スバル 2016年秋国内登場の新型インプレッサに採用される次世代「グローバル・プラットフォーム」を詳細解説

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新型プラットフォームの前に立つ、吉永泰之社長(左)と武藤直人専務(スバル技術本部・本部長)

2016年3月7日、スバルは2016年秋に発表予定の新型インプレッサから採用される次世代プラットフォーム「スバル・グローバル・プラットフォーム(SGP)」を初公開した。

今回の新プラットフォーム発表会には吉永泰之社長が登壇し、スバル・ブランドの価値を高める6本柱のひとつとして新プラットフォームを位置付け、「スバルのクルマづくりをかつてないほど大幅にレベルアップさせる技術」と語っている。吉永社長は、次期型インプレッサのプロトタイプにもすでに試乗し、新プラットフォームの性能を確認しているという。

この新型プラットフォームは、スバルのインプレッサから上のクラスのクルマに適用されるフレキシブル設計となっており、さらに2025年まで使用することが計画されている。そのため将来的にさらに厳しくなる衝突安全性能や、EVやPHEVなど電気駆動化にも適合できるようにプラットフォームの強度は高められ、さらなる高強度材料、非鉄材料が採用できるポテンシャルが与えられてるのが大きな特徴だ。

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この新世代プラットフォームは、もちろんモジュラープラットフォームの要素も盛り込まれ、採用車種ごとの仕様変更の要素を低減し、群馬の工場とアメリカの工場での金型や治具の共通化などの生産合理性も追求されているが、第一義的には車体性能を大幅に向上させることが目的とされている。エンジニアによれば、これを採用する新型インプレッサは、かつてのレオーネから初代レガシィに変わった時のように、誰が乗ってもその性能向上は体感できるレベルになっているという。

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赤色部分は高張力鋼板の使用部

◆新型プラットフォームが目指すもの
スバル・グローバル・プラットフォームが目指したのは総合性能の大幅な進化で、感性に響く動的な質感の向上と、世界最高水準の安全性能だ。「動的な質感」については、すでにマイナーチェンジされた現在のフォレスター、WRX、レガシィなどでも訴求されているが、実はこれは新型プラットフォームの開発で得られた知見の一部を前倒しして採用しているのだという。

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「動的質感」とはわかりにくい表現だが、以前のようにスペックや性能値ではなく、意のままに操ることができる気持ちよさを意味している。もちろんこれはハンドリングだけに限定されず、操作フィーリング全般、振動・騒音、クルマの反応といった要素を総合した質の高い走りを意味し、もっと簡単に言えばプレミアムカーと同等かそれ以上の走り味を追求するということだ。

具体的には、「ペダルやステアリングの操作に対してクルマがリニアに遅れなく反応し、高いレベルの直進安定性が得られること」「不快な振動や騒音が抑制されていること」「乗り心地が快適であること」という3点で、これを実現するために、プラットフォーム、シャシーの大幅な剛性向上、さらなる低重心化の追求、サスペンション、サブフレーム類の改良を行なっているのだ。ちなみに直進安定性と操舵応答性を高めることは、状来の自動操舵、自動運転でも有効だという。

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新プラットフォームは、各部の剛性を現在のモデルに対して70%~100%の剛性向上を行ない、操作系や外部からの入力に対しての遅れを大幅に低減している。車体全体のねじり剛性は70%、フロント部の車体の横(平面)曲げ剛性は90%、フロント・サスペンションの横剛性は70%、リヤ・サブフレームの横剛性は100%と、いずれも大幅に剛性が高めれれているという。

またリニアで、応答性が優れたハンドリングを実現するため、車体全体のねじり剛性の向上だけではなく、車体の固有振動数を30%向上させ、そして部分的なねじれの大小を低減し、リニアにねじれる、つまり車体各部での剛性の連続性を高めることで高次元の操縦安定性を高めている点もキーポイントになっている。

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振動・騒音対策としては、パワーユニット、シート、車体、サスペンションのそれぞれの共振周波数を分散させ、プラットフォームでは各部分のひずみを分散させるという、いわば源流での対策が盛り込まれ、高速走行時のフロア振動やステアリング振動を低減している。こうした源流対策を採用することで、対症療法的な振動・騒音対策を低減することができるわけだ。

このためプラットフォームのフレームは前後端まで、つまりフロントサイドフレーム→フロアサイドフレーム→リヤサイドフレームが連続した1本構造とし、しかもフロアパンとの結合はスポット溶接と構造用接着剤を併用。骨格部ではAピラー下端とサイドシル、フロント・ストラットタワーが一体の補強パネルで結合され、フロント・バルクヘッド周囲の剛性が大幅に高められている。

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またプラットフォームでの衝突安全性能をさらに高めるため、フロントサイドフレームの断面は拡大され、前方からの衝撃エネルギーはフロアサイドフレーム、サイドシル、フロアインナーフレームの3本に分散させる構造を採用。エネルギーの分散吸収性能を一段と高めている。

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エンジンルーム。太くなったフロントサイドフレーム、結合強化されたタワー部、カウルトップ部。下の黒色部はサブフレームでボディと結合させる逆V字形のサポートが新設されている

プラットフォームの材料で、主要な骨格フレーム部では590MPa級以上の高張力鋼板を採用し、バンパービーム、フロントサイドフレームとフロアサイドフレームの結合部には1GPa級のホットプレス材を使用している。

◆シャシー
サスペンションでは、まずフロント・ストラットはハイキャスターのキングピン軸が維持され、同時に前方から見たキングピン軸のホイールセンター部でのオフセット量を、ストラット式としては最小レベルまで縮小している。そのためにロア・ボールジョイントは新設計されている。このキングピン・オフセット量を低減することで、操舵フィールのさらなる向上や、路面からの外乱入力を減少させることができるのだ。

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キングピン・オフセット量の縮小
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下面から見たボールジョイント、ロアアーム

さらにストラットタワー部の剛性を高めることで、路面の突起を乗り越える時のダンパー応答性を高め、ゴツゴツ感の少ない乗り心地を狙っている。リヤのスタビライザーは、従来はサブフレームに取り付けられていたのでレバー比がよいとは言えなかったが、新型ではボディ側に取り付けることで効率を高め、リヤの揺動角を半減させている。

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リヤスタビライザーの取り付け箇所の変更
リヤ・サスペンション
リヤ・サスペンション
下面から見たリヤ・サブフレーム
下面から見たリヤ・サブフレーム。画像上がフロント方向

シャシー性能に大きな影響を与える重心高では、スバルは水平対向型エンジンを採用しているため直列エンジン車より約50mm低くできている。さらに新型プラットフォームでは低重心化を追求し、重心高を5mm低減している。このためにエンジン、トランスミッションの搭載位置の低下、フロア面の低下、リヤ・デフ位置を低下させることが可能となっている。この手法はトヨタのTNGAと同様である。

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これらの採用により、危険回避性能の指標であるダブルレーンチェンジ性能は大幅に向上し、一般的な乗用車ゾーンからスポーツカーのゾーンに入っているという。ダブルレーンチェンジ・テストの限界通過速度で現行車は84.5km/hだが新型は92.5km/hと高められ、同じ車速でダブルレーンチェンジを行なった場合、新型はそれだけ余裕を持って回避できることを示している。

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新世代プラットフォームは、これまでの研究結果を投入し、各部の剛性が大幅に高められているが、意外にも超高張力鋼板の採用やホットプレス材の採用は控えめで、アルミ部品はフロントのハブキャリアに新採用されている程度で、材料面での進化幅は大きくない。ただし、新型インプレッサのアッパーボディ部はアルミパネルを採用するなどし、軽量化していると推測される。

エンジニアの話では、2025年までの見据えた衝突安全性能などを考え、今後は冷間プレスタイプの超高張力鋼板、ボットプレス材、カーボン材と鋼板を組み合わせた新構造などを研究しており、量産化のめどがついたものから順次採用する計画だと語っている。

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