スーパーGTシリーズ最終戦「MOTEGI GT 300km RACE GRAND FINAL」が11月4日(土)、5日(日)に栃木県茂木町のもてぎリゾートで延べ4万5600人の大観衆を集めて開催された。
SUBARUBRZ GT300は今季の1勝を目指し、またシリーズランキング2位の可能性も残しての参戦であったが、レースは10位フィニッシュ。シリーズランキングはトップと34点差の8位という結果で終わった。
最終戦はサクセスウエイトが免除され、BoPだけのハンデになるレースで、開幕戦と同じコンディションで開催される。BRZ GT300は47kgのサクセスウエイトを積んでいたので、その分軽くなって参戦できるわけだ。軽くなればブレーキングやコーナリング、加速への影響は小さくなり、BRZ GT300本来の性能で戦えるということもできる。
チームは軽くなる分、センシティブなマシンだけにサスペンション・ジオメトリーも変更し、もてぎに備えていた。がしかし、公式練習が始まるとセットアップが微妙に決まらないことになる。セットアップはいつものように山内英輝がステアリングを握り、タイヤに合わせることも踏まえてセットアップしていくが、ピットインごとにトラックエンジニアと相談を繰り返す。
フロントのグリップ、アンダーステア、リヤのグリップやブレーキング時の浮き上がり、アンチダイブやアンチスコートなど挙動変化が思う様に決まらない様子だ。井口卓人に交代してマシンの確認をするも口を揃えた。
もてぎでは公式テストもありデータも揃っているのだが、その日の気温や路面温度、そして路面の「出来具合」によってマシンのコンディションが変化する。95分間の公式練習ではベストなセットアップを決めきれず、その後行なわれるFCYテストに向けてセットアップを煮詰める作業を行なった。
その結果、フィーリングは回復できた様子ではあるものの、FCYテスト中ということでフルアタックでのタイム計測ができていない。この後は公式予選を残すのみとなるので、ぶっつけ本番の要素を含んだセットアップになっていた。
公式予選はGT300クラスに25台が参戦し、A組13台、B組12台に分かれて予選を戦い、各組上位8台がQ2予選に進出できる。BRZ GT300はA組で走り井口卓人がステアリングを握った。装着するタイヤはハード側で、ロングランでも実績があるタイヤだ。
入念にウォームアップを行ない、2アタックの予定でクリアラップを作る。最初のアタックで井口は1分47秒303を出す。このタイムは午前中の公式練習で山内が出したタイムを上回っており、セットアップはいい方向にまとまったという印象を受ける。続くアタックもほぼ同タイムの1分47秒321でA組6位でQ1予選を通過した。
そしてQ2予選では山内英輝がポールポジションを狙って挑むが、最終的なセットアップでの全開走行を試していないだけに不安はあるはずだ。さらに山内はソフト側のタイヤを選択し、ポールにこだわる姿勢を見せていた。山内のタイムアタックは1ラップスペシャルだ。1度のアタックで決めるつもりなのだろう、入念なウォームアップを済ませ、アタックに入る。時計は1分45秒940。4番手のタイムだった。トップに0.307秒届かなかった。
決勝は2列目からのスタート。ステアリングを握るのは山内。誰もが山内のジャンプアップに期待を寄せる。がしかし、前の3台は速い。追いかけるのが精一杯だ。トップを走る#2muta Racing GR86 GTの平良響は1分48秒中盤のタイムで逃げていく。追う山内は1分49秒台前半。1周で0.5秒前後離されていく展開で苦しい。
すると5周目に小雨が降り始めた。雨の降り始めは路面の埃も浮き上がり滑りやすい。山内はコースアウトしないようコントロールするが、グリップが薄くタイムは落ちていく。8周目に入ると後ろを走っていた#18 UPGARAGE NSX GT3に抜かれポジションを一つ下げた。路面コンディションはイコールではあるが、ミューが下がった時のグリップ力にはタイヤメーカーによって多少の差があり、ダンロップの山内より、ヨコハマタイヤを履く#18はマッチングが良かったということだろう。
また10周を過ぎたあたりで、山内は左のフロントタイヤが厳しい状況になってきたことを無線で伝えた。すると21周目、後続の#6 OBOT Audi R8 LMSに抜かれ、ポジションは6位に下がった。
ドライバー交代のミニマム周回数を超えると、早めのピットインを選択するチームが動き出す。ブリヂストン、ヨコハマタイヤを使用するチームの多くがタイヤ無交換作戦でピットに入る。山内はダンロップ勢でトップの位置にいたため、上位5台がピットに入り、山内はトップに浮上することができた。
山内は6周トップを維持しながら周回し、トップのまま井口卓人と交代。BRZ GT300はタイヤ4本交換と給油のフルサービスを受け、ピットアウトしていく。コースに戻った井口の順位は13番手付近にまで下がっていた。レース後井口も「山ちゃんがトップで戻ってきたから、4、5番手で戻れれば勝負できると思ってピットアウトしたんですけど、周りを見ると誰とレースしてるんだ?というポジションにいて」と語っている。
ちなみに公開されているライブタイミングを見ると、山内が第4セクターを通過し、井口が第1セクターを通過するのに3分02秒754かかり、無交換作戦だった#2は2分43秒366で通過している。また優勝した#88JLOC ランボルギーニ GT3は2分49秒733で、リヤタイヤ2本の交換作業をしていた。
それでも井口は粘り強い走りを見せ、10位にまで順位を上げてきた。途中、激しい雨が降り出しレインタイヤに交換するチームもある中、そしてチームからもレインの指示が出る中、井口はスリックを選択し、コース上に留まることを決断する。その結果、コース上ではどのマシンにも抜かれることなく、10位のままチェッカーを受けた。
今シーズンを振り返り、小澤正弘総監督は「タイヤの及ぼす影響は大きいですが、タイヤのおかげでポイントを取れたレースもありましたから、それはどのタイヤメーカーでも同じことが言えると思います。それと今年はチーム力が向上しました。シーズンを通して大きなトラブル、ヒューマンエラーは一度もなく、ワンチームになる結束力も上がったと感じました。ただBoPを跳ね返すセットアップが足りないということは反省材料です。来季はレースフォーマットも変わるので、より戦略的に戦い、シリーズチャンピオン争いをするチームになりたいと思います」と話していた。
BRZ GT300は開幕前、規則で空力ボディの変更を要求され、高荷重が掛けられるデザインの新しいホイールの採用、そしてエンジン制御の変更の行なって臨んだシーズンだったが、それらの栄養素を入れつつも優勝という華を咲かせることはなかった。
来季に関し、最終戦のもてぎでGTAの定例会見があり、坂東会長より300km、450km、300mile(480km)、そして3時間レースの4種類になり、持ち込みタイヤのセットを1セット減らすことが発表された。これに対しタイヤメーカーへは、グリップ力と路面温度の対応レンジの広いタイヤを開発して欲しいという提案はしてあるという説明だった。
このフォーマットになると、持ち込みタイヤは1タイプの決め打ちになり、ラップタイムは少し落ちるかもしれない。そして多くが2回ピットインの3スティントになるので作戦の幅は広がり、より混戦したレースになるのではないだろうか。これらの変更に対し、どんな対策をしていくのか、また今季の悔しさを跳ね返し、優勝という大輪を幾つ咲かせてくれるのか興味は尽きない。