国土交通省は2016年6月10日に「自動車の型式指定審査におけるメーカーの不正行為を防止するためのタスクフォース」の中間取りまとめが発表された。
4月20日に報告されたミツビシによる走行抵抗値の不正な測定、数値の不正な算出、5月18日に報告されたスズキによる走行抵抗値の不正な算出を受け、どのように対処するかを国交省・自動車局と独立行政法人・自動車技術総合機構(NALTEC)からなる特別チームを編成し検討していた。
ミツビシの問題は、国交省に対して型式指定を申請する際に、本来の燃費よりも良く見せるために排出ガス・燃費試験においてシャシダイナモに設定する走行抵抗値を法令で定めた試験方法と異なる方法で算出し、かつこれを不正に操作して国土交通省に提出していた。
またスズキは、法令で定めた試験方法とは異なる方法で走行抵抗値を測定していたことが判明している。
国交省は、この事例は自動車の型式指定審査の信頼性を根本から損なうだけでなく、自動車産業への信頼を傷付け、ユーザーにも大きな不信感を与えるものとし、責任を明確にし、不正行為の再発防止策を講じることが必要としている。
一方でこのような不正が生じた背景には、自動車の型式指定審査に当たり、国交省、独立行政法人・自動車技術総合機構で行なう自動車メーカー、輸入事業者から提出されるデータの審査方法についての課題があることを認めている。
■型式指定制度とは
今回の不正行為を踏まえ、国交省は審査方法の見直しを行ない、自動車の型式指定審査における自動車メーカーのコンプライアンスの徹底を図らせることにより、再発を防止する必要があるという結論に達している。
型式指定制度は、クルマの安全性と環境性能を発売前に審査し、保安基準、環境基準に適合しているかどうかを調べ、型式指定(道路運送車両法による)を行なうというものだ。なお実際の審査は独立行政法人・自動車技術総合機構(NALTEC)が担当している。
型式指定の審査で、自動車が保安基準に適合しているかどうかの確認に用いるデータは、以下の3種類に分類される。
(1)NALTECが測定しているデータ
・乗用車の衝突性能
・歩行者保護性能
(2)自動車メーカーから提出を受け、試験の中でそれを確認しているデータ
・灯火器の取付位置、状態
・車体表面の突起物
(3)自動車メーカーから提出を受け、そのまま試験に使用するデータ
・乗用車用排出ガス・燃費試験における走行抵抗値
・DPF(ディーゼル微粒子除去装置)などの周期的に作動する装置に係る排出ガスの補正係数
・派生型車両の横滑り防止装置に係るシミュレーション結果
(3)の項目は、型式指定の審査で行なわれる209ある試験の内の13試験で使用される7種類のデータで、排出ガス・燃費に関するものが3データ、ブレーキに関するものが3データ、トラック等の車体強度に関するものが1データとなっている。
これらのメーカーが提出するデータは、一定の気象条件の下で測定する必要があるものや、複数回にわたり測定する必要があるものなど、NALTECが審査時に全てを測定することが困難であるため、自動車メーカーとの信頼関係を前提に、チェックを行なわず試験時にそのまま使用してきたのだ。
■不正防止の対策
自動車メーカーから提出を受けそのまま試験時に使用しているデータについて、不正行為が疑われる場合には、NALTECが技術的検証を自動車メーカーに協力させた上で実施する。万が一、不正が発覚した場合には自動車メーカーに対して厳しい制裁措置を採ることができるようにすることに加え、型式指定後にも不正が無いかどうかをチェックすることが付け加えられている。
具体的には、メーカーが提出するデータが適正かどうか、NALTECがその全てを測定することは困難であるため、抜き打ちでの試験への立ち会いや抜き取り方式によりデータの突合せを行なう。
NALTECのチェックで不正行為や、その疑義が発覚した場合、NALTECがその自動車メーカーに協力をさせた上で、データの妥当性を確認。そのためNALTEC内に技術的検証を行なうための体制を整備する。そしてNALTECが技術的検証を行なう場合は、疑義に関係するその自動車の審査を一時的に停止する。これにより、自動車メーカーは開発、生産、販売スケジュールが遅れ、大きなダメージを受けるため、不正の抑止効果が期待できるととしている。
国交省は不正が明らかになった場合、その不正を公表し、不正が明らかになった型式指定申請の却下、その自動車メーカーによる全容解明、再発防止策の報告までの間、並行して行なわれているその自動車メーカーの他車種の審査の一時停止を行なうとしている。
■販売開始後の追跡調査
新たな試みとして、自動車メーカーが型式指定を取得した後も、国交省が道路運送車両法に基づいて立入検査(監査)や調査を実施することも決められた。具体的には生産ラインからの実車抜き取り確認、自動車メーカーの型式指定申請プロセスのチェック、市場で走行しているクルマに対する抜き取りでの路上試験による排出ガスの確認などを行なうとしている。
■世界基準の燃費試験の採用とカタログ燃費表示法の再検討
今後は、型式指定申請に関する不正行為には罰則がないため、今後は法令上の不利益処分や罰則の導入も検討課題とされる。また同時に、乗用車等の国際調和排出ガス・燃費試験法(WLTP)を早期に導入し、現在の日本独自の試験法から国際調和された試験法へ改正すること、現状の燃費測定法では実用燃費との開きが大きいため、表示される燃費値と実走行時の燃費値の差がより小さいものとなるよう、WLTPを導入した上で新たな燃費表示法を検討することも新しい方針とされている。