【スーパーGT2025 第3戦 マレーシア・セパン】タイヤのマッチングが難関だった SUBARU BRZ GT300インサイドレポート

海外戦の歴史

2025年6月26日(木)から28日(土)の3日間、SUPER GT第3戦が、13年振りとなるマレーシア・セパンで300kmレースが行なわれた。SUPER GTの海外戦という意味でも2019年のタイ・ブリラム戦以来、6年振りだ。2020年からはCOVID-19の影響があり、国内でも無観客での開催など、苦心した経緯がある。

セパン戦は、SUABRU BRZ GT300にとっても2013年に参戦して以来久しぶりのレースだった。2013年シーズンは、BRZにマシンチェンジして2シーズン目。辰己英治総監督が指揮をとり、ドライバーは山野哲也、佐々木孝太組で、同じ6月の開催で、予選3位、決勝4位という成績を残している。

この2013年シーズンはポールポジションを5回も獲得したシーズンであり、予選での速さが光っていた。ただ、優勝1回、表彰台は最終戦のもてぎで3位に入った2回だけで、シリーズランキングは4位というシーズンだった。また最終戦で山野哲也が勇退し、翌年から井口卓人が加わり、海外戦もタイへと変更になる転換期でもあった。

そして、2013年はミシュランを履いて参戦。その後、2015年から現在に至るダンロップへ変更しているが、その2015年は佐々木孝太から山内英輝に代わり、井口卓人/山内英輝組が誕生している。

この時、すでに海外戦はタイへに変わっていたが、2015年にはここセパンでタイヤテストを行なっており、井口卓人、山内英輝にとっては10年振りのセパンということになる。

セパンはGT500クラスが毎年のように1月にウインターテストを行なっており、チームは充分なデータを持っているが、GT300クラスはそうしたテストはなく、参戦するチーム、ドライバーともに「セパンは初めて」というメンバーも多い。

そのためプロモーターのGTAは通常のSUPER GTのスケジュールとは異なり、公式練習を1回増やす対策を行なっていた。また決勝レースが土曜日の夕方に行なわれることもあり、チームは火曜日から準備を進めることになった。

公式練習はいつもの手順で

後発隊のメンバーは水曜日にセパンに入り、設備の設置や徒歩でのコースの下見が行なわれ、木曜日の午後に1回目の公式練習が行なわれた。300kmレースの場合、タイヤの持ち込みセット数は4セットと今シーズンは決められているが、そうした初見チームも多いことを踏まえ6セットを持ち込むことが許可されていた。

公式練習1回目の手順はいつもと同じ流れで始まった。山内英輝が乗り込み、まずはマシンのバランスチェックをする。SUPER GTではレース以外でチームが勝手に走行することが認められていないため、前レースが終わってから次のレースまで走行はできない。

そのため、レースとレースの間で行なった対策や改善策などを実走行で確かめることができないため、こうしたバランスチェックが必要になる。言うまでもないが、レース終了ごとにエンジン、ミッションはマシンから降ろされ、メンテナンスされる。

今回のBRZ GT300で言えば、前戦の富士スピードウェイでのレースをマシントラブルでリタイヤしている。最終ラップのリタイヤだっただけに、強く印象に残っているファンも多いと思うが、オイル潤滑系のトラブルでエンジン本体がブローしていたのだ。したがって、今回のセパンでは新たに組み直されたエンジンの調子も確認する必要があったわけだ。

ビックリするくらいグリップしない

公式練習1回目はGT300専有も含め1時間15分。その後は、サーキットサファリが行われる。これは観光バスに乗り、その横をGTマシンが走行する大人気アトラクションで、ここセパンでも30分間行なわれるスケジュールだ。

山内はいつも通り、丁寧にコースインをし、各部のチェックを行なう。無線のチェックやピットロードの速度リミッターの作動確認など、電気、電子部品も含めてのチェックだ。1周を終えピットに戻り本格テストに入るのが通常のルーティン。

その後、1回目のセットで計測をしてセット変更、2回目のセットで計測し、セット変更ということを繰り返していく。ところが最初の計測をした時点で「ビックリするくらいグリップしない」となり、セットアップの方向性とタイヤ選択が変わっていく。

ただ、チームからは路面状況がこれからどんどん変わることを踏まえると、路面のラバーグリップ変化にも注意しながらセットアップしていくことが指示された。

そして井口卓人に変わり、同様にマシンチェックをしながら計測し、セットアップの方向性を確認していく。じつは各チームともグリップが薄い状況を確認しており、山内が最初のセットで走った2分04秒591はトップタイムだったのだ。その後は書き換えられていくものの、言い換えればそうした難しい状況でもすぐにタイムが出せるポテンシャルがあると言えるのだ。

さて、井口も走行テストを終えて戻ってくると、現在のジオメトリーで対応し切れる範囲ではないのでは?という意見がドライバーからあり、チームはロールセンターの変更など大幅なジオメトリー変更に取り掛かることとし、サーキットサファリに間に合うように作業に取り掛かった。

そして初日が終了した時点で山内は「難しいですね。だけど順調ですよ」とコメントを残し、あまり多くを語らなかった。おそらく明確な方向性が見えないのではないかと思えた。

終始セットアップ変更の繰り返し

金曜日の公式練習2回目も同様にセットアップを探すことになる。タイムは全体のトップ5には入るもののさらに高みを目指しているため、ジオメトリーの組み合わせを変えていく。

結果的にはラバーグリップが上がっている路面になるとソフトタイプのタイヤがマッチし、それに合わせて、ABSダイヤル、スタビライザーの強度なども合わせてジオメトリーと組み合わせていった。

今回のセパン戦はGT300クラスに19台のエントリーがあり、Q1はA組、B組ともに上位6台がQ2に進出する。いつもの9台進出より狭き門になっていた。そしてQ2予選でポジションを決める。

Q1予選は井口が担当し、タイヤの温まりが遅いことも踏まえアタックラップ2周を想定して10分間の予選に挑んだ。最初のアタックで2分04秒436で7番手。すぐさまピットから「コンマ2秒足りない」の情報がもたらされ、2ラップ目のアタックに入った。井口は0.193秒削り2分04秒243の6位でQ1を滑り込み通過した。

Q2は山内がポールを狙ってアタックするが、その前に井口が戻るとセットアップの変更を助言する。午前中の公式練習時のセットから変更して予選に挑んだが、それがあまり芳しくないというのだ。そのためQ2ではさらにセット変更をして挑むことになった。

山内も井口同様2ラップのアタックを想定してコースイン。最初のアタックで2分02秒747で3番手のタイムをマーク。そして2アタック目はセクター1、2で1回目を上回っておりポールが期待されたが、セクター3、4では1回目を下回り、タイムの更新はできなかった。その結果2台に抜かれ予選5位という順位になった。

粘り強く

予選5位からスタートとなった決勝レースは、またもセットアップ変更が必要とされることが起きた。前日の予選は各マシンが走行し、GT500も走り、サポートレースも行なわれラバーグリップが予測できるレベルにあった。しかし金曜の深夜から土曜の朝にかけて雷を伴う豪雨があった。

路面は綺麗にクリーンアップされたようで、決勝前ウォームアップでその様子をチームは確認した。最初に井口が予選と同じソフトタイプのユーズドで走行するとグリップが薄いとの報告があり、そこから数周するとタイヤに限界が来ていると報告をした。

チームは山内のウォームアップにはハードタイプを装着して走行させた。するとまずまずのタイムが出ており、前日と路面コンディションが変わっていることが確認されたのだ。あとは決勝レース中の様子次第で、ソフトかハードかの判断ということになった。

決勝のスタートは井口。予選で使ったソフトタイプを装着してスタートした。オープニングラップで#2ハイパーウォーターインギングGR86に抜かれ、そして#777のD’Station・アストンマーティンに抜かれる。さらに#56リアライズGT-Rと#4グッドスマイル初音ミクAMG GT3も近づき、7周目に#56のリアライズGT-Rが最終コーナーで追突してくるアクシデントがあった。やや強引なノーズの入れ方に見え、BRZ GT300はその衝撃でリヤのディフューザーを壊されている。*レース後#56にはペナルティが出された。

順位を9位に落としたまま井口はポジションキープでいっぱいの様子だ。チームは状況を聞き出すと左リヤタイヤが限界に近いという。そのため、ミニマム周回数でピットに入れる判断をし、決勝前ウォームアップでタイムが出せたハードタイプのタイヤを選択し、山内に期待を寄せた。

山内はコースイン直後の数ラップは周囲より速いラップタイムを計測しており、追い上げ体制ができたかに思えた。#65LEON AMGとは0.5秒までギャップを詰めるも追い抜くまでには至らない。そのまま接近戦で戦っていたものの、徐々に引き離される展開になる。

チームは「ライバルもタイムが落ちてきているから、じっくりプレッシャーかけていこう」とゲキを飛ばすものの、山内のタイムも伸びなくなってきた。

結局9位のポジションのままチェッカーとなり、レース後4位フィニッシュの#87ランボルギーニがタイムペナルティを受け10位に後退。BRZ GT300は8位フィニッシュとなった。

ピットに戻るBRZ GT300の無線から「みんなごめん、アストンに追いつけなかった。力不足。もっと精進します」と山内。また「予選と同じアタックを30ラップしたので、キツかった」と本音も吐露していた。#65LEON AMGの前に#777D’Stationアストンマーティンが走行しており、#777アストンマーティンは同じダンロップユーザーだったため、山内の中ではダンロップ勢の中のトップが重要だったのだ。

こうしてトップは#18アップガレージAMG、#52埼玉グリーンブレーブSupra GTがぶっちぎりの速さを見せ、3位以下を大きく引き離すレースをした。小澤総監督は「トップの2台はヨコハマとBSですけど、全部が噛み合ったのでしょう。前回の富士でBRZ GT300が突き抜けた速さを見せたのと同じだと思います。レースで全部を噛み合わせるのは本当に難しくて、今回はどこか難しさを残したレースでした。次は富士スピードウェイなので、前回の噛み合ったレースで優勝を目指していきます」と締め括った。

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