9月3日(土)、4日(日)栃木県茂木町のモビリティリゾートもてぎ(1周4.801km)で、「ENEOSスーパー耐久シリーズ2022 Powered by Hankook第5戦もてぎスーパー耐久5Hours Race」が行なわれた。
ST-Qクラスにはメーカーの開発車両が参戦する特別なクラス。そこにカーボンユートラル燃料を使って参戦しているのがトヨタのORC ROOKIE GR86 CNF Concept、SUBARU BRZ CNF concept、そしてMAZDA SPIRIT RACING MAZDA2 Bio conceptが参戦。GR86とBRZが使用するカーボンニュートラル燃料はCO2とH2から作られる合成燃料で、マツダが使用する燃料は藻類から作られるディーゼル燃料だ。
お伝えしているようにGR86はGRヤリスに搭載するG16E型を1.4Lに排気量ダウンしている3気筒エンジン。一方のBRZは市販車のFA24型NAエンジンで、ともに同じカーボンニュートラル燃料を使用している。燃料はトヨタがWRCで使用する燃料を製造するP1レーシング社製のCNFだ。
ここまでスーパー耐久は4戦をこなし、SUBARUの3勝、トヨタの1勝。開幕戦はトヨタが制し、富士24時間レースはSUBARU、そしてSUGOのレースはトヨタがスキップしたためSUBARUの不戦勝。つづくオートポリスではSUBARUが勝利している。そのため、この第5戦はSUBARUにとってはアップドーミーになるわけだ。
アイサイト搭載車両の投入
木曜日からチームは練習走行に入り、入念なチェックをしていく。とりわけSUBARUのTeam SDA Engineeringはアジャイル開発の現場を若手エンジニアが経験する場としている。そしてこのもてぎには、なんとアイサイトを搭載した車両を投入しているのだ。「レースにアイサイト?」という疑問があるが、どういったことか本井監督に聞いてみた。
「まずはFCYの50km/h規制をアイサイトのプログラムに変更しました。これまではクルーズコントロールのプログラムを改良したタイプでしたが、今回からアイサイトに変更しています。さらにフラッグの認識が可能か検証しています」
その背景には、ナンバー付き車両のアイサイトを搭載したクルマでスポーツ走行やモータースポーツに参加するユーザーがおり、そうしたニーズに向けての準備ということだ。したがって、ロールバーもアイサイトを避けるレイアウトにしてあるのだ。
ただし、緊急自動ブレーキなど予防安全に関わる機能は作動しないようにしてあり、超接近戦や急な進路変更でも路外逸脱警報などは作動せず、レースに支障を来すことはないという。
また、本井監督からは「いろんな可能性を持っている」ということも言及している。例えば、ピットレーンも速度規制があるため自動駐車なんてことも可能ではないか?という、半分冗談のような話も可能性はなくはないという。
そしてフラッグは一般道を走行する上で遭遇する機会はほぼなく、データは蓄積されていない。そうしたこともアイサイトを活用する意味があるわけだ。ただ、イエローフラッグや赤旗、白旗など無地で色だけの違いになると、色の数値化がされていないため、判定は「動き」になるのかもしれない。実際信号機の色判定はできず、点灯している場所で判定している事情もある。
GR86とBRZのガチ対決
さてレースは28号車GR86と61号車BRZの対決が気になるが、予選のAドライバー対決では28号車の蒲生尚弥が61号車井口卓人に1秒641の大差をつけて勝利。Bドライバー対決では逆に61号車の山内英輝が28号車の豊田大輔に0秒793の差で勝利。A、Bドライバーの合算で予選順位が決まるため、28号車ORC ROOKIE GR86 CNF Conceptが61号車のSUBARU BRZ CNF conceptに0秒848リードして総合28位、29位という順になった。
決勝レースではGR86は豊田→蒲生→大嶋和也→豊田というローテションで、BRZは井口→山内→廣田光一→井口という順だった。スタートでは井口が豊田を追いかける展開でスタートするも、抜くことができない。ブレーキで差を詰めることができても、5速で離されてしまうという。
総合的には28号車GR86のほうがラップタイムは速い。が燃費で有利な61号車BRZはピット回数で勝てるのではないか?という予想もあった。序盤、22周を終えたところで豊田がピットインし蒲生に交代する。想定よりかなり早いタイミングでもピットインだ。
もしかすると燃料を満タンでスタートせず、井口の追撃をかわしきる戦略だったのかもしれない。井口は42周を走行し山内に交代する。コースに復帰するとGR86とは14秒の差があった。逃げる蒲生、追う山内という展開だったが55周目に山内は蒲生をパスした。この時点で山内はまだ10周を終えたところで、蒲生はすでに35周をしており、徐々にラップタイムの落ちる蒲生を山内が早い段階で捉えたという結果だ。
その後、蒲生は粘りに粘り60周目に大嶋と交代する。結局蒲生は48周したことになり燃費で有利と目論んでいたTeam SDA Engineeringには誤算があったもよう。この結果から燃費対決ではほぼ互角という結果になり、そうなるとラップタイムで速いGR86が圧倒的に有利だ。
実際大嶋はBRZが85周目に山内から廣田に変わるタイミングで先行する形に順位を戻しているが、予選なみのラップタイムもマークしており、マシンの熟成度が垣間見える。大嶋VS廣田の対決ではBRZが徐々に離されいく。
ラストスティントはGR86豊田 vs BRZ井口
そしてラストスティントはGR86が豊田大輔、BRZを井口卓人の対決になるが、井口は約50秒先行するGR86を追いかけることになる。残り時間は1時間。ラップタイムで2秒から3秒速くないとGR86には追いつけない計算となり、事実上惜敗が濃厚になった。しかしレースは何が起こるかわからない。必死に追いかける井口、毎周タイムを縮めるも0.5秒〜1秒がせいぜいで28号車の姿は遠い。
もてぎ5時間耐久レースは129周を走行してチェッカーを受けた。28号車ORC ROOKIE GR86 CNF Conceptは61号車に18秒515まで詰め寄られるものの、危なげなく逃げ切りに成功し、通算対戦成績はGR86の2勝、BRZの3勝となった。
GR86が1戦スキップしていることを考えると2勝で並んだことになる。残り2戦は岡山国際サーキットと鈴鹿サーキットだ。開発を目的としているST-Qクラスだがマシンの開発競争という側面も見ていて楽しい。次戦は3時間の耐久レース。もはやスプリントレースとも言える距離だけに「速さ」の進化に期待しつつ10月15日(土)、16日(日)第6戦岡山3時間耐久レースに注目だ。