【スーパーGT2025】第4戦富士 初のスプリントレース 悔しいSUBARU BRZ GT300

2025年シーズンのスーパーGTも折り返しとなる第4戦は、新しい試みとしてスプリント形式のフォーマットが採用された。8月2日(土)、3日(日)静岡県小山町の富士スピードウェイで真夏の炎天下の中、5万2300人のファンを集めて行なわれた。

フォーマットはレース1とレース2を開催し、土曜日のレース1はGT500とGT300の混走レースで35周のスプリント。言い換えれば通常のGTレースの最初のスティントと同じイメージだ。タイヤも予選で使用したタイヤで決勝レースも走るため、通常よりは距離の負担が大きくなり、タイヤマネージメントはいつも以上に必要になる。

日曜日のレース2はクラス別レースで、GT300とGT500のそれぞれを50分間のレースとして行なう。したがって、日曜日は決勝レースが2レースあり、土曜日のレース1も含めると3レース見ることができる。もちろん、スプリントレースのフォーマットのため、ドライバー交代、給油、タイヤ交換などの作業は行なわず、スタートしたら、チェッカーまでピットインはなく、最初にチェッカーを受けたマシンが優勝という、わかりやすいレースだ。

さてSUBARU BRZ GT300は、前戦のマレーシアからBRZ GT300が日本に戻ってきたのは、直前だった。1週間前の金曜日に厚木にあるR&D SPORTに到着した。マレーシアのレースではマシン前部、後部とも破損するダメージがあり、その修復作業もやらなければならなかった。

宍戸チーフメカニックは「戻ってきたら治ってて欲しかった」と自虐的冗談を言うほど、修復するのにタイムリミットがある厳しい修復作業となった。もちろん、エンジンも、ミッションも降ろし、マシン整備を行なう通常のルーティンの中での修復作業であり、細部点検も行なってから車載していく。

そして制御系の見直しも同時に行なう必要もあり、マシン1台を作るイメージだ。それをこの短期間で仕上げなければならない状況だった。

しかしながら、無事に間に合わせることはでき、土曜日の公式練習には綺麗になったBRZ GT300がピットに配車されていた。

そしてダンロップタイヤからは、新たなコンセプトのタイヤが投入されている。再生ブラックカーボンで製造されたレースタイヤだ。スーパーGTではレースでも環境への配慮を推進し、タイヤメーカーにもサスティナブルなサーキュラーエコノミー(環境循環型ビジネス)を求め、さまざまな挑戦は行なわれている。

【ダンロップ】「タイヤをもう一度タイヤにする」資源循環型カーボンブラックをSUPER GT第4戦から投入

わかりやすいところではGT500はすでにガソリンは使用せず、100%CN燃料で2023年から走っている。GT300も50%がCN燃料であり、そうした取り組みの中で、再生ブラックカーボンを採用したレースタイヤを投入してきているのだ。

小澤正弘総監督によれば「素材の由来の違いなので、性能にどれほど影響するのか、そこはダンロップさんの技術でクリアしていると思います」と話し、特に課題にはならないものだった。実際、このスプリントレースではレース1、レース2ともに、ダンロップの同じコンセプトのタイヤを装着した#777 D‘stationのアストンマーティンが優勝している。

ドライバー選択はジャンケンで

レース1の山内英輝。予選までは好調に見えたが・・・

土曜日のスケジュールは朝8時から公式練習が30分間行なわれる。90分以上あるいつもより、かなり短い時間でセットアップを決めなければならない。

レース1に出場するドライバーをどちらで戦うかを小澤正弘総監督に聞けば、ドライバーと相談し、二人に任せることにしたという。その井口卓人、山内英輝のふたりは、ジャンケンで決めたと笑う。山内は早く終わらせたいというだけで、どっちのスプリントでもやることは同じだからと笑う。

そしてジャンケンに勝った山内は土曜日のレース1を選択した。しかし、本音を聞けば「レースは2レースあるけど、持ち込みタイヤセット数はいつもと同じ5セットなので、2タイプのタイヤを2レースとも同じタイヤ運用はできない計算になります。そのため、僕が2タイプの違いを見極め、どういったタイヤ運用がいいのか、判断基準をつくることと、実際のレースで使ってみて、その選択したタイヤが正しいのかがわかると思います。そうすれば、日曜日のレースが有利になるかな、という思いで土曜日のレース1を選択しました」と話す。

山内は笑いながら「大人になったでしょ」とにこやかに話す。たしかに、これまでであればマシンを完璧に仕上げることに集中し、それが結果につながるというスタイルとは視点が変わったことを感じさせる発言でもあった。

公式練習が始まると、一方の井口は手持ちぶさただ。山内がBRZ GT300のセットアップをし、そのマシンで、予選を走り、そして午後には決勝に出る。その間、井口はその流れを眺めているだけだ。

「なんか、ずっとソワソワしてました。プレッシャーも感じるし、いつもとは違う緊張感があって、それがずっと続いて、頭痛すら感じるほどソワソワしてました」と井口も笑いながら話す。しかし、その緊張感は本心であり、スプリントだから感じた緊張感だと言っている。

いつもと違う緊張感があると話す井口卓人

レース1 粘るも順位下降、8位でチェッカー

さて、土曜日の公式練習では、走り始めからBRZ GT300のバランスはよく、問題はないと無線で伝えてくる。ただ、攻めていけばリヤがリフトする感覚やボトムスピード時にアンダーステアになる、エンジンが少し重く感じる、あるいは車内が異様に暑いなど修正点はポツポツと出ていた。

そうした要求に対し、チームはダンパーやスプリング、スタビライザーなどの調整で対応し、時にはリヤウイングやカナードでの空力によるグリップ力などもトライしつつマシンのセットアップを煮詰めていった。

予選は逆にいつもより長く20分ある。山内は最初の10分はピットで待機し、残り10分間で3ラップのウォームアップを行ない、そののちフルアタックをする。出したタイムは1分37秒314で2番手のタイムだった。

決勝に向けてはシャシー周りの微調整で対応し、準備は整っていった。タイヤ選択の難しさもそれほどハードルは高くなく、選択に迷いはない様子だ。

戦況を見つめつつ、課題解決を常に考えている小澤正弘総監督

午後3時23分フロントローからスタートした山内は、10ラップ目まで2位のポジションをキープした。

しかし、#777 D’stationアストンマーティン・ヴァンテージGT3、#6 UNI-ROBO BLUEGRASSフェラーリ296GT3や#4 グッドスマイル初音ミク メルセデスAMG GT3、そして#65のLEON PYRAMID メルセデスAMG GT3も接近し、徐々に順位を落としていく。ダンロップコーナーでは、コーナーの立ち上がりで先行車から引き離され、最終コーナーまでに追いつき、ストレートで離され、1コーナー、Aコーナー、100Rで追いつき、という展開。だが、それも次第に追いつけなくなり、順位は下がっていく。

じつは、今回のBoP(性能調整)では第2戦の富士大会と比較し、ターボの過給圧が落とされているのだ。加速時に重要な6000rpm付近から上の回転域で0.7%過給圧が下がっていた。当然、加速の鈍さにつながるわけだが、それをブレーキングやコーナリングでカバーする方向でセットアップしていた。

レース1ではGT3勢の追い上げに堪えきれず、このあとズルズルと後退してしまう

結局8位でチェッカーを受けたのだが、山内のこうした順位の下がり方は見たことがない。BRZ GT300に何らかの問題があるのではないか?とピットにもどった山内に小澤総監督をはじめ、スタッフが耳を傾ける。憤怒の形相とは言わないが、表情がこわばった山内の頭からは、明らかに怒りの湯気が立ち上っている。必死に何かを説明している。身振り手振りを交え強い言葉も交えながら、伝えていく。

レース2はトラブルによりリタイヤ

落ち着きを取り戻した頃を見計らい山内に「解決は難しそうだね?」と問いかけると「何が違うんでしょうね?」と苦笑した。「あまりにも遅かった。1気筒ないんじゃないか?って思ったし、ブレーキも効かないし、どうするんだろうって」と柔和な表情で話をしてくれた。

その話を横で聞いていた井口も「レースを見てて、これはやばいって思って、今の話を聞いたら不安になっていく一方です」と井口も穏やかな表情だが明らかに動揺していた。

迎えた翌日のレース2。前日とおなじタイムテーブルでレース2は進行していく。8時から始まる公式練習で井口は、前日に山内が使っていたタイヤを使いマシンの確認走行をする。もちろん30ラップ程度走行しているタイヤなので、タイムは出ない。全体15、16番手のポジションだ。

マシンにいろいろな症状がある様子で、ABSブレーキの介入タイミングとグリップ感の違和感や、タイヤの接地感の薄さなども気になっている様子だ。それらの症状にあわせ、さまざまな調整を行ない予選を迎えた。

井口も山内と同様に最初の10分はピットボックスで待機し、路面が徐々に出来上がりラバーグリップが向上したであろうラスト10分でアタックを行なった。タイムは山内のタイムと近く1分37秒413で0.099秒差の僅差だった。しかし、ポジションは5位だ。

井口は3列目、5番手からのスタートで50分間のレースが始まった。スタート直後から接近戦になったものの、ポジションをキープしオープニングラップを終えた。そのままポジションキープを続け、4周目ストレートに戻ってきた。

「エンジンから聞いたことのない音が出てる」と無線でピットに。そしてBRZ GT300は1コーナーをクリアし、コーナーを立ち上がる「わ〜、すごい音が出てる、壊れる!」井口はAコーナー手前のエスケープにBRZ GT300を止め、レースを終えた。

小澤正弘総監督は「昨日のレースで山内からエンジンのツキが悪いと言われていたので、タービンを交換しています。それで良くなっていればと思っていましが、情けない。おそらく、エンジン本体の内部のトラブルだと思います。起こしてはいけないトラブルで、本当に申し訳ないです」と頭を垂れる。

ところが、マシンを回収しピットに戻ってくると、トラブルはエンジンではなく、クラッチなどの動力伝達系のトラブルだったようだ。小澤総監督もドライバーのコメントから、エンジン本体だと考えていたが、どうやら違ったようで、これから工場へ入れ原因を確かめることになった。

今季BRZ GT300はニューマシンに刷新されている。エンジンは継続しているが信頼性が高く、実績のあるEJ型エンジンだ。もちろんレースごとにメンテナンスされており、他の部品全てで、ある距離に到達するとエイジングとし、一新するためフレッシュな状態が恒常的な状態のはずだ。

2週間後の鈴鹿に向けて、原因究明と対策は必須要件だ。シーズンはまだ折り返し地点であることが唯一の救い。まだ、挽回できるチャンスはある。ただし、もう取りこぼしは許されない状況に変わってきた。さて、次戦の鈴鹿300kmレースではどんなパフォーマンスを見せてくれるのか、ワク・ドキに期待したい。

今回、じつは天覧レースだった。(左)SUBARUの大崎社長と(右)STIの賚(たもう)社長が応援に駆けつけていた

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