スーパー耐久2022シリーズの公式テストが5月11日富士スピードウェイで行なわれた。このテストは6月3日から開催される富士24時間レースに向けての夜間走行もあるテストだ。
SUBARUは今季カーボニュートラル燃料を使用したBRZでST-Qクラスに参戦しており、この公式テストには新たにドライバー2名を増やしてテストに臨んでいた。
ドライバーは、井口卓人、山内英輝のスーパーGTチャンピオンコンビとSUBARU技術本部車両運動開発部の廣田光一さんに加え、全日本ラリーJN1クラスに参戦している鎌田卓麻選手と長年SUBARU車でレースに参戦しているプローバの吉田寿博さんの2名を迎え、5名のドライバーで24時間レースを戦う。
SUBARU BRZは、この日の公式テストで抱えていた課題への対策が、できているかの出来栄えチェックという目的もあった。課題はマシンのダイナミックバランスで、レースで勝つために、サーキットを速く走るために、さらに誰でもが運転しやすいようにという狙いどおりに仕上げることで、鈴鹿では乗りにくい状況でのレースになってしまったという反省があるという。
対策はジオメトリーを含めた見直しとリヤサスペンション周りの改良で、これまでスーパー耐久のST-4クラスのレギュレーションの中で車両開発を行なっていたものをST-Qに合わせる変更を行なった。ST-4クラスは限りなくノーマル車両に近く、レース用の安全装備、ロールバーなどを装着した程度で、たとえばブッシュの代わりにピロボールを使うことは禁止されている。
そうした制約の範囲が広いST-Qクラスのレギュレーションで改良してきたのが、今回のBRZで、一部をご紹介するとドアをノーマルからカーボンに変更。34kgの軽量化を行ない、また一部にブッシュでは対応しにく箇所をピロボールに変更することを行っている。これを各ドライバーが走行し仕上がりをチェックするというテストが行われていた。
まだまだ煮詰める必要がある
午前中1回目のテストでは1分58秒439がベストタイムで、ライバルのトヨタGR86は1分55秒657で水を開けられたままの結果だ。テストではダンパー、スプリング、ジオメトリーをピットインごとに変更してフィーリングチェックをしており、ドライバーの井口からは「アンダーが強かったり、クルマの挙動で極端に動く場面もあり、もう少し煮詰める必要がある」というコメントがあった。
各ドライバーも似たような印象で、若手エンジニアはコメントのフィードバックからのセットアップの見直しを繰り返していた。
午後のセッション2回目でも1分57秒977がベストで、GR86との差はまだ縮まらない。それでも徐々にバランスの改善は見られている様子。3回目のテストでは2分00秒52で、ここはタイム狙いのテストは行っていない様子だ。一方のGR86も午前1回目のテスト結果がベストタイムで、やはり、どのチームもテスト項目が山積している様子。
一方で、SUBARU BRZに搭載されるFA24型NAエンジンとCN燃料の関係では、問題は起きておらず順調にカーボンニュートラル燃料で走行できているという。各ドライバーからも燃料やエンジンに関しては問題ないと異口同音で、課題はハンドリングを中心としたバランスだという。
ここで言うバランスの課題とは、鈴鹿のレースの時とはまた違う段階でのバランスだという。開幕戦が終わってからはサスペンションの取り付け位置の変更を行い、その結果はいい方向にでているが、さらなるレベルアップのためには、もう一段上のレベルでのバランスが必要だということだ。
公式テスト終了間際に本井監督に話を聞くと「今回テストしてもらった二人のドライバーからも、いいアドバイスをいただけていて、解決の方向性がよく見えています」と話している。また車両全体の取りまとめをしている竹内源樹氏からは「若手エンジニアに考えさせることが重要ですが、ドライバーからのフィードバックに即座に回答を出させるというのはハードルが高いです。ですので、ある程度の改良領域をこちらで教えて、そこから彼らに考えてもらってドライバーが納得できる仕上がりにできればと思っています」
というようにチーム内では取りまとめているベテランからすると、若手エンジニアの取り組みに手を出したい気持ちを我慢し、若手からの結果を待っているといったように見えた。また若手エンジニアには、量産で経験したことのない領域や取り組みに新鮮さを感じつつも、納得のいく解答が出せない産みの苦しみの中にいるというエンジニアがいたのも印象的だ。
SUBARUの取り組みとして第一義的に若手育成という狙いがあり、レースに勝つことのプライオリティをどこまで上げていくかという難しい部分もある。だが、ここまでの状況で、少なくとも新燃料での課題はすでに解決済みであり、新たな課題がないのかを検証している最中だ。またマシンづくりでは、量産技術の延長で取り組むものの、レース専用技術や考え方の必要性も顔を出し始めたことも事実だ。
果たして6月3日から始まる24hレースで、GR86に勝つことができるのか?若手エンジニアの奮起に期待したい。