2023 年のスーパーGTシリーズも残すところ2戦。10月14日(土)、15日(日)に大分県日田市にあるオートポリスで第7戦が行なわれた。レース距離は450kmに伸延され2回のピットインが義務付けられているレースだった。
SUBARU BRZ GT300はシリーズランキング7位。トップとは19点差で、僅かながらチャンピオンの可能性を残していた。が、#52の埼玉トヨペットGB GR Supra GTが今季2勝目を挙げ、BRZ GT300の逆転チャンピオンの可能性を打ち砕いた。
キーはタイヤ選択
今季のBRZ GT300は優勝が一度もなく、また2回のポールポジションを獲得しながらも優勝には届かないレースになっていた。ドライバーをはじめチームの誰もが喉から手が出るほど欲している優勝を目指し、オートポリスに出陣をした。
土曜日の午前、公式練習でいつものようにマシンのセットアップをしていく。2021年シーズンから新型となったBRZ GT300は、これまで数多くの走行データを蓄積し、より精緻なセットアップが可能になっている。
前レースで課せられた特別BoP(性能調整)の+15kgは、今回はなく、これまで通りのBoP+65kgと獲得ポイントによるサクセスウエイトも半減され47kgをプラスし、合計1312kgの重量で参戦した。前年2022年のオートポリスは1276kgだったので、今季のほうが重い。
そして気になるポイントとしてタイヤを挙げていた。小澤正弘総監督は「ここは火山灰の影響でタイヤへの攻撃性が高く、スリッピーな路面でタイヤ選択が難しい」と話す。決勝でもベストマッチしたタイヤ選択がキーになるとも言う。
マシン重量を跳ね返すタイムアタック
予選はA組、B組に分かれ、BRZ GT300はB組で井口卓人が走る。午前中の公式練習でも二人揃って全体2位、3位付近のタイムを計測しており、順調にセットアップが決まったことがわかる。井口は計測3周目にアタックをし、1分42秒693でB組トップタイムをマークしQ1予選を通過した。コースレコードは1分42秒039なので、車両重量を考慮すれば上出来なタイムだ。
続くQ2予選で山内英輝は自身15回目となるポールポジションを目指しコースインする。井口と同様、計測3周目にアタックをし、1分42秒141とレコードタイムに0.102秒まで迫るタイムでトップに立った。がしかし、山内の後にアタックをした#2muta Racing GR86 GTの堤 優威(つつみ ゆうい)が1分42秒016を叩き出しコースレコードを塗り替えた。これでBRZ GT300は予選2位となった。
この結果に小澤総監督は「想定以上に良いタイムが計測できたので嬉しい」と話す。決勝では天候を見極めタイヤ選択とピット戦略を駆使し優勝を目指すことになる。
路面がリセットされている
日曜日の決勝。オートポリスは秋の気配が濃く肌寒い。そして強風も吹いている。ダンロップは公式プレビューで持ち込みタイヤは路面温度20度から40度に適応するタイヤで勝負すると発表している。路面温度は20度前後で変化するレベルで果たして性能を発揮できるのか、一抹の不安はあった。
ダンロップの担当者は「前日のQ2予選は路面にラバーがのってグリップ力が上がってましたが、この強い風で路面はリセットされています。温度も低いですし、決勝は厳しいかなぁと思います」とやや弱気な発言をしている。いや、冷静に状況を見極めているというのが正しいのだろう。
スタートドライバーは山内でダブル・スティントを予定。ラストを井口が走るというオーダーで、今季のこれまでの450kmレースとは異なるオーダーだ。井口でスタートし第2、3スティントを山内というパターンが多かった。そのオーダー変更の理由を小澤総監督に聞くと「勝負ポイントをどこにするか、ということで山内でスタートと第2スティントを勝負しようと思ってます」とコメントがあった。最後タイヤが厳しくなる状況では井口のテクニックで逃げ切るという戦略に思えた。
オープニングから速いブリヂストン勢
フロントローからスタートでジャンプアップに期待がかかり、ローリングスタートを見守る。2周のウォームラップを終えスタートが切られた。しかし、ポールからスタートの#2muta Racing GR86 GTとは、オープニングラップで1.317秒も差をつけられているのだ。
#2は逃げる。山内との差は広がり、後続では4番手の#52埼玉トヨペットGB GR Supra GTの勢いが凄い。3位の#31 apr LC500h GTは5周を終えた時点で1回目のピットに入り、タイヤ無交換でピットアウトする。
山内を除く3台はいずれもブリヂストンを履くチームだ。路面温度は22度。ダンロップタイヤが対応する温度ギリギリだ。タイヤ戦争が勃発したかのように序盤、#4グッドスマイル 初音ミク AMGと#88 JLOC ランボルギーニ GT3はヨコハマタイヤで3銘柄がぶつかり合っている。ダンロップは孤軍奮闘でBRZ GT300以外は上位に顔を出していない状況だ。
山内はタイヤが厳しいのか、9周目にセクター3で#52に抜かれてしまう。山内が追い抜くシーンは見慣れているが追い抜かれるシーンは珍しい。28周を終え3位のまま山内はピットに向かい給油とタイヤ交換をする。BRZ GT300はタイヤ4本を交換し、ピットアウト。山内は予定どおりダブルスティントを走る。コース上では8番手だがピットに入っていないマシンを除けば4位でコースに復帰している。
フレッシュタイヤを履く山内の追い上げに期待が掛かるものの、なかなかトップに近づけない。いや3位を走る#2にも追いつけない状況だ。ブリヂストン勢の中で#52と#31はタイヤ無交換作戦を行い、#2は4本交換を行なっている。だから#52、#31は後半厳しくなり、追いつけるはずだと予想しつつ、目の前の#2を追いかける。
46周を終えるとトップを走る#56リアライズ日産メカニックチャレンジ GT-R(ヨコハマタイヤ)、#52、#31が同時にピットインし、山内は2番手に浮上する。BRZ GT300は2位をキープしながら2回目のピットインを行ない、井口卓人とドライバー交代をした。
迫力のテールツーノーズ
井口はコース上6番手だが、実質4位で走行を続ける。この時点で優勝争いは上位4、5台に絞られ、BRZ GT300が前を走るマシンをコース上で抜くしかなくなってくる。しかしこの頃路面温度は19度まで下がっている。ダンロップタイヤの対応温度を下回りはじめているのだ。
コーナリングが厳しくなるのはもちろん、やはりブレーキング勝負ができなくなるのが厳しい。グリップ力が落ち、突っ込み勝負ができず井口は苦しくなっていく。それでも3位を走る#31には近づく。そう、#31はタイヤ無交換作戦のマシンだから仕留めたい相手だ。60周を終えた時点で#31とは10秒63離れていたが、69周目には0.176秒のテールツーノーズに追い詰めた。
お互いタイヤが厳しい状況での3位争いが繰り広げられ、車間距離が1mから5mという展開が10周以上続き、井口はプッシュを続ける。必死に逃げる#31。そして90周目のファイナルラップ、#31とは0.679秒差。実に23周もテールツーノーズで走り、お互いメンタルも含めた消耗戦をとなっていたが、井口は最後まで#31を交わすことができず4位でチェッカーを受けた。
ピットで待つ山内は顔面蒼白。BRZ GT300には優勝しか残されていない状況で、完敗を喫したのだ。
優勝は今季2回目の#52。2位はポールシッターの#2で、3位#31となり、ブリヂストンの1-2-3という結果になった。
ピットに戻る井口はうな垂れ、チームスタッフに申し訳ないと頭を下げ続ける。重たい空気がピット内を襲い、逆転チャンピオンの可能性は消えた。「最終戦をまたずにチャンピオン争いから脱落するのは耐え難いほど悔しい。何が足りないのか」と山内は涙する。
小澤総監督も「戦略も含め今持っている武器では勝てなかった」と。今回のレースはブリヂストン勢の完勝。BRZ GT300は数々のハンデキャップを克服しながらレースに挑み、何度となくクリティカルポイントを超える戦いを演じてきたが、今回だけはドラマチックな走りはできなかったというレースだった。