スバル 2018年6月に社長交代 世代交代する経営陣 SUBARUはどうなる?

雑誌に載らない話vol223
2018年3月2日、スバルは取締役会で新役員人事を内定した。これまでの吉永泰之社長は代表権のある会長(CEO)となり、新たな代表取締役社長(COO)に、これまでスバル・オブ・アメリカの社長を勤めていた中村知美氏(現執行役員専務)が就任することになった。

スバル 吉永泰之社長(次期会長) 中村知美次期社長

■役員を世代交代

現会長の近藤潤氏、日月丈志専務(最高技術責任者)、笠井雅博専務(製造・調達責任者)も退任し、新しい専務が就任する。この人事は6月の定期株主総会で正式決定される。

スバルは2017年10月に、車両完成検査での不正が明らかになり、在庫の出荷停止、リコールの実施などの対策に追われたので、マスコミはこの責任をとって吉永社長退任か、と受け止めたが、実は吉永社長は2017年9月頃には、役員体制の世代交代を図ることを想定していたという。

もちろん、完成検査不正問題が発生したため、その対応に追われるとともに、役員の世代交代をどのようにするかを考慮し、12月末に新社長に中村知美氏を指名。近藤現会長、日月専務、笠井雅博専務の3名は退任し、吉永氏は「正しい会社推進部、コンプライアンス室、航空宇宙事業、品質」を担当するCEOになることを決断した。

スバル 吉永泰之社長(次期会長)
吉永泰之現社長は代表権のある会長(CEO)に就任する

見方によっては、新体制は吉永CEO、中村COOという2頭体制ともいえるが、吉永CEOは担当事業を限定し、完成検査問題など当面抱えている問題の解決を最後まで責任を持って対応するとしている。

スバル 中村知美次期社長
新社長(COO)に就任予定の中村知美氏

一方、中村新社長は、これまで国内営業、マーケティング推進本部、経営企画を担当し、その後2014年からは常務執行役員&スバル海外第一営業本部長兼スバル・オブ・アメリカ会長を勤めた経歴を持っている。

中村新社長は6月の定期株主総会で正式に社長に就任し、その後の夏頃には新中期経営計画を発表する予定だ。中村氏は4年間アメリカに駐在していたこと、それ以前も営業、経営企画といった分野を担当していたため、全社的な情報を掌握するには少し時間がかかると予想される。

■スバルの商品戦略

スバルは2018年にアメリカ市場向けミッドクラスの3列SUV「アセント」を市場投入する。さらにグローバル戦略SUVのフォレスターが2018年6月頃にはデビューする。このフォレスターにはプラグインハイブリッドもラインアップされる。

さらにフォレスターに続いて、レガシィ/アウトバック、レヴォーグのモデルチェンジが計画されている。そして次期型レヴォーグからは新開発の熱効率を高めた本格的なダウンサイジングターボ・エンジンが採用される予定だ。

スバル 商品戦略概要

このように新型車は、スバル・グローバル・プラットフォーム(SGP)をベースにしてプラグインハイブリッドのラインアップを追加、新ダウンサイジング・ターボの搭載、そして2021年のEVモデルの登場というラインアップが計画されている。

また、スバルはプラグインハイブリッドはもちろん、EVにも専用車種は設定せず、既存の車種にEVユニットを搭載するという方針を明らかにしている。

またこうした商品展開と同時に、トヨタとの業務提携をどうするかも今後の大きな課題になる。最近のトヨタは、業務提携のパートナーとしてマツダを重視している状態だが、マツダよりはるかにトヨタの持ち株比率が高いスバルとの関係は不透明だ。

スバル 試験研究費の推移グラフ
試験研究費は今後さらに増大することが予想される

すでに次期型86/BRZの開発はキックオフされているが、連携する事業は、それ以外にプラグインハイブリッド用のエネルギーマネージメント・システムがトヨタからスバルへ供与、またリチウムイオン・バッテリーの共同購入などが想定されるが、それ以上の発展性はあまりない。

そもそもハイブリッドやプラグインに関しても、スバルの縦置き・水平対向エンジンに適合するユニットがトヨタには存在しないので、制御ソフトはトヨタから供与されるにしても、ハードウェアはスバルの独自開発によらざるを得ないのだ。

このように次世代車の開発に関してトヨタとの関係をどうするのか、これまで以上にクリアにすることは、新役員体制の課題の一つとなっている。

■経営的な課題

これまでの吉永社長の時代にスバルは大きく成長した。2013年には年間販売台数は72万台程度だったが、2017年3月の時点で100万台を突破している。これは当初の想定を上回る伸びである。

また営業利益率が2013年時点では6%台であったものが、2016年時点では17.5%と驚くほど向上し、製造業としては驚異的な利益率を実現している。こうした成長の背景にはアメリカ市場での驚異的な成功があったからだ。

スバル 売上高 営業利益 営業利益率 推移グラフ

もちろんその成功のための種まきは、それより以前からスタートしており、商品力の向上、ブランドイメージの向上の他に、販売店の強化、販売報奨金の縮小、フリート販売(レンタカー業者や企業への下取り価格契約付きの大量納入)の抑制などが実行されてきた。特に営業利益を低下させる大きな要因となる、販売奨励金の縮小とフリート販売政策の抑制が奏功し、営業利益率を向上させることができたのだ。

スバル 連結販売台数 推移グラフ

さらに加えて2016年度までのアメリカ市場での自動車販売そのものの好調にも助けられた。しかし、アメリカの自動車販売市況は、2017年度から縮小傾向にあり、スバルだけに限らず、他の自動車メーカーも厳しい局面を迎えつつある。こうしたアメリカの自動車販売市場の陰りにより、各自動車メーカーはフリート納入の拡大、販売奨励金の増大の傾向がまた顕著に成りつつあるのだ。*フリート販売:レンタカー会社に買い戻し権付きで販売する方法。

スバル アメリカ小売販売台数 推移グラフ

こうした状況は、アメリカ市場だけに頼ってきたスバルにとって影響は大きい。現時点では今季も来季も販売台数は現状を維持する見込みだが、これまでのような大幅な伸びは期待できないのだ。

スバルにとっての弱みはこのアメリカ市場一辺倒という体制にあり、将来の成長が期待できる新興国市場、世界最大の自動車市場である中国に足がかりを持っていないことは、今後の大きな問題点となることが予想される。

スバル 連結完成車地域別販売台数 推移グラフ

中国市場では完成車の輸入には大きな関税がかかり、現地販売価格は2倍になるため、価格競争力はない。現状のスバルはそのため、中国での販売を期待することができないのだ。

新体制はこの大きな課題にどのように取り組むのだろうか?

また新体制は、これからの新世代車に対して取り組むのかも、より明確にする必要がある。現在、新世代車の要件である「CASE(コネクティビティ、オートノーマス、シェアリング、エレクトリックモビリティの頭文字)」と呼ばれるが、こうしたトレンドとどのように向き合うのか?という企業としてのメッセージが求められる。

中村新社長は、アメリカの経験では電動化についてもカリフォルニアのZEV規制の流れと、住んでいたジョージア州では明らかに市場の動きは異なるという。確かにカリフォルニアではゼロ・エミッション車やプラグインハイブリッドがもてはやされるが、全米では大排気量の大型SUVピックアップ・トラックの数機種が販売台数上位を独占している。

しかし、そうはいっても、対外的に企業戦略を公表することは必要だ。スバルはすでにオートノーマス、つまり自動運転に関してはレベル4、レベル5の無人運転を目指さず、レベル3の高度運転支援システムをターゲットとし、2020年ころに実現するとしている。

スバル 2020年の自動制御システム概要

またZEV規制に対応したプラグインハイブリッドを2018年に投入し、2021年に電気自動車(EV)を発売する計画で、EVにおいても「安心と愉しさ」を感じられるクルマにするとしているが、これらはいずれもアメリカのZEV規制に対応するということに過ぎない。

グローバル市場を対象にした、広い意味での次世代車の戦略構想を明確にすることも新役員体制での大きなテーマである。

COTY
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