スーバーGT SUBARU BRZ GT300ラップタイムが速くなった!

今季のスーパーGT2020は、新型コロナウイルスの影響でレーススケジュールはもとより、テストスケジュールも変更、延期が余儀なくされている。だがチームはマシン開発の手を休めているわけではない。SUBARU BRZ GT300のアップデートについては前回お伝えしているが、今回はより具体的な内容についてお伝えしよう。

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パワートレーン搭載位置変更による効果

2020年はエンジンとトランスミッションの搭載位置を限界まで下げたということをお伝えしている。その結果重心高も2019仕様よりわずかに下がった。そして同時にオルタネーターをリヤへ移動させ、前後の重量配分も多少の違いが出ている。

こうした変更により具体的には何が変わったのかを渋谷総監督に話を聞くと、パイピングなどの軽量化も同時に行なうことができているので、重量配分の変化がいい方向に出ているという。

数値としては前後の重量配分は2019年より0.2%リヤ寄りに変わっている。またヨー慣性モーメントも0.6%小さくなったという。そして重心高が下がったことにより富士スピードウェイでラップタイムをシミュレートすると、各変更ポイントごとに約0.05秒速くなった。つまり、前後の重量配分で0.05秒、ヨーモーメントで0.05秒、重心高の変更で0.05秒ずつスピードアップしているので、合計0.15秒から0.2秒程度速くなっている結果が出たという。

1周で0.2秒速くなったとすれば、162周した2019年の富士スピードウェイ500マイルレースだと、単純計算で32秒速くなる計算だ。これは相当なアドバンテージとして考えていいだろう。

総監督3年目となる渋谷総監督。シリーズチャンピオンを獲得するためにも役割分担を明瞭化したという

ドラビリの向上

渋谷総監督によれば、こうした計算上の数値、タイムより、ドライバーが感じるフィーリングの向上にメリットが大きいと言う。これまで、旋回性能の高いBRZ GT300ではあるが、空力やタイヤのマッチングも含め旋回性を高めるとフロントのグリップ感が薄く、ダウンフォースの強化が求められた。対策をすれば今度は空気抵抗は増え、旋回性は良くなってもラップタイムは落ちてしまうという二律背反に苦労をしていた。

その根本的な解決法として、今季の変更にトライしデータ上では文句なしのデータが揃ったというわけだ。これは実走行でもドライバーは感じており、井口卓人、山内英輝両ドライバーとも鈴鹿テストでの感想は「曲がるようになった」とコメントしており、ダウンフォース不足は感じていないという。

左)井口選手、右)山内選手ともにマシンの進化に手応えを感じ、表情は明るい

BRZ GT300は大改造していた!

実は、このエンジン搭載位置変更では、マシンを大改造しているのだ。搭載位置自体はわずか数ミリ下げただけなので、エンジンを支えるボルトを長穴で解決できるレベルかと思いきや、トーボードからの新設計に変更していたのだ。

BRZ GT300のエンジン搭載方法は市販車のようなエンジンマウント方式ではなく、トーボード(バルクヘッド)へボルトで支持する固定方法で、ボルトや壁面などの強度がどれほどなのかイメージしにくいほどの強度が必要である。そうした部分を新設計しており、見た目は19年仕様との違いがわからないが、マシンは大改造されているというわけだ。

フロントウインドウから前部のシャシーは新設計されたと言ってもいいほど改良されている

信頼性が高まったパワートレーン

そのパワートレーンでは、責任者にスバル時代にエンジン設計をしていた河原畑(かわらばた)氏が部長として関わり、担当部長にはWRCの時代からEJ20型を見ていた小澤氏の2名が新たに加入している。

こうしたEJ20型のスペシャリストとも言える人的補強も行なわれ、エンジンのハードパーツから制御に至るまでの総合的な見直しをこの冬場に行なっている。そして岡山、鈴鹿の公式テストおよび富士スピードウェイでのシェイクダウンテストの合計3回を1基のエンジンで走り切るテストしている。

その間、マイナートラブルも含め一切のトラブルは発生せず、これはかつてなかったことだという。1基のエンジンでの走行距離も過去に例がない走行距離であり、つきまとうマイナートラブルも出なかったということからも信頼性が高まっていることがわかる。

通常、スーパーGTは300kmレースであり、最長の500mileレースでも約800km。しかもこれらはGT500がゴールした時点でGT300もチェッカーになるので、実際はもう少し短いレース距離だ。

さらに排気系に合わせた制御の最適化が行なわれている。これはコーナリングスピードに磨きのかかったパワーユニットとするために、レスポンス向上を狙った制御変更ということで、おそらくタービンのレスポンスを上げる方向の変更でA/R比の縮小ではないだろうか。

これらの変更や見直しによって目標のレース距離を走れるエンジン、ミッションへの信頼性はかつてないレベルに上がったと言っていいだろう。

タイヤ開発

渋谷総監督によれば、特に2019年シーズンはタイヤへの期待が大きく他力本願的な気持ちもあったという。しかし、今季のパワーユニットの進化によって自分たちが得意としている部分を伸ばすことができ、間違いなく総合力は向上できたという。

タイヤへの要求はこうしたパワートレーンの進化によって、グリップ力の高いタイヤへと変化してきている。速さを活かすためにはよりハイグリップなタイヤでタイムを上げ、予選、決勝を通じて常にトップ集団にいる展開を目指しているわけだ。

ただ、これまでのテストではドライ路面で路面温度が高いというコンディションでのテストが不十分であり、タイヤに関してはもう少しテストをしたいというのが本音ということだ。それでも十数種類あるテストタイヤの中かから、かなり絞り込めてきているということで、あともう少し条件の整った時にテストを実施できればという状況だ。

タイヤメーカーのテストは4月22日、23日に鈴鹿サーキットで行なわれる日程になっている。この時期の鈴鹿でドライ条件のテストができれば、かなりのデータが蓄積でき、ある程度の目処がつくレベルにまでなると思われる。ただ新型コロナウイルスの影響だけが心配で、テストできるかどうか、微妙なところだ。

1スティント中、ハイグリップを維持し続ける性能を求める方向へシフト

空力変更

エアロパーツ関連では前回のレポートからは大きな変更なく、フロントスプリッターの形状変更に伴い、フラットボトムに装着されるバーチカルフィンの角度などの調整が行なわれている。

そのフロントスプリッターでは、断面形状と長さの変更を加えている。鈴鹿テストのときは試作品で走行しており、富士では本製品にしてのテスト予定だったいうことで、試作品での良好なテスト結果から本製品にしたというパーツだ。

今季はフロントブレーキの軽量化にも取り組み、ABS制御も含めより攻撃的な走りができる

そしてブレーキの軽量化などもあり、タイヤハウス内やエンジン房内の空気の流れなどの調整はシーズンを通して行なわれていくだろう。

サーキット毎での空力変更では、あまり大きな変更はないようだ。渋谷総監督によればフリックボックスの形状変更で乱流とドラッグ、ダウンフォースの調整を行ない、サーキットによってカナード調整でまとめていくイメージだという。

このフリックボックスはフロントバンパーからフェンダーにかけての開口部で、ボディに粘着性のある空気の流れをコントロールするのに利用する形状だ。

フリックボックス、カナードは常に形状変更してベストな状態へと導くキーポイントかもしれない

またリヤディフューザーの形状変更も予定している。これはリヤバンパー上部のパーツを外す変更で、剛性を含めたシミュレーションを行なっている最中であり、データが揃い次第変更するということだ。

リヤバンパー上部のエアロパーツはこの先変更される予定

BoPの変更

2020年はGT300のウエイトハンディのレギュレーション変更があった。第2戦から6戦までは1ポイントあたり3kgの重量を搭載する。第7戦はポイント×1.5kgで、開幕戦と最終戦は変更なくウエイトハンディはゼロになる。

SUBARU BRZ GT300の2020仕様。戦闘力を高めシリーズチャンピオンを目指す

GTAではGT3の大排気量、太いトルクへのハンデとなるように重くする手段を選んだが、BRZ GT300のように2.0Lという出場マシン中もっとも小排気量のマシンには厳しいハンデになる。

渋谷総監督によれば、トルク/ウエイトレシオで見てもらえば重量への感度が高いBRZがいかに不利となるかは一目瞭然だという。得意とする鈴鹿、SUGO、オートポリスへ如何にウエイトを積まないで参戦するかという戦略面で課題が出てきている。だが、これも新型コロナウイルスの関係で開催時期は不透明となり、戦略をたてようにも現状では無理がある状況だ。

こうしてみると、マシン開発は万全の態勢になりつつありシリーズチャンピオンを十分に狙える期待が湧く。が、BoPとコロナウイルスの壁が高くなっているのは間違いない。


The Mortor Weekly

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