2015年8月30日、包括的な提携を結んでいたスズキとフォルクスワーゲンは国際商業会議所・国際仲裁裁判所の仲裁を受け入れ、両社は資本提携、業務提携を解消することが正式決定した。その結果、フォルクスワーゲンが所有するスズキの株式の19.9%は、スズキが買い戻すことになる。
■ことの始まり:スズキとフォルクスワーゲンの資本・技術提携
スズキは1981年8月にゼネラルモーターズ (GM) と資本・技術提携を締結した。その結果、アメリカでカルタスやエスクード、MW(ソリオ)をシボレーブランドでOEM供給し、クルーズを共同開発している。その一方で、日本においてシボレーやポンティアックの輸入・販売を行なうなどの両社の提携は有効に機能していた。
しかし、GMの経営は2001年から2005年の間に急速に悪化し、最終的に2009年に破産申告を行なうに至っている。この経営悪化の過程でGMは、提携先の株式の売却を進めた。2005年10月には、資本提携していた富士重工業株をトヨタ自動車へ売却し、2006年にいすゞの株式をトヨタに売却。2006年3月にはスズキの株式の大半を売却し、2008年11月18日付で資本提携を完全に解消している。この時スズキはGMが所有していた約20%の株式をすべて買い戻している。またスズキが所有していたGMの輸入販売はGMジャパンに移管されている。
そして2009年12月、スズキはフォルクスワーゲンとの包括的提携を発表した。VW側はスズキの発行済株式の19.89%を24億ドルで取得する一方で、スズキ側もフォルクスワーゲンの株式の1.5%を取得した。この包括的提携は、「両社が商品ラインアップおよび生産・販売地域において相互に補完しあい、さらに世界的にニーズが高まる環境技術へ共同で対応することにより、それぞれの特長を生かすことができる最適のパートナー」という認識の下で提携の合意に至っている。
■提携の軋み:ボタンの掛け違い
フォルクスワーゲンとスズキの提携は鈴木修会長がこれまでのGMとの提携をイメージして積極的に推進したといわれる。実際の業務提携は2010年頃から検討が開始されたが、核心は軽量・小型車のAセグメント車の共同開発で、当時フォルクスワーゲンで開発が終了した「up!」が両社の協議の俎上に上ったはずだ。しかし、「up!」やAセグメント車に対するの評価を巡って企業文化の違いから軋みを生じたといわれている。
さらに2011年、フォルクスワーゲンは年次決算報告書で、スズキを財務、経営において重大な影響を与えることができる会社と位置付けたことに対し、鈴木会長が提携締結のコンセプトとは異なる違和感を覚えたとされる。また同年6月、スズキはヨーロッパ市場向けのディーゼルエンジンのOEM供給先をフィアットとしたことにフォルクスワーゲンは提携に違反すると抗議を行なった。
このようないきさつから、両者の関係は一気に悪化し、2011年12月にスズキは、フォルクスワーゲンとの提携を解消することを取締役会で決定し、フォルクスワーゲンに通知した。
スズキの主張は、互いに独立したイコールパートナーとして提携するために包括契約を締結し、スズキとしての提携の最大の目的は、世界の自動車市場において技術開発競争が激化しているため、スズキの環境技術などの開発を加速するよう、技術情報の提供及び、技術支援をフォルクスワーゲンから受けることであった。
しかし低い出資比率では、フォルクスワーゲン・グループ会社と同等、またはそれ以上の技術的支援を受けることが困難であると判断したこと、スズキは財務的、経営方針上、重大な影響を与えることができる会社というフォルクスワーゲンの位置付けは、スズキの自主独立の方針と相容れないことである。
そして業務提携を解消する以上、スズキが株式を提供した目的が失われるため、株式を処分するようフォルクスワーゲンに対して要求したが、フォルクスワーゲンは拒否した。フォルクスワーゲン側は、「様々なプロジェクトを立ち上げたが何も実現していない」と評し、両者の話し合いは断絶した。
そのためスズキは提携の解消を求めロンドンにある国際仲裁裁判所に調停を依頼した。
フォルクスワーゲンは、スズキの軽自動車の経験をベースにした燃費性能の優れた新興国向けの軽量・小型車の共同開発プロジェクトを推進しようとし、一方のスズキはフォルクスワーゲンから環境技術、ノウハウが得られると期待した。そもそもこの思惑の違いがボタンの掛け違いそのものであった。
さらにフォルクスワーゲンはスズキの約20%の株式を所有したことで、グループ内の系列企業と位置付けたことが、鈴木会長の自主独立路線とは相容れなかったわけである。
いずれにせよ、自動車メーカーの提携は双方にとって、メリットが得られる関係でなければ成立しないことが改めて証明されたといえるだろう。
■スズキ、フォルクスワーゲン:それぞれの評価
2015年8月30日、国際仲裁裁判所の仲裁により、フォルクスワーゲンは所有する株式をスズキに売却することが確定した。
フォルクスワーゲンは、「国際仲裁裁判所の明快な仲裁を歓迎する。裁判所は契約違反をしたスズキの主張を拒否し、フォルクスワーゲンの損害を認めた。しかしながら裁判所はスズキによる協力合意の終了が相当の予告期間があり有効だったこと、フォルクスワーゲンが購入した株式を処分すべきということも裁定された。フォルクスワーゲンは株式を売却することで収益上は効成果が得られる」と発表している。
ちなみにスズキの株価は現時点では、フォルクスワーゲンが購入した時価に比べ約2倍となっており、フォルクスワーゲンにとっては悪い買い物ではなかったのだ。一方、スズキは6000億円以上の資金で株式を買い戻すことになるが、資金手当ては付いているといわれる。
裁定では、2011年11月付のスズキの提携解除通知により2012年5月に有効に解除されたことを認めている。このため裁定は、フォルクスワーゲンにスズキ株の売却を命じているわけだ。
しかし、その一方でフォルクスワーゲンが主張するスズキの契約違反も認定されている。2010年末頃にスタートしたディーゼルエンジンに関する共同プロジェクトを2011年にスズキが一方的に破棄し、エンジンの配送準備を進めていたフォルクスワーゲンに損害を与えたというものだ。今後はフォルクスワーゲンが受けた契約違反による損害額などを協議し、スズキが賠償することになると予想される。
日本の報道では、提携解消で決着したという内容のみだが、この損害賠償の問題が解決して初めて実質的な提携解消となる。
スズキは、2011年以降は大きく方向転換し、新世代プラットフォーム、ディーゼルエンジン、マイルドハイブリッドシステム、AMTなどを自力開発し、結果的には技術体力を高めることに成功している。その意味では自主独立路線を保っているといえるが、グローバル戦略的には新たな提携も模索することになるだろう。