スバルは3月末のニューヨークショーで北米仕様の「XVクロストレック・ハイブリッドのワールドプレミアを行ったが、初夏に発売を予定している日本仕様の「XV ハイブリッド」プロトタイプを2013年4月18日に日本初公開、技術説明会を行った。なおプロトタイプとされているが、事実上の市販モデルと考えられる。
説明会の冒頭では吉永泰之社長が、スバル初の、スバルらしいハイブリッド車であり、オリジナル技術で開発されたこと、ハイブリッド車を2013年に投入することは2011年7月の中期経営計画で決定された経緯などを説明した。電動化時代の第1歩としてスバルらしいハイブリッド車にしたこと、そのスバルらしさとしては水平対向エンジン、4WDとの組み合わせたシステム&パッケージングにしていること、モーターアシストによる「ファントゥドライブ」を強調した。
「XVハイブリッド」はXVのトップ・グレードと位置付けられているが、コンセプト・ワードは「Fun and Urbanity」で、走る楽しさと燃費の向上を両立させ、ファントゥドライブを実感できるハイブリッド車にしたという。言い換えれば燃費だけを訴求するハイブリッド車とは一線を画するということだ。
走る楽しさは加速の良さ、軽快な加速とされ、発進加速や追い越し加速でモーターによる駆動アシストを最大限に生かし、他のハイブリッド車より優れた加速が得られるという。
またスバルらしさとして、他車のSUV、クロスオーバーより大幅に低い重心高により、ハンドリングの優位性や危険回避での安定性の高さも優位点に上げられている。
XVハイブリッドの商品力の向上としては、専用のフルカラーメーター&ディスプレイの採用や、ハイブリッド専用のアイサイトの設定もユニークだ。アイサイトのクルーズコントロール機能にECOドライブ機能を融合させ、モーターのアシスト制御域の拡大、アイドリングストップ作動域の拡大、エアコンの作動制御などで約10%の実用燃費の向上を果たし、他のハイブリッド車にはない特徴となる。
XVが採用したハブリッドシステムは、エンジンとモーターを断続するクラッチを備えたパラレル式であることと、フルタイムAWDシステムとハイブリッドを組み合わせていることが最大の特徴だ。このため、モーターは駆動側のCVTのプライマリープーリーと直結されており、エンジン停止からの再始動にはモーターが使用できないため、エンジン始動用に高容量オルタネーター(インテグレーテッド・スタータージェネレーター:ISG)を使用するシステムになっている。またこのISGのために振り子式可変張力テンショナー(デカップリング・オルタネーターテンショナー:DAT)を開発し、装備している。ISGがスターターとして作動する時にメカニカルにベルト張力を高める仕組みだ。
単に燃費を向上させるためのハイブリッド・システムならAWDではなくFF駆動にすることでより軽量になり、駆動系の抵抗を低減できるが、走りや走破性を考慮してAWDを採用するところがスバルらしいといえる。
なお、モーターが駆動軸に直結となっているため、モーターはアシストしない時でも常時回転することになる。このため、エンジンのみで走行中でもモーターは負荷を生じないように電流を流し抵抗になることを防いでいる。
エンジンは従来のFB20型をハイブリッド用に改良している。ISGの採用、サブバッテリーを2個エンジンルームに搭載するため吸気経路を変更。さらにエンジン内部では圧縮比の向上(10.5→10.8)、ピストンリングの張力変更、ポート隔壁の形状の変更、より大型の独立式の水冷EGRを採用するなど低フリクション化とエンジン特性チューニングを行っている。出力は150ps/6000rpm、最大トルク196Nn/4200rpmで、出力数値に変更はないが最高出力回転数が200rpm低められているのが特徴。
なおエンジンルームの左右に配置される2個の鉛バッテリーは、運転席側はISGのスターター作動用に使用されるディープサイクル(高負荷対応)タイプのもの、助手席側は通常の電装用の電源とされている。
エンジンと結合されるトランスミッション(CVT)は、ハイブリッド用に新設計されている。CVYは従来通りトルコンを備えた低容量タイプのリニアトロニックだが、トランスミッションのリヤケースが新設計され、ちょうどCVTのプライマリープーリーの直後にモーターが同軸配置されている。このためトランスミッションケース全長は11cm延長され、高容量タイプののCVTと同等の長さになった。なおモーターの後方、トランスミッションケースの後端に配置されているAWD機構は従来通りアクティブ・トルクスプリット式で、前後駆動力配分は60:40がベースとなり、走行状況に合わせて前後可変配分を行うようになっている。
つまり、このトランスミッションにモーターを組み込んだAWD用ハイブリッド駆動システムはスバル車のラインアップに適合性を持っており、先日公表されたコンセプトカースバル・ヴィジヴ・コンセプトのトランスミッション部分もこのユニットで対応できるわけだ。
モーターは交流同期式で10kW、65Nmの出力を持つ。クラッチはセカンダリープーリーの前側にある前後進切り替え部のクラッチと、出力クラッチの2個を備えるが、これはエンジンとトランスミッションを切り離す役割を持つがモーターとトランスミッションは同軸のため、モーターアシストを行わない場合にモーターをバイパスしてエンジン駆動力を伝達するために出力クラッチが必要になるのだ。
エンジンが停止している状態でCVTの作動油圧を保持するための電動オイルポンプを備え、もちろん走行中にCVT作動用の油圧を得るために、通常のエンジン駆動による機械式油圧ポンプを備えるが後方のモーター作動時にも油圧が得られるようにプライマリープーリーでも駆動されるツインドライブ式になっている。
このようにCVT+AWDシステムに駆動モーターを組み合わせたため、他車とは異なる工夫が盛り込まれている。
ハイブリッドシステムのレイアウトは、リヤのスペアタイヤのスペースに駆動用バッテリー、インバーター、DC-DCコンバーターを格納している。なおパンク修理キットは、フロントシート下に収納される。このため室内スペースはもちろん、リヤのラゲッジスペースも従来モデルと同等で、リヤシートもフルフラットに倒すことができるようになっている。また駆動用バッテリー駆動モーターへの高圧配線は床下を通し、さらに空力対策用のフロア・アンダーカバーで覆われている。
駆動用バッテリーは、実績のある旧サンヨー製のニッケル水素式を採用。出力電圧は100Vだ。このバッテリーやインバーター、DC-DCコンバーターの冷却は空冷式で、リヤの室内から吸気し、冷却した空気はリヤ側部のエアベントから放出される。
ハイブリッドの作動は、発進時、極低速域はEVモード、加速時はエンジン+モーター、巡航時はエンジンのみで走行する。もちろんエンジンのみで走行するシーンでは充電も同時に行われる。エンジン走行時はモーターを極低トルクで回転させ、エンジンの負荷にならないような仕組みも取り入れられている。
また減速時はエンジンを停止して4輪による減速回生を行う。加速時には積極的にモーターアシストを行うことでエンジンをブーストし、気持ちよい加速感を実現。特に低・中速殻の加速ではモーターアシストの効果により大きなトルクが得られるようになっている。
VXハイブリッドは、バッテリーやインバーター類をリヤの床下部に置き、モーターもCVT内部にレイアウトしているため、重心高は標準モデルのXVと同じ550mmで変化なく、通常のクロスオーバーやSUVに比べ約100mm低いというスバル車の特徴は継承されている。
ハイブリッド化に伴い、ボディ全体での振動・騒音対策はベースモデルより強化され、インシュレーターの性能アップ、フロアの制振材の追加などにより、より静かなキャビンを実現。また、ハイブリッド特有のバッテリー部の安全対策ガードも行っている。なお燃料タンクはベースモデルの60Lから52Lの小型化されているが、燃費向上分も含め航続距離1000kmを確保しているという。
シャシーでは、スプリング、ダンパーは車両重量の増大(ハイブリッド化により約120kg増加)に合わせて専用チューニングを行い、ダンパーは高応答ダンパーを採用。細部ではフロント・ロアアームブッシュのハード化、液式エンジンマウントの採用、リヤではサブフレームサポートの追加やリヤフレームステーの追加を行い、さらにスタビライザーの径をアップするなど走りにこだわった専用チューニングが行われている。またステアリングギヤ比は14.1と一段とクイックにされている。
このように、ラゲッジスペース、キャビン容量、使い勝手などはベースモデルと同等で、ハイブリッド車の欠点をなくし、さらに従来のハイブリッド車では物足りなさが感じられる走りの性能もベースモデル以上とすることで、これまでハイブリッド車を選ばなかった新規ユーザー層を獲得するという商品戦略は明確といえる。
XVハイブリッドの燃費は、JC08モードでベースモデルが15.8Km/Lであるのに対し、20.0km/Lとなっており2.0Lの4WD車でクラストップの燃費となっている。またスバルならではのアイデアで、アイサイト装備車はアイサイトとエコモードの協調制御(ECO-Cモードと呼ぶ)を採用している。全車速追従クルーズコントロールでの加減速をマイルドにし、EV走行域の拡大とエンジン停止域の拡大、エアコンを弱めにするなどの統合制御で、実用燃費は10%程度アップするという。
今回の技術説明会で披露されたXVハイブリッドは日本仕様のプロトタイプとされているが、発売は間近に迫っている。