マニアック評価vol538
スズキ・スイフトにハイブリッドモデルが追加され2017年7月12日から発売されている。スイフトにはマイルドハイブリッドも継続販売されているので、そのあたりの違いを見ながら試乗レポートをお伝えしよう。<レポート:高橋 明/Akira Takahashi>
気づけばスイフトも選択肢が増え、だんだん複雑なラインアップになってきた。ベースグレードは1.2Lの自然吸気エンジン搭載モデルに5MT、CVT、2WD、4WDのグレードがあり、マイルドハイブリッドには「ハイブリッドML」、「ハイブリッドRS」の2グレードがある。こちらはCVTのみで2WD、4WDが選択できる。そしてスポーティなモデルとしてRS tがあり、1.0Lターボに6AT搭載モデルというラインアップ。
ここに新たに1.2Lのデュアルジェットエンジンを搭載するハイブリッドモデル2グレードが追加された。トランスミッションには5AGSという組み合わせだ。グレードは「ハイブリッドSG」と「ハイブリッドSL」で、いずれも2WDだけの選択となる。そしてこのハイブリッドモデルは、エコカー減税の取得税、重量税が免税となっている。JC08モード燃費は32.0km/Lとシリーズで最も省燃費モデルとなっている。
では、早速そのハイブリッドモデルについてお伝えしよう。
開発目標はスイフトの走りの良さはそのままに、低燃費を目指したモデルで、マイルドハイブリッドをベースにK12Cデュアルジェットエンジンに5速のシングルクラッチAGSを組み合わせている。これはすでにソリオ・ハイブリッドに搭載されているシステムと同じものだが、後にレポートするが走行フィールではかなり異なる印象だった。
■マイルドハイブリッドとハイブリッドの違い
混乱しやすいのでハイブリッドの種類を整理しておくと、スズキのマイルドハイブリッドモデルはオルタネーター(発電機)にモーター機能を持たせたもので、駆動力としてはクリープ走行ができるレベルのシステムだ。そのため、あくまでもエンジンをサポートする役目を担っているのがマイルドハイブリッドで、ドライブフィールとしてはEV走行ができないため、あまりハイブリッド感はない。しかしながら省燃費には貢献するというシステムだ。
そしてスズキのハイブリッドモデルだが、マイルドに対して、ストロングハイブリッドという理解だと分かりやすい。では何がストロングなのか?といえば、駆動用モーターを搭載していることと、駆動用バッテリーを搭載しているので、通常のハイブリッドと同じなのだが、通常、ハイブリッド車は500V、600Vといった高電圧のバッテリーで駆動モーターに電力を供給している。
しかし、スズキのハイブリッドモデルは100Vで駆動モーターに供給しているため、高電圧タイプのハイブリッドより、モーター出力が小さいという違いがある。そのためEV走行距離やドライブフィールとしてのトルク感が小さいということになる。それがソリオに搭載したハイブリッドで、マイルドハイブリッドに対してのストロングハイブリッドという理解だ。簡単に言えば、システムはハイブリッドシステムと同じだが、電圧が小さく出力が小さめという理由から通常のハイブリッドとマイルドハイブリッドの中間にポジションするということだ。
ちなみに、モーター出力はISGが2.3kw、MGUが10kwで、合計でも12.3kw(約17ps)の出力。プリウスの場合、フロントの駆動モーターが53kwで、AWDの場合はリヤモーターが5.3kwという出力であり、その差は歴然だ。
そして今回のスイフトに搭載したハイブリッドシステムも、そのストロングハイブリッドなのだが、試乗した感想では通常の高電圧タイプのハイブリッドと遜色なく、ストロングという言葉は不要で、通常のハイブリッドとの差を感じられなかったのだ。
■ハイブリッドシステム
システムとしては、マイルドハイブリッドに採用するISG(インテグレーテッド スターター ジェネレーター)に加えてトルクを増幅させる減速機を組み合わせた駆動用モーターMGU(モーター ジェネレーター ユニット)を採用している。駆動にはAGSを介さず直接駆動ができるため、エンジン、ミッションの抵抗もなくスムーズなEV走行が可能で、JC08モードでは32.0km/Lの省燃費を実現。さらに徹底した車両の軽量化で1000kgを切る重量ということもあり、免税モデルとなっているわけだ。
一方バッテリーは、100Vのリチウムイオンバッテリーのパワーパックを荷室下に配し、高電圧ケーブルをフロア下に通したレイアウトとしている。
■AGSとの組み合わせ
AGS(オートギヤシフト)の構造はマニュアルトランスミッションを自動変速させるシングルクラッチ構造で、ギヤチェンジの時に、一旦駆動力が途切れる。そのため、乗り慣れないユーザーにはATとの違いが理解されず乗りにくいという意見もあるが、構造がマニュアルだけに、じつはダイレクト感のある加減速が可能であるが、その恩恵を受けるにはちょっとしたコツが必要で、一般的にはなかなかむずかしいところでもある。反面、自動車をよく理解している人からは不満が生まれにくい。
その不満となるポイントはAGSがシフトチェンジのとき、一旦クラッチを自動で切るため、加速が途切れてしまうことだ。MTのように、自分でクラッチを切れば加速が途切れても違和感と感じないのだが、自動で切れると違和感になってしまう。
このハイブリッドでは、その違和感をなくすために、クラッチが切れ、加速が途切れたタイミングで、MGUのモータートルクが働くため、ドライブフィールとしては、失速感がなくなりATとの差が分かりにくいまでに進化しているのだ。これはソリオでも同じだったのだが、このAGSはスイフト専用にチューニングされており、クラッチの切り離し時間を短縮するチューニングが行なわれているのだ。
■エコモードがおすすめ
さて、試乗してみると、初期始動はシステムチェックのため必ずセルモーターでエンジンを始動するようになっているらしい。だが、そのまま停止したままだと、バッテリー状態が良好であればエンジンは停止する。
エンジンが停止している状態からアクセルを開けると、モータ―だけで走り出し、ある程度のアクセル開度でエンジンが稼働し始める。車速にして10km/h前後まではEV走行する。クリープ走行プラスアルファといった感じだ。
走行モードは標準とエコモードがあり、エコモードだと意外とEV走行のシーンが多い。システムとしては60km/h以下で一定速走行しているときはEV走行になり、40km/hから60km/hまではACCを利用していてもEV走行になるように制御されている。
これは実感としてソリオよりもEV走行の範囲が広く、下り坂だとほとんどEV走行するので、ハイブリッド車を運転している気分は十分に感じられる。また10%から20%程度のアクセル開度で車速維持するように走行していると、かなりの頻度でEVモードになるので、日常の市街地走行ではエコモードがおすすめだ。一方、標準モードで走行してみると、意外にもトルク感が強く、力強さを感じるので、パワーに対する不満は感じにくいと思う。
そしてEV走行中にエンジンが再始動する場面でも、気づくことがなく滑らかに始動と停止を繰り返すので、まさにハイブリッドのそれと同じだ。
エコモードと標準モードでの大きな違いとして感じたのは、アクセルの再踏み込みをする場面だ。標準モードであれば、普通にパワートレーンはレスポンスし、即加速体制になるが、エコモードでは少しもたつく感じになるが、当然の制御という部分でもある。
■AGSの変速テスト
AGSのシングルクラッチ式2ペダルはシフトアップの時、アクセルを意図的に緩めてしまえば、MTと同じ感覚でドライブできるので、何ら気になることはない。逆に2ペダルだからと、ATと同じようにアクセルを踏み続ければ、自動でクラッチが切れるため、失速感として感じてしまう。
スイフトハイブリッドの1速は意外と高回転まで回る。アクセル開度40%で3800rpmがシフトアップポイント。普通、街中でここまでエンジンを回すだろうか?もしMTだとしたら、2500rpmも回せば2速に入れると思う。だから、「あれ、なかなかシフトアップしないな?」と感じ、自然とアクセルを緩める。すると、すぐさま2速にシフトアップするので、例の失速感など感じないわけだ。このなかなかシフトアップしない粘りのある制御は、意図的な制御なのだろうか?
試しにアクセル開度はおおむね40%で踏みっぱなしで加速してみると、2速は3500rpmでシフトアップし、3速は3300rpmだった。このとき車速は80km/hまででているので、十分な加速力だと思う。もちろん、周りのクルマより相当な速さで加速していることになる。この時のフィーリングとしては微妙な失速感はある。
しかし市街地で実用的な走行では、アクセル開度は20%程度で十分走行でき、そうした走りではAGSなのかATなのか区別がつかないほど、シームレスな変速になる。従って、AGSを魅力と捉えるか、ネガと捉えるかは、日ごろの運転の仕方次第で気になるかならないかの分岐点になるだろう。
こうした乗り方以外に高速道路ではどうか?というと合流車線での加速や追い越し車線での走行などでは、全体のパワー不足を感じる場面がある。そこに不満を強く持つようであれば1.0LのRS tのロックアップ機構付き6速ATモデルがあるというわけだ。
■専用装備
ハイブリッド専用のエクステリアでは、専用グリルで、クロームメッキを採用し、フロントフェンダー、リヤバックドアにエンブレムを装着している違いだけだ。また、インテリアではブルーの加飾をした専用シフトノブ、メーターに専用のブルーイルミネーションがリング形状で光る。そしてモーターパワーメーターやEV表示など専用のメーターを装備する。ハイブリッドSLグレードにはパドルシフトも装備されるため、キビキビとした走りも楽しめる。
安全装備でハイブリッドSLには、これまでメーカーオプションだったDSBS(デュアルセンサーブレーキサポート)やSRSカーテンエアバックなど先進の安全装備が標準装備になった。車体色はマイルドハイブリッドMLと同様に合計8色の設定で展開する。
■まとめ
ラインアップが充実し、さらにこの先スイフトスポーツも出てくると噂されているので、実用車からこだわりのクルマ選びまで可能なラインアップだ。今回のハイブリッドモデルはスポーティさを求めるというより、低燃費で小気味良く走るモデルを求めるユーザーに向いていると思う。ただし、これまでトップモデルだったRS tよりも価格は高くなっている。
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