2021スーパーGT第4戦が栃木県のツインリンクもてぎで開催され、GT300クラスに参戦するSUBARU BRZ GT300は11位フィニッシュとなった。
自信の裏付け
前戦の富士でのレースが優勝まであと一歩という悔しいレースであったこと、6月上旬のSUGOタイヤテストではネガティブ要素のない好テストとなったことなどから、チームの雰囲気は明るく、このもてぎにも自信を持って参戦していた。
その自信の裏付けとなるのがSUGOのタイヤテストだ。BRZ GT300は前戦で優勝を逃し2位となった要因のひとつに、レース全体でのタイヤ・マネージメントやタレたときのラップタイムの落ち幅の少なさなどで、一歩引けを取ってしまったとドライバーの山内英輝はコメントしていた。
小澤正弘総監督は、今季のマシンは予選重視というより、レースで勝つマシンにしていくことに重点を置いて開発していると話し、そのためにはピット戦略も含め、タイヤマネージメントも大事だと言っている。
それが、今回第3戦の鈴鹿大会が三重県の蔓延防止措置もあり8月に延期。結果、5月の富士大会から2ヶ月の空白の期間が生じていた。そこでダンロップタイヤが中心となってタイヤテストをSUGOで行なうチャンスを作っていた。チームにとって、それまで課題としていたロングランテストの絶好の機会を得ることになったのだ。
そして、そのテストではネガな要素はまったくなかった、とドライバーの井口卓人は話す。それは小澤総監督もR&Dスポーツの本島代表も、そしてダンロップの担当者も同様の感触を掴み、これまで暗中模索状態だったものが、クリアな視界へと変化したテストだったとも言えるわけだ。
四輪均等荷重
もてぎに乗り込む前にチームミーティングを行ない、SUGOのタイヤテストでのデータを踏まえ、真夏のもてぎのセットアップを決める。そこにはドライバーも参加し、路面温度やタイヤへの攻撃性がサーキットごとに、また季節毎に変わることを踏まえてマシンの方向性を決めていく。
小澤総監督の説明によると、ロングランでのラップタイムの落ち幅を少なくするというのは、端的に言えばタイヤへの負担を減らすことであり、急激な荷重変化はタイヤへの負担を増やすことになるという。ではタイヤへの負担を減らすというのは、実際にはどうするのか。
課題になるのはコーナリングが中心。ステアしたときにフロント荷重になるが、このときイン側のタイヤの荷重とリヤタイヤの荷重がポイントになる。フロント外側が最大荷重になるとしても、残りの3本の荷重をどうするのか。コーナリング中でも4本均等荷重が理想であるが、現実には難しい。つまり、3本の荷重コントロールがキーになり、そのためのセットアップがポイントになるということだ。
その要素は複雑で、シンプルにはジオメトリーがあり、キャンバーやトー、キャスター、キャスタートレールなどが絡み合う。もちろんロールセンターもあれば、デフのイニシャルトルクも、そしてヨーモーメントの中心位置も重要。さらに前後左右の重量配分でも大きな影響が出るわけだ。スーパーGTではサクセスウエイトの搭載位置が指定されているため、その対策にも熟考が必要となる。そしてダンパーやスプリングの減衰調整、スタビライザーの強さなどダイアゴナルロールを形成する要素をレース毎に、路面のミューごとに想定し、セットアップをしていくということになる。そして4本均一荷重を狙っていくというわけだ。
不確定要素もある
今回のもてぎでは路面温度とミューがキーになった。50度近い路面温度のもてぎのデータはない。それは各チーム同様の条件で、どこの数値を想定するかという違いになる。タイヤへの攻撃性も低く、ダンロップタイヤの担当者によれば、スーパーGTの中では最も滑らかな路面だと説明する。
想定するデータはコンストラクターであるR&Dスポーツが中心となり、均等荷重を目指すわけだが、路面ミューが低いことからマシンをゆっくり動かし、ジワリと荷重をかけていく必要があると読んでいる。攻撃性の高い路面であれば、つまりグリップが高ければマシンをスパッと動かしガツッと荷重をかけていくセットになるが、その正反対の性格ということだ。
金曜日。ダンロップのタイヤ担当に話を聞くことができた。「富士のタイヤより少し剛性を変更したタイヤです。もてぎの路面を考慮してということと、ドライバーの好みも多少あります。またJAFGTの60号車とも違ったタイヤで、カスタムオーダー的に対応しています」と説明。
ドライバーの乗り方や攻撃性の小さいもてぎという要素を踏まえたタイヤを用意しているという。コンパウンドはソフト、ハードを用意しているが、キーになるのはタイヤ剛性に関係する構造と熱ダレということだと想像する。
熱ダレとは、コンパウンドが合っている、合っていないということではなく、タイヤ全体でグリップするのではなく、表面だけでグリップさせているような状況で、これはタイヤ内部の発熱が原因らしく、ヘタってくると熱ダレを起こしやすくなる傾向があるという。
もてぎに乗り込む前までの状況は、こうした環境や情報があったためチームのムードは明るく、タイヤ担当も含め、自信のある表情をしていたのだ。
バランスが取れない
ところが、土曜日の朝の公式練習では路面温度31度で気温26度。ミューは非常に低くよく滑るコンディションとドライバーは感じていた。セットアップをする山内は乗ってすぐにグリップしないことを伝えていた。タイヤはハードタイプを選択。
2、3周計測しピットで変更作業をする。この時チーム状況としては4輪均等荷重を目指す前段階で、まずはグリップを稼ぎドライバーが乗りやすい状況を作り出すことだった。スプリングを替え、マシンがジワリと動く方向を目指していたという。
しかし山内は「悪かったときのBRZの走りを思い出しちゃいました」というほど、バランスが取れていないようだ。セットアップは時間との戦いでもある。公式練習時間内で、すべてをまとめなければならない。タイヤもソフトに変更するものの、大きな改善にはつながらず、答えにたどり着けない。
山内によれば、路面コンディションとタイヤがマッチしていないので、いろんなところがしっくり来なかったと話す。ブレーキングやコーナリングでのリヤの浮き上がりや高速コーナーでもリヤが薄いと感じていて、しまいにはギヤ比まで合わなくなってきていると訴えていた。
井口卓人に交代しセットアップを続ける。が、井口も簡単にリヤがスライドしていたと説明している。その結果公式練習では参加台数29台中、19番手のタイムしか計測できなかった。
決断
この結果を踏まえ、チームは大幅なセット変更を決断した。ダンパーやスプリング、スタビライザーでは対応できないと判断し、ジオメトリーを変更することにした。これはもてぎの路面を想定してのセットアップの見直しと捉えていいだろう、ジワリと動かすのか、素早く動かして荷重をかけていくのか、そうした想定値が予想以上に路面状況が違っていたということだ。
サーキットの路面データは当然、前回のレースデータをベースに季節や気温から想定するが、昨年のもてぎは9月と11月の開催。とくに11月のレースではポールポジションを獲得しているため、ある程度のセットアップ方向は見えている。だが、今回のもてぎでは、こうしたデータとは異なるセットが要求されていたわけだ。周りを見渡すとダンロップユーザーも含め全体的にタイムは伸びていない。やはり全チームがもてぎのコンディションに手こずっていることがわかる。
公式練習を終え、2時間半後に始まる予選に向けて急ピッチで作業が進む。驚いたことにトランスミッションのギヤ比変更も行なっていた。山内がコメントしているように2速、3速、4速の繋がりが悪いようで、ギヤの組み換えをしていた。
路面のミューとタイヤグリップがマッチしないことで、こうしたギヤ比変更にまで及ぶものの、高い気温での走行は、エンジンの出力にも不安はある。これは各チームとも同じ条件ではあるが、影響の大きさという点では小排気量の分だけ影響は大きい。ただし、実際に出力ダウンしていたかは定かでない。小澤総監督も「ターボ車が暑さに弱いのは昔の話で、今は優秀なインターク−ラーもありますからね」と。とは言え、空気密度は下がり充填効率が下がっているのは間違いない。
Q1突破からの7位獲得
迎えたQ1予選、井口がアタック。ジオメトリーを変更しスプリングも変更、スタビライザーにも手を入れギヤ比も変わった。そしてタイムアタックというぶっつけ本番で井口は1分48秒台を出した。公式練習では50秒、51秒台が中心で、山内が2回だけ1分49秒749と49秒902を計測している。そうした中で井口の1分48秒913は大成功で、変更したセットアップが正解であることを証明した。が、ギリギリの8位通過だった。
続くQ2予選は山内がさらなるタイムアップを狙う。25分後に始まるQ2に向け、井口から改良ポイントがチームに伝えられる。急ピッチでメカニックは対応し山内を送り出した。山内は期待に応え井口を0秒511上回りポジション7を獲得した。
朝の公式練習からすれば、上出来の予選結果だったと言える。あとは決勝でどれだけ順位をあげられるかということになる。
不安的中
翌日の決勝も快晴で真夏日だ。路面温度は47度まで上がり、スタートタイヤに指定されたソフトタイプの熱ダレが不安要素だ。
迎えた決勝。スタートドライバーは山内。いつものようにジャンプアップを誰もが期待した。が、残酷にも周回ごとに前車から1秒ずつも離されていく。6位は88号車のランボルギーニ。スタートして2周目ですでに1.430秒開き、3周目に2.155秒、4周目3.306秒、5周目4.438秒・・・・。
10周目25号車に抜かれ8位後退。11周目7号車に抜かれ9位。13周目30号車に抜かれて10位、14周目360号車に抜かれて11位へと周回ごとに順位を落とした。山内のドライビングで初めて見る光景であり、レース後山内は、リヤのムービングがひどくて走れなかったとコメントしている。おそらく熱ダレだったのではないだろうか。
チームは当然状況を把握し、早めのドライバー交代を準備。20周目にピットインし4本ともハードタイプを装着して井口がピットアウト。24位でコースに復帰するがピットインしていないマシンもあるため、周回ごとに順位は動く。
24位→21位→19位→18位→17位→14位→12位→11位と周回ごとに眼を見張る挽回なのだが、実はピット作業に入るマシンがいるための順位回復で、山内から交代した11位でしばらく安定しての走行となった。だが、タイムを見るとトップは50秒台で周回を重ねているが、井口は52秒台であり、1.5秒程度遅いタイムしか出ていない。ハードタイプでもマッチングがいまひとつな様子だ。
42周目にFCY(フルコースイエロー)となり、マシンは80km/hで走行する。わずか1周のFCYだったが、このFCYを期にタイムが落ちていく。再び順位を上げるアタックはできず、ポジションキープの走行となってしまった。
その結果12位でチェッカーを受けたが、21号車がFCYでの速度違反がありペナルティとなり、BRZ GT300は11位フィニッシュということになった。
謎解き
結果を見るとダンロップユーザーで11号車が2位に入り、それ以外の4台はBRZ GT300に続く12位、13位、14位という結果になった。この結果に対し小澤総監督は「11号車はこのタイヤの良いポイントを見つけたんでしょうね。うちはうまく行かなかったです」と話す。
しかし、こうしたセットアップへのトライはひとつ階段を登った場所でのトライ&エラーだと感じた。これまで結果の善し悪しは、タイヤの性能に起因すると考えることが多かったが、ここに来て考え方がタイヤの使い方へと変化していることに気づく。タイヤの性能を引き出す、あるいはタイヤに合ったセットアップにする、という方向に変化し、今回は使い方をうまく引き出せなかった、ということ。明らかにマシンのレベルが上がったことでの変化と捉えることができ、タイヤへの依存というイメージは払拭された。言い換えれば、不本意な結果だったが自信は失っていないはずだ。
シリーズポイントはチームもドライバーも4位から3つ順位を下げ、3戦終了で7位。トップとはドライバーポイントで9点、チームポイントで10点差という状況だ。そしてここまで優勝はないものの着実にポイントを稼いで来ている65号車のLEON AMG GT3がついにポイントリーダーとなった。
次回は得意の鈴鹿。8月21日(土)、22日(日)で猛暑での300kmレースになると予想される。昨年の鈴鹿ではタイヤのセットアップに苦しんでいたが、今季は違ったアプローチでの鈴鹿大会になる。小澤総監督とR&Dスポーツ、そしてドライバー達のアイディアでタイヤの性能を引き出すレースに期待したい。<レポート:高橋明/Akira Takahashi>