スバル STIの先端技術 決定版 Vol.22
スーパーGT 最終戦 第8戦 ツインリンクもてぎ
2018年11月10日(土)、11日(日)に栃木県のツインリンクもてぎで今季最終戦となるスーパーGT 第8戦「もてぎ GT250kmレース グランドファイナル」が行なわれ、SUBARU BRZ GT300は6位でフィニッシュした。このレースで、BRZは土曜日朝の練習走行でトップタイムをマークし、また予選では4位を獲得。トップとの差は0.298秒という僅差まで速くなっていた。
もてぎは過去4シーズンでポイントを獲得できておらず、また昨季はブレーキトラブルでリタイヤしている。こうした状況から、「もてぎは苦手なコース」というイメージが持たれ、チームも課題があることを認めているサーキットでもあった。しかしながら、練習、予選と速さを見せ、また決勝レースでも6位フィニッシュ。トップとは6秒弱のタイム差でゴールしており、戦力は高かったことを証明したレースでもあった。
シーズン終盤にきて、調子を上げているSUBARU BRZ GT300だが、何を改良してここまで調子を上げてきたのだろうか。じっくりとみてみたい。
苦しんだ前半戦
シーズン前半は、開発目標としていたストレートスピードを上げることに苦労した。もちろん直線スピード、トップスピードは速くなり、トップチームと遜色ない速度を示すデータがあるものの、従来得意としていたコーナリングの良さが犠牲となり、レース結果から判断すれば、苦しんだ前半だった。
後半に向けては、得意だったコーナリング性能を落とすことなく、直線スピードを稼ぐという、やや逆転の思考でマシン開発を行ない、それが見事にハマったレースがSUGOでの完全勝利だった。続くオートポリスではピックアップという路面に落ちたタイヤゴム片を拾ってしまい、満足に走行できないレーシングアクシデントがあり、15位に沈んだ。しかし、この時もマシンは好調で、もし走行できれば全体トップに立てるレベルの完成度を持っていただけに悔いが残るレースでもあった。
そして、迎えた最終戦は全車ノーハンデウエイトとなるため、開幕戦と同様ガチの勝負というレースでもある。BRZが苦手とするもてぎを如何に速くするか? が課題のレースだった。
3番目のダンパー投入 リヤのめくれを抑えろ
サードダンパーを搭載してもてぎに乗り込んできた。聞きなれないパーツだ。これは、前後のダンパー以外に、もう一か所ダンパーを追加したもので、5年前のシーズンでは使用していたパーツだという。それが再び投入となったわけだが、その役目はリヤの浮き上がりを抑える働きをするショックアブソーバーだ。
BRZはもともと軽量、低重心という特徴があり、そのためブレーキング競争では強みを持っていた。もちろんドライバーの技量が大きく影響することは言うまでもないが、同じドライバーでもブレーキの性能、マシンの姿勢が乱れては思い切ったブレーキングはできない。
BRZがもてぎを苦手としていた理由がここにあり、2017年まではブレーキの容量不足が課題だった。そのため、今季より容量をアップしシーズン当初から大容量化されたブレーキで戦ってきた。従って、ブレーキ本体の課題はクリアしていたが、次の課題はブレーキング時の姿勢変化だ。
当然、激しいブレーキングになればなるほど前のめりになるわけで、リヤの接地荷重が不足することは容易に想像がつく。その対策として、ブレーキング時のリヤの浮き上がりを抑えるダンパーを搭載したのがサードダンパーだ。3rdダンパー、つまり3番目のダンパーでドイツZF製のSACHS(ザックス)ブランドのダンパーを搭載した。
BRZのサスペンションはハイパコのスプリングとオーリンズのショックアブソーバーで構成されているが、今回、そこにザックスが追加されたわけだ。リヤサスペンションのリンク部に直接取り付けられたザックスの3rdダンパーは、リヤタイヤの浮き上がり、つまり、サスペンションリンクが持ち上がってくるのを押さえつけるように取り付けられている。
ダンパー自体はクリックして減衰を調整できるタイプで、浮き上がりを抑える効果によって、ハードブレーキング時の姿勢が安定し、沈み込むように減速できるというわけだ。
このパーツの効果は適面で、ドライバーは「全く別のクルマになった」と言わせるほどの違いがあったようだ。今回のもてぎ=苦手、という図式を払拭するタイムが出せたのは、このパーツの効果だと言ってもいいだろう。
となれば、常に装着していれば、BRZは速くなるのではないか?と思ってしまうが、この3rdダンパーにもやはり弱点はあり、S字のような切り返しのあるコーナーでは、このダンパーの介入により、左右のダンパーの仕事を、邪魔をするような恰好になり、接地荷重のコントロールが難しくなるのだという。適度な荷重と抜重が必要な切り返しでは、3rdダンパーは不要だという。
BBSの秘密 剛性を落とせ
そして、もう一つがBBSホイールの秘密だ。スーパーGTではレギュレーションで、ホイールにもさまざまな制約が掛けられており、重量は10kg、材質はアルミのみ、という条件がある。もちろんサイズも決められているのは言うまでもないが。
その決められた範囲の中でホイールメーカー各社、技術を競っているのも事実だ。BBSは、STIと協力してホイール開発を行なっており、今回その秘密の一端を知ることができたのでお伝えしよう。
ポイントは剛性としなやかさのバランスだ。ホイールの剛性は高いほうがもちろんいいが、剛性が高すぎてもタイヤの性能をフルに発揮しにくくなるのだという。クルマのボディ剛性も同じだが、固いボディは一見良さそうに思えるが、実際は入力されるGをいなすボディとなっている。こうした発想はレーシングカーと市販車製造のノウハウを互いにフィードバックさせたことによるものだ。
そしてホイールも同様に、入力をいなす技が必要ということだ。また、BBSジャパンの田中氏によれば、「2Gを超えるような入力のあるスーパーGTでは、ホイールはしなります。そのとき、イメージとしてゆっくりとつぶれていくほうがドライバーはコントロールしやすいんです」と言う。
タイヤで言えば、グリップ限界を超えたときに、いきなりスパーンと滑るのではなく、限界付近でジワリと滑り出しが感じられたほうがコントローラブルだということと同じだという。
ホイールを断面で考えると、コの字の格好をしているのは知っているだろう。コの字の右側がディスク面(デザイン面)であり、左側は空洞だ。この形状からも外側のほうは剛性は高く、内側は剛性が低いというのはすぐ理解できる。
そのため、剛性コントロールのために、質量調整をしているという。つまり、外側の質量と内側の重量バランスを変えるとこで、ジワリとしなるホイールを製造しているというわけだ。BBSジャパンによれば2016シーズンからこうした開発に取り組んでおり、2016年のシーズンに装着していたホイールより一部の剛性を数十%も下げているということだ。
こうした理論から製造されたホイールを2017年シーズンより投入し、タイムの向上という結果が出たということで、この理論に基づき、製造されたホイールで継続参戦している。
また、その質量調整の痕跡も見て取れる。ホイールセンター付近のトルクピン周りを比較すると、軽量化したように、くり抜かれたものと、くり抜かれてないものの2種類がある。これはくり抜いたほうがフロント用で、穴の開いているほうがリヤ用になっている。マシンには、くり抜いたタイプをフロントに履き、くり抜いていないものをリヤに装着している。しなやかに動くホイールのほうがフロントでフロントの接地感を大切にしているのかもしれない。
NEXT:タイヤのムービング 接地面を増やすには
タイヤのムービング 接地面を増やすには
これらのアイディアの他に、BBSはタイヤのムービングという表現で説明しているが、幅広い接地面を有効に生かすための技術も投入している。
「アンチスリップ」と呼んでいる形状のことで、強いトルクがタイヤにかかった時に、タイヤとホイールの間で滑りが起こらないようにするための技術だ。こうすることで、単にリムとタイヤの滑りを止めるだけでなく、実はタイヤの接地面積を稼ぐことにも貢献しているという。むしろ、そのための技術で、滑りを止めるのは市販車用へのフィードバック技術だという。そして接地面積が増えるという理屈だが、コーナリングではアウト側に荷重が多くかかり、イン側がリフトする。そうならないようにサスペンションのセッティングやジオメトリーが決められるが、ホイールでもサポートしているのだという。
イメージで言えば、接地荷重が薄くならないように、タイヤが動いて接地させているということで、だからムービングという言葉で説明しるわけだ。タイヤが動くとは? タイヤの外側に荷重がかかり、イン側が浮く。だがタイヤが下に下がれば接地面積も上がりグリップ力も高くなる。つまり、タイヤの性能を100%発揮することのサポートになるということだ。
こうした、特殊な技術が投入されたBBSのアルミホイールは、レースごとに、サーキットごとにベストバランスとなるような組み合わせのホイールを選択してレースに臨んでいるのだ。
ちなみにBBSジャパンはアルミ鍛造の製造技術を持っており、F-1チームに供給するBBSのホイールもBBSジャパンで製造している。F-1チームにはマグネシウム素材のホイールをBBSジャパンで製造し、子会社のBBSモータースポーツ社が加工し、チームに供給している。また、近年では超超ジュラルミンのホイールなども開発しており、高い製造技術を持っていることが分かる。
こうした隠された新兵器によって、SUBARU BRZ GT300は年々進化し続けていることが分かる、2018年シーズンはチームランキング11位、ドライバーランキング8位で、満足できる結果ではないが、数多くの試験的技術を投入したことにより、多くの情報が得られたシーズンとなった。こうしたデータを元にさらなる進化を来季に期待したい。
次回は2018シーズンで投入した技術の総括を予定しています。ご期待ください。
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*取材協力:SUBARU TECNICA INTERNATIONAL