スバルレガシィ  レーダー使わずステレオカメラで実現したプリクラッシュセーフティ

雑誌に載らない話vol9

アイサイト誕生までのあゆみ

2010年5月に年改良されたレガシィに、プリクラッシュセーフティ(ぶつからない機能)とドライバー支援装置のアダプティブクルーズ機能(運転楽チン機能)を統合した、「アイサイトver2」搭載モデルがレガシィの幅広いラインアップに加わった。

採用車種はレガシィ・ツーリングワゴン、B4、アウトバックの3系統。ベースのNA2.5L、2.5ターボ、NA3.6Lと全グレードに設定されており、従来の特定車種、オプション設定とは位置付けが大きく異なる。言い換えればスバルは戦略的に、従来の走りのイメージに、セーフティさも追加しようとしているというわけだ。

JNCAP(独立行政法人、自動車事故対策機構)衝突試験で、レガシィが自動車アセスメントグランプリを受賞したことや、ヨーロッパ、アメリカ、オーストラリアの衝突試験でいずれも最高位を獲得している実績も、このプロジェクトを後押しした契機のひとつだろう。そして、日本の自動車メーカーとして先進・安全面で突出したといえる。

もっともプリクラッシュ・セーフティによる自動停止機能は、いち早くボルボがXC60で「シティセーフティ」という名称で日本において発表を行った。どうやらスバルはこの情報を事前にキャッチしていなかったようすで、発表は2番目となってしまった。

 

アイサイトver1

スバルは今回のアイサイトver2以前にはver1があり、さらに遡るとADAシステムがあった。そのアイサイトver1の原型になるシステムであるADA(アクティブ・ドライビング・アシスト)の特徴は、ステレオカメラを採用して、前走車との距離や速度差を演算するというシステムだった。

400×200画素の画面を0.1秒で処理することで、前走車との車間距離のキープや車線レーンの逸脱を感知、障害物との衝突を警報・回避するというドライバー支援システムとして構想され、1991年の東京モーターショーで発表されている。

ステレオカメラ方式を採用した理由には、画像認識と測距機能を両立させるためだからだ。ただし、リアルタイムで制御を実現するためには、画像処理、測距の演算を高速で行うコンピューターが必須であった。

このため、実際に商品化され、市販されたのは8年後の1999年で、レガシィ・ランカスターADAという1車種に限られていたのだ。

99年ランカスターADA

 

基本となる情報は、ナビゲーションシステムの地図データと合わせて、周辺状況を総合的に判断するというものだった。車線逸脱警報、車間距離警報、車間距離制御クルーズコントロール、カーブ警報、シフトダウン制御などが可能で、つまり警報と、自動シフトダウン、自動減速を行うという機能をもっていた。しかし、このときはまだ、完全停止する自動ブレーキではなかった。

 

完全停止するかしないかの違いは国の認可で決まった

2003年には、より本格的なADAシステムとして、レガシィ・ツーリングワゴン3.0Rに設定されている。このシステムがアイサイトVer1だ。ステレオカメラにミリ波レーダーを組み合わせたもので、自動ブレーキ、自動停止する技術を完成していたのであった。

この技術は、先行車追従、車間距離の維持を行い、アダプティブクルーズの作動状態であれば、前走車が減速すると車間距離を保ったまま自動減速する。追突の危険が迫っている場合では、警報と同時に自動ブレーキが作動し、シートベルトの引き込み、上級車ではシート位置の補正など一連のプリクラッシュ準備が行われる。

そして、自動ブレーキ、停止となるのだが、当時の国交省(世界各国政府でも同様の取り決め)では、ドライバーに操作を要求しない、いわゆる自動操縦は認可されなかったため、自動ブレーキは0.4G程度の制動力に限定された。つまり、0.4Gでは停止できず、減速するだけとどめ、ドライバーに追加操作を促すようにしていた。したがってこの自動ブレーキは追突軽減のための自動ブレーキだったのである。

機能的には、車間距離制御クルーズコントロール、車間距離警報、車線逸脱警報、VDC(横滑り防止装置)プレビュー制御(事前予測)、追従モニター、ふらつき警報、グリップモニター、前車発進モニターがあった。

VDCプレビュー

中でも、特徴的なのは、VDCプレビュー制御で、障害物との距離、路面の滑りやすさなどの路面μを判断し、障害物を回避するのに、ブレーキによる制動だけで可能なのかどうかを事前に認識するというものだった。

ブレーキ制動による回避が困難な状態で、VDCが作動する場合には、車両が障害物回避動作に入ると判断し、路面を事前予測(プレビュー)してVDCの制御特性を安定性向上モードへと変更し、車両の安定性を最適にするという高度なシステムだった。

またこの機能に付随して、VDCからの情報により舗装路から雪道、凍結路まで、変化する路面状況に応じたタイヤのグリップ力の変化を予測し、センターディスプレイに表示するグリップモニターも備えていたのだ。

その後、2008年にシステムが改良され、システムの名称もEyeSightと変更。この時点で、新世代のステレオカメラを採用し、その代わりにミリ波レー ダーを廃止。機能的にはプリクラッシュブレーキ(ただし衝突被害軽減ブレー キ)、全車速追従機能付クルーズコントロール、AT 誤発進抑制制御を取り入 れ、現在のシステムのベースが構築されている。ただ、この時点では最大で 0.4gまでの自動ブレーキが使用されていた。

アイサイトver1のシステムには、ステレオカメラとミリ波レーダーが組み合わされ、VDCとの協調制御などにより先進的なシステムであったが、当然ながらコストが高くなった。だから、2008年のモデルチェンジでは、ミリ波レーダーをなくし、ステレオカメラだけで制御することにした。このことで、量販車種に展開するためのコストを低減することが可能となったが、VDC協調制御を省略したのは残念という思いが開発担当者には強いと見た。

しかし、2010年に入り、国交省は30km/h未満では衝突が回避できる自動ブレーキ、自動停止を認めることになった。もちろんこれは国交省の独自判断というより、各国の政府間での自動車安全技術の枠組みが変更されたことによるものだろう。

これによりボルボ、スバルが自動停止を含むプリクラッシュブレーキの商品化が実行されたのである。

さらに、視点を変えてみれば、これまで、各自動車メーカーはミリ波レーダーやレーザーレーダーを使い、運転支援やプリクラッシュなどを行っているが、アイサイト2は、それらとはまったく違ったアプローチ、すなわち、レーダーを使わず、ステレオカメラだけでプリクラッシュも、アダプティブコントロールもできている点が特筆に価する技術力といえよう。

文:松本晴比古

 

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