2023年スーパーGT第2戦「FUJIMAKI GROUP FUJI GT 450km RACE」が静岡県小山町の富士スピードウェイで行なわれた。シリーズチャンピオン奪還を目指すSUBARU BRZ GT300は開幕戦でノーポイントという厳しいスタートになった。だが、新型になってからのBRZ GT300は、富士スピードウェイで4戦連続表彰台という相性の良さを持っているのだ。
金曜日にサーキット入りしたチームは、いつも通りに準備を進めていくが、今季は新しいアイテムを多数投入しており、それらが全部きちんと機能していくのかが楽しみなレースでもある。
特に燃料に関してはCN燃料の使用が見送られ、この第2戦までは通常のハイオク・ガソリンを使用する。そのため従来のエンジン制御で問題はなく、空力とサスペンション・セッティング、そしてタイヤのマッチングをみてラップタイムを上げていくトライをする予定だ。
開幕戦の岡山国際サーキットが既報のように豪雨の中で行なわれたため、新規投入したアイテムの実力の見極めは厳しいものだった。今回の富士スピードウェイは晴天に恵まれ、気温は20度前後、路面温度も30度付近で絶好のコンディションと言っていい。
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そのためドライバー達も「ドライには自信があるので、上位を目指す」と話しており、総監督の小澤正弘氏も「450kmはチーム力を発揮しやすいレースなのでがんばります」と得意であることを感じさせるコメントをしている。
予選が行なわれる土曜日も快晴に恵まれ、午前中は公式練習から始まった。チームはいつものように山内英輝がセットアップを始める。
【公式練習】
走り出してすぐに山内は「バランスがいい」と伝える。しかしタイムを見ると飛び抜けて速いわけではなかった。まだ走り出しなので、バランスが良ければ、どんどん煮詰めていくことに専念できるわけで、タイムアップには期待がかかる。
走り出しで、例えばバランスが悪く、アンダーステアだとか、リヤのグリップが薄いとか、さまざまな症状があると、まずそこの修正から始まるわけで、そうした意味でも「バランスがいい」というコメントはチームを明るくする情報だ。
マシンチェックを終え、タイム計測のフェーズに入る。計測を3〜4周行ない、その後ピットに戻り別のセットアップを試す。それの繰り返しによって予選、決勝でのセッティングを決めるというのがいつもの手順だ。
最初のセッションで山内は1分36秒600を計測する。全体6位だ。これはいつもより早いタイミングでセットアップが決まっている空気があった。しかし、山内の表情は冴えない。というのは「クルマのバランスはいいんですが、ここから1秒をどうやって縮めるのか見えない」というのだ。
確かに、この時点でトップタイムは96号車の1分35秒7だから、約1秒の差がある。いつもなら、バランスが決まっていない状態から徐々にまとまり、それにつれてタイムが上がっていくという流れなので、すでにバランスは良い状態だけに、タイムの伸び代が見えないということなのだ。
R&D SPORTのトラックエンジニア、井上氏とも相談をしながら、次のセットアップを試す。そしてコースインして計測。1分36秒356を計測しタイムが縮み始めると、突然山内から「マシンがおかしい」という無線が入った。その直後「マシンを止めるよ」と再び山内が伝えてくる。
ピットに戻ったBRZ GT300は、トランスミッションにトラブルが出ていたことが分かった。駆動系担当のSTI上保氏(うわぼ)によれば「3速のドグ・リングが壊れていました」と。耐久性に絶大な信頼があるヒューランドのシーケンシャルミッションの一部が破損していたのだ。
もちろん、過去に一度も出たことのないトラブルであり、珍事のひとつなのかもしれない。原因は不明だが、チームはすぐさま分解、交換作業を進めたが、残念ながら公式練習中には治せなかった。結局、イベントスケジュールの、公式練習のあと、FCY訓練走行とサーキットサファリが予定されており、BRZ GT300はサーキットサファリのタイミングで修復が完了し、井口卓人がドライブをした。この時は全体2位のラップタイムを刻むことができていた。
【予選】
迎えたQ1予選。GT300クラスはA組、B組に分かれ、各組上位8台がQ2予選に進出できる。BRZ GT300はB組で走行する。ドライバーは井口だ。A組のQ1予選突破8番手のタイムは1分36秒642で、トップタイムは1分35秒697だ。通常A組とB組では路面コンディションが変わるため、B組のほうが0.3秒ほどタイムアップすることが多い。
井口はウオームアップを十分に行ないアタックを開始。最初のアタックで1分36秒417を計測し、A組であれば8位以上が確定するが、まだ油断はできない。2周目のアタックでは1分36秒155をマーク。さらに次のラップでもほぼ同タイムを計測している。だが、ポジションは10位なのだ。
このタイムは朝の公式練習で計測した山内のタイムよりも速く、A組であれば4番手に相当する。が、B組では8位のQ1突破タイムが1分36秒022で0秒133届かなかったのだ。巡り合わせの不運にも感じられるが、これもレースだと小澤総監督は言う。予選結果だが、トップは昨年のチャンピオンマシン56号車のGT-Rで、1分35秒114だった。
ちなみに2022年の第2戦でポールポジションを獲得した山内のタイムは1分34秒983で、また2022年の秋に開催された富士スピードウェイのレースでマークした1分34秒395のコースレコードも更新されていない。そして2021年の第2戦でもポールポジションを獲得しており、その時のタイムは1分35秒343だった。
いずれも今シーズンのBRZより速く、今季のBRZは、自身のタイムを更新できていない。もちろん熟成という要素はあるものの、BoPが毎年異なっており今季は苦しいシーズンになるかもしれない。その要素としてBoPを決めるウインドウがワンランク上がり、ベース重量が1200kgになっていること。そこにBoPウエイトを搭載しているので、2022年の第2戦より65kg重い。
さらに過給圧が5500rpm〜6250rpmの間のみ2%向上しているものの、それ以外の回転域では2022年に4%ダウンされたままなので、重量増に対して過給圧の変更はほぼナシ、という条件が付けられているからだ。ただ、空力ボディの変更も、ECUの変更も、そしてアルミホイールやタイヤの変更も行なっているので、そうしたハンデは押しのけられるのではないかという期待はある。
【決勝】
チームは決勝に向けての作戦会議を開き、マシンのセット変更も行なうことにした。
決勝が行なわれる日曜日も快晴に恵まれ、気温は20度前後で、路温は朝の時点では30度ほど。午後のレーススタート時間にはもう少し上昇することが予想される好天だった。
決勝レース前に行なわれる20分間のウオームアップ走行では、山内、井口ともに走り、感触を掴む。仕様はガソリンも重い状態で走り、決勝仕様になっている。したがって、タイムは予選のタイムには及ばないものの、マシンのバランスはいいようだ。
そして迎えた決勝は山内がスタートドライバーで、スティントは山内が2回、井口が1回だ。
午後1時30分、ローリングスタートが切られ、レースが始まった。予選順位が19位のBRZ GT300はひとつでも上位を目指し、寡黙に走るしかない。
スタート直後に上位でスピンするマシンがでて、少しの混乱が生じた。山内は間隙を縫うようにして、スルスルっと上位へ顔を出し50号車もパスする。1周目11位で戻ってきた山内は25号車を抜き、96号車も抜いていく。2周目10位、3周目8位へと順位をあげ、8周目に60号車を抜き7位に。さらに10周目には6位にまで順位を上げた。
その後落ち着きを取り戻したトレインの展開になるが、山内の攻撃はさらにつづき、16周目に5番手に浮上したのだ。このペースで行けば表彰台も行けそうな手応えを掴んでいた。
23周目、突如チーム無線で山内から「全然ダメ」という落胆の声が飛び込んだ。
チームは緊急のピットインを指示。
ピットではタイヤを4本ニュータイヤに交換し、給油を行なう。その間にシステムをOFFにして、再起動を行なっていた。無事にエンジンがかかり、不安ながらも山内はコースに復帰した。
Wスティントになった山内はマシンの様子を見ながら、追い上げを開始する。ポジションは22位にまで下がってしまった。せっかくの5番手が・・・、という落胆はあるのもの、山内はひたすら前のマシンを追った。
総合順位では22位だが、ピットインを1回済ませている中では9番手だ。まだピットに入っていない上位チームもあるため、実質は12位前後にポジションしているはずだ。
ニュータイヤを履く山内の激走は続き、周回ごとに、21位、19位、17位、15位、14位へとジャンプしていく。上位陣のピットが終わると山内は12位にいる。もう少しで10位のポイント圏内に手が届くところまできた。
40周目31号車をパスして11位に浮上した。快進撃を続ける山内は4号車がトラブルで脱落する間に9位に上がり、43周目には50号車を再び交わして9位に。翌周には8位にまで再び挽回したのだ。
まさに神がかり的な走りを見せている。
だが、再び48周を終えた時点で「マシンが遅くなった」と山内からの無線が入る。慌てるピット。予定外のタイミングだが、ここはピットに入れて井口と交代という作戦をとる。
BRZ GT300は再びタイヤ4本交換と給油を行ない、井口がラストスティントを走る。
だが、予定外のピットインのため、最後まで燃料が持つのか?不透明な状態でピットアウトしていった。
ガス欠でのリタイヤだけは避けなくてはならない。井口はあまり無理をせずに走行し、順位を戻すという難しい課題を背負って走る。
18位にまで下がった順位を、それでも井口は挽回し、53周目に17位、55周目16位、60周目14位とジワリとポジションアップさせていく。64周目は13位になり、75周目には12位、そして77周目には11位にまで挽回していたのだ。
85周目、あと7ラップというところで井口からアラートランプが点灯していることが伝えられた。チームからは修正指示が出され、井口は11位を保ったまま走行している。
そして89周目、あと3周というところで、再び「マシンが遅くなった」と無線が入る。山内の時に出た症状と同じだ。チームからはさまざまな指示が飛び、なんとか完走できるように、考えられる術の全てを井口に伝える。
そして91周を終えたところでチェッカーとなり、11位で完走することができた。
さまざまなトラブルが発生したようだが、なんとか、完走でき、また新規に投入されたダンロップタイヤのロングライフ性能を確認することができた。そして決勝用に変更したセットアップが好結果をもたらすこともわかった。小澤総監督としてはトラブルを出しながらも収穫のあったレースだったと振り返っていた。
第3戦は6月3日(土)、4日(日)鈴鹿サーキットで450kmレースが開催される。次戦からは先延ばしされていたCN燃料に切り替えてのレースであり、このところ相性の悪い鈴鹿でのレースになるが、明るい材料は見えてきた。
ドライバーポイントは2戦連続のゼロポイントと苦しいが、チームポイントは3点を獲得しランキング21位にいる。次戦の鈴鹿ではバランスのいいBRZ GT300の実力を遺憾無く発揮できるレースに期待したい。