「どんなシナリオライターでも書けないレースだ」と、レース直後に話すSTIの小澤正弘総監督。SUBARU BRZ GT300は、開幕戦の岡山国際サーキットで最終周の最終コーナー立ち上がりで後続車に追突されスピンを喫した悪夢から立ち直り、この富士スピードウェイ3時間レースに臨んだが、再び最終ラップに「嘘だろ?」とみんなが呟いた。

BRZ GT300への朗報
2025年SUPER GTシリーズ第2戦は静岡県小山町の富士スピードウェイで「FUJI GT 3Hours Race」が開催された。毎年恒例のゴールデンウィーク開催は、スーパーGTで最も観客が集まるレースだ。今回のレースも延べ8万2500人という大観衆が詰めかけていたのだ。

この3時間レースに向けてGTアソシエーションはBRZ GT300に対し、あるルール適応を指示していた。それは6000rpm以上でターボの過給圧を上げることが認められ、代わりに車体下面のスキッドプレートの厚みを1.5mm厚くする指示が出されていた。これまでも最低地上高の確保とダウンフォースを制御する目的で15mmのプレートを装着しているが、その厚みが今回1.5mmプラスされ16.5mmのスキッドプレートを装着することとなった。
小澤総監督は「車高が高くなるのはコーナリングに影響しますが、過給圧があがることで相殺という狙いだと思います。富士はストレートが長いので、トップスピードが遅いと危ないので、GT3勢と揃えたかったのだと思います」と話す。ちなみにGT300クラスのトップスピードは270km/hほどだが、到達速度の違いはあり、ブーストアップでBRZ GT300が凄く速くなるということでもない。
ドライバーの山内英輝は「スキッドプレートは気になります。過去に何度か縁石にぶつかってコースアウトしているから怖いですよ。でもブーストが上がることで立ち上がり加速やトップスピードで負けない状況にはなるのかなぁと思っています」と。


バランスはいい
土曜日の朝、公式練習が快晴の下、始まった。いつものように山内がマシンのセットアップを始める。BRZ GT300のバランスを確認し、予選、決勝に向けてのタイヤ選択、タイヤに合わせたセットアップをするが、走り出して5周目には1分36秒361のトップタイムをマークしている。山内は走り始めから「バランスはいい」と無線で伝えており、新車となったBRZ GT300はいよいよ、その本領が発揮され始めたのかもしれない。


別タイプのタイヤへ交換し、再びコースイン。山内はベストタイムをさらに更新し1分36秒344をマーク。早々にロングランテストの提案をチームにした。通常であれば1時間強はセットアップに時間が使われ、残り20分で井口が燃料を搭載し、ユーズドタイヤでロングを走る。タイヤの摩耗具合とラップタイムの落ち幅の確認をするが、今回は早い段階でロングのテストへ移行している。
井口は37秒台中盤から38秒台で走行を続けており、小澤総監督は「38秒台がコンスタントに出せれば決勝もイケると思います」と話すように、以前のようにタイヤのグリップダウンが急激に起こる場面は顔を出さなかったのだ。
コースレコードを狙う
午後の予選はA組、B組に分かれ、その組分けはシリーズランキングの偶数、奇数順位で振り分けられる。開幕戦が終了した時点で、BRZ GT300のドライバーランキングは13位、サクセスウエイトは6kgを搭載し、BoPと合わせて1266kgでの参戦となった。BRZ GT300はA組で井口卓人が走る。気温21度、路面温度38度でニュータイヤを履き、ガソリンも少ない状態でQ1を走った。1分36秒063をマークし山内のタイムを上回りA組1位となった。
そしてB組は、#777アストンマーティンが1分35秒674を出し1位。0.389秒離されたタイムなのだが、それでも井口のタイムは全体2位であり、アストンマーティンの速さが抜け出ていることがわかる。
そしてQ2は路面コンディションも良くなり、タイムアップが期待される。山内は最多ポールポジション回数の記録を持つ男だけに、どんなタイムを出すのか興味が湧く。そして路面温度は49度まで上がっている。ダンロップタイヤは路面温度が高いほど性能が出しやすいという傾向もあり、さらに期待が膨らんだ。
山内は4ラップ目1分34秒882を叩き出す。場内アナウンサーのピエール北川の絶叫が響き渡る。直後に#777アストンマーティンが山内のタイムを抜きトップに立った。山内もさらにアタックを続け、1コーナーへ向かった。
山内のセクタータイムは前周のタイムを塗り替え自己ベストを記録。目に見えない戦いが起きていることを観客に見せながらセクター2へ飛び込んだ。しかし、「やめた!」と無線。
筆者高橋の想像だが、BRZ GT300は右コーナーでアンダーステアが出る傾向があった。そのため、2回目のアタックの時、セクター1はうまくタイムを塗り変えることができたが、セクター2の100Rで少しアンダーが出たのではないかと想像した。そのため、セクター2のタイムは更新できず、やや遅れていたのだ。それを感じた山内はタイヤの温存も踏まえ、アタックをやめたと想像する。
山内のタイムは予選2位となった。
ピットに戻った山内に声をかけ、高橋の想像を伝えると「いや、タイヤが終わってました」と一言だった。1/1000秒の中では、わずかな違いが起きていたということなのだろう。ちなみに富士スピードウェイのGT300コースレコードは山内が2021年に出した1分34秒395で、以来破られていない。
2台は抜けた速さ
日曜日の決勝は午後2時11分にスタート。大観衆が興奮しながらレースを楽しんだ。#777は速く山内は離されないように追従していく。しかし1ラップごとに0.2、3秒ずつ離されていく。一方、後続の#7は山内から1秒以上離れていく。つまり#777と#61の2台だけが速く、後続はまったくついてこれない展開で始まったのだ。

10周を終えると山内はトップと1.5秒のギャップで3位には3秒以上のリードがある。予選で使ったタイヤがスタートタイヤなので20周もすると大きくグリップダウンするが、今回ペースは変わらず、トップと1.5秒のギャップ。後続は5秒以上離れていた。そして早くも1回目のピットをこなすチームもちらほら現れている。
30周目を終えてトップと1.5秒差は変わらず、3位とは11秒のギャップに広がっている。31周目#777が1回目のピットに入り山内はトップにたった。3位とは16秒のギャップを持っている。そして34周を終え山内も最初のピットインをした。
ドライバーは交代しない。ダブル・スティント作戦でタイヤ4本交換と給油のフルサービスを行ない、ピットアウト。総合で11位。1回目のピットインを済ませた中では5位だった。#45、#65、#777、#5が前にいる。ニュータイヤを履いて3周後、#5をターゲットにして最終コーナーで並ぶ。しかしストレートで離されていく。だがコーナーで再び追いつき、ズバッと抜いた。
前は#45、#65、#777で、全部GT3勢だ。フェラーリ、メルセデスAMG、アストンマーティンの3台。39周目、山内は自己ベストを更新。おそらくファステストを記録したはずだ。この時#777が#65を抜き、山内のターゲットは#65に変わった。ギャップは3.007秒。41周目0.62秒に詰め、#65をかわした。3位浮上だ。
アストンと一騎打ち
2回目のピットインが視野に入る頃#777が#45を抜いてトップに返り咲いた。山内のターゲットは#45のフェラーリへと変わりギャップは4.021秒。その2周後、瞬く間にギャップが縮まり0.091秒となり、#45を交わし、山内も2位に浮上した。

と、ここでトップ#777が左リヤタイヤがバーストし、山内はついにトップに立った。そこから順調にトップを守り、67周を終え井口へ変わるタイミングの時、後続には30.269秒のギャップを築いていた。このままいけば、上位のままコースに戻ることができる。
井口もタイヤ4本を交換し、給油も行ないピットアウトした。ポジションは5位。しかし2回のピットを済ませた中では2位になる。トップは#777なのだが、2回目のピットインはバーストしたタイヤの交換だったため、もう1回ピットに入るはずだ。ということは、井口は実質トップを走っていることになる。
異様に速い#777を追う必要はなく、後続を気にすればいい展開なのだ。井口に変わって10周を終えた頃、78周目、3位に#6のフェラーリ296 GT3が来ている。ギャップは25.336秒。まだまだ十分なリードを持っていると判断できる。
しかし、この#6フェラーリも異様な速さをみせていたのだ。じつは予選順位は27位で28台の参戦なので、ブービーのポジションからスタートしている。それが、なんとレース開始12周の時点で8位にまでポジションアップしていたのだ。その速さはレース中盤、終盤にまで継続でき1分37秒台を連発しているのだ。
迫るフェラーリ
多くのマシンが1分39秒台から40秒台にペースが落ちている中、37秒台は異様なスピードであり、ごぼう抜きを後方で行なっていたのだ。一方の井口は38秒台でコンスタントに周回を重ねている。86周したところで、トップは変わらず#777のアストンマーティンだが、井口の後方の#6フェラーリは19.147秒差にまで近づいていた。1周0.5秒ペースで井口に近づいているのだ。
井口は周回遅れに手こずった時は一気に2秒ほど差を縮められる状況だった。99周目、トップの#777がやはりピットインをした。レースはGT500が110周程度ではないかと予想する中、アストンは、あと10周の燃料が足りなくなっていたわけだ。

無情
これで難なく井口はトップに立つことができ、あとは#6フェラーリの追撃から逃げれば勝てるのだ。100周目、ギャップは10.029秒に縮まっているが、大丈夫だ。もし追いついたとしても抜かれなければいい。終盤、さすがにフェラーリのラップタイムも落ちてきて井口と大きな差は無くなっているからだ。
105周目、ギャップは3.487秒。あと2周。大丈夫だ。
106周目、ギャップは2.562秒 この時BRZ GT300は3時間をトップで走り切った。
しかし、3時間経過する前にGT500のトップマシンは通過していたので、井口はトップで3時間を走り切りながら、もう1周することになったのだ。だから107周目が必要になり、ファイナルラップへ突入した。
振り返ると#6の追撃はテールツーノーズまでは近づいていない。ついに新型BRZ GT300は、2戦目で勝利することができる!と誰もが納得の笑顔になっていた。
と、その時無線から「壊れた!!」と井口の雄叫び。
モニターに映し出されたBRZ GT300が煙を吐きながらコース脇に止まる姿が映し出されていた。ダンロップの手前。マシンは絶命した。
「嘘でしょ!」と口々に、そしてからだが凍りついた。
次戦はマレーシア・セパンサーキットで6月27(金)、28日(土)に第3戦が開催される。
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