スズキ・スイフトから覗く新興国への攻防

雑誌に載らない話vol12

自動車メーカーとしての生き残りをかけて、世界中のメーカーがアジア諸国へ進出している。中でもスズキは古くからインド、ハンガリーなどへ進出しており、新興国への攻防という観点からは他社をリードしている。

そのスズキは、世界屈指の軽自動車を含むコンパクトカーメーカーという特徴を持ち、サブコンパクトカー・クラスのグローバルカーであるスイフトは、その主力車種である。主要生産拠点として日本以外にハンガリーとインドに大規模工場を持ち、圧倒的なコストパフォーマンス、つまりは低価格を最大のアピールポイントとしてきている。また、スイフトはヨーロッパを舞台にして走りを開発したこともあり、ヨーロッパではスイフトの走りに対してスポーティさが好評でもある。

注目すべきことにスイフトは、スズキの軽自動車の多く(アルト、MRワゴンなど低価格車種を除く)より低価格なのだ。この点が、フォルクスワーゲンが注目し、提携に至った理由だと思う。もちろんそれ以外に、注目市場であるインドでスズキが圧倒的なシェア、販売体制(スズキの国別販売台数ではインドがトップ)を備えていることもフォルクスワーゲンには魅力であっただろう。企業哲学的がまったく異なる2社の提携は今後の動向に世界が注目している。

世界的に見て環境・燃費を重視すればダウンサイジングは必須である。もともとサブコンパクトカー作りに絞ってきたスズキは、今後の販売において飛躍的な伸びを期待できる、新興国向けの低価格車作りのノウハウを持っていることで企業価値を大きく高めているともいえる。

低コストの小型車作りは世界的な規模で激しい競争が行われている。世界に先駆けてドイツで行われたスクラップ・インセンティブ(買い替え政府補助金制度)では、シュコダ、スズキ・スイフト、ヒュンダイなどの低価格車が著しく伸び、そのことは、VWにも大きなショックを与えたことは容易に想像できる。

Hyndi  マーチ

ダチア・ロガンの台頭

 

しかし、上には上があり、最近ではヒュンダイ以上に販売が好調なのが、ルーマニア製のダチア・ロガンである。VW傘下にあるチェコのシュコダ・ファビアが1万6000ユーロ、スイフトは平均1万3000ユーロであるが、ロガンはなんと7300ユーロなのだ。

A 118875 dacia1

ロガンはルノーの傘下にあり、設計はルノーが担当しているが、労働賃金がドイツの1/10といわれるルーマニアの特色を生かした驚異的な低価格車なのだ。ドイツの雑誌には「デラックス感や格好良さはない。このクルマに乗って、ディスコの前で女の子を誘うのは難しいだろう」と書かれているのだが、その一方で、2008年のユーザーの自動車メーカー・ロイヤリティ(買い替え時の忠誠度)評価では、1位:スバル、2位:ポルシェに続き、なんとダチアが3位にランクされているのだ。同調査では、トヨタは6位、スズキは11位、ヒュンダイは17位、メルセデスは18位であった。

つまり、クルマを道具として考えるユーザー層にとっては、ロガンは圧倒的にコストパフォーマンスが優れた存在と考えられている。ちなみにロガンは、ルノー/日産で共同開発したBプラットフォーム(マーチやジュークなど)の改良仕様であるBゼロプラットフォームを採用する。

このロガンは、2007年からインドにも投入され、生産も現地のマヒンドラ・ルノーで行われている。またヒュンダイは、2007年からサブコンパクトカー・クラスのプレミアムモデルという位置付けで、i10アスタをインドのチェンナイ工場で生産・販売を開始している。現地価格は49万4000ルピー(約90万円)。

一方、フォルクスワーゲンはインドのプネ工場で、2009年からポロの生産を開始した。旧型ポロのダウングレードバージョン1.2Lモデルは43万4000ルピー(約80万円)としている。日産マーチは、インドでは46万から49万ルピーで販売されている。

スズキはインド政府が構想した新国民車構想の合弁会社、マルチ・ウドヨグとしてインドビジネスをスタートさせ、1980年代以降に大成功を収めた。マルチ・スズキは地域で最大規模の自動車メーカーとなり、強固な販売体制を築きあげることにも成功している。

しかし、インドが興隆する大規模市場を持つ新興国として注目を浴びるようになると、他メーカーの動向を概観したように、今後は激しい競争を迎えることになる。低価格車は、価格が安いということ以外に、どのような思想によるクルマ作りを目指すのか、どのような先進性、革新性を備えるかという点が最終的には問われることになると思う。

文:編集部 松本晴比古

関連記事

スクープ! 3代目スイフトスポーツか?

グローバル戦略車 新型日産マーチを考察

ダウンサイジングの本命 ゴルフ?トレンドライン

COTY
ページのトップに戻る