今回本命として投入していたタイヤは事前のテストで好タイムを連発していたタイヤだ。しかもオートポリスとSUGOの路面のミューは似ているらしく、レースの数週間まえのSUGOテストでもドライバーも納得できるタイムと操安性能が確認できていた。
想定できないケース
だが、オートポリスの土曜日の朝行なわれる公式練習では、この本命タイヤが全くと言っていいほど機能しないのだ。想定している路面温度と大きな差はなく、渋谷総監督も首をかしげる。ドライバーはタイヤ表面が揺れ動く「ムービング」が大きく、思い切って走れないとコメントしている。
こうした「どうして?」といったことはレーシングチームで起きてはいけない。問題があれば「こうした対応で解決する」といった結論が常に見えていなければレースで勝つことは難しいからだ。もちろん、判断に迷い、ギャンブルとなるケースも多々あるが、「なぜだ?どうしてだ?」といったことはNGだ。
考えられる原因は、これまでのテストでは遭遇しなかったダスティな路面状況がある。確かにパドックでも黄砂だ、とか台風の影響で埃が舞い上がっているのだとか、少しざわついてもいた。だが、渋谷総監督にしてみれば、ダスティなことが原因であれば、グリップが薄いだけで済むはずだと。トレッドのムービングは起きないはずだというわけだ。結局、本命でないスペックの方がタイムが良く、それを予選、決勝で使うことになった。
このあたりは、タイヤメーカーとのコミュ二ケーションとなり、チームにとってのブラックボックスでもある部分だ。それだけ、タイヤメーカーもトライ&エラーをしているということだろうし、俗にいう「ハマった」タイヤにならなかったということかもしれない。
ともあれ、そうした本命タイヤでなくても予選4位であるから、悪くはない。あとはレース本番でタイヤの様子を見ながらピットインのタイミングと交換本数を決めていくという展開が想定された。
決勝のセットアップ
迎えた決勝レース。ドライバーは山内英輝選手で、地元井口選手はチェッカー担当としてレース後半走る順番にした。そしてウォームアップ走行を終え、グリッドに整列する。この時マシンはドライのセッティングで昨日の予選を走った時とほぼ同じセットアップだ。いや、正確にお伝えしよう。
Q1予選の山内選手のセットアップからポールポジションを目指すために変えたセットの内容は、コーナー立ち上がりで若干ノーズの持ち上がりがあったという。だからダンパーの伸び側の減衰を引き締め、ノーズの持ち上がりを抑えるように変更している。そして井口選手がタイムアタックをしたが、前述のようにタイムはのびなかった。
これは、フロントの持ち上がりは治ったものの、逆にリヤタイヤの接地感が悪くなりグリップが薄くなってしまったからだ。非常に微妙なセッティングで、フロントのダンパーはほんの1ノッチ、2ノッチの変更だという。それだけの減衰変更で0秒1の差に影響があるという事実もすごいが、それをコントロールするドライバーの感性もすごいと感じるエピソードだ。
そして決勝では、山内選手の仕様に戻しつつ、リヤの接地性はあげる方向に変更した。これはセクター3で加速が良いとタイムが伸びることがわかっているからだ。
こうした変更をして決勝のグリッドについていた。だが、ここで、レーススタート後、30分から45分後あたりに雨という予報があった。そこで渋谷総監督はマシンのセットをウェット方向に変更することを指示する。
車高をわずかに上げ、ハイドロプレーニングが起きにくい仕様に変更し、リヤウイングはさらに角度を付け、リヤのダウンフォースを大きくする方向に変更した。こうしたセットアップの変更度合いが見極められるのも19年シーズンの特徴であり、進歩した結果だと言えよう。