【スーパーGT2025】第8戦最終戦もてぎ EJ20ラストレースで有終の美「みんなごめん、勝てなかった」SUBARU BRZ GT300 インサイドレポート

SUPER GT 第8戦「MOTEGI GT 300km Race Ground Final」が11月1日(土)、2日(日)に栃木県茂木町のモビリティリゾートもてぎで開催された。

プロローグ

SUBARU BRZ GT300は、今季新型車両となり2021年以来のシリーズチャンピオンを目指して挑戦してきた。だが、度重なるアクシデント、トラブルで第7戦のオートポリスが終了した時点でチャンピオンの可能性を失っていた。

そして迎えた最終戦の第8戦もてぎ300kmレース。ドライバーやチームのモチベーションはどこにあるのだろう。

金曜日、いつもどおりにパドックに到着したチームはいつもの手順でピットの設営を行ない、マシンの整備をしている。精緻なアライメントを取り、勝つためのアイディアをレース毎に投入する。プロモーターであるGTAからは参加条件としてBoP(Balance of Performance)が指示され、チームはその性能調整の中で、ベストな状態を作り出す。

最終戦の参加条件は、全車に対してサクセスウエイトを0kgにする指示。いわば開幕戦と同じ条件になる。BRZ GT300は1200kgが車両重量で、そこにBoPのウエイトとサクセスウエイトが搭載され、シーズンを戦ってきた。各車そのサクセスウエイトがなくなり、BRZ GT300は最大44kgを搭載していたサクセスウエイトがなくなった。またBoPのウエイトも開幕戦のみ70kgだったが、第2戦以降60kgに変更されているため、最終戦は今季最軽量な状態での参戦となったわけだ。

勝つために、チームもサプライヤーも協力は惜しまない。今季は鈴鹿での2位表彰台が1回あるだけで、優勝はしていない。一度も優勝できていないことはドライバー山内英輝、井口卓人にとっての強いモチベーションだったに違いない。もちろん、チームスタッフも「勝ちたい」と思う気持ちは同じだ。

「ゴー・ストップなコース」と言われるもてぎではブレーキの負担が大きい。今回ブレーキパッドのPFCからは新しい摩材を使ったパッドが提供されている。熱に強いタイプのようで、見た目も分厚く、レース用だとしても厚みのあるタイプだ。そうしたチーム、関係者の「勝ち」にこだわる姿勢は最終戦でも変わることなく続けられている。

そして前戦オートポリスのときに名機「EJ20型」エンジンが今季で引退することが発表されていた。つまり、このもてぎが引退レースでもある。数々のレースで名場面を作り感動を生み出してきたEJ20型のラストランというわけだ。

これはファンにとって、そしてWRC時代にエンジンエンジニアとしてラリーに参戦していた小澤正弘総監督にとっても思い出に残るエンジンであり、我が子のように育ててきたエンジンだからこそ、優勝して終わりたいという気持ちはあったに違いない。

公式練習

土曜日。朝の公式練習では前日の雨が残り、路面はウエット。いつものように山内英輝が準備をするが、タイヤはウエットタイヤ。コースインして1周で戻ってきた山内はスリックで問題ないことを伝え、セットアップが始まった。

山内はマシンバランスが良いことを伝える。タイヤの選択も今回は迷いがない。もてぎではエントラント協会による公式テストが第6戦後に行なわれており、直近のもてぎの状況を把握できていたため、データは揃っていた。問題があるとすれば、テストの時は夏の気温で、今回は秋の気温。路面温度の違いがあり、マッチするかどうかだ。

しかし、山内は7ラップした時点で全体トップとなる1分46秒404をマーク。周囲より1秒速いタイムを計測している。そして井口にもマシンバランスのチェックをさせると、ユーズドタイヤでありながら1分47秒213で、このタイムは全体2位。山内に次ぐもので、つまりBRZ GT300は完璧に仕上がっていることが伺えたのだ。

ただ、井口は計測後すぐにピットに戻っている。コーナー立ち上がりでストールし、もし後続マシンが接近していたら接触する可能性があると伝えている。ピットに戻りデータを確認したところスロットルセンサーが疑わしく、部品交換を行なっていた。

また、エンジンからノイズが出ていることも指摘していたが、これはミッションのギアからのスラスト音で、新品ギアのアタリが不足しているためと思われ、予選後にギヤの組み直しを行なっている。

小澤監督は「こうしたトラブルが予選や決勝で出なくて良かった」という。2021シーズンにチャンピオンを取った時もトラブルがなかったわけではない。出ていたトラブルはテストや公式練習に限られており、予選、決勝ではノートラブルだったという運も味方していたのだ。今回の問題もそうした意味では練習中に発症したことは幸運と言えたかもしれない。

Qualyfing

午後のQ1予選。ドライバーは井口卓人だ。気温21度、路温28度。A組、B組に分かれ上位9台がQ2に進出できる。BRZ GT300はA組で走行。井口は十分なウォームアップを行ない、4周目にアタック。1分46秒130で公式練習の山内のタイムを上回った。

さらに井口はアタックを続け、セクター1と4で全体ベストをマークしタイムを削る。1分46秒048は破られることなくトップ通過をした。後にB組も走行したが井口のタイムは全体トップのままであり、Q1は1位だった。

Q2では山内がポールポジションを目指す。山内はポールポジション獲得回数が1位であり、第5戦鈴鹿のポールで15回目を獲得。16回目へ更新できるかという思いと、EJ20型ラストレースをポールポジションからスタートしたい気持ちが入り混じり、コクピットに収まった。

コースインをしてウォームアップを行ない、4周目にアタックを開始。すると1分45秒192という驚きのタイムをマーク。路面が良くなっているとはいえ、井口のタイムを1秒近く上回り、2位に1.07秒の差をつける圧倒的な速さでポールを獲得したのだ。

ポールポジション会見では「EJはやっぱり『いーじぇ〜』です」とジョークも飛び出すほど山内は上機嫌だった。

決勝

午後1時ちょうどにパレードラップ、フォーメーションラップとつづき、午後1時08分、GT300の300kmレース(63周)がスタートした。

ドライバーは井口だ。BRZ GT300はポールから逃げ、ピットでの給油時間の長さをカバーするだけのリードを作るのが井口の仕事だ。

1周目、トップで戻る井口は2位に0.987もの差をつけて逃げている。2周目、1.866秒。3周目、4周目とギャップは広がり、12周目は9.939秒ものリードを築くことができた。井口は1分48秒後半で走行し、後続は50秒台前半のペース。BRZ GT300は絶好調だ。いやEJ20型ターボは絶好調なのだ。

ドライバー交代が許されるミニマム周回は17周だが、BRZ GT300は25周付近を目指す。山内の周回数が増えれば増えるほどタイヤ摩耗のリスクは高くなる。だから予選で使ったタイヤではあるが、井口のペースが落ちない限り、井口でレースを作りたいというチームの想いがある。

予定どおり井口は27周でピットに入った。タイヤ4本交換と給油のフルサービスを行ない、山内はピットアウト。コース上では実質3位でコースに戻る。トップは#5 MC86 マッハ号でGT300クラスでは一番最初にピットインをし、ヨコハマタイヤは無交換で走っている。ギャップは約10秒。タイヤの交換と給油時間の差と見ていい。

山内はその10秒を背負いながら追い詰めていく。山内はまず、2位を走る#52 Green Brave GR Supraの吉田 広樹と激しく争う。ブリヂストンを履く#52 Green Brave GR Supraはフロントタイヤ2本の交換でピットアウトしている。その#52 Green Brave GR Supraを5周目に仕留め2位にあがった。

すると3.656秒差でトップがいた。山内の視界にトップ#5 MC86 マッハ号のテールが見える。多くのファンが「山内劇場」に期待が膨らんだ瞬間だ。34周目3.223秒。確実に追い詰めている。

が、しかし35周目にガクンと山内のラップタイムが落ちた。視界に捉えていた#5 MC86 マッハ号が小さくなっていく。「タイヤが厳しい、エンジンの音もおかしい、どうする?」「パワーを絞って」の無線。

ギャップは4.477秒、5.374秒、6.199秒と#5 MC86 マッハ号が小さくなる。気づけばトップを追うどころでなく、一度抜いた#52が背後に迫っている。一時4秒以上のギャップを作ったので、気にする必要はなかったのが、48周目には0.627秒差に詰め寄られていた。粘る山内、仕掛ける#52 Green Brave GR Supra吉田。攻防はつづく。

さらに4位のポジションに#666のseven × seven PORSCHE 911 GT3R ハリー・キングが近づいてくる。その直後に#56 リアライズ日産メカニックチャレンジ GT-R ジョアオ・パオロ・デ・オリベイラも接近する。勝負強い2台が絡んでくる。これを#52 Green Brave GR Supraがブロックを続ける。

#52 Green Brave GR Supraは後続をブロックするライン取りをしているため、山内とのギャップは広がる。「#52がんばれ、抜かれるな」多くのファンが#52 Green Brave GR Supraを応援する。それは明らかに#666 seven × seven PORSCHE 911 GT3Rと#56 リアライズ日産メカニックチャレンジ GT-Rはラップタイプが速いのが分かるからだ。#52 Green Brave GR Supraが抜かれれば、山内も抜かれてしまうだろうと幻影があったのだ。

しかし、あと5周というところで#52 Green Brave GR Supraを#666 seven × seven PORSCHE 911 GT3Rと#56 リアライズ日産メカニックチャレンジ GT-Rが抜き、山内に迫ってくる。山内は必死に駆け抜け、2位を死守。

ファイナルラップ。

テールツーノーズとなった#666 seven × seven PORSCHE 911 GT3Rをすべてのコーナーで抑え込む山内。バックストレートがやばい。ポルシェは速い。モニターに釘付けされた心臓はバクバク言っている。90度コーナーを山内が抑えた!そして最終コーナーの立ち上がり、山内が前だ!前だ!

山内は2位でフィニッシュできた。EJ20型の引退レースに花を添えることができた。みんなが「よくやった!」と喜び合う。

しかし無線から流れてくる山内は泣き崩れ、「みんなごめん、勝てなかった」と嗚咽している。

2026年シーズンはニューエンジンが搭載される。戦闘力を高めたニューBRZ GT300はどんなレースを魅せてくれるのか今から楽しみである。

SUBARU BRZ GT300 シリーズランキングはチーム順位9位、ドライバーランキング9位。

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