【スズキ】スペーシア試乗記 子育て世代の女性ユーザーのターゲットを絞り込んだ実用ハイトワゴン

マニアック評価vol183

スズキの軽自動車トールワゴン「パレット」がフルモデルチェンジし、「スペーシア」と車名を変更して登場した。開発コンセプトは「広い、軽い、低燃費」。広いスペースを持つ軽自動車で最大限の燃費の追求、簡単に運転できること、子育て世代のファミリーユースの追求、大幅な軽量化といった開発目標と、子育て世代の女性ユーザーが日常的に使うことを前提にした商品企画に絞り込んでいるのが特徴だ。

従来型のパレットはもう少し幅広いユーザー層を想定していたのだが、新型スペーシアは子育て中の女性ユーザーに徹底して焦点を当てることで、ある意味で使用目的に特化したピュアな商品となっている。それはスペーシアを眺めると直感的に分かる。この軽自動車トールワゴンのカテゴリーはホンダのN BOXが登場して以来、商品競争が激しくなっているが、スペーシアのようにツールに徹したピュアなコンセプトはひとつのブレークスルーだと感じられる。

NAエンジンを搭載する「X」キャンドルオレンジメタリック
ターボエンジン搭載の「T」フォレストアクアメタリック

パッケージングは直方体そのもので、乗車姿勢はアップライトになるが、アウターボディすべてのエッジを丸め、フロントウインドゥkのラウンドを強めることで感覚的に温かみやソフトな感触を感じることができる。もちろんこのフロントウインドゥのラウンドはAピラーの位置を後方にできるため、視界の向上にも役立っている。

大きくラウンドした形状のフロント・ウインドゥ
スペーシアのペダル・レイアウト

スペーシアのハードウエアは、昨年に9月にデビューしたワゴンRをベースにしており、2425mmというロングホイルベース、リチウムイオン電池を使ったエネチャージ(減速エネルギー回生)、減速時に13km/h以下でエンジンストップする新アイドルストップ、エンジン停止中でのエアコンが有効なエコクールなどが採用されている。またエンジン、CVTに更なる改良を加えることで従来型パレットより燃費を約30%以上も改善している。もっとも燃費向上はそれ以外に徹底した軽量化によるところが大きい。ボディ骨格に超高張力鋼板を使用したり内装、艤装などトータルで90kgも軽量化しているのだ。

スペーシアは最軽量のGグレードで840kg、ターボFFもデルのTグレードで870kgで、重くなりがちなトールワゴンの中で軽さでクラストップとなった。軽量化は燃費だけではなく、加速時でもブレーキでも有効であることは言うまでもなく、これからは出力が限られる軽自動車ではもっと激しい軽量化競争が始まるだろう。実際、52psの自然吸気モデルに乗っても発進の加速感は期待以上の出足で、これはCVTのチューニングだけではなく明らかに軽量化の恩恵といえる。

スペーシアの動力性能は、市街地での常用域では満足できるが、60km/h-80km/hといった中間加速、60km/h以上の領域ではちょっと苦しくなる。つまりは市街地での走りに割り切っているといえる。その点、64ps/95Nmのターボモデルは加速でのストレスが感じられなかった。なお、実用燃費は20km/L以上は確実で、ハイブリッドカー並みの燃費が得られるのもスペーシアの価値の一つだ。

助手席下側の収納バスケット。この下にLion電池が
運転席から見た後方視界

乗り心地、快適性、ハンドリングも軽自動車カテゴリーの中で十分満足できるレベルにある。ベースグレードのG以外、14インチタイヤ・モデルのX、Tはフロントスタビライザーも装備され、ハイトワゴン特有のぐらっと感じるロール感をかなり押さえ込んであり、安心感も重視されていることがわかる。最小回転半径もX、Tが4.4m、Gが4.2mで扱いやすさも文句なし。スペーシアに限らないがハイトワゴンは横風が強い際にはちょっと注意が必要なのは言うまでもない。

軽自動車ワゴンの室内スペースや居住性は、今や1.0L〜1.5Lクラスの2ボックス・コンパクトカーを上回るスペースを実現している。このスペーシアもそうした面ではトップレベルの居住スペースといえる。アップライトな乗車ポジションでスペースを稼ぎ出しているだけとはいえず、リヤシートには170mmの前後スライドと5段階のリクライニングを備え、後席の居住性は秀逸だ。もっとも後席は大人の乗るスペースというより、多彩な積載や利便性の高いスペースと位置付けられているのが実際だ。子供を塾まで迎えに行った時に備えて子供用自転車はもちろん、27インチの自転車まで後席を畳めば収納でき、X、Tグレードには軽自動車初のリヤドア用のロールサンシェードが標準装備される。これはスポーツ活動の場合の子供の着替えや、チャイルドシート装着時に直射日光を遮るなどに配慮した装備だ。このように主婦ユーザーを徹底してリサーチした結果が盛り込まれている点は評価できる。

リヤのラゲッジスペース
助手席前と天井にティッシュボックスを格納

X、Tグレードは左側リヤのスライドドアはワンタッチ電動ドアが標準化され、ドアハンドルに指先を触れるだけで開閉できるが、これは荷物で手がふさがっているときに便利だ。また日常での買い物のシーンを想定し、ショッピング袋、レジ袋を引っ掛けるフックもセンタコンソール側面に装備され、もちろん各種の小物収納スペースも多数設けられているなど、使うシーンごとの利便性は高い。

圧巻ともいえるのは、ティッシュボックスの収納で、助手席前のグローブボックス上部と、オーバーヘッドコンソール部に2箱のティッシュボックスが設置され、いずれもワンタッチでティッシュペーパーが破れることなく引き出せるようになっている。もちろんこれもクラス初の装備で、乳幼児を乗せる機会の多い主婦ユーザー層のリサーチにより重視度の高いマスト・アイテムになっていたという。

内装色は明るく、ガラスエリアが広いため、視界の広さと室内の明るさというふたつの観点からも開放感が感じられる。開発段階では薄肉の樹脂製インスツルメントパネルや艤装などでチープ感が出ないように苦労したそうだ。イメージ的には明るいリビングという雰囲気だが、仕上げは多少ビジネスライクな印象だ。ただ、女性ユーザーが日常的に運転することを考えると、メーターパネルかセンターコンソール部にワンポイントの魅力が欲しいと感じた。

新型スペーシアは、ユーザー層を徹底的にリサーチして作り上げた、ユーザーオリエンテッドなツールに徹したハイトワゴンということが実感できたが、より幅広い視点で見ればそうしたユーザー層だからこそ、衝突回避・軽減ブレーキ/ESP(車両安定化システム)の必要性は高いと思う。もちろんこれはコストアップの大きな要因になるが、近いうちに答えを出す必要があると思う。

スペーシア諸元表

スズキ公式サイト

COTY
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