マニアック評価vol540
スズキのCセグメントSUV「SX4 S-CROSS」に試乗した。2017年7月にマイナーチェンジをしていて、地味な存在だがスズキの走行性能に対する実力を見せつける一面も持った、ちょっと興味あるモデルだ。<レポート:高橋 明/Akira Takahashi>
このモデルじつは、ハンガリーのマジャールスズキで生産されている逆輸入車で、欧州基準で造られたモデル。日本でも国産車ではなく、輸入車として登録されるレアなモデルでもある。
ボディサイズは全長4300mm×全幅1785mm×全高1595mm、ホイールベース2600mmで、国内で人気のエスクードとプラットフォームが共通であるものの、ボディサイズはエスクードよりも大きく、Cセグメントに分類されるサイズだ。
モデルはFFと4WDがあり、JC08モードではFFが16.2km/Lで、4WDが15.2km/Lとなっている。価格はFFモデルが206万2800円(税込み)、4WDが227万8800円(税込み)とかなりお買い得な値付けになっている。
■驚きの走行性能
ポジショニングとしては欧州スタンダードだ。実用車の色が濃く、高級な加飾や演出はないが、走りと乗り心地は欧州基準で仕上げてある。試乗したモデルは4WDモデルでオンデマンドタイプ。試乗してすぐに気になるのはハンドリングの良さだ。
タイトなコーナーが連続するようなところでも、ヒラリヒラリとコーナーを駆けぬけ、ステアリングの操舵に対する反応はじつにニュートラルで、レスポンスがいい。スポーティな仕様と言っても過言ではない。特にコーナリング中、外側に荷重がかかっているような状況からの切り足しでも、素直にイン側へ回頭しアンダーステアのそぶりもない。さらにアクセルを踏み込んでもアンダーステアはでないのだ。ステアした方向に車両が進む。
旋回中に強めのブレーキをかけても車両は安定して旋回を続ける。国産車にありがちな挙動の乱れは起きない。もちろん、タイヤが切れた方法に向かって減速する。アンダーもオーバーにもならない安定感がある。こうした車両の安定感は基本中の基本で、このベーシックな性能がなければ欧州では通用しない。
一方で、シートポジションでは少し残念だ。座った状態が非常にアップライトに感じ、ペダル配置が体に近い。さらに左へ若干オフセットしているとこも残念。ただ、オーナーとなり乗り慣れてしまうと、あまり気にならないかもしれないが、改善できればと思う。
乗り心地でも感心させられる。206万円という価格は今や軽自動車より安い価格になるが、振動を丸く収めるいなし方は欧州車の手法に感じる。少し残念なのは、下回りからゴトゴトという音がでていることだ。後でメーカー開発陣に聞くと、ダンパーの慣らしが不足しているようで、ブッシュも含めアタリがまだでていないことが影響しているようだった。それ以外はしっとりとした乗り心地で、上級な乗り心地と言ってもいいだろう。
エンジンはオーソドックスな4気筒1.6Lの自然吸気だが、力不足を感じる場面もなく、必要にして十分なトルク、パワーだと思う。試乗環境がやや標高の高い場所にも関わらず、ワインディングでの不満がないので1150kgという軽量なボディが好影響を及ぼしていると思う。
そのボディは剛性感がしっかりとあり、安心感がある。このあたりも欧州車らしい剛性感だと感じた。このあたりを開発エンジニアに聞くと、国内のスズキで設計し生産のみハンガリーで行なっているというから、スズキの底力を垣間見たような気がした。
また、今回のマイナーで変更された6速ATだが、CVTと比較すれば、やはりダイレクト感は増し乗り慣れた感じがあり落ち着く。中間加速で踏み込んだ時のラバーバンドフィールを不満に感じることなく、キックダウンとか、素直なトルクの立ち上がりがリニアに伝わるので、好ましい。
ただ、2速と3速のギヤ比が離れていて、国内のワインディングをそれなりの速度で攻める?と、少し走りにくさがある。これも速度域の高い欧州ならではのセッティングなので、逆輸入車だとおもってプラスに捉えてみてはどうだろうか。
4WDの性能ではオールグリップというスズキ独自の四輪制御機能を搭載し、ロックモード、スポーツモード、スノー、autoモードの4つの制御機能と車両運動協調制御システムからなる、高性能4WDシステムを搭載している。4WDのハードはJTECTの4WDカップリングをスズキ独自の制御システムとして活用しているということだろう。
スポーツモードではワインディングではFF状態にしたり、前後のトルク配分を変えたりが無段階に可変し、アクセルと操舵の信号をセンシングするフィードフォワード制御も備える最先端の制御技術を持っている。
■エクステリア、インテリア
今回のマイナーチェンジではフロントフェイスが大幅に変更されている。ヘッドランプ、フロントバンパー、フロントグリル、ボンネットフードが変更され、インパクトのある顔立ちになった。また、タイヤサイズも変更され17インチを装着し、標準装着するタイヤもコンチネンタルの215/55R-17サイズを履く。また最低地上高も20mm高くなっている。
インテリアも取り立てて高級でもなく、クラスレベルの仕上がりで、ある意味S-CROSSらしいまとまりがある。細かくはエアコンルーバーガーニッシュにサテンメッキ加飾を加えたり、インパネセンターガーニッシュをピアノブラック塗装に変更したりしている。
■まとめ
このS-CROSSは年間600台の販売目標だけに、国内ではかなりレアなモデルになるが、どこか懐かしく、クルマの基本を押さえた安心感と信頼が生まれてくる不思議な魅力を感じる。おそらく、長年、実用車として使い続け、使い込んでヤレてきても、それはそれで味があると感じるような、シャビーな感じが似合うモデルなのかもしれない。山小屋のオーナーのアシなどがイメージされ、アウトドアズマンが愛する実用車というクルマかもしれない。密かにおすすめな一台だ。