2017年3月9日から受注を開始した新型XVは、いよいよ5月24日から発売が開始される。発売に先立ち、新型XVに短時間ながら試乗することができたので、さっそくお伝えしよう。<レポート:松本晴比古/Haruhiko Matsumoto>
■ポジショニング
富士重工からSUBARUへ社名変更して初となるニューモデル「XV」は、スバル・グローバル・プラットフォームを採用した第2弾だ。先に発売されたインプレッサ・シリーズとは兄弟だが、グローバル市場での役割はインプレッサ以上に重い。
今回の新型XVは正式には2代目となる。じつは2010年にGH型インプレッサの追加モデルとして登場したモデルがVXの元祖だ。しかしXVという独立した車名で2012年に登場したのがGP型の初代XVである。このモデルで専用のデザインを採用し、クロスオーバーSUVであることを明確に打ち出したことになる。
グローバルで人気が高いコンパクト・クラスのクロスオーバーSUVで、クロスオーバにふさわしいテイストのデザインも奏功し、アメリカ市場だけでなく日本でもヒットした。
今回登場する2代目は、キープ・コンセプト、キープ・デザインで登場したが、初代はインプレッサより遅れて開発されたのに対し、今回のXVはインプレッサと同時開発されている。しかもアメリカ、日本だけではなく、コンパクト・クロスオーバーSUVの伸びが最も著しいヨーロッパ市場、中国市場もターゲットに入れたグローバル戦略モデルと位置付けられているのだ。
またスバルのラインアップの中で今後は、XVが最量販モデル、つまりスバルの屋台骨を支えるモデルという位置づけとなり、日本でもメイン・モデルとされている。それだけではなく、世界市場におけるBプラス・セグメント、CセグメントのクロスオーバーSUVのベンチマークに位置するという、高い心意気を持ったニューモデルなのである。
■コンパクト・クロスオーバーSUVの付加価値戦略
新型XVの開発キーワードは「FUN Adventure」で、日常生活での市街地で使いやすいパッケージングや内外の質感の高さ、休日の郊外へのドライブでの快適性や安心感、目的地で楽しむための多用途性の2つのシーンでクラス・トップであることを狙っている。
さらに、現在では激戦区のコンパクト・クロスオーバーSUVクラスの中で突出した存在となるために、スバルは価格競争力を持ちながらさらなる付加価値を高めることで、XVの存在感を高める作戦なのだ。
そのひとつがアイサイトver3や歩行者保護エアバッグの全車標準装備化。さらに、衝突安全性能の大幅な向上など、安全性でのリードだ。二つ目めは、全車がフルタイムAWDとしていることだ。クロスオーバーSUVは文字通りセダン/ハッチバックとSUVのいいとこ取りをしたクルマで、現在、各社の多くは二輪駆動モデルが主流。4WDが設定されている場合でもオンデマンド式の4WDがほとんどというのが実情だ。
しかしスバルはアイデンティティを主張するためにはフルタイムAWD(アクティブトルクスプリットAWD)が不可欠と考え、さらにホイールが空転するような悪路での走破性を確保するために、今回から各輪がLSD効果を発揮できる「X-MODE」、ヒルディセント・コントロールもエントリーグレードの1.6i以外に標準装備となっている。
さらに最低地上高200mmと本格SUV並みの地上高とし、タイヤは外径700mmと大径タイヤを装着し、この点でもSUVらしさを強調。FF駆動の、地上高の低い都市型に特化したクロスオーバーとは違うことを主張している。
そして、インプレッサ以来の新世代プラットフォームを採用したことで、地上高の高いクロスオーバーSUVであるにもかかわらず、セダン同等レベルのハンドリング性能や直進性の良さを追求し、動的な質感を高めることや、エクステリア、インテリアの作り込みの質感を高めることも大きな付加価値と位置付けられている。
試乗レポート
新型XVは、試乗会の段階ではまだナンバープレートが取得できていないため、クローズドの短い周回路で行なわれた。ここでの試乗は我々日本のメディだけではなく、アメリカやオーストラリアのメディア向けにも行なわれ、グローバル・モデルということが改めてわかる。
試乗車は1.6Lと2.0Lの両モデルと旧型モデルも用意されていた。ただ試乗車は、スバルでは生産試作、一般的には量産試作と呼ばれる段階のクルマで、発売前に急遽集められており、エンジニアは市販仕様とほとんど差はないというのだが、いざクルマに乗り込むという段階で、ドアの開閉音やドアハンドルの操作感が今ひとつ物足りないフィーリングに感じた。従来のスバルの各モデルはこのあたりの操作感はかなりレベルが高いのだが、少し腑に落ちない感じがした。
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インテリアは、基本的にはインプレッサと共通に見えるが、XVはトリム類のステッチがオレンジ色になっているのが特徴だ。ソフトパッドに覆われたインスツルメントパネル、各スイッチ類、ドア内側のトリムなどの作り込みの質感は高く、スイッチやダイヤルの操作フィーリングも満足できるレベルだ。
またペダル類も、新プラットフォームの採用によりフロントタイヤの室内側の膨らみはほとんどなく、理想的な配置になっている点も評価できる。
新型XVは、エントリーグレードとして1.6Lエンジンを搭載する1.6i、1.6i-Lを新設定し、2.0i-L、2.0i-Sと合わせ4グレードになった。FB16型の1.6Lエンジンはポート噴射仕様で115ps/148Nm、直噴のFB20型は154ps/196Nmだ。車両重量は1400kgほどだから、1.6Lエンジンでは非力に感じられるが、ファイナルギヤ比を4.111と一段落としているため、常用域での動力性能はそれほど物足りなさを感じることはなかった。
もちろんFB20型エンジン車に乗り換えると、中間加速などでの加速時のトルクの厚さが感じられるが、短時間での試乗では意外と違いがわかりにくい。これからXVを買おうと考えている人にとってはどちらを選ぶべきか結構悩ましい問題だろう。
旧型XVと新型XVを乗り比べてみると、旧型もバランスがよく、このクラスのクロスオーバーSUVとして、まとまりはハイレベルだと感じた。が、新型は圧倒的にボディの剛性感が高く、よりフラットな乗り心地になっていることが実感できた。
2.0i-Sモデルは225/55R18 、それ以外は225/60R17サイズという大径のタイヤを装着しているが、ばね下の重さを感じさせず、荒れた路面での乗り心地も優れている。ストローク感のあるサスペンションで、前後左右の揺動の少ないフラットな乗り心地のため、長距離ドライブでの疲れは少ないと思われる。
またステアリングを切った時の応答の素直さや、リヤ・サスペンションの滑らかさ、グリップ感、腰高感のない走りは、コンパクト・クロスオーバーSUVの標準レベルをかなり上回っていると感じられた。
ただ、ステアリングを握り、ほんの少し切った時に微妙な弾性感があり、すっきりした操舵質感を少しスポイルしているように感じた。心躍らすドライビング感覚の入り口がステアリングの操作感なのだから、このあたりのレベルアップを求めたいところだ。
■悪路走破性能
今回の試乗では、泥濘状態で両側は凍結した残雪がある急な上り坂で、新採用されたX-MODEも試すことができた。タイヤがめり込むような泥濘路面でもアクティブトルクスプリットAWDであれば、うまく操作すると走破できるが、あえて凍結した残雪に片輪を、もう片輪を泥濘に置いて停止した坂道発進では、大きく横滑りして発進が難しい。
こういうシーンでX-MODEボタンを押すと、ステアリングを進行方向に保てばXVは難なく発進できる。この機能はフォレスターに採用されているが、XVもこれでSUV的な走破能力もクラス・トップになったといえる。
なお、従来のX-MODEは圧雪状態の坂道で車体を斜めに止めて、大きくステアリングを切った状態で発進しようとするといったシーンでは、多板クラッチの過大な負荷を配慮してAWD状態は弱められる制御になっていたが、今回からはそうした状態でも問題なく発進できるように制御が改良されているという。
走行中の室内の静粛性も十分で、エンジンのメカノイズもかなり抑え込まれ、この点も旧型から進化したところだ。室内の広さなどパッケージはクラスの中でトップレベルだ。特にリヤシートの広さや居住性、ラゲッジ容量などは優れている。
強いていえば、運転席のクッションやシートトバックの形状がルーズなタイプなので、もう少し体を支える剛性感、フィットする感じがあればと思う。
試乗した印象は、ボディのしっかり感、走りの質感は確かにクラスのベンチマークというにふさわしいレベルにある。その一方で、ドアの開閉音、エクステリアやインテリアの精緻さというか作り込みがもう一息というか画竜点睛を欠いている気がした。こうした点を克服できれば、XVはグローバル・レベルでのベンチマークになる能力は十分持っているということができる。