【スーパーGT2025】第7戦オートポリス 深夜に及んだエンジン載せ換え作業も悔しい結果に SUBARU BRZ GT300 インサイドレポート

10月18日(土)〜19日(日)、スーパーGT第7戦オートポリス3時間レースが開催された。

スーパーGTの2025年シーズンも大詰め。SUBARU BRZ GT300は残り2戦の成績次第では、チャンピオンの可能性がわずかに残っている状況で、第7戦の開催地である大分県日田市のオートポリスに乗り込んだ。

金曜日は気温30度を超える夏日で、秋の気配を感じにくいオートポリスでBRZ GT300の準備は進められていた。今季のレースはトラブル、アクシデントが多く、思うように成績が出せていない。その一方でセットアップにおいては、これまでとは違ったアプローチでセットアップできる方法も見つけることができている。

またタイヤを供給するダンロップからも、来シーズンを見据えたロングライフなタイヤのテスト供給も始まり、実践での効果も確認されている。具体的には第5戦の鈴鹿で、セクター1の路面舗装が変わり、タイヤやマシンへの影響が大きく変化してしまうコンディションになっていた。それをセットアップの変更で対応できるブレークスルーをして、予選でポールポジション、決勝2位という結果に繋げている。

そして第6戦のSUGOでは、ダンロップの新コンセプトタイヤを装着し、山内英輝がピットスタートからトップに浮上にする快走を見せていた。レースは赤旗中断からのリスタート時に、冷えたマシンに大トルクがかかることでホイールハブが緩むアクシデントが起こり、結果には繋がらなかった。しかしニュータイヤへの希望は大きく膨らんだレースだった。

そして第7戦のオートポリスに臨むわけだが、チームはSUGO大会のあとエントラント協会主催のGT300専用テストをモビリティリゾートもてぎで行なっており、BRZ GT300も参加しテストを行なっている。

そこでのテストはニュータイヤのデータ取りと従来のタイヤとの比較テストを中心に試走した。結果として、路面状況や路温などにより、向き不向きがあることがわかり、オートポリスへの持ち込みは、その両方とする判断になった。その理由としてオートポリスの路面は攻撃性が高いわりにグリップ力は低いという厄介な路面で、どちらのタイヤがマッチするのかは判断が難しく、土曜日の朝に行なわれる公式練習でタイヤ選択をするという手順になったのだ。

まだ狙えるシリーズチャンピオン

SUBARU BRZ GT300のチーム順位は9位、ドライバーポイントは10位で、トップとは25点差。優勝ポイント25点を獲得できれば、最終戦の成績次第では大逆転チャンピオンの可能性がある。そのため、このオートポリスでは「優勝」を狙う意気込みで参戦している。

それともうひとつ、長きにわたりSUBARUのモータースポーツを支えてきた名機「EJ20型ターボ」エンジンが、今季限りで引退となることをSTIが発表していた。そのため、EJ20の花道を飾るためにも優勝が欲しいレースだった。エンジンエンジニアだった小澤正弘総監督は「WRCの時代からEJ20を見てきて、数々の優勝を経験させてもらえたエンジンで、引退は寂しい限りですが、スーパーGTの来季はニューエンジンを投入します。いま、鋭意開発しておりますので、もう少しお待ちいただければと思います」とコメントしている。

さて、土曜日の公式練習は気温27度、路面温度30度のコンディションで始まった。タイヤの選択以外にマシンのバランスチェックをいつも通りの手順で山内英輝が進めていく。序盤からタイムは上々で、3番手付近のタイムを計測できており、タイヤはどちらのタイプでも似たようなタイムを計測している。

選択したタイヤに対してサスペンションセッティングを変更し計測、という動きを繰り返しながらセットアップが進んでいく。GT500との混走で行なう公式練習のあと、FCY訓練があり、GT300専有走行をし、そしてサーキットサファリの時間を使って、セットアップの最終段階まで順調に煮詰めることができた様子だった。

トラブルは公式予選で起きた

午後2時45分、公式予選が始まる。BRZ GT300はA組で井口卓人がアタックを担当。天候は、ぽつりぽつりと雨が降りはじめた。ドライ路面のうちにアタックを終わらせておきたい。それでも井口は丁寧にタイヤのウォームアップを行ない、4ラップ目に1分44秒514で2位のタイムを計測した。さらにタイムアップを狙い5周目に入ると井口の無線で「エンジンからすごい異音が出ている」と発せられた直後「エンジンが壊れた」と絶叫が飛び込んだ。

BRZ GT300はジェットコースターストレートの後、60R、90Rと続く13コーナーから14コーナーにかけてオイルを撒きながら、また炎を見せながらコース脇に向けて走るBRZ GT300の姿が映し出された。幸い井口の身体には影響なく、無事にマシンから脱出できており元気な姿はあった。

BRZ GT300がピットに戻されるとメカニックがトラブルの確認をしていく。「エンジン内部の部品破損でした」と小澤総監督は肩を落とす。

そこからエンジン載せ替え作業が始まった。溢れたオイルに火が着いたこともあり、消火剤もエンジンルーム内にまかれている。ハーネスが溶けていないか?センサー系に問題はないか?などエンジン本体以外の修復も必要となり、メカニックたちは懸命の作業を行なっていく。スペアエンジンに載せ替えが終了したのは深夜2時すぎ。無事にエンジンはかかり、決勝レースには間に合った。

ドライバーの井口、山内の二人のSNSでは参戦しているすべての人に向けて、微妙な天気の中でのアクシデントで、予選を中断させてしまったことを詫びるメッセージが発信され、チームスタッフ以外へも思いやる姿勢は見事だ。

深夜作業の末、載せ換えたエンジンで迎えた決勝

日曜日、午前11時40分ウォームアップ走行が始まる。BRZ GT300は果たしてちゃんと走れるのか? 井口がコクピットに収まりピットを出ていく。タイムは予選のときより5秒ほど遅いが、ユーズドタイヤであったり、燃料を搭載していたりで、タイムでは判断できない。井口は「リヤがナーバスでアンダーステアが強い」とセットアップに関するコメントをしている。つまり、BRZ GT300は全く問題なく走行できレースができる状態であることが見えてくる。

午後1時10分、パレードラップからのフォーメーションラップを行ない、3時間のレースが始まった。気温26度、路面温度30度。曇り空ではあるが、雨雲は見えない。レースは給油を伴う2回のピットインが義務付けられている。BRZ GT300は井口でスタートし、山内がダブルスティントを走る。井口の走行時間次第で再度、井口が乗りチェッカーを受けるという戦略で進行した。

BRZ GT300のスタートポジションは17位からとなった。Q1でエンジンブローした時点では赤旗は出ておらず、予選時間は終了していたため、井口のタイムはそのままA組2位で記録されている。ただしQ2予選は出走できていないため、Q2最後尾の順位となった。また1台が決勝に出走しないこともあり、17位という順位になった。

井口は中段グループの団子状態の中で目の前の#18 UPGARAGE AMG GT3と0.2秒の超至近距離でレースを展開した。しばらくそうした団子状態が続いたが、#18 UPGARAGE AMG GT3が、#45 PONOS FERRARI 296を抜き、15周目に井口も#45 PONOS FERRARI 296を抜いて15位に浮上する。また早めのピットインを選択するチームも出始め、井口は20周目に12位となり、山内と交代する30周目の時点では9位まで順位を上げていた。

この調子で行けばポイントは獲得でき、ダブルスティントで走る山内にも期待ができるという皮算用が働いた。ピットアウトをした山内は総合で21位になるが、ピットイン未消化もあり順位は流動的だ。たが、トップとは19.932秒差あるので、ハイペースの追い上げは必要だった。

徐々に追い上げを見せるが……

山内はいつもの超攻撃な撃墜劇とはいかないものの、少しずつライバルに追いつき、抜く走りをしている。またピットインするチームもあり、順位は上がる。いつのレースでも強力なライバルになる#52 Green Brave GR Supra GTも抜くことができ、調子はいいようだ。さらに#31 apr LC500h GTを抜き、#777 D’station Vantage GT3に迫る。

48周目その#777 D’station Vantage GT3が最終コーナーでインカットすると、コース上に多くの砂利がばら撒かれた。山内はその砂利に乗って滑り、コースオフしてしまう。ランオフエリアが芝生だったためバウンドしながらもすぐにコースに戻ることができたのだが、ラジエターに草や砂利が詰まり水温が上がってしまう症状が出た。

そのためターボのアンチラグを弱め、エンジン負荷を小さくして走行せざるをえなくなってしまう。さらに無線で「左フロントのアシがおかしい。やたらハンドルが右に取られる」と。澤田チーム監督はルーティンのピットのタイミングなので、そのままピットインをし、ラジエターを塞いでいた草を除去、足回りのチェックをメカニックに指示した。

予定どおり山内はピットに入り、給油を受けてピットアウト。すると56周目「速度を上げられない」と山内から無線が入る。澤田チーム監督はすぐにピットに戻る指示を出した。

足回りをチェックすると、キャスターブロックを止めるナットが緩んでいることがわかった。コースアウトしたときの衝撃が影響したのかもしれない。メカニックがナットを締め直し再びピットアウトするが、すでに13ラップ遅れという順位になっていた。

モチベーションをどこに持てばいいのか。山内の落ち込みは手に取るように伝わるものの、ラップタイムはトップ争いをしている#7 CARGUY FERRARI 296 GT3と#0 VENTENY Lamborghini GT3の2台と同タイムだ。全車両の中で1分48秒台の周回をしているのはBRZ GT300と3台だけなのだ。

だから、周回遅れでありながら山内はライバルを抜き去り、83周でチェッカーを受けるが、この時点で12ラップ遅れだったのだ。ちなみにトップは95ラップだった。

こうしてBRZ GT300ノーポイントでレースを終え、チャンピオンの可能性はなくなってしまったが、最終戦ではEJ20型の花道を飾る活躍を見せてくれるに違いない。

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