅に向上
走っていて気付くのは、エンジン音の、特に機械音や高周波の気になるノイズがよく抑え込まれており、室内での静粛性が格段に向上していることだ。軽自動車の場合、エンジンのパワーやトルクの大小より、加速時のエンジンノイズがストレスに感じることが多いが、この新型ワゴンRのレベルになれば、コンパクトカー並みか、それ以上で、走りの質感はかなり高い。

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このエンジンノイズの抑え込みにはそれなりの対策をきちんとした結果だというが、その効果は大きい。こうしたノイズの低減と、乗り心地のレベルアップによりワゴンRの走りの質感が高まっている。
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乗り心地は加減速でもフラット感があり、路面での大きめな段差、例えばキャッツアイを踏んだときのよう場合でもショックの入力の角が丸く、不快な微振動がよく抑えられている。ボディ剛性が大幅に高められていることを感じさせるのだ。

FXとFZ、スティングレーTにはフロントのスタビライザーが装着され、FXはスタビライザーなしだが、乗り心地としてはいずれも遜色ないレベルにある。

■ハンドリングは?
ベースモデルのFXはスタビライザーなし、それ以上のグレードはスタビライザー付きという違いの他に、ステアリングギヤ比の違いもある。スティングレーTのステアリングギヤ比は17.5で、FX、FZは19.5というスローなギヤ比だ。

だからFX、FZは操舵力も軽く、ステアリングを切っても動きが穏やかで、ゆるいフィーリングは自然吸気エンジンとマッチしており、誰が乗っても扱いやすく、安心感もあるのだ。

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それに対してスティングレーTはもう少しステアリングの操作に対してリニア感があるが、それでも動きすぎるという感覚はなく、直進安定感や落ち着きが感じられる。

軽自動車のようにボディサイズの小さなクルマは、小気味よくクイックな動きを求める人も少なくないが、幅広いユーザー層を考えればやはり安心感、安定感の感じられる方が主流だろう。

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■室内の使い勝手は
インテリアで従来モデルと大きく変わったのはセンターメーターを採用したことだ。そのためステアリングホイールの正面スペースのインスツルメントパネル上面には物置スペースが作られ、スマートフォンなども収納できる。

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その一方で、メーターを見るためには視線をやや左側に移動する必要があるが、その代わりとして軽自動車初のヘッドアップ・ディスプレイが正面に設けられている。このディスプレイは車速など必要な項目が見やすく表示される。だから機能的にはほとんどセンターメーターを見ずに、ヘッドアップ・ディスプレイだけで運転ができるわけだ。

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リヤエンドのフロアボードを跳ね上げるとアンダーフロア部が使用でき、ベビーカーなどを縦置きできる

インテリアは室内幅が広げられ、ホイールベースの延長に伴い室内長は大幅に延長され、広々感がある。リヤシートに座った時の膝下のスペースも十分で、長時間のドライブでも問題ない快適性が確保されている。

リヤシートをたためばほぼフラットなラゲッジスペースができ、その一方でリヤエンドのラゲッジスペースはフロアボードを外すとアンダーフロアスペースがあり、ベビーカーが縦置きでき、背の高い荷物も収納できるなど使い勝手もよい。

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左右リヤドアの前側に傘立て。濡れた状態でも水抜きがある

もうひとつ、軽自動車にありそうでなかった、傘立てがリヤの左右ドアに設置されているが、これは常時備えておく傘置きスペースとしてもピッタリで、役に立つ優れモノだ。

■安全装備
運転支援システム+ヘッドアップ・ディスプレイはセーフティパッケージで設定され、FXには9万6120円で、それ以上のグレードには5万9400円で装備できる。今回からは車線、歩行者も検知でき、ハイビームアシストもできるカメラ+レーザーレダーの最新ユニットが採用され、大幅にドライバーサポート機能が充実されている。

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セーフティパッケージのセットでヘッドアップディスプレイも装備
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単眼カメラ(左端)、レーザーレーサーの受光部(右側2ヶ所)、レーザー発光部(右下部)

このように新型ワゴンRは全方位での性能が高められ、クルマとしての基本性能だけでなく走りの質感も軽自動車でトップレベルに高められていることが実感でき、コスト・パフォーマンスの良さは言うことのないレベルに到達した。特にセーフティパッケージを装着して130万円台で購入できるFXの存在は光っている。

■価格
スズキ ワゴンR 諸元表
スズキ ワゴンR スティングレー 諸元表

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スズキ・ワゴンR アーカイブ

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