ひと足速くSUBARU WRX S4プロトタイプに試乗することができた。千葉県袖ヶ浦フォレストレースウエイでのテストで、トップグレード「STI Sport R EX」のインパクトは強く、脳を刺激された。
WRX S4がフルモデルチェンジを受け、プラットフォームはSGPとなりエンジンもFA24型ターボを搭載した。ここでのテストはパワーユニットの変化、そしてダイナミック性能の進化というポイントで試乗してみた。
エンジンは2.0Lから2.4Lへと排気量がアップし、北米で展開していたエンジンを国内販売するWRX S4にも採用した。燃費はWLTC平均で10.8km/L、出力は275ps/5600rpm、最大トルク375Nm/2000-4800rpmというスペック。ボディサイズは若干サイズアップし、全長4670mm、全幅1825mm、全高1465mm、ホイールベース2675mmでコンパクトセダン、Cセグメントプラスサイズになっている。
開発の狙いは高いパフォーマンスで刺激的な走りをするセダン、であり北米では2021年9月にワールドプレミアを行なっているモデルだ。
さて、グレードでは「GT-H」と「STI Sport」 、そして「STI Sport R EX」に試乗し、現行モデルのSTI Sportにも比較試乗することができた。
STI Sport R EXには電制ダンパーを装備しレカロシートを装着するなど、ダイナミック性能を追求したグレードで、もっとも刺激的な走りをするモデルだ。またドライブモードによるキャラクター変化幅も大きく、実用性も意識していることが分かる。
今回は持ち味であるスポーツドライブをサーキットで試走することができたのだが、エンジン、CVT、ボディ剛性、サスペンション、ブレーキと全てにおいて高いレベルにあることに驚かされたのだ。
エンジンのレスポンスではアクセルオンに対するレスポンスをリニアにしている。これは現行のSTI Sportでも十分優れたレスポンスだと思っていた。だが、乗り比べて分かったのだが、現行モデルでは若干の応答遅れがあることを体感したのだ。
この反応のリニアさにプラスしてFA24型の吹け上がりの軽さも魅力的だ。まるで手組みのエンジンかと思わせるほど軽快で抵抗感のない滑らかな吹け上がりをする。ターボラグなど微塵も感じることなく、サーキットを軽快に走り抜ける。この気持ちの良さを味わえるエンジンは滅多にないだろう。カタログスペックでは現行モデルよりスペックダウンしているかもしれないが、低中速域で頻度の高い部分のトルクの出方やレスポンスを重視しているため、乗りやすさは圧倒的に新型が勝っている。
ひとつ難を言えば、エンジンが静かなことだ。せっかくの水平対向エンジンなのでボクサーサウンドは期待したいところ。もちろんセダンなので、ドライブモードでスポーツを選択したときだけサウンドクリエーターでいいから官能的なサウンドは聴きたかったが、どのモードでも静かな走りをしていたのが少し残念。
そしてSGPによってボディ剛性などボディの「質」が向上しているため、サスペンションにも好影響が出ている。STI Sport R EXにはZF製の連続可変電制ダンパーCDCを搭載しており、このダンパーの減衰が素晴らしい。ダンパー専用のマイコンを搭載し、4本を個別に制御しているため、タイヤ接地荷重、操舵角などのデータを反映し瞬時に減衰が出ている。つまりステアと同時に減衰を合わせ込むことができているのが従来との大きな違いだろう。
したがってダイアゴナルロールは感じにくく、フラットに旋回していくイメージ。かつ、リヤの接地感がしっかりとあり、FR的なフィーリングも伝わってくる。さらにダンパーの伸びと縮みを繰り返すときの切り替えでの減衰立ち上がりも滑らかで、エンジニアのこだわりを感じる部分だ。したがって車両に無駄な動きがなく、安定して旋回していくフィーリングは気持ちいい。
さらに、このAWD制御も秀逸で、前後のトルク配分が瞬時に可変しているのだ。車両の走行状況によって駆動トルク配分が変化しているので、ドライバーは荷重コントロールを行ない、ジワリとステアしていくと速い段階からアクセルを開けていくことができるというわけだ。
多少のオーバースピードでアンダーが出そうな場面を作ってもアンダーステアとはならず旋回モーメントを感じさせてくれる。だからどんどん進入速度も上がるし旋回速度も上がっていくのだ。そしてタイヤだけでもグリップレベルは5%向上しているというから、245/40-18の大径サイズとなったタイヤのメリットも活かしているわけだ。
一方、現行型のSTI Sportにはコンベンショナルなダンパーが装備されているため、どうしてもスポーツに振ると硬めの脚となっている。が、新型WRX S4のZFダンパーであれば、ドライブモードに連動して乗り心地を優先する減衰にもなるので、キャクター変化の幅が広がっているわけだ。このあたりは公道を試乗したときに詳細に見ていきたい。
またAWDのトルク配分は、基本が45:55という前後配分で、スポーツモード+であれば車両のヨーモーメントも踏まえたトルク配分にしているという。通常は締結トルクを下げて乗りやすさをだしつつ、DCCDのように締結トルクを変化させているため、ノーズが旋回モードになれば直結に近いような締結トルクでコーナリングするという説明だった。そのためスノーのような低ミューでも曲がりやすくしているというので、試乗できればお伝えしたい。
そしてもうひとつの特筆はCVTだ。「スバルパフォーマンストランスミッション」と言うそうだが、DCTのように走ることができ、なおかつ実際はステップしていないので、ロスが存在していないという加速を味わう。ほんの僅かだがレッドゾーン付近ではCVTのラバーバンドフィールを感じる部分もあるが、それ以外の回転域ではまったくCVTだとは気づかないほどの出来栄えだった。スバルではCVTの逆襲と言っているようだ。
このハイパフォーマンスWRX S4 STI Sport R EXはBMWのMスポーツやメルセデスのAMGライン、アウディのSラインといったモデルをイメージすれば伝わり易いだろうが、量販モデルとなるとなかなかライバルは存在しない。さらに従来であればマニュアルミッションを搭載するSTIバージョンも登場してくるわけで、どこまでパフォーマンスが上がっているのか興味深い。ここまで完成度が高い量販モデルであるなら、STIモデルはスペックCといった競技を視野にしたモデルでもいいのかもしれないと感じるほどハイレベルなセダンだった。
一方で、この新型WRX S4は「コンベンショナルなダイナミック性能の集大成」という表現ができると思う。クルマを操ることが大好きな人に響くモデルであることは間違いない。しかし、最新のメルセデス・ベンツCクラスのリヤ操舵やEV化を積極的に使うアウトランダーPHEVのS-AWCなど、新しい走り方も少しずつ出てきている。クルマのダイナミック性能は未来永劫変わらないものなのか、あるいは、こうした変化をSUBARUはどう捉えてラインオフしてくるのか楽しみでもある。<レポート:高橋アキラ/Akira Takahashi>