2018年7月10日、スバルは2025年に向けての新たな中期経営ビジョンを発表した。6月の株主総会で就任した中村知美新社長が牽引するこの新中期経営ビジョンは「STEP」と名付けられた。
■企業風土の改革が最優先
この新中期経営ビジョンは、前任の吉永社長が掲げた中期経営計画「際立とう2020」を引き継ぐ2020〜2025年の経営戦略だが、2017年秋に発覚した完成車検査の不正問題が大きく影響し、組織をあげて企業風土の改革、品質の向上などが最優先のテーマとなっている。そのため、品質向上のために5年間で1500億円を試験設備や人材に投資する。むやみに成長を急がず、企業風土や品質の改善を優先するという姿勢だ。
新経営計画の名称は「STEP」で、「Speed(スピード)」、「Trust(信頼)」、「Engagement(共感」、「Peace of mind & enjoyment(安心と愉しさ)」の頭文字を意味し、さらに次の「JUMP」に備えて着実に地力をつけるという意味合いも含まれている。そして、2025年に向けてのアクションプランとして、個性を磨き上げ、ユーザーにとってDifferentな存在になる、お客様一人一人が主役の心に響く事業活動を展開する、多様化する社会ニーズに貢献し、企業としての社会的責任を果たすことを掲げている。
この中に掲げられたDifferentという表現は、中村社長は「自らが変わった存在になるという意味でなく、スバルをお乗りのお客さまや販売店から、ほかのメーカーと違っていいよねと言っていただく、単にクルマを売ったり買ったりする存在でなく価値観が合うと共感していただく」という意味だという。これはアメリカ市場でスバル・ブランドが獲得した表現で、アメリカでの成功体験を日本にも、ということだろう。
■アメリカ市場でシェア5%への挑戦
性急な企業規模拡大は求めないとしているが、最大のマーケットであるアメリカではシェア5%を狙う。現在のスバルはアメリカ市場ではスノーベルトと呼ばれる北部地域、東海岸、西海岸でブランドを定着させているが、サンベルトと呼ばれる南部地域では販売店も少なく、販売台数も多くないからだ。
そのため空白地域での販売店の新設などを含め、販売促進を行ない、シェア5%を目指す。2018年時点では北米販売台数は77万台だが、2025年のアメリカ、カナダを合わせた北米地域の販売台数は92万台と20%増を目指すというのだ。したがって相変わらず北米市場への依存度が極端に高い傾向が続くことになる。もちろんスバルだけではないが、もしトランプ大統領の25%関税案が実現すれば、大きなダメージを受ける構造だ。スバルは、北米での販売台数の半数は現地生産、残り半数は日本からの輸出なのである。
北米市場以外ではロシア、アジア、オーストラリアでの販売の拡大を目指し、販売網の拡充を行なうという。一方で、巨大市場の中国とヨーロッパ市場は現状維持レベルで積極的な販売強化は採らない姿勢だ。
日本市場は、今後は市場規模全体が低減すると予想しているが、月間販売1万台、年間15万台を死守するという計画だ。2025年度の世界販売は2018年度比18%増の130万台を計画している。
経営目標としては、2018年〜2020年の3カ年で売上高3兆円、営業利益9500億円、営業利益率9.5%とし、この期間中に試験研究費を4000億円(+20%)、設備投資を4500億円(+3%)を投入する。
しかし、直面する課題である企業風土改革は、単に古い企業風土、社員同士や部署間のコミュニケーション不足というだけに起因するわけではなく、慢性的なエンジニアや技能員の不足など、リーマンショック以来の後遺症をどれだけ抜本的に解消できるか、課題は大きい。
■これからの商品展開
時代はコネクテッド、自動運転、シェアリングサービス、電動化の潮流を迎えているが、スバルは企業規模を考え、これらに全て着手するのではなく選択と集中が迫られる。そのため大規模な企業間の水平展開が必要なシェアリングサービスに対しては消極的で、その一方でアメリカ市場で拡大させているコネクテッド通信サービス(名称:スターリンク)は加速させるという。
特に主要なマーケットである、アメリカ、カナダ、日本では2022年までに80%以上のクルマをコネクテッドカーにするとしている。このコネクテッドは、車輌情報を販売店、スバルが共有するテレマティックス、情報サービスを含む内容だ。
自動運転技術、特にレベル3以上の技術に関しては、スバルが販売する200万円〜400万円の価格帯のクルマにはセンサー類などのコストが高過ぎるとしており、レベル4以上の自動運転技術への取り組みは否定的だ。自動運転技術より2030年に死亡交通事故ゼロを目指し、レベル2の運転支援技術を熟成すると同時に、衝突安全性能をさらに引き上げることを目指す。
そして運転を楽しむことができることと両立できる高度な運転支援技術を開発し、2020年には高速道路でのレベル2+を目指し、2024年頃にはGPS位置情報やデジタルマップを併用するインフラ協調型の高度運転支援システムの実現を目指している。
商品展開としては、主力車種のモデルチェンジを毎年行ない、商品力を高めるることと、SUV、スポーツモデルをより強化するという方針だ。具体的には2019年には新型WRXの投入が予想される。またSTIモデルの拡充、次期型86/BRZの開発もすでに開始されている。
これに合わせ、SPG(スバル・グローバル・プラットフォーム)をさらに進化させ、デザインも現在の指針であるダイナミック×ソリッドを、より大胆に表現する方向を模索している。
電動化はアメリカのZEV規制に対応し、2018年後半には2019年型モデルとしてPHEVを投入する。これはトヨタTHS-Ⅱを搭載したプラグインハイブリッドで、いわばZEV規制対応モデルだ。また2021年には電気自動車をグローバル販売するとしている。この電気自動車はトヨタ、マツダ、デンソー、スズキなどが参画している共同開発プロジェクト「EV C.A. Spirit」の骨格を使用したものになる。さらに2021年以降にスバルが独自開発する新開発のハイブリッド車を投入するとしている。
これら電動化技術と並行し、新型のダウンサイジング・コンセプトを採り入れた水平対向ターボエンジンを開発中で、2019〜2020年に市場に投入する予定だ。この新開発エンジンは熱効率の向上と、大トルクを両立させることをテーマに開発されている。
2018年7月10日に、スバルはもう一つ新しい試みを発表した。SBIホールディングスの100%子会社であるSBIインベストメントと共同で、スバルの既存事業分野、新規分野で事業シナジーが見込まれる国内外の有望なベンチャー企業を投資対象とする、プライベートファンド「SUBARU-SBI Innovation Fund」を設立した。
このファンドの具体的なアクションはこれからの課題だが、スバルという企業の枠にとらわれない新しいビジネスや技術にチャレンジするための新たな試みだが、安全性やドライビング・プレジャーに関する新技術が生まれることを期待しているようだ。