スーパーGT第3戦「たかのこのホテル SUZUKA GT 300km RACE」が5月28日(土)、29日(日)に三重県鈴鹿サーキットで開催された。グランドスタンドの1コーナー寄りのエリアはSUBARUブルーで埋め尽くされ、多くのスバリストたちが注目するレースになった。
これまでの2戦でBRZ GT300は連続ポールポジションを獲得し、応援する誰もがドライバー山内英輝の走りに感嘆し魅了されている。「今季はBoP(性能調整)でパワーダウンさせられているのに、なんでポールが取れるんだ?」という不思議がありながらも、漠然とした期待感が膨らんでいる。
金曜日にチームは鈴鹿サーキットに入り、準備を進める。小澤総監督に声をかけ第3戦の展望を聞けば「ダンロップが新しいタイヤを開発してくれました。夏場の暑いレースを想定して設計されたニュータイプで、今回持ち込んでいます。それと従来型の2タイプを準備しました」
端的に説明しているものの、口元が緩んだ表情から期待していることが伝わってくる。みんながBRZ GT300の速さに心踊らされていると言ってもいいだろう。
新タイヤ投入
土曜午前中の公式練習で、新タイヤのマッチングを開始した。ドライバーは山内。3、4周してはピットインを繰り返す。エンジニアと話しながら足回り、リヤウイングの角度などが調整され煮詰めていく。
「リヤのグリップが薄くて、マッチングさせるには相当な変更が必要だと感じました。この短い時間でアジャストはできないと思い、スタッフと相談してひとまず従来タイプのタイヤでセットすることにしました」と公式練習後の山内からのコメントだ。
公式練習時の気温は26度、路面温度32度。真夏の路面温度は40度後半から50度を超える温度になる。新タイヤには少し路面温度が不足していたのかもしれない。
もともとリヤがナーバスでも乗りこなせる山内のドライビングスタイルをもってしても、コントロールしにくいという。マシンのセットアップは二律背反のオンパレード。あっちを良くすれば、こっちが悪くなる。繰り返していくうちにマッチングゾーンが見えてくるのだが、その時間はない。
SGTではシーズン中、独自にテスト走行することが禁止されている。そのため、ダンロップも新タイヤを開発したものの、実走行テストはできていない。机上と現場の公差は確認できないのだ。
こうして従来タイプのタイヤでセットアップを続け1分57秒820をマーク。全体2位のタイムが計測できた。昨年8月の鈴鹿で山内はポールポジションを獲得しているが、その時のタイムは1分57秒322で0.5秒及ばないものの、十分戦えるレベルに調整できたと判断できる。
予選
土曜日午後から始まる予選。Q1を井口卓人が走る。従来タイプのタイヤでのアタックだ。持ち込んだ新規開発のタイヤよりはソフトなタイプで実績があるタイヤだ。
井口は予選が開始されてもすぐにはピットアウトをしない。ほとんどのマシンがコースインした後、ようやくエンジンが始動されコースインした。十分なクリアラップを作り一発の速さを求めた。
井口はインラップを含め3周目にアタック。1分57秒140を計測。Q1全体のトップタイムで昨年の山内のポールタイムを上回るスーパーラップだ。
続くQ2で山内はさらにタイムアップを目指しポールを確実にしにいく。走行直前の山内はコースをイメージし微に入り細に入り意識が脳裏に注がれる。最後に相棒の肩を叩くようにマシンのルーフに挨拶をしてコクピットに収まる。
場内アナウンスのピエール北川は「山内選手の3連続ポールは見どころです。これまで2戦連続のポールポジションは2013年ミシュランタイヤを履くBRZが記録していますが、3戦連続の記録は見当たりません」と驚異的な速さを持っていることを観客に伝えていた。そして誰もがこの先に起こるだろうドラマチックな走りを期待した。
がしかし「パワーダウンしたのでピットに戻ります」という無線が入り思わず天を仰ぐ。記録はウオームアップの1周を計測したときのタイムとなり予選16位が決定した瞬間だ。(その後ポールポジションの10号車が再車検で最低地上高違反によりタイムが抹消されたため15位に繰り上がった。)
「デグナーの1個目で加速しなくなったんで、無線で止めることを言いました」山内は憤怒の形相ながら怒りを表に出さずにコメントしてくれた。
原因はインタークーラーから過給器へ繋ぐシリコンホースの破損。高密度タイプを採用し、定期的な交換部品であるにも関わらずホースには亀裂が入っていた。そのため十分な過給ができずパワーが出なかったのだ。
「後ろからの追い上げになりますね。普通にやったら上位進出は無理なので、早めのピットインとか、粘って粘ってギリギリ引っ張る作戦か、なにかいつもと違うことをやらないと可能性は低いですね」と小澤総監督は話す。ファンに対し、期待を裏切ったことへの謝罪が繰り返される中、決勝へ向けての戦略が高速周回路を走るようにハイスピードで脳内を駆け巡っていた。
決勝
決勝は気温29度、路面温度47度。お~、真夏のコンディションに近い路面温度だ。スターティンググリッド15番に着くBRZ GT300を前に、小澤総監督からは「展開次第ですけど4本交換なら新タイヤ投入、2本交換なら従来どおりと思ってください」
スタートドライバーは井口。予選で使ったソフトタイヤで少しでも順位を上げたい。が一方で路面温度は高く、実績のあるタイヤとはいえ耐摩耗性に不安は残る。
ローリングスタートで始まったオープニングラップ、井口は目の前の9号車フェラーリを刺す。V8ツインターボで670ps以上を誇るGT3マシンを超絶技巧に交わしていく。さらにポジションアップを狙い先行の50号車MC86とは0.5秒差、後塵には55号車NSX GT3が0.3秒差に迫る。
しかし2周目~3周目にかけて早くもFCYになる。全車80km/hに規制されるが10周目にもSCが入りリードタイムは消える。やはり真夏のような高い路面温度は何らかのアクシデントにつながる負担をかけているのかもしれない。結果的に第3戦ではFCYが3回、SCが2回入る荒れたレースになったのだ。
井口は16周を終えてピットインをする。いつもより早い。規定周回ミニマムでの周回数だろう、BRZ GT300にも高い路面温度はソフトタイプのタイヤでは厳しいのか、ピットでは4本のタイヤが交換された。路面温度49度。新タイヤの投入に踏み切ったのだ。だが、セットアップは煮詰まっていないはず。山内のドライビングで新タイヤの性能が引き出せるのか?一抹の不安はある。
ピットアウト直後は22位の順位表示になるものの、周回ごとに順位は目まぐるしく変わる。18周目は19位になり、ピットインしたマシンだけでみれば8番手。だが、BRZ GT300より数十秒以上先行する上位マシンは、まだピットインしていないため順位は落ち着かない。
27周目(GT300は25周目)に再びFCYとなるが、その時点でのダンロップユーザーは最上位が60号車の8位で、以下、11号車10位、34号車11位、10号車12位、96号車14位で、BRZ GT300の61号車は18位というポジション。おそらく各チームとも、新タイプのタイヤを装着していただろうと想像するが苦戦が強いられている。
苦しい展開ながらも、山内は果敢に攻め続ける。コーナリングマシンのBRZ GT300は先行車に追いつき仕掛ける。が、追い抜くまでには至らない。シケインの立ち上がりではせっかく追い詰めた距離は、いとも簡単に引き離され1コーナーでは絡めない距離にまで離れてしまう。
今季BoPで指示された、過給圧の引き下げるによる出力ダウンが明白になるシーンだ。それでも山内はへこたれずに何度も先行車へ迫る攻撃を仕掛ける。ヘアピンでノーズが少し入るものの、立ち上がりで離される。スプーンコーナーで差し込むものの裏ストレートで差が元に戻る。
唯一65号車AMG GT3をシケインで刺すのが精一杯だった。
「終始リヤタイヤのグリップが薄くてBRZ GT300にはマッチしていない状態でした。それとBoPもあって追い上げるのは辛かったです。S字で追い詰めてクロスラインで抜くこともできるマシンですけど、今回はそれもできなかったです」とレース後に山内は振り返る。
言い換えればBoPが絶妙であり、連勝させない性能調整、団子になり集団での競い合いを演出する性能調整が最高値で機能したと言えるだろう。
SUBARU BRZ GT300は12位でフィニッシュした。予選15番手からのポジションアップだが、マシントラブルによる脱落が多く、山内にはパスしたマシンが少ないことで如何ともし難い悔しさが滲み出ていた。
次戦は富士スピードウェイ。「混戦から抜け出すことはできないレベルなので、やはり予選で前に出て、後続に飲み込まれないで逃げ切るスタイルが勝ちパターンというのがよくわかりますね。次回までに少し期間が開くのと、テストがあるのでワンランクあげるレベルに調整していきたいと思います」とレース後に小澤総監督のコメントがあった。
さて、今回のレースは、シリーズポイントの獲得はできなかったが収穫は大きいと思う。新タイヤはマッチングしていなくても競えるレベルであり、アジャストすればより高いパフォーマンスは期待できる。さらに耐久性も高いことがわかった。そのためピットウインドウ幅は広がり、予選で高ポジションが獲得でき、さらにピットインのタイミングを瞬間的に精緻な計算とそれに伴うスタッフのアクションによってBoPを乗り越える可能性がでてきたからだ。次戦はその可能性の検証に期待したい。<レポート:高橋アキラ/Takahashi Akira>