【スーパーGT 2023】SUBARU BRZ GT300 課題を洗い出せた岡山公式テスト

3月11日(土)、12日(日)にスーパーGTの2023年シーズン公式テストが岡山国際サーキットで行なわれた。2日間とも天候に恵まれ温暖な中で、SUBARU BRZ GT300もチャンピオン奪還に向けての挑戦がはじまった。

SUBARU BRZ GT300は今季、さまざまなアップデートを行なっており、この公式テストでは、その成果を試す機会となった。レギュレーションからの変更ポイントとして大きな変更は、ボディカウルの変更がある。フロント周りのボディ形状をよりノーマルの市販車に近づけるルールとなり、フロントのカウルデザインが変更され、それに伴いリヤのディフューザーも大幅に変更している。

フロントカウルのデザインが変更され初披露となった

これは2月のシェイクダウン・テストの時には完成しておらず、その時は2022年仕様でテストを行なっていたため、この公式テストが初披露となった。そのため、まだ塗装が間に合っておらず、カモフラージュフィルムをボディに貼ってのテストとなった。

ボディ形状の変更は空力性能にダイレクトに影響し、ダウンフォースやドラッグ(空気抵抗)が変わり、コーナリングスピードやトップスピードなどが変わってくる。そのため、新デザインのボディでどこまでドラッグを減らし、ダウンフォースを稼げるのか、前後バランスはどう変化するのかなどのチェックが必要になる。

フロントカウルの変更に伴い、リヤエンドも大きく変更されている

そして見えない部分であるが、大きく変更されたのがガソリンからCN燃料(カーボン・ニュートラル)に変更されたことだ。こちらはETS社というドイツの燃料メーカーからGTAがまとめて購入し、それを各チームが購入するという流れで、GT500もGT300も全車が同じ燃料を使用することになる。

このCN燃料はガソリンと同じようにレースで使用できるということだが、成分が石油由来ではないため、多少の合わせ込みがエンジンに必要という。その中でキーになるのがダイリューションというオイル希釈の課題だ。CN燃料はガソリンと比較して揮発性が弱いため、シリンダー内で蒸発しないで残った燃料がオイルに混ざり希釈されてしまう。

オイルが薄められれば油膜切れを起こしやすくなり、シリンダー壁に傷がついたり、焼き付きを起こす可能性もあるということだ。しかもNAエンジンよりターボ車のほうがその可能性が高いという。つまり筒内圧力がターボ車のほうが高いからだ。

今季からガソリンの代わりにCN燃料を使う

次にBRZ GT300の変更ポイントとして、エンジンECUの変更がある。これは前回のシェイクダウンの時にお伝えしているが、マクラーレンECUからMoTec(モーテック)製のECUに変更している。実は22年シーズンの当初もトライしていたECUセッティングなのだが、合わせ込み不足があったようでレース本番ではマクラーレンに戻して参戦していた。それを今季は再トライし、十分時間をかけてマッチングを図ったということだ。このEUCの変更により、より高効率な燃焼とし、出力を落とさずに燃費を良くする効果も狙っている。

そしてタイヤ&ホイールも変更している。ホイールはBBS社との協力の元、ホイールの剛性を高め、タイヤの歪みを抑えて接地面積を稼ぎハイグリップにするというトライだ。一方、タイヤは新規に構造変更をしたタイプを開発している。こちらはダンロップの担当者の話によるとハイグリップ化をさせつつ、ロングランができるような性格のタイヤを開発したということだ。

ニュータイヤについて相談する手前R&D井上トラックエンジニア、ドライバー山内、右)ダンロップ担当堀田(ほりた)エンジニア

今季はこれまでの300kmから450kmのレースに変更される大会も増え、それでいて持ち込めるタイヤのセット数は削減するというルールに変わるため、ロングライフなタイヤ性能が求められているからだ。かつ、グリップがダウンしてはレースから脱落してしまうため、二律背反の難しい性能開発が要求されているのだ。

このように変更点が多数あり、しかも直接走行性能に影響するものばかりのアップデートなので、この公式テストでどのようなタイムが出せるのか興味深かった。

サイドウオールにDUNLOPのロゴすらないテストタイヤの山

テスト初日は山内英輝が最初のセッションでセットアップをしていく。主に、マシンの前後バランスをチェックするもので、3周計測してはピットに戻りセットを変更して再び計測ということを2時間のテスト時間をフルに使って走行した。

その感触を山内は「良いところとよくないところが見えてきて、どう解決していくかはこれからになりますが、うまくいけばパフォーマンスが上がることは間違いないと思うので、じっくりまとめていきたいと思います」とある程度の手応えを感じつつも熟成の必要性がある様子だった。

午後のセッションでは井口卓人がトライする。項目はロングランだ。燃料もたっぷり搭載し、本番を想定しラップタイムも本番レースと同等のタイムで走行を続ける。この日はBoPが正式には発表されていないが、チームでは1250kgの重量を想定してテストに臨んでいた。

午後のセッションでは、各チームの中でも同様にロングランをテストしているチームが数チームあり、タイムを比較すると井口のタイムはトップより1秒弱遅い。

このあたりについて小澤正弘総監督に聞くと「午前の山内の時もセットが決まるまでは至らなかったので、その影響ですね。もう少しセットを詰めないとタイム的には厳しい状況ですが、狙いはタイヤの摩耗や燃費などロングでの課題を出すことなので、現状は問題ないと考えています」ということだ。

ところが、井口のロングランの終盤、マシンにトラブルが発生し、走行できない状況になった。井口はクラッチを切って惰性で戻ってくる。井口によれば「最初はミッションかな?と思ったんですが、油温のアラームが出ていて、もしかしたらエンジンだったのかもしれないですね」と。

その結果、公式テスト初日はこの時点で終了し、翌日Day2でのテストに残りのテスト項目は持ち越すことになった。

セッション2でマシントラブルを起こし、ピットに戻ってきたBRZ GT300

2日目の朝、小澤総監督にトラブルの原因を聞くと「エンジンでした。ダイリューションの影響でメタルが焼き付いてました。ですからエンジンを載せ替えて今日は走行します。エンジンはある意味想定した内容でもあるわけで、言い換えればオイル温度などの限界のデータが取れたということなので、あまり心配はしていません」

というわけでテストは再び山内がセットアップするメニューからスタートした。前日同様、ニュータイヤとホイールを使い、空力バランスを見ながらタイム計測をする。しかしラップタイムは低迷し、なかなか上位に出てこないが数回のピットインを繰り返したのち、ついに4番手のタイムをマークした(最終結果は6位)。

数多くあるセットアップの組み合わせの中でラップタイムを計測し、再び別のセットにしてタイム計測を行なうというメニューを消化していく。結果的にはある程度目星がついたレベルで午前のセッションが終わっていたので、午後は井口が継続してセットアップのメニューをこなすことになった。

井口は山内がテストして目星をつけたセットアップから、本命となるセットアップを目指してテストする。つまり山内の時より仕様の範囲を狭めることができており、この中でベストなマッチングがみつけられるかという内容にステップアップしたことになる。

井口卓人/山内英樹はGTドライバーの中でも特に人気が高い

しかしながらラップタイムは上がらず、手応えも薄いというコメントになってしまった。こうした状況ではあるが、小澤総監督にしてみれば、さまざまな課題が出てきたことでテストとしてはいい内容だったと考えている様子だ。

数多くのアップデートをすれば、二律背反のレースカーづくりにおいては不釣り合いが出てきて当然というわけだ。その不釣り合いを均等化していくのがテストの目的であり、多くの課題が解決したときには確実に強くなったマシンになるというわけだ。

次回の公式テストは3月25日(土)、26日(日)に富士スピードウェイで行なわれる。今回の課題に対し、どのようなバランスに仕上げてくるのか、今から楽しみである。

COTY
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