SUBARUは2023年8月2日、第1四半期の決算を発表した。生産台数は前年同期に比べ18%増となる24万3000台増加し、営業利益は前年同期比で128%増となる845億円となった。半導体など部品の調達不足の影響を他のメーカーより多く受けたスバルだが、部品調達は昨年に比べ改善しており、生産台数が前年同月比で20万5000台から24万3000台へと回復したことが今回の第1四半期の決算に現れている。
生産がかなり回復したとはいえ、現時点でのグローバルでの受注残は9万台にも達しており、依然として納車に時間を要しているのが現状だ。しかし生産が大幅に回復したことで営業利益、営業利益率は7.8%と大幅に改善しており、コロナ禍以前の状態に戻りつつあることを示している。
またメインのマーケットであるアメリカ市場での販売奨励金も1台あたり800ドルと、他社に比べても低いレベルに戻りつつある。この結果、2023年度の通期の見通しは、生産台数101万台と従来から変更がなく、営業利益は3000億円を見込んでいる。
EVはソルテラのみというスバルは、中国市場での比率は無視できるほど少なく、中国市場の依存度が高い他のメーカーが軒並み販売大幅減少で大きな影響を受けていることに比べ、リスクがないのも特長であり、逆に北米市場の一本足打法というのが特徴と言える。
中期経営計画STEPの見直しとEV生産体制の構築
第1四半期の決算説明に続いて、6月に正式に就任した大崎篤CEOから、今後のスバルの電動化戦略について、説明が行なわれた。そこでは前職の中村CEOからは語られることのなかった電動化戦略が具体的になりつつあった。
まず2030年の電動化目標は、従来はEVとハイブリッドは販売台数の40%を想定していたのに対し、EVのみで販売台数の50%とする目標にアップデートをした。そして世界販売台数を120万台と想定し、EVが60万台、残り60万台はハイブリッド車を想定している。
ハイブリッド車は、次世代e-ボクサー・システムを搭載するとしており、このe-ボクサーを搭載するハイブリッド車は、現在開発中だ。ただハイブリッド・システムそのものは、トヨタのハイブリッド・システムで、次世代のe-ボクサーエンジンは、ハイブリッド専用の高効率な内燃エンジンと推測できる。
そして、EV、ハイブリッドの生産は、群馬工場では2025年ごろに生産を開始し、アメリカでは、IRA法(Inflation Reduction Act:インフレ抑止法。北米で生産されたEVにのみ補助金などの優遇措置を適用。輸入車は適用除外)や市場環境を考えた結果、2026年〜2027年にアメリカでもEV、ハイブリッドを生産することを決定した。
群馬でのEV生産は、ハイブリッド車との混流生産としているが、すでに新しいEV専用工場を着工している。この新EV工場では、革新的なEV生産を行なうとしている。その生産能力全体は、2028年時点で120万台を見積もっており、スバルにとって群馬での新EV工場、アメリカにおけるEV、ハイブリッド工場が稼動することで120万台体制が整うということになる。
バッテリー調達の課題
もちろんアメリカではバッテリーの生産も含まれており、協業を発表しているパナソニックエナジー社の円筒形リチウムイオン・バッテリーが現地で行なわれるはずである。
パナソニックエナジー社がアメリカで生産を開始すれば、スバルとマツダにバッテリーを供給することになるわけだ。この大崎CEOの会見に先立ちマツダも決算説明会を行ない、そこで記者からの質問に対し、北米での電池調達はパナソニックエナジー社と協議すると言及している。
とはいえ、スバルは当面、2027年頃まではアライアンス相手のトヨタのバッテリーを採用することも明らかにした。これはトヨタとパナソニック合弁のプライムプラネット・エナジー&ソリューションズ(PPES)社製の角型リチウムイオン・バッテリーのことである。
そのトヨタは、次世代リチウムイオン・バッテリーを開発していることも発表しており、スバルもその選択肢を残している。言い換えれば、スバルはパナソニックエナジー製の次世代の円筒形リチウムイオン・バッテリーと、PPES製のバッテリーの二股戦略といえるだろう。ただし、トヨタが北米で生産できる量は10GW程度と言われており、自社用でも不足と考えらえ、スバルやマツダへの供給ができるかは不透明だ。
いずれにしても、中国のCATL製、BYD製、韓国勢のリチウムイオン・バッテリーよりは割高なバッテリーを選択したことは間違いない。
SUBARU車の魅力づくり
こうして2028年にむけて、そして2030年目標に向けて120万台体制を整えていくなかで、SUBARU車の魅力となるポイントは「モノづくり革新」と「価値づくり」だとしている。
モノづくり革新とは、開発、生産、サプライチェーンが一体化した体制を意味し、これは小規模メーカーであるスバルならではの特長を生かすことだとしている。こうした体制を背景に、世界最先端となる、開発工数の半減、部品点数の半減、生産工程の半減を目標としているのだ。
開発工数は、設計、生産、サプライチェーンの一体化で実現し、部品点数、生産工程の半減は、モジュール設計の大幅な導入を意味している。大崎CEOは明言しなかったが、テスラが採用しているようなギガプレス部品などをイメージしていると推測できる。
こうしたものづくり革新によって、開発、部品点数、生産工程の半減が達成できれば、どのようなEVを生産しようと従来レベルの利益率を確保できるわけである。
そしてEV時代においてもスバルならではの価値づくりを行なって行く方針だ。つまり、EV時代でも「安心と愉しさ」を追求し、EVにおける使い勝手の向上、そして無線通信によるソフトウエア・アプデートを継続することでオーナーの車両の価値を失わせないことを目指すとしている。
なお、EV時代における安心と愉しさは、動力源がモーターとなることでAWDの制御はより緻密に、俊敏になり、スバルAWDの特長がより強化されると想定している。
さて、もうひとつの注目発言では、新型EVを2026年末までに4車種のSUVを投入し、2028年までにさらに4車種のEVを投入する計画であることを発表したのだ。
となると、具体的なモデルはどうなるか。現在のスバルのラインアップから考えると、アセント、アウトバック、フォレスター、クロストレックのEV版がまず最初の4車種となることが想定されるわけだ。
このように、スバルの電動化新戦略では、その具体的なロードマップが明らかになったことは評価できるが、現在クルマ作りの焦点となっているソフトウエア・ディファインド・ビークル(SDV)についての戦略や取り組みが明らかではない点がいささか不安材料となっている。