【スバル】日本市場に向けて開発された新骨格GTワゴン 「レヴォーグ」(プロトタイプ)を詳細ウォッチ 

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レヴォーグ 1.6 GTアイサイト。17インチタイヤを装着している

2014年1月4日から受注を開始し、デリバリーは5月以降・・・スバルにとっても異例の導入スタイルになった新型「レヴォーグ」だが、そのキャッチフレーズとして「25年目のフルモデルチェンジ」という言葉が掲げられている。

今ではピンとくる人も多くないかもしれないが、周知のように初代レガシィは25年前の1989年に登場した。初代レガシィはそれまでのレオーネから車名を変更し、レオーネの遺産を捨て去り、社運を賭けてすべてをゼロから開発したクルマであった。

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その開発は、世界の同クラスの競合モデルに勝る性能、品質を実現するために「ベスト・イン・クラス」を成し遂げるという高い志で開発されのだ。フルタイム4WDでありながら意のままに曲がる優れた操縦性と、傑出した動力性能から、運転席のスイッチの操作感に至るまでこだわった、まさに富士重工の総力を挙げたプロジェクトであった。

今回登場するレヴォーグが25年目のモデルチェンジであることを呼号するからには、そうしたスピリットと新たなブランドを立ち上げる決意を思い起こさせる。

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レヴォーグ レヴォーグ 1.6 GTアイサイト

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■ポジショニング

レヴォーグの商品コンセプトは「革新スポーツツアラー」で、日本市場のために生まれた革新スポーツツアラーとされている。レガシィは、今やメインマーケットがアメリカであり、必然的に全長5mクラスのDセグメント(アメリカ市場での分類はミドルサイズ)であることが求められている。日本市場とアメリカ市場に適合させる悩みは、すでに1998年当時の3代目レガシィでより明確になっていた。

日本市場では5ナンバー枠、アメリカ市場ではより幅広であることが求められたが、それを両立させるために拡幅したランカスター(アウトバック)を派生させている。しかし、4代目レガシィ以降は一段とアメリカ市場ので比重が高まり、市場適合性を考えると日米共通モデル方式は困難であった。

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このような経緯で、2014年モデルからアメリカ市場を重視したDセグメントサイズの次期型レガシィと、日本のワゴン市場に特化したレヴォーグという2本立てが決断されたわけだ。ただし、レヴォーグは世に多くあるステーションワゴンではなく、スバルらしい価値観を盛り込んだ「スポーツツアラー」とされていることも注目すべきだろう。

スポーツツアラーとは、ステーションワゴンの実用性、ユーティリティと快適性、プレミアムカーレベルの上質感とスポーツカーの走りを融合させたオリジナリティの強いスポーツワゴンを意味する。もちろん走りと燃費の両立、さらに次世代アイサイトの投入も盛り込まれることになり、もはやステーションワゴンという枠を破るポジショニングが行なわれている。

もちろん市場でのポジションはC/Dセグメントに属し、スポーツツアラーのレヴォーグと、これから登場するセダンのWRXの2モデルでインプレッサより上に位置するC/Dセグメントで柱を作り上げようという戦略である。

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レヴォーグ 1.6 GTアイサイトのコクピット

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熊谷泰典PGM(プロジェクト・ゲネラルマネージャー)は、走りや質感ではアウディA3を開発時の性能目標にしたと語るが、もちろん動力性能ではA3以上、ステーションワゴンとしての質感はA4アバントも視野に入っているはずだ。簡単に言えば300万円台の価格帯で輸入プレミアムカーの500万円台のクラスに匹敵するクルマにしようというのが狙いであり、そういう点ががこれまでのレガシィ・ツーリングワゴンユーザーの心に響くに違いないという読みである。だから当然ながら国産車にはライバルは存在しない。

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オーソドックスなデザインだが視認性の良い水平指針式2連式メーター
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17インチホイールはアルミホイールに樹脂製の空力カバーを装着

■パッケージング

レヴォーグのボディサイズは全長4690mm、全幅1780mm、全高1485mm、ホイールベース2650mmで、ほとんど1世代前の4代目レガシィ(BP型)と同等で、5代目レガシィ(BR型)と比べると全長、ホイールベースで100mmのサイズダウンとなっている。

パッケージングとしては、Aピラーを前進させ、その一方でルーフのラインはスバルとしては初めての後ろ下がりとなっている。ただし、ラゲッジ容量は現行レガシィを上回る522L(VDA)で、ゴルフバッグは4個積載できる。またリヤシートの足元スペース、ヘッドクリアランスも十分に確保されている。

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ビルシュタインダンパーを装備するレヴォーグ 2.0 GT-S アイサイト

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エクステリアのデザインは、ソリッド感を重視した面構成とし、前後のフェンダー部はふくらみを持たせ、ダイナミックさを強調しているが、デザイン的にはもう少し張り出しを強めて欲しいと思うが、全幅の制約が厳しいのだろう。なおピラーの内側への倒し込みは少なく、室内スペースを重視していることが分かる。

レヴォーグの特徴は、1.6Lモデルと2.0Lモデルは外観上はホイール以外に識別点がないのも特徴だ。ただしSタイプだけはフロントグリルやヘッドライトのメッキ部がダーク調になっている。

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インテリアは、熊谷PGMが「上質感を思い切り高めたいので、正攻法でコストをかけ、質感を高めました」と語っているが、その言葉通り、ソフトなウレタン・ダッシュボード、軽量なDシェイプの本革巻きステアリングやシートのステッチ処理など細部まで艤装にこだわり、正統派のデザインで見た目、触感ともに高いレベルにまとめられている。

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■燃費とパワーの両立を果たすDITユニット

レヴォーグに搭載されるエンジンは新開発のダウンサイジングコンセプトを取り入れた1.6L DIT(直噴ターボ)と、高性能スポーツエンジンと位置付けられる2.0L DITの2機種だ。1.6L DITは、従来の自然吸気2.5Lの性能を上回るトルクを引き出し、さらにレギュラーガソリンで優れた燃費を引き出すというコンセプトのもとで開発されたベースエンジンと位置付けられている。しかしながら、燃費とGTにふさわしい動力性能を実現するという困難なテーマを抱え、開発は難航を極めたという。

エンジン型式名はFA16型で、デュアルAVCS(連続可変バルブタイミング機構)、TGV(タンブルジェネレートバルブ)を備えた直噴ターボエンジンだ。なおこのTGV作動時は吸気マニホールドの内側を閉鎖する従来タイプから外側閉鎖式に変更されている。また大型のEGRクーラーを装備し、低負荷では大量EGRを使用する。更にアイドルストップ、充電制御(加速時に充電しない)も採用している。

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この新開発のFA16型直噴ターボエンジンは、レギュラーガソリンで圧縮比はなんと11.0という高圧縮比とし、さらにターボ過給圧は最高1barに達するため、NAエンジンでは圧縮比14といったレベルに相当する。出力は170psでリッターあたり出力は106psとなり、最大トルクは2.5LのNAエンジンを上回る250Nm。しかも1800rpmから4800rpmまで最大トルクが維持する特性となっている。

燃費は17.4km/L。SIドライブで低ブーストのIモードを選択して高速道路を走ると満タンで1000kmの航続距離を備え、ハイブリッド車を上回る航続距離を実現しているのが訴求点だ。もちろんSモードでは低回転から250Nmのトルクを生かしたスポーティな走りも味わうことができる。なおこのエンジンは制御的に完全レギュラーガソリンに絞られたシングルマップとなっており、ハイオクを使用してもそれ以上の進角は行なわれず、性能的なメリットはないという。

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FA16 DIT型エンジンのピストンとコンロッド(左側)。FB16用(右)と比べ、ピストン冠部の形状を変更し、ピストン、コンロッドともに強度を大幅に強化して、高い燃焼圧に対応している

一方のFA20型DITは高性能スポーツエンジンと位置付けられ、現行レガシィの2.0 DITとの比較では圧縮比10.6、出力300ps、トルク400Nmは共通だが、バルブスプリングを強化しレブリミットが6100rpmから6500rpmに引き上げられ、より気持ちよいスポーツエンジンとしている。

このエンジンはアイドリングストップは採用せず、プレミアムガソリンを使用する。またSIでライブはIモード、Sモード、S#モードと3モードを備えている。燃費は13.2km/Lだ。なお0-100km/h加速タイムは1.6L車が9.0秒、2.0L車は6秒を切り、いずれもクラストップの加速性能である。

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FA16 DIT用の250Nm用リニアトロニックCVT
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FA16用は燃費性能、FA20DIT用はスポーツ性能を重視

トランスミッションはいずれのエンジンにもチェーン式のリニアトロニックCVTが組み合わされるが、1.6 DITには小容量タイプ、2.0 DITには大容量タイプのCVTが採用されている。1.6 DIT用のユニットは燃費対策としてCVTのオイル攪拌抵抗などを徹底的に抑制している。

一方、2.0 DIT用CVTは走りの性能を高めるため、Dモードで加速している時でも多段ATのようなステップアップ制御を採用し、よりダイレクト感のある加速特性にしている。またS#モードでは8段のステップ変速を採用し、パドル、シフトセレクターでマニュアル操作できるようになっている。変速応答性はDCTや最新の8速ATに勝るクイックシフトにしているという。

■静粛性向上と高剛性を両立させ新世代ボディ

4WDシステムは、1.6L車は油圧多板クラッチ制御のアクティブトルクスプリット式、2.0L車は遊星ギヤ・センターデフタイプのVTD式としている。またアクティブ・トルクベクタリングは全車が標準装備される。つまりコーナリングの内輪に自動ブレーキをかけることでよりコーナリングをしやすいようにアシストするのだ。

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赤色部が特に結合剛性を高めている部位、青色部は980MPa級の超高張力鋼板を採用している

レヴォーグのボディ、シャシーは、飛び道具なしの正攻法で進化・熟成という手法を採用している。ただし、ドライバーの意のままの走りという目標を達成するため、妥協のない煮詰めを行なっている。意外にもボディ骨格はホットスタンプ材の採用はないが、高張力鋼板の採用比率は50%に達している。ちなみにフロントセクション、フロントドアは新型WRXと共通で、Aピラー以降がレヴォーグ専用だ。最高980MPaの高張力鋼板などはいずれも冷間プレス成形されているが、各種の高張力鋼板の組み合わせと骨格の構造の結合のさせ方がポイントだとボディ設計部主査の白昌鎬氏は語っている。

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白昌鎬氏はインプレッサ/XV/86・BRZ以来の新世代プラットフォーム開発を担当しており、今回のレヴォーグと新型WRXが高出力エンジンに対応した強化・発展型と位置付けている。そのためレヴォーグは現行レガシィと比較してもねじり剛性は40%以上も向上している。

骨格の要点は、ボディ全体での剛性のつながり、連続性を重視しており、言い換えれば骨格の結合部やサスペンションからの入力部の剛性をかつてないほど高めている。その代表例がAピラーとフロントサイドフレームの結合剛性の大幅な向上や、リヤ・サスペンション取り付け部の強化、さらにワゴンボディのためリヤゲートの開口部の強化である。しかも追加補強材は少なくし、構造的に剛性を高めているのがポイントであろう。

もうひとつ、レヴォーグのボディでの要点は、圧倒的に静粛性を高めたことだろう。熊谷PGMは現在の世界レベルでの静粛性のハイレベル化を実感しており、レヴォーグでも圧倒的な静粛性の実現を目指している。そのためにボディのフロアパネルの剛性能向上やピラーなどの空洞部への発泡剤の注入、吸遮音材の効果的な採用など静粛性向上のための対策を充実させ、従来の常識から大幅に打ち破るクラストップレベルの静粛性とし、車室内での会話明瞭度の向上を図っている。

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■GTカーとしての資質を磨いたシャシー

フロントサブフレームは、フレーム自体の補強とボディ側取り付け部の強化が加えられた。ここに結合されるステアリングラックギヤの取り付けブッシュ剛性は、従来比で2.5倍にまで高められるなどシャシー側の仕上がりもかつてないレベルにまで到達している。サスペンションは従来通りのフロントがストラット式、リヤがマルチリンク式で、ストラットのキャスター角はかつての6度から3度に半減している。またSパッケージ車は、ダンパーがビルシュタイン製の倒立型でフロント・ロアアームはピロボールブッシュ付きのアルミ鍛造製となっている。

ジオメトリーは、フロントはロアアームの取り付け角をやや弱め、アンチダイブ特性を弱めてストラットの初期の動きを高めている。更に、リヤは横力トーイン特性を強化し、より安定性を向上している。

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スプリング、スタビライザーは約50%高められ、ロールを抑制し操舵応答性を向上させている。もちろんこうしたばね系のレートを高めることができたのは、ボディ側の剛性が向上したからこそだ。目指しているのは、操舵のゲインを高めるのではなく操舵応答性に優れた一体感のある走りで、このあたりはワゴンというカテゴリーを超えたGTカーとしての資質を重視していることを意味している。

■さらに進化したアイサイトver3

レヴォーグは、一段と進化したアイサイトver3を採用しており、1.6Lのベースグレード以外は標準装備されている。機能的にはプリクラッシュブレーキ、プリクラッシュブレーキアシスト、プリクラッシュステアリングアシスト、全車速追従機能付クルーズコントロール、アクティブレーンキープ(車線中央維持/車線逸脱抑制)、AT誤発進抑制制御、AT誤後進抑制制御、車線逸脱警報、ふらつき警報、先行車発進お知らせ機能を備えている。これら機能の進化を支えているのがステレオカメラ大幅なグレードアップだ。カメラ画像はカラービデオ画像化され、さらに検知距離と検知角度が40%も拡大されている。

プリクラッシュステアリングアシストは、緊急ブレーキをかけた状態でステアリング操作すると4WDの前後のトルク配分を自動的に変化させ、よりステアリングの効きを高め障害物回避性能を高めるもの。アクティブレーンキープは、65km/h以上の車速で車線が明確な路面では、自車が車線を逸脱しそうになると自動的なステアリングトルク発生により修正舵を行ない、アクティブクルーズコントロールをセットした状態では、カメラの車線認識により、車線の中央を維持するように自動的にステアリングトルクが発生するなど、高速域での部分的な自動操舵機能が採用されている。

こうしたアイサイトの進化は、ステレオカメラのカラー画像化と、認識距離、認識角度の拡大といった要素により実現している。

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そのため、先行車のブレーキランプの認識ができるようになり、クルマ、歩行者、自転車などの認識精度も向上し、さらにクルマの横から飛び出す歩行者にも対応できるように性能が向上している。

また衝突回避の限界速度が50km/hにまで高められ、65km/h以上の自動車専用道路や高速道路では白線を検知することで自動的に修正操舵を行なう操舵アシスト機能、AT誤発進抑制制御はバック時にも作動するようになっている。もっともバック時の制御はセンサーを使用するわけではなく、スロットルペダルの踏み方で誤発進を判定するロジックを採用し、アイサイト用のECUで一体制御されるというものだ。

いずれにしてもバージョン3に進化したアイサイトは、独壇場ともいえるドライバー支援システムであり、GTカーのレヴォーグの大きな付加価値になっていることは間違いない。

 

レヴォーグ 諸元表
レヴォーグ 装備表

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スバル・レヴォーグ(プロトタイプ試乗レポート)
スバル公式サイト

COTY
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