【SUPER GT2025】SUBARU BRZ GT300 シェイクダウン 新型へのリニューアル詳細解説

Super GT2025 GT300クラスに参戦するSUBARU BRZ GT300のシェイクダウンテストが2月26日富士スピードウェイで行なわれた。今季のマシンはフル・リニューアルを行なっており、新型車となって参戦する。

今季の狙いはシリーズチャンピオン

テストに先立ち、メディア会見でSTIの賚寛海社長から「今季は期待して欲しい」という言葉から始まり、小澤総監督は24年シーズンは想定外なことがたくさん起こり、勉強が足りなかったと反省を述べ、今季はスポンサーの技術協力もあり新型車を作ることができたと説明した。

そして具体的な目標は、全戦でポイント獲得、シーズン1勝、表彰台3回以上、そして最後までチャンピオン争いをし、シリーズチャンピオンを目指すとした。

ドライバーラインアップは変更なく井口卓人と山内英輝の2名で、リザーブ候補として奥本隼士がリストアップされている。その井口からは「辛いシーズンを過ごしたことで逆にチームスタッフとの強い絆が生まれ、今季はチャンピオンを獲得してみんなで喜びを分かち合いたい」と。山内は「記憶に残り、記録を出していきたい。個人的には最多ポールポジション獲得回数の更新や優勝回数を増やしていく」と意気込みを語った。

新型マシンの投入

さて、リニューアルされたBRZ GT300マシンの細部を見てみよう。BRZ GT300はおよそ3シーズンごとに新型車を投入している。24年までのマシンは21年にチャンピオンを獲得したときのマシンだった。これは市販車BRZが第2世代になるのに合わせてデビューさせたマシンで、そのシーズンでチャンピオンを獲得している縁起のいいマシンだった。

マシンは大きなクラッシュなどがなければ概ね3年、ないし4年使用することで、金属疲労などもあり、全体に経年劣化があり、リニューアルが必要という。特に今季はロールバーがFIA規定のものに変更する必要もあり、全部を作り替え新型になっている。

新フレームを設計するにあたり、前型は1150kgで設計し、そこからBoPやサクセスウエイトを乗せて走るというマシンだった。しかし2024年のベース重量が1200kgと規定され、設計重量より50kg重い状態が基本重量と指定されたのだ。そこにBoPのウエイトを搭載し、シーズンを通して1300kgを切るレースはなかった。最重量時は第7戦オートポリスで1330kgもあったのだ。つまり、設計重量より180kgも重い状態だったわけだ。

そこで今季はベース重量を1300kg程度と見込み、そこからウエイトを搭載することも想定し、ねじり剛性、縦、横の剛性を上げて設計している。

R&D SPORT設計のシャシー

ここでBRZ GT300の基本形をおさらいすると、キャビン周辺は市販車両のBRZのモノコックを使用している。このモノコックにR&D SPORTがオリジナルで設計しているパイプフレーム構造の前後シャシーを接続している。サスペンションはリンク構造によるウイッシュボーン形状とし、ダンパーは地面と並行にレイアウトするプッシュロッドレイアウトになっている。

今季のマシンも基本形は同じスタイルで、前述のように剛性面を変更して設計し直しているわけだ。シャシーが変更されたことでエンジン搭載位置も多少の変更があった。ただできるだけ低く、そして後方へという考え方は変更ない。またサスペンションの取り付け位置も変更されているが、主にフロントタイヤがレギュレーションの変更で小径化されるための対応の意味も持っている。

タイヤの変更は、GTA規則でフロントが300-680-18で、横幅が330サイズから300に狭くなり、タイヤ径も710から680へと全体が小さくなっているのだ。ちなみにリヤは変更なく330-710-18のままだ。

タイヤが小径となることで接地面積は小さくなり、エアボリュームも減る。そのため従来どおりの性能をどうやって出していくか?は今季の一つの鍵になるのは間違いない。

ダンロップタイヤは継続して採用し、タイヤ設計エンジニアには結果を期待したい。またホイールも小径化に伴いBBSが従来と同じ剛性、ジオメトリーとなるように新規設計している。そのため、ディクス面のデザインが前後で異なっている。

幅が狭くなることでスクラブ半径は移動するので、合わせるためにもオフセットの変更は必須要件になり、ディスク面のデザイン、形状が変わっている。さらに剛性も同等に仕上げることはBBSの知見が投入されているというわけだ。

ブレーキ、ミッション、PCUの変更

ジオメトリーでは当然タイヤ径が変わることで車高が変わってしまうが、このR&D SPORTオリジナルシャシーはそうしたジオメトリー変更の作業性の良さもメリットのひとつになっているのだ。実際のレースでも公式練習のタイミングで、車高の変更やキャンバー、キャスターなどの変更は頻繁に行なっており、さらに、それぞれのジオメトリーを独立して変更できることも、このシャシーの性能の一つになっている。

ブレーキがAP製からエンドレス製に変更された。24年シーズンはブレーキに起因するクラッシュやコースアウトなどレースをリタイヤしたこともあり変更となった。ただ、シェイクダウン時はリヤのブレーキセットが間に合わず、従来のAP製のままテストを行なっていた。

ブレーキのABSコントロールユニットは現在BOSCH製で制御しているが、アドビックス製の評判もいいことから、今後検討していくとしていた。

トランスミッションも変更している。ご存知のようにトランスアクスル・レイアウトのBRZ GT300だが、ミッションは6速ヒューランド製のドグミッション。パドルシフトはエアシフターを採用していたが、今季は電気モーターのシフターへ変更している。

実際、エアシフターのトラブルが出たこともあり、信頼性も含め変更した。モーターとすることでエアシフターよりレスポンスは速くなり、適合がうまくできれば、確実に速くなるという。ちなみにモーターの制御はドイツのメガウイン製だ。

エンジン系では制御変更を行なっている。エンジン本体は従来どおりEJ20型ターボで変更はない。そのエンジン制御はMoTECからコスワースPIのPCUに変更している。変更理由のひとつに通信システムの変更があり、従来のCAN通信から、一部にイーサネット通信を採用したことがある。イーサネットとすることで、通信容量の拡大とスピードアップが期待できるため、制御因子を拡大することができるため、PCUの変更が可能になったわけだ。

燃料に関しては現状GTAからはアナウンスがないため、前年と同様のCNF50%の燃料で適合させている。ターボエンジンではオイル希釈の影響が大きいというチームもあり、CNFは50%とされている。ちなみにGT500クラスは100%CNFでレースをやっているのだ。

空力性能はサイドフローへ変更

さて、外観について見ていこう。今季は空力性能に関して考え方を変更して設計している。もちろんカラーリングも変更されていることは言うまでもないが、形状も変更した。

メインの考え方として、ダウンフォースが欲しいときは旋回中であることから、旋回中のダウンフォースを稼げる考え方だ。もちろんストレートでは低ドラッグであることは言うまでもない。

旋回中のダウンフォースを得るための設計は、センターフローからサイドフローへの変更だ。マシンの正面から入るエアがエンジンルーム内を通り、ボンネットからフロントウインドウ、ルーフを経由してリヤウイングに流すというのが、これまでのセンターフローだった。

これをボンネットから抜けたエアをルーフには流さず、Aピラー周辺からボディサイドへ流す構造とするサイドフローにしている。ドアパネルに沿って流れ、リヤフェンダー上部を通ってマシン後方へ流す空力ボディとした。

もともとボンネットから流れるエアは乱れたエアであり、リヤウイングに当たることはダウンフォースを制御する上で乱流は好ましくない。できればリヤウイングには触れない方がダンフォースは制御しやすいことがベースにある。

そのため、サイドフローとすることで、最後はリヤフェンダー上部を通り、ウイングからは離れた場所を通過するため、制御したダウンフォースに影響が少ないというわけだ。

そのためのパーツとしてボンネット形状を変更し、リヤのディフューザー両端にある小型のボックス形状が変更されている。角度を絞り込む形とし、ボックス内部にもセパレータを挿入し、乱流を綺麗に流す工夫が入っている。床下はフラットボトムで変更はない。従来と同じく整流効果を狙うバーチカルフィンを装備している。また、ノーズ部やフロントスポイラー、カナードなどの変更もない。もっともコースによって変更する可能性は高い部分でもある。

デジタル化されたコクピット

コクピットも大幅に変更されている。従来のダッシュボード部にあったメータ類は全てなくなり、ステアリングセンターにあるモニターに集約された。そのため、すっきりとしたコクピットに変身している。またステアリングにあるスイッチ、センターコンソール部にある操作スイッチも変更されているが、これはイーサネット通信となったことで、従来より制御できる部位が増えたことによる変更だ。

さて、マシンの変更はこうしてみると大幅な変更が行なわれたことがわかる。外観からはそれほど大きな変更に見えないものの、全くの新型マシンであることが解る。

一方で、レースフォーマットにも変更があるようだ。予選方式が変更され、Q1とQ2が行なわれ、Q2でポールが決まるという23年まで行われていたフォーマットだ。ただ上位8台がQ2進出だったが新フォーマットでは9位までが進出でき、18台によるポール争いになる。果たしてこの変更がどのような影響があるのか、開幕戦が待ち遠しい。

SUBARU BRZ GT300はこのあと公式テストを2回行ない、いよいよシーズン開幕を迎える。この日のシェイクダウンでは、すべてが新しい大幅変更マシンだけに、さまざま課題があった様子だった。それだけに公式テストの様子も気になる。autoproveでは公式テストの様子もお伝えしていく予定だ。

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