【スバル】新型BRZデビュー エンジニアがこだわり抜いたBRZを考察

雑誌に載らない話vol38
待ちに待ったBRZが発表された。価格はRAグレードで205万8000円となっているが、RAは競技用のベース車両であり、RA、R、Sと3種類あるグレードの中では、実質Rグレードの6MT、247万8000円からが購入モデルとなるだろう。もっとも装備の充実したSグレードで6速ATは287万1750円という価格が発表された。発売は3月28日である。

Rグレード
BRZのブレードは3種類。16インチのRグレードと17インチSグレード

BRZの詳報についてはすでに【スバル 東モ】スバル BRZデビュー 東京モーターショー 詳報 動画 で伝えているが、ここでは、さらに新しい情報を加えてみたい。

BRZの名前の由来は言うまでもないが、ボクサー、リヤドライブ、究極を意味するZenith のそれぞれ頭文字をとってネーミングされている。そしてトヨタとの共同開発から生まれた新しいスポーツカーだ。

BRZ SグレードSグレード

↑もっとも上級なグレードとなるSグレードは6MTで279万3000円

製造はBRZ、トヨタ86ともに、スバルで製造され、1991年スバルのSVXが生産されていたラインを改造し、ここで2社のBRZ/86は製造される。3月からは3交替性を敷き本格可動する予定ということだ。

企画のベースとなったのは、ボクサーエンジン搭載のスポーツモデルで、これを基点に開発が始まった。そのため、最初はレガシィを試験車両として使用し、ホイールベースを短くし、サスペンションをドラスティックに変更、エンジン搭載位置の変更することから始められた。

そして次の開発段階に入ると、試験車両がレガシィからインプレッサに変更されている。レガシィベースの試験車両に対し、200kgもの軽量化が行われ、当然、エンジン搭載位置の追求、サスペンションの見直しが行われている。エンジン自体ではボクサーに直噴ヘッドが搭載されたのもこのタイミングになる。また、当Webでも2010年に掲載しているスパイショットも、この頃多く撮影されている。トヨタ・FT86の最新スパイ写真

そして現在、ほぼ量産スタイルの最終仕様で今なおテストが繰り返されているという。一般道路、高速道路を想定し、あるいは北米、寒冷地、欧州で実走行テストが行われているのだ。

RグレードRグレードリヤ

↑東京調布にある味の素スタジアムで事前撮影。量販のRグレードは16インチを装着し、6ATで254万6250円RA真横

↑左は競技のベースモデルとなるRAグレード。6MTのみの設定。右はRグレード。

パッケージコンセプト

さて、超低重心パッケージでデビューするBRZだが、低重心のメリットを改めて、確認してみると、ロールモーメントの減少、ボディロールの減少、コーナリング中内側から外側への荷重移動の減少、コーナリングフォースの低下抑制をすることができ、高いコーナリング性能を可能にするわけだ。

そのため、低重心が可能となる水平対向レイアウトのボクサーを搭載することで、プロジェクトがスタートしている。搭載されるボクサーエンジンにはバランシングウエイトがないなど、片手でもてるほどの軽量なクランクシャフトを持ち、トヨタの直噴技術と融合してFA20型エンジンが完成している。

RAインテリアSグレードインレリア

↑左はRAのインテリア。右は上級のSグレードのインテリア

そしてスーパーカーよりも低い低重心を完成させ、地上から40cmの位置にヒップポイントがある。膝よりも下の位置に座ってのドライブは久しぶりの体験になるだろう。ちなみに、さらに低いヒップポイントを持つスーパーカーも存在はするが、いずれも地上最低高も低く、BRZの13cmほど高いモデルは存在していない。ポルシェ・ケイマンと比較しても世界最小の2+2FRクーペが完成と言える。

そしてエンジン搭載位置も従来では考えにくい位置に搭載されている。この革新的パッケージでは先に発売された新型インプレッサと比較して、エンジンのクランクセンターで60mm下げ、240mm後退させている。こうしてエンジンを低く後退させながらフロントタイヤを前に出しているのだ。

低く搭載されたエンジンからミッション、プロペラシャフトを通り、リヤのデフまでが地面に対し水平に近い形でレイアウトされ、このフラットなレイアウトでありながらオイル潤滑を支える技術は凄いことだと、スバルのエンジニアも自画自賛している。

BRZシャシーBRZボトム

↑左はフラットな駆動伝達レイアウトがわかる。右はフラットボトムが良く分かり、マフラーもトンネル部に収まる

BRZとハチロクは別物か?

さて、エンジンやボディ、シャシーといった部分は既報の【スバル 東モ】スバル BRZデビュー 東京モーターショー 詳報 動画 を読んでいただくとして、噂になっているトヨタ86との違いが本当にあるのかを聞いてみた。

結論から言うと、86とは違う。

ではどこが違うのか? それはシャシーでの味付けの部分での相違になるということだ。シャシー設計部の中田浩之氏の話によると「開発の目標性能においてはトヨタさんと合意したポイントがあり、その目標性能はクリアしています。しかし、われわれとしてはさらにその先にも適地があるという考えから、開発終了間際まで煮詰め、無理矢理時間を作ってもう一段上のものを目指そうということになりました。その結果、味付けが変わりました」ということだ。

スバルとしては、自社のブランドステートメントにコンフィデンス・イン・モーションという言葉を用い、ユーザーとの信頼感、安心と愉しさを提供するメーカーであることを謳っている。当然、トヨタとの共同開発とはいえこのブランドステートメントに合致していなければならず、そのためにオリジナルのチューニングをした、という理解をしてみるのはどうだろうか?

100の5穴16インチ

↑ホイールのPCDは100mmの5穴。右は16インチ。ローターも小さくなる

では、実際にワンランク上を目指したものというのは何だろうか。中田氏によれば「アクティブセーフティの姿勢は変わらず、安定感をだしつつ楽しく走れるのがスバルのスタイルですから、高速時のレーンチェンジの応答性とか、細かな部分の積み重ねをしました。そのため、ダンパーとコイルスプリングを変更しています。それ以外は全て同じです」という。

しかし、ダンパー、コイルスプリングの変更となると、おおごとのようにも感じるが、もちろん、形状変更はない。ジオメトリーやアライメント変更といった「やり直し」までの時間はないからだ。そのため、おそらく減衰とバネレートの変更というスペックが違っているということだろう。そして、主にダンパーの減衰変更だろうが、それもオイルやオリフィスを変更した場合、量産品となるためコスト、耐久性などもクリアしなければならない。一旦開発目標に到達したモデルをさらにチューニングするには、あまりにも時間がない。そこで、ダンパーメーカー自身が持っているスペックのもので、スバル側が要求するデータと合致する量産ダンパーがあれば解決できるわけで、このあたりに答えがあるようだ。ちなみに、ダンパーのサプライヤーはショーワで、スプリングは三菱である。ひょっとすると誤差の範囲かもしれないが、車高が若干違うということを疑ってみたい。

「乗り味に関しては正解のない世界で奥が深いです。でも86とはぜひ乗り比べをしてみてください。違いは感じると思います」というコメントももらえたので、発売されたらみなさんも近くのディーラーで体験してもらいたい。

タイヤ搭載キャディバック

↑タイヤ4本をRAに搭載してみる。右はキャディバックを上級グレードのSに搭載。リヤシートを倒し2本が限界

設計の狙い

さて、超低重心のBRZ、しかもFRというスバルでは未だ経験のないレイアウト車両の開発だったが、難しさはあったのだろうか?前述の中田氏は「リヤの駆動に関してはAWDでもFRでも同じで、フロントだけ違いますよね。これは、フロントのドライブシャフトなどがなくなったために、スペースが生まれ、逆に自由度があがったとわれわれシャシー屋は歓迎しています。制約条件が減ることだと理解できます」

フロントのロアアームでは早速、エンジニアのアイディアを発見できる。一般的にロアアーム形状は3箇所で支え強度が求められるが、スポーツモデルであれば軽量化のためにアルミ材を使用したりする。標準モデルであれば、アルミ材は高価なため、鋼鉄製で強度を上げる。そのためボックス断面形状になっているのが一般的だ。

BRZフロントシャシー
ロアアームはスチール製でオープン断面になってい

しかしBRZでは平断面の一枚鋼板でオープン断面になっているのだ。もちろん、スチール製であるため、アルミと比較しコストは下がる。そのために?という疑問は沸くが、「スバルはAWDかFFですから、フロントには必ずドライブシャフトがあります。ですからロアアームのレイアウトには制約があるのが当然なんです。そのため、強度を出すためにスチールであればボックス断面の構造で、あるいはアルミ材を使ってきましたが、BRZはその制約がないため、強度をだしつつオープン断面のスチール製でも十分な性能にすることができました。必要な剛性は十分にあり、横のトレッド剛性は非常に高いです。他のスバル車よりも高剛性にできています。ですから、頭を絞った結果、非常に効率よくロアアームの配置ができ、いい答えが出せた部品のひとつです」ということだ。

一見安造りにも見えるが、横剛性もキャンバー剛性もインプレッサを上回っているというから驚く。ややもすると、アルミを使ったインプレッサ用のロアアームに交換したほうが・・・というイメージを持っていた方も一考が必要そうだ。

ATシフトMTシフト

↑左はATのシフトレバー、右はMT。サイドブレーキレバーとの位置関係にはエンジニアのこだわりを感じる

さて、コーナリングマシンのイメージが付きつつあるBRZだが、目指しているハンドリングは何だろうか。「レスポンスよく、リニアに動かすことに注力し、人間の感性に逆らわないということです」

そのため、超低重心化されたメリットを生かすために様々なものを同じベクトルに乗せているのがわかる。例えば、ロールセンター。低重心だからといってロールセンターも下げてしまうとメリットが生かされない。重心高とロールセンターをある程度縮めておいて、荷重移動を減らす。その分、サスペンションの負荷が少なくなるので、乗り心地にも好影響がある。重心高とロールセンターの差が大きければ大きいほど、ロール剛性を確保するにはサスペンションを固める必要がでてくる。BRZではこのようなことをしなくてもスポーツカーらしい走りができるというわけだ。

メーターパドルシフト

低重心によりロールそのものが少ないが、舵を入れたときのロール開始時期は早く、しかしロール速度はゆっくりとなる。そして収まりも速いという特徴があるという。ハンドルを切ればすぐに反応し、舵をとめているのにクルマが動いているということがない、ということだ。

ステアリングポストやハンドルの位置も、エンジン搭載位置が下げられたことで、全体に傾斜角がフラットな方向になり、ハンドルもドライバーに正対する位置方向になっている。そしてATとMTではアクセルペダルの形状も異なるなどのコダワリを見ることができた。特にサイドブレーキはオーソドックスなタイプを採用しているのも歓迎できる。シフトレバー位置との関係も良好だろう。このあたりのインプレッションは試乗レポートを待ちたい。

RAのペダルATペダル

BRZMTペダルサウンドチューン

↑上段左はRAのペダル、上段右がATのペダル。下段左はMTのペダルでBペダルはもちろん、Aペダルもデザインが異なる。下段左はサウンドチューンの配管

 

●価格 RA:6MT205万8000円 Rグレード 6MT247万8000円 AT254万6250円 Sグレード 6MT279万3000円 AT287万1750円 ●FA20型水平対向4気筒2.0L ●最大出力147kw(200ps)/7000rpm 最大トルク205Nm/6400rpm-6600rpm ●全長4240mm×全幅1775mm×全高1300rpm ●車両重量 RA:1190kg R 6MT1210kg AT1230kg S 6MT1230kg AT1250kg●JC08モードRA 13.4km/L R 6MT13.0km/L AT12.8km/L S 6MT12.4km/L AT12.4km/L

 

スバル公式サイト

ページのトップに戻る