2021年シーズンの折返しとなるスーパーGT第6戦が大分県日田市のオートポリスで10月23日(土)、24日(日)に行なわれた。
SUBARU BRZ GT300は前戦では、新型になって初の優勝を勝ち取り、シリーズランキングもチームポイント、ドライバーズポイントの両方で首位に立った。迎えた第6戦オートポリスではサクセスウエイトが上限となる100kgまでに増え、BoPと合わせて150kg搭載することになった。
プロローグ
この「重さ」に関し小澤正弘総監督は「シーズンを通してウエイトをどこに積めば運動性能への影響が小さいか検証してきているので、そこは問題としていません。50kgまでは助手席のフロアに搭載と指定されていますが、それ以上のウエイトはどこに搭載してもいいルールなので、場所による違いなどのデータを持ってます。ですので心配要素とはなりません。ただ、100kg増は明らかにストレートスピードが落ちますから、どういった展開にできるかがポイントになると考えています」
重量増となることでパワー/ウエイトレシオは明らかに不利になる。それが狙いのサクセスウエイトであり混戦を演出する手法のひとつでもあるわけが、BRZ GT300にとってはブレーキングが厳しくなり、コーナー突っ込みは甘くなってくる。コーナー立ち上がりでも小排気量ターボには影響が大きく、加速が鈍くなるのは明白だ。ただ、コーナリングスピード自体はそれほど影響しない、というのが小澤総監督の言う検証データということなのだろう。
そして、毎レースのキーポイントになるのがタイヤのマッチングだ。「今季のダンロップタイヤはバリエーションが増えているので、そうした点でも心配はしていないですね。オートポリスはタイヤの攻撃性が大きいコースなので、無交換作戦を取れるチームはないと踏んでます。また路面温度もそれほど高くなく20度〜30度あたりを想定したタイヤを持ち込んでいます」と小澤総監督は話す。
ここまでのレースを振り返ると確かに気温が高く、路面温度が高いときはダンロップタイヤは実績を出している。逆に路面温度が低いときはブリヂストンが好結果を出している。さらにヨコハマ勢は幅広い路面温度で速いタイムを計測しているので要注意なのだ。
またライバルはサクセスウエイトを搭載しているマシンと軽量マシンが混在している状況なので、このオートポリスでは当然軽量マシンが有利となる。そうなれば軽量のマシンが予選上位を占め、BRZ GT300は重たいながらも軽量マシンを抜いていくことになり至難の業となる。したがってBRZ GT300はマシンの重量は重いが予選で上位にいないと苦しい展開になることが容易に想像つくわけだ。
公式練習
予選、決勝と同じくらい集中しているのが土曜日の朝に行なわれる公式練習だ。ここでタイヤ、マシンのセットアップを決める。だからこの時点で予選も決勝も展開の大半が決まると言っても過言ではない。
いつものように山内がセットアップ走行を開始する。9月12日のSUGO大会以来1ヶ月半ぶりにBRZ GT300のコクピットに収まる。まずはマシンのコンディションチェックをし、持ち込みタイヤの中からベストマッチを探し煮詰める作業が始まる。
オートポリスの路面はタイヤへの攻撃性が高く摩耗が激しい。だからグリップが高いのだろうと思いきや実はμは低いのだとダンロップの担当者は言う。したがってハード系よりソフト系のマッチングがいい。だが攻撃性が高いだけに摩耗も激しいという厄介なコースでもある。さらに、コースレイアウトの影響でピックアップが起こりやすく、また表面だけが削れてグリップしないグレイニングも起きてしまうという。
計測とピットインを繰り返しスプリングの変更やエアロでのダウンフォース調整などが4〜6周ごとに繰り返される。山内は100kgを搭載しながらもトップタイムを刻むまでセットアップは進み、今度は井口卓人に交代する。井口は決勝を見据えたセットに変更しロングランをテストする。タイヤもニューではなくユーズドを使用し、燃料も満タン相当を搭載しタイムの落ち込みデータなどを計測していく。
こうしたテストの繰り返しによって、予選の戦略、決勝の戦略という道筋をつけていくわけだ。
想定を超える予選
GT300クラスは29台がエントリーし、予選はA組15台、B組14台に分かれる。各組8番手までが予選Q2へと進出。BRZ GT300はA組で走り井口がステアリングを握る。使うタイヤはソフトタイプを選択。3周のウォームアップ後アタックし、井口は1分42秒869をマークし2位となった。
このタイムは午前の山内が出したファステストを上回るタイムで、順調にセットアップが決まったことが伺える。この後、さらにB組やGT500クラスのマシンがアタックをするので、Q2のときにはさらに路面にラバーが載りグリップがよくなることが想定される。それを知り見守るファンは山内に期待をかける。
山内がQ2に挑む。十分なウォームアップ後フルアタックし、1分42秒316をマークした。これはなんとコースレコードだ。100kgを搭載しながらもコースレコードを出すとは!ドライバーもマシンもその潜在能力の高さを魅せたと言えよう。
暫定ポールを取った。が、直後にサクセスウエイト0Kgの31号車aprプリウスPHVに山内のタイムは塗り替えられた。結果BRZ GT300はフロントロー2番手からのスタートポジションとなった。
「本当にウエイト搭載している?ってほど乗りやすかったです。コーナーでのバランスも普段と変わらないし、ブレーキも大きくは違いを感じないので思いっきりアタックできました」と予選終了後に山内は語った。
決勝
決勝のスタートドライバーは山内。レース序盤で首位奪回を期待する。レース前、小澤総監督は「今日のレースは消耗戦になるでしょうね。とくにセカンドスティントで」と話す。
オートポリスの路面はザラザラしている。タイヤの摩耗には大きく影響しレース後半ではどこまでタイヤが持ちこたえるかという消耗戦になるだろうと予測しているわけだ。
スタートから序盤、山内はポールポジションからスタートした31号車を猛追する。しかしコーナー立ち上がりでいとも簡単に引き離されていく。サクセスウエイトの影響がはっきりと出ているシーンだ。次第に31号車のペースは上がり31号車、61号車、52号車の上位3台だけが1分44秒〜45秒台で周回し、4位以下は1分45秒台後半なのでどんどんと離れていく。
しかし他のマシンのコースアウトやクラッシュが続出し、FCYやセーフティカー、救急車も出動するなど荒れた展開になった。広げたリードも失うSCも、2回入り落胆するかと思いきや山内は、リスタート後に再び31号車を交わすチャンスだと捉え狙いを定めていた。
一方、ピットでは一旦冷えてしまったタイヤが再び同じように走れるのか?を心配する。レースタイヤのデリケートな部分だが、過去に何度となく苦い経験をしてきている。
ところがリスタート後、グリップはあり追撃体制となった。が、100kgのウエイトは遺憾ともし難くトップに立つことはできなかった。
粘る井口卓人
30周目にピットインし井口卓人へバトンを渡す。レース前、井口にどっちのスティントを走るのかを聞いた。「今日は山ちゃんが先です。セカンドスティントは消耗戦になるので大変ですけど、覚悟は決めました」と話していた。
井口はアウトラップで後続の96号車に抜かれ3位に後退。しかし1秒以内の差で追いかけ10周ほど追いかけた。「96号車は仕留められそうでしたけど、近づくとピックアップが出てグリップが薄くなるんですよ。たぶんラインを変えるからだと思うんですけど結局抜けなかったです」
トップ争いをする先頭31号車のサクセスウエイトは0kg、96号車は24kg、そしてこの後追いついてくる52号車は66kgの搭載でBRZ GT300よりみな軽量のマシンばかりだ。
セカンドスティントは序盤と異なりレース全体が落ち着いている。一方GT500は大きく順位変動するレースが展開されており、GT500とのカラミだけは避けたい。慎重にドライブしながらも3位を走る井口に52号車が追いついて来た。毎周1秒弱程度ラップタイムに差があり、52号車に対し、7秒のリードは次第に縮まっていく。
「52号車がいいペースで追いついて来たので、これはダメだなって思いました。でも3位はキープしたいので必至でした」井口はタレてきたタイヤとも格闘しながら後続をブロックする。相手も同様にタイヤは苦しいはずだ。
10数ラップテールtoノーズの攻防は続いたが井口は3位を守る。次第に52号車もタイヤがきつくなってきたのだろう、徐々に離れはじめ0秒5前後の差での追撃に変わった。結局最後まで井口は3位を守り切ることができチェッカーを受けた。
「大金星、大金星! 想定以上の結果になって素晴らしかった。チームスタッフ、ドライバーの頑張りが結果につながって嬉しいですね。それにマシンのセットアップも良かったです。セクター1、2は遅いんですが、セクター3の登りで離していけるセットになっていて、うまくいきました。これでますます身が引き締まります」と小澤総監督も大喜びだった。
残り2戦。シリーズチャンピオンが現実味を増す3位表彰台だった。チームポイントは2位に11ポイント差をつけ、ドライバーズポイントは12ポイント差で首位に立っている。次戦のもてぎではサクセスウエイトが半減され75kgの搭載となる。今回のレースを見ればBRZ GT300に死角はない。速さだけでなく、強さも身に纏ったBRZ GT300に次戦も期待したい。<レポート:髙橋明/Akira Takahashi>