これまでWRX STIはレースやラリーのベースであると同時に、国産車有数のマニア向け高性能車であり続け、カルトカー、つまりマニアにとっては崇拝すべき存在だが一般のドライバーは近づき難い手強すぎる存在だった。またSTIモデルのベースとなるWRXはパワーとシャシーのバランスは悪くなかったものの存在感が薄く、3代目モデルではWRXの名称がはずされ、S-GTという新名称が与えられ、さらに埋没した存在となっていた。
だが、こうしたイメージは日本限定で、海外では「WRX」は独立した4ドア・スポーツカーとして確立された存在であり、今回のモデルチェンジでは単にデザインやスペックの更新だけではなく、日本におけるWRXのポジショニング、ブランド付けをの再構築を行なうという意味も大きい。
結果的には新世代プラットフォームを使用し、従来のインプレッサの名前を引き摺ったWRXより1クラス引き上げ、グローバルで共通のポジショニングとしている。そして先行して発売されたスポーツワゴンのレヴォーグと、スポーツセダンの新型WRX S4は、いわばワンセットで日本にける新たなミドルクラスのスポーツカテゴリーを作り上げようという狙いである。
だから、新型WRX S4は、従来型のWRX/S-GTよりは1クラス上の性能と上質感が与えられ、WRX STIはこの新生WRXをベースにしたスーパースポーツセダンという位置付けになる。
ニューWRX S4は、2014年6月に登場したスポーツワゴンのレヴォーグとプラットフォーム、デザインテイスト、パワートレーンなどは共通であるものの、スバルの走りの象徴ともいえる存在だけに、動力性能だけではなく、操縦性、コントロール性など、走る性能全般が世界でもトップレベルであることが求められた。
それも電子制御シャシーの採用といったハイテク指向ではなく、クルマとしての基本要素を大幅にレベルアップさせることで、素の状態で走りのレベルを高めるという開発の理念が採り入れられたのだ。
開発コンセプトは、ハイパワーとコントロール性の両立とされているが、言い換えれば優れた動力性能と、運転のしやすさ、ドライバビリティの良さを兼ね備え、スポーツセダンとしてのドライビングプレジャーを完成させるということである。
しかし新型WRX S4のステアリングを握って見ると、走りの評価より先にセダンとしてのパッケージングの良さにまず気付かされる。フロント、リヤシートの居住性、スペース感、ドライバーの斜め前方の視界の良さといった機能が優れていることが実感できる。
逆に言えば、よりスポーツカー的な要素を追求すれば、フロントシートはより低く、リヤ席のルーフ高さやスペースをもっと絞り込むといった手法もありえるが、WRX S4はそうではなく普通のセダンとしての機能、使い勝手もカテゴリーでトップレベルであることが求められ、それこそがWRX S4の価値だという。もちろんこういう要求は日本より海外がより強いという。
インテリアの質感は、かつてのWRXは高い評価を受けることがなかったが、今回のWRX S4は1クラスアップした上に、インテリアの装備、質感を重視したデザインとなり、見栄え、触感など総合的に大幅なレベルアップを果たしている。
試乗車はまだナンバー登録されていない量産試作車で、プロトタイプとされているが、仕上がり具合はほぼ量産車と変わりないレベルであった。WRX S4のアクセルを踏み込むと、300psのエンジンがもたらすパワー感は圧倒的であり、日本車でこうしたパワー感が得られるライバルは皆無である。グローバルで見ればアウディ S3が最も近い存在といえる。しかし、低回転域から強力なトルクを発生するWRX S4は日常での運転ではドライバーはかなりの自制心が求められる気がする。
スポーツ・リニアトロニックと名付けられたCVTは、詳細を知らない人が運転すればCVTとは感じないだろう。それくらいCVTらしさがなく、ダイレクト感のある変速フィーリングでネガティブな要素はほとんどない。マニュアル・モードやS#モードの場合はシフトダウン操作に合わせ自動ブリッピングも行なわれ、痛快だ。
少し気になるのは市街地の日常的なドライビングで、アクセルを戻した後、すぐに軽く踏む込むようなシーンで一瞬のラグが感じられたことだ。これはどうやら軽負荷時ターボのラグとCVTのトルクコンバーターの滑り域が重なった瞬間の加速のためらい現象のようだ。
WRX S4は、常用域での室内の静かさ、スポーツ・サスペンションにもかかわらず、路面からの入力も角が取れているので快適性という点でもクラスのレベルを超えている。現在は世界中の各クラスのクルマが静粛性のレベルを大きく向上させているが、WRX S4は開発時からそうした要素を盛り込み、100km/h巡航といったシーンでもノイズは少なく、こうした点は長時間のドライブでの疲労の低減に大きな効果を発揮するはずだ。
WRX S4の走りで、一番印象的なのはボディのしっかり感、塊感で、ステアリング操作との気持ち良い一体感だろう。クルマとの一体感とは、ステアリングの応答性の良さ、素直な効き具合により、意のままに走る感覚であり、ドライバーはまさにクルマを思い通りに操っている気持ちになる。この運転感覚は、日本車離れしたレベルにあると実感した。
ステアリングの操舵フィーリングも、シャシーの取り付け剛性が高められた結果、より滑らかになり、電動パワーステアリングとは思えないほどだ。また、コーナリングでのリヤタイヤのグリップ感も抜群で、4WDがもたらす安定性とリヤタイヤの高いグリップの相乗効果でさまざまな路面での安心感もずば抜けている。また、ブレーキ・トルクベクタリングも装備されているのでコーナリングを自在に走ることができる。しかしリヤのグリップの高さにより、初級ドライバーはアンダーステアと感じるかもしれないが、これはあくまでも並外れた安定感によるものだ。スバルの実験結果では、ステアリング応答性や安定性ではポルシェ911カレラSと同等レベルを実現しているという。、
ビルシュタインダンパー付きの「S」と標準ダンパーの違いも明らかだ。倒立式のダンパーはよりフロントの操舵感が優れており、路面からの微小な凹凸での減衰が優れているので、乗り味はより高級感が感じられる。
ブレーキは強力な動力性能に対し、ペダルの剛性感が高く、踏み応えもしっかりしているが、制動感がやや薄く感じられた。常用域では特に問題はないが、スポーツドライビングの場合には、制動感が薄いのでよりブレーキを踏み込がちになり、結果的にフェードを早めている気がする。この点がWRX S4で一番気になったところだ。
次にWRX STIのステアリングを握った。よりクイックなステアリングレシオで、操舵力もWRX S4より重めで、ダイレクト感が強い。WRX STIの18インチタイヤは専用設定品で、高剛性、ハイグリップのタイヤでいかにもWRX STIらしい感じがする。
操舵フィーリングは、従来型がいかにもボディ補強を重ねて実現した感覚だったのに対し、新型はより土台がしっかりし、クルマ全体のバランスが良くなっている感じだ。また、意外だったのがエンジンフィーリングで、EJ20型はエンジンユニットから出力まで従来型と変更はないが、吹け上がりのフィーリングはよりシャープで滑らかになっており、メカノイズが多いがさついたフィーリングではなく、上質で気持ちよく回るようになっているのが印象的だった。担当エンジニアによればエンジン制御を綿密に見直した結果だという。
WRX S4とWRX STIはカタログ上は8psというわずかな差でしかないが、実際のエンジンのパワー感はWRX STIの方が強烈であることは言うまでもない。過給圧はいずれのエンジンもピークで150kpa、安定で125kpaというハイブースとだが、レスポンス、パワー感はやはりEJ20型が上だ。
ベースモデルのKYB製倒立式のWRX STIと、WRX STI TypeSの比較では、圧倒的にビルシュタインダンパー付きのTypeSの質感が高かった。ハイグリップタイプでケース剛性の高いタイヤになればなるほど高剛性の倒立式で、減衰力発生レスポンスの優れたビルシュタインダンパーの優れた特性が優位といわざるを得ない。
ブレンボ・ブレーキは、さすがに大容量で、剛性感も制動感も優れているが踏力は「やや強」が要求される。もちろんこれはクルマの性格からいって整合性がある。
ステアリングホイールのグリップ感、シートのホールド性もスーパースポーツモデルにふさわしく申し分なし。ただ、6速MTの操作感はしっかりとはしているものの、今となってはやはり重めでクラシックな感じがする。
もうひとつ、WRX S4も、WRX STIもスポーツ性能の高い高出力エンジンにもかかわらずエンジンサウンドを聞かせ、気持ちを高揚させてくれる要素が薄く、この点は物足りなさを感じた。