2021年の全日本ラリーも終盤を迎えている。10月16日(土)、17日(日)にスペシャルステージ(SS)を12本走るハイランドマスターズ2021が岐阜県飛騨高山エリアにおいて、無観客で行なわれた。SSはトータル68.46km、リエゾン305.8km、総移動距離374.26kmで競われ、オープンクラスをあわせて66台が参戦した。注目のトップカテゴリーJN1クラスは12台のエントリーだった。
第7戦、第9戦(第8戦は中止)の北海道グラベルラリーで連勝中のGRヤリスを駆る勝田範彦/木村裕介組がターマックも速いのか。シリーズランキング4位で迎えた鎌田卓麻/松本優一組の活躍にも期待がかかる。そして実質開幕戦の新城ラリーで魅せた新井親子のワン・ツーが見れるか。R5仕様を仕留めるチームは?など興味は尽きない。
レッキ金曜
金曜のレッキ(コース下見)後、新井敏弘に話を聞くと「今シーズンほどマシントラブルが多かった年はないね」と振り返る。今回のハイランドマスターズのSSについて新井は「コースが単調で難しいところがない、腕の違いを魅せる場面がないのでマシンの差を詰めるのは難しい」とも話す。
新井は、すでに選手権でのトップ争いには届かない位置になっている。第10戦ハイランドマスターズが始まる前までの順位は5位。トップ福永修が106.5ポイントで新井は48.5ポイントだ。残り2戦の状況で、優勝ポイントは20点だから仮に連勝してもトップには届かない。したがって狙うのは、どこまで上位に入るかに絞られる。
一方、前年度チャンピオンに輝いた新井大輝も、シーズン前半に欧州遠征し選手権には参加していない。さらにアクシデントによる怪我もあり、全日本ラリーへの復帰も前戦のラリー北海道からなのでチャンピオン争いには絡めない状況だ。
そうした中、前戦のラリー北海道で新井大輝は格の違いを魅せトップを快走する場面もあった。が、途中エンジン不調に陥り優勝を逃し2位となっている。その大輝もこのハイランドマスターズでは「コースとしてはレグ2のSSで天気が雨になれば、勝負になると思う」と話す。
それは、レグ2は一部コンディションの悪い場所があるので、雨になればテクニックが要求される。そうしたシチュエーションとなればタイムは縮められるだろうと言うのだ。やはりマシンの差をどこで詰めるか、コースレイアウトだけでは限界があるということだ。
レグ1土曜日
天気にも恵まれた土曜日レグ1はSS1からSS6までのトータルSS33.34kmで競われた。コースは狭く比較的下りルートが多い。軽量のGRヤリスはブレーキへの負担が軽く、もちろんレーシングカーのR5仕様ファビア2台も有利なSSだ。
そして始まったSS1では、予想どおりGRヤリスの勝田範彦/木村裕介組、R5のファビア福永修/齊田美早子組がトップ争いを演じ0.8秒差で勝田がトップ。スバルWRX STI勢は大きく引き離され5秒以上のタイム差となった。
この展開は以降のSSでも続き、次第に軽量を活かしたGRヤリス奴田原文雄/東駿吾組も上位に進出。もう一台のファビアを駆る柳澤宏至/保井隆宏組も上位に入り、WRX STIではひとり気を吐く鎌田卓麻/松本優一組の4位が最上位という展開だった。また、SS2ではチャンピオンシップをリードする福永が痛恨のスピンをし、20秒以上ロスし脱落するかに思えたが、その後驚異の挽回を演じレグ1を2位まで順位を回復した。
レグ1最後のSS6では福永が勝田に1.8秒リードしてトップ。続く3位にもう一台のガズーレーシング眞貝知志/安藤裕一組が入った。WRX STIは4位に新井敏弘、5位新井大輝、6位鎌田卓麻という順で、レグ1終了時点での総合順位はトップ勝田範彦、2位福永修で17.6秒差、3位柳澤宏至17.7秒、4位奴田原文雄18.2秒、5位鎌田卓麻20.7秒、6位眞貝知志22.6秒、7位新井大輝25.4秒、8位新井敏弘28.9秒という結果だった。
レグ1を終え新井敏弘は「大きなミスもなくやれることは全部やったと思う。リヤのセッティングを変えたりもしたけけど思うようには走れなかった。やはり重量の差が大きいかな。下りのブレーキではダイレクトに影響するからね」と。
一方の新井大輝も「特に問題はないです。精一杯走っての結果でした。クルマも問題ないしできる限りのアタックはしているつもり。でもGRヤリスは速くて届かないな」鎌田は「ものすごく頑張っているんですけど5番手ですね。う〜む、どうしましょう」と言葉少ない。
初日トップで終えた勝田は「前半はアンダーステアが強くて走りにくかったけど、自分が思っているよりタイムが出ているんでね。1ループ終わって変更したのはトーを少しアウトにしたくらいで、他は特に変更していません。今日は下りメインのコースだったからR5にも差をつけられたけど、明日は逆に上りのコースになるから、一気に差を縮めてくると思う。様子を見ながらやるとすぐに逆転されるから、始めから全開でアタックしていかないと、と思ってます」と話した。
痛恨のスピンをしながらも2位まで挽回した福永は「SS2でスピンしたときは終わったってちょっと思いましたけど、気を取り直してアタックしました。クルマも調子いいからこれまでにないくらい集中して走りました」
そして注目はGRヤリスの奴田原文雄だ。このGRヤリスにはガズーのワークスパーツは一切使われておらず市販車のまま。それを奴田原自信が開発した足回りでセットアップし、EUCもデフ制御もノーマルCPUのままで戦っている。それでもWRX STIを上回り、さらにR5と1.5秒差にまで詰め寄る速さを魅せているのだ。GRヤリスの潜在能力の高さが光ってきた印象だ。
奴田原自信も「もう少しでファビアを抜けるけど、という感じでなんかモヤモヤしてます。クルマは問題ないですね。軽いから速いね、こうしたコースだともっと行けそうな気がしているんだけど。明日は天気が雨予報だから、上位を狙えそうだけど自分も墓穴をほらないようにしないと(笑)」というコメントだった。
レグ2日曜日
天気は予報どおり雨となった。路面はウエットで気温が前日とは大きく変わりサービスパークでは外気温9度。一気に冬の気温にまで下った。さらに風が強く作業用サービステントを撤収しているチームも多いほどで、体感温度はさらに低く感じる。そうした中、朝イチのSS7はコースカーからの状況報告によりキャンセルとなった。のちに、鎌田卓麻はこの判断は素晴らしかったと高く評価している。競技をするには危険な状況だったようだ。
続くSS8からは通常どおりに行なわれ、注目はダンロップが雨用ニュータイヤ・ディレッツァ201Rを用意してきたことだ。GRヤリスの勝田、WRX STIの鎌田が装着しどこまでタイムを伸ばせるのか注目。するとそのダンロップを履く鎌田が3位に入り総合でも3位の柳澤に0.3秒差まで詰め寄ることに成功した。
つづくSS9で鎌田はさらに調子をあげ2位をゲット。その結果総合で3位に浮上し午後の最終ループに挑むことになった。それにしても鎌田はSS9でトップだった勝田より5.9秒離されており、GRヤリス独走という状況だ。このSSは5.87kmだから、5.9秒差は1秒/1kmというパワー/ウエイトレシオの差が顕著になったと言えるだろう。逆に言えば勝田の駆るGRヤリスだけが突出して速いということだ。
SS11ではギャンブルに出た新井大輝が見せ場を作った。午後のループでは雨は上がり徐々に乾き始めているものの、SS10ではセミウエット。ほとんどのドライバーは雨用を装着していたが、新井大輝はドライを装着する賭けに出ている。そしてSS11がドライに変わり、新井大輝は2位のタイムを出した。が、それでもトップ福永修のR5には5秒のタイム差があり、如何ともし難い。
SS12を終え総合でGRヤリス勝田範彦/木村裕介組がターマックラリー初優勝をした。勝田は「2位とのタイム差を見ながら走りましたけど、それでも福永選手のスピンに助けられましたね。それと新しいダンロップのタイヤがバッチリでした。すごくグリップしているので安心して走れたのが良かったです」とコメントをしている。
2位の福永修は「ミスが多くて。。。次回頑張ります」と言葉少なめ。優勝に届きそうな展開だっただけに悔しさがこみ上げているのだろう。
3位に入ったスバルWRX STIの鎌田卓麻は「タイヤのおかげでした。頑張って作ってきたタイヤなので、そのデビュー戦で3位まであがれたのでボクとしては大満足です。セミウエット、ドライという条件でもこの201Rはいい走りができました。グリップが高いので安心感が強く、計算できましたね。だから、それほどアタックもしていないし危ない思いもしていない中で3位になれたので、今日は作戦通りというかコントロールできました」とコメントしている。
一方でギャンブルに出た新井大輝は総合7位。「トップ獲るつもりでギャンブルしたんですけど、2位どまり。4.55kmのSSでR5に5秒届かないので今回は何をやっても難しかったですね」と完敗を認めていた。また新井敏弘も総合6位と振るわず、見せ場を作ることは叶わなかった。
次回は延期されていた第4戦の久万高原ラリーが10月30日(土)、31日(日)に行なわれ、実質最終戦となる。シリーズランキングでは勝田範彦/木村裕介組が福永修/齊田美早子組を交わし首位に浮上。鎌田卓麻/松本優一組が3位の柳澤宏至/保井隆宏組に肉薄しており、トップ3争いは久万高原ラリーでチャンピオンが決定する。<レポート:髙橋明/Akira Takahashi>