スバル・レヴォーグが2014年6月20日にようやく発売された。周知のようにレヴォーグは2013年の東京モーターショーで発表され、1月4日から受注を開始している。1月末にはメディア向けのプロトタイプ試乗会が行なわれていたが、この時点ではナンバー登録されていないため、クローズドコースでの短時間の試乗会となった。6月中旬になってようやくレヴォーグのナンバー登録が行なわれ、公道で試乗する機会が巡ってきた。
レヴォーグのラインアップは、エンジンは1.6L直噴ターボと2.0L直噴ターボの2種類、トランスミッションは全車がリニアトロニックCVTだ。ただし、このCVTは1.6L用と2.0L用ではトルク容量が異なり、1.6L用はリニアトロニック、2.0L用はスポーツリニアトロニックという名称が付けられている。
グレードとしては、最も低価格でベースモデルの1.6GTではアイサイトver3や電動パーキングブレーキが装備されない。ミドルグレードの1.6 GTアイサイト、2.0 GTアイサイトにはそれらは装備され、そして上級グレードでは、ビルシュタイン製ダンパーやより上級の内装を備えたの1.6 GT-Sアイサイト、2・0 GT-Sアイサイトというシンプルな構成だ。価格帯は1.6GTが300万円以下、2.0 GTが350万円前後となる。
すでにこれまでに公開されているレヴォーグ関連の内容はアイサイトver3の技術、詳細技術解説、レヴォーグ・プロトタイプの試乗レポートを参照していただきたい。
レヴォーグはスポーツツアラーと名付けられ、端的に言えばステーションワゴン・タイプのGTカーである。その血統はこれまで25年の歴史を持つレガシィ・ツーリングワゴンのリサイズ、リセットであり、コンセプトの再定義という意味を持つ。レガシィがアメリカ市場に軸足を移したのに合わせてGTワゴンを改めて見直し、新たな価値を基準にして造り込み、熟成を行なっているといえる。
開発時に開発チームが参考モデルとしてイメージしたのは、アウディS3だった。その走りや質感に匹敵するレベルのクルマを250万円~350万円という価格帯で実現しようという挑戦的なプロジェクトである。そのためプラットフォームから新設計され、単にGTとしての走りの性能の特化だけではなく、全方位での性能を底上げしているのだ。
例えばプラットフォームの剛性を高めたり、遮音フィルム入りのフロントガラスを採用するなど、多くの技術を採用し、室内に伝わる微振動の低減や静粛性の大幅な向上を実現し、長距離ドライブでも疲労を少なくすること、運転席からの視界の良さを追求し、ドライバーのストレスを少なくするといったクルマとしての基本性能を従来のレベルより一段と高めている。
ボディは、プラットフォーム部分の鋼板の板厚を従来よりアップし、フロントからリヤまで骨格フレームの剛性のつながりを均一にすることで、大幅な剛性の向上と低重心化を行なっているなど、ボディ造りの新境地を切り開いている。低重心化とはプラットフォーム部は重めにし、アッパーボディを軽量にすることで、従来型レガシィワゴンより約15mm重心が低められているという。
◆インプレッション
テストドライブでは1.6 GTアイサイト、1.6 GT-Sアイサイト、2.0 GT-Sアイサイトの3種類のステアリングを順番に握った。まずは事実上のベースモデルとなる1.6 GTアイサイトから。
じつは、レヴォーグは外観上からはグレードや排気量の違いが見分けにくく、ほとんど共通の外観に見える。しかし、GTとGT-Sの違いはダンパー以外ではタイヤ/ホイールが17インチで、Gt-Sは1.6、2.0ともに18インチとなる。もちろん内装仕上げも少し違いがあるが、走りに関する部分では、タイヤ/ホイール以外にブレーキのディスクサイズとキャリパー容量、フロント・ロアアームがスチール製かアルミ鍛造製か、といったマニアックな違いはある。
1.6 GTアイサイトはプロトタイプ試乗時と比べ、微低速域でのフリクションが低められ、リニア感のある穏やかな特性になっているが、一般的なレベルからいえば硬めだ。これはレヴォーグはベースモデルであってもGTだという主張なのだ。
また、乗り心地、ロードホールディングに関して18インチを装備するGT-Sと比較すると、18インチの方が優れているのも事実だ。その理由は、両サイズのタイヤはいずれもダンロップ「SP SPORT MAXX 050」のレヴォーグ専用スペックで、17インチサイズは燃費性能を考慮した低転がり抵抗タイプ、18インチサイズはトータルバランスを重視した高性能タイヤという違いがあり、さらにダンパー特性やダンパーの剛性の違いによるところが大きい。
GT-Sのビルシュタイン製ダンパーはフロントが倒立式で、横剛性が標準ダンパーより1.5倍程度高いことや、減衰特性がよりリニアで減衰レスポンスが高いということが、ロードホールディングやしなやかなストローク感に繋がっているわけだ。
タイヤとダンパーは、ステアリングフィールにもけっこう大きく影響している。17インチタイヤ/標準ダンパーとの組み合わせでは、操舵フィーリングは全般的に軽く手応えも弱めだが、18インチ/ビルシュタイン・ダンパーではよりしっかりした手応え感がある。これもタイヤの特性の違いとダンパーの剛性に由来するわけだ。
ステアリングホイールはスポーティな印象の新開発の太目のDシェイプで、これまでのステアリングより軽量で、グリップの手触りも優れている。ステアリングホイールを軽量化し、中央内部にダイナミックダンパーを内蔵するなど新たな試みも行なわれている。
ステアリングのギヤ比は14.5と相当にクイックなレシオだが、応答性が良いシャシーとのバランスが優れており、操舵に対してリニアに正確に反応する。この優れた回頭性は、シャシーやステアリングの剛性の高さに加え、4輪独立制御ブレーキによるトルクベクタリング機能、高いロール剛性などの要素もプラスに働いている。ちなみに、実験データではこの回頭性はポルシェ911並のレベルだという。
サスペンションのスプリングやスタビライザーは、一般的なクルマの1.5倍というかなりハードなスペックだが、しなやかさが感じられるのはボディ剛性の高さによるものだという。ドライバーの意のままのハンドリングと、高速時の直進安定性の良さが高次元で両立しているのがレヴォーグの真骨頂だといえる。また、ステアリングを握っているだけで体感できるボディ全体のがっちり感も、クラスの標準レベルを突出しており、これらが安心感や安定感に繋がっているわけだ。
1.6LのDITと2.0LのDITというエンジンの違いは、パワー、トルクのスペックの違いを語るより、万能的な標準エンジンと高性能スポーツエンジンという位置付けと考えた方が分かりやすい。
1.6L DITも低速から最大トルクが発揮されるので、市街地の走りで十分に強力で、ゆとりがありスロットルを踏み込めば十分にスポーティな味わいがある。一方、2.0L DITは、スポーツエンジンにふさわしく、レスポンスがシャープで高回転までトルクの落ち込みがなく、一気に吹け上がるフィーリングだ。そういう意味で、このエンジンは、ドライバーにしっかりとした自制心が求められる。なにしろ、道路を走っている時に驚くほどスピード感がなく、100km/hで高速道路を走っていても実感としては50~60km/hにすぎない。
いずれのエンジンも100km/h巡航は1800rpm程度となり、室内の静かさ、快適さなどは上級セダンに匹敵するレベルだ。以前のレガシィでは気になったチェーン式CVT特有の減速時のチェーンの打音もほとんど気にならないレベルまで低められており、この点も従来のレガシィのレベルを大幅に上回っている。
なおエンジン/トランスミッションのモード切替は、1.6L車は「I」、「S」の2モード、2.0L車は「I」、「S」、「S#」の3モードとなる。
「I」モードは通常の市街地走行や滑り易い路面での使用がメインとなるが、このモードでもアクセルを大きく踏み込めば「S」モードと同等になる。
1.6 DITエンジンは、レギュラーガソリン専用設計で圧縮比が11.0、ターボ過給圧は1bar程度かかるので、自然吸気の高圧縮比エンジンよりはるかに高い燃焼圧に耐えられるように作ってあるが、レギュラーガソリン用点火マップしか持たないため、ハイオクをおごってもメリットはない。
インテリアの仕上げ、質感も従来のレガシィを上回り、この価格帯のクルマの中でもダントツだと思う。また細部の装備も充実しており、前後席各2個のUSB電源、リヤシートバックのリクライニングなどの配慮も行き届いている。またステーションワゴンのラゲッジスペースの機能性と仕上げのよさの両立も、これまでのレガシィの伝統を受け継ぎながらさらに質感を高めている。
レヴォーグは走る性能の他に、何といってもアイサイトver3の初搭載モデルという点も大きな付加価値となっている。アイサイトver3はこれまでのver2の単なる進化版というより、1000万円を超えるラグジュアリーセダンと同等レベルの新機能が盛り込まれている点が、現在では唯一無二の存在といえる。
もともとアイサイトver2で始まった「ぶつからないクルマ」というイメージは衝突回避・被害軽減自動ブレーキを意味するが、正直なところこの機能は万が一のドライバーのミスをカバーしてくれる安心装置であり、日常的にお世話になることはありえない。日常のドライブで恩恵を受けるのは全車速追従式クルーズコントロールであり、ver3はこの機能に加え、65km/h以上の巡航では自動操舵に近似したオートアシストが加わっているのだ。
市街地走行では全車速追従のクルーズコントロールと車線逸脱警報の2機能が働く。一端クルーズコントロールをセットすると、前走車を追従し、前走車が止まればレヴォーグも停止し、前走車が発進すれば、自分の発進が遅れると発進の催促音もする。また走行中に車線を外れそうになると警報音が鳴る。こうした機能は渋滞時では最高のドライバー支援システムとして機能し、有り難味がわかる。
さらにレヴォーグは、自動車専用道路や高速道路では、これに加えて両側の車線を認識することで、前走車に追従しながら車線からの逸脱、車線の中央をキープするように操舵アシストが、つまりアクティブレーンキープが働くのだ。この自動修正舵の機能は、車線を逸脱しそうになった場合には緩やかに修正舵が行なわれ、車線中央維持機能でも車線からずれそうになると自動的に修正舵が働く。もちろんこの場合、ステアリングホイールは軽く握っている必要があり、手で握っていない場合は数秒で警告が表示され、機能はキャンセルされる。
高速道路で試すと、クルーズコントロールは114km/hまでセットできるが、これは実車速が100km/hという意味だ。クルーズコントロールをセットし、前走車をカメラが認識するとディスプレイにグリーンの表示が現れロックオンされたことがわかる。この状態ではステアリングを握る力を緩めるとカーブに合わせて微小な修正操舵トルクが発生するのがわかる。ただし、常に車線の中央を維持するために頻繁な修正操舵が行なわれるわけではなく、車線の中央からやや離れると初めて修正操舵が行なわれるようになっている。このため、隣の車線に車両が併走しているような場合、そちらに少し近寄る気配になることもあるが、一瞬の間を置いて修正操舵が行なわれるということがわかった。
実際のところ日本の道路交通環境では、ドライバーの意思だけで自由に走ることができるケースは10%未満で、通常は常に前後左右にさまざまなクルマが混在している状態でのドライブとなる。東名や名神など幹線高速道路では深夜でも車線をまるで列車のようにクルマが連なって走っているのが実情だ。そんな状況では、アイサイトver3を体験するともう止められなくなる気がする。
もちろん、まだいくつかの課題もあると感じた。一つは車線逸脱の警報音や、クルーズコントロールをセットした状態で交差点を曲がる場合、前走車を一瞬カメラが見失った時の警報音など複数の警報音が鳴るため、紛らわしく、煩わしい。近いうちには車線逸脱警報は、警報音からステアリングを微振動させるという手段に変更されると思われる。
もう一つは、クルーズコントロールのセットや、アクティブレーンコントロールの状態では、ディスプレイ上で前走車がカメラによって認識されているをその都度確認する必要があるが、現状では従来タイプの丸型タコメーターとスピードメーターの間にある小さめの液晶ディスプレイに表示され、視覚的にも窮屈だ。将来的には、メーターを含め複合的でより整理された表示方法や、AR(拡張現実)を含めたディスプレイに移行すべきだと改めて感じた。