ぶつからないクルマ、レガシィ「アイサイトver2」の全貌 松田秀士動画レーポート

アイサイトver2は、ステレオカメラをフロントガラスの最上部、バックミラーの両側に2個のカメラを配置し、これは従来と同じだが、カメラユニットとECUは一体化され、ver1よりコンパクトにまとめられている。

プリクラッシュセーフティ

新世代の車載ステレオカメラ by 日立動画

ユニットの製造は日立オートモーティブシステムズで、制御ロジックはスバル・オリジナルで開発されている。毎秒30回のサイクルで各画素の距離情報を取得できるステレオカメラ専用の画像処理LSIを開発し、LSIマイコンの演算は従来の2倍以上の速度で行われるという。左右のカメラ距離は350mmに設置されている。

その一方で、高コストのミリ波レーダーは廃止となった。ただ、性能的にはミリ波レーダー以上となっている。ミリ波レーダーは遠距離の測距には有利だが分解能力が低いため、高精度化するためには、より波長の短いレーダーが必要になる。これに対してステレオカメラは、レーダーより視野が広く、近距離から遠距離までをカバーできるのが優位点だ。

ボルボのシステムは、単眼カメラとレーザーレーダーを併用しており、シティセーフティの名称通り、レーザーレーダーにより近距離での性能発揮に特化していると思われる。

このバージョン2では、クルマ、人、2輪車を認識するが、ポール、ガードレール、身長が低い幼児は認識できない。低いガードレールや幼児はカメラの視界に入りにくく、ポール、電柱など柱状の物体はノイズと混ざりやすく、誤認識が多くなるのであえて認識除外しているという。

cameraunitステレオカメラ

 

機能は大別して3つ

アイサイトver2の機能は大別して3つある。衝突回避・軽減(プリクラッシュセーフティ=ぶつからない)、ドライバー支援(運転負荷の軽減)、アクティブセーフティ(予防安全)の3つだ。

●衝突回避・軽減(プリクラッシュセーフティ):プリクラッシュブレーキ、プリクラッシュブレーキアシスト、AT誤発進抑制制御

●ドライバー支援:全車速追従機能付きクルーズコントロール、先行車発進報知

●アクティブセーフティ:車間距離警報、車線逸脱警報、ふらつき警報

それでは、機能をひとつずつ見ていこう。まず、プリクラッシュブレーキは、障害物(前走車)との速度差を検知して自動的にブレーキをかける。ブレーキは2段階あり、1次ブレーキは0.25Gの自動ブレーキとなり、警報と同時に軽い減速度によりドライバーに注意を喚起する。またこの1次ブレーキの段階で、その後の強いブレーキ作動のためにブレーキ液圧の準備ができたことになる。

1次ブレーキがかかってもブレーキが踏まれない場合は、0.7Gの強い2次ブレーキがかけられる。この自動ブレーキによって速度差が30km/h以下の場合は衝突をぎりぎりで回避できる。0.7Gのブレーキとはイメージ的にはABSが作動する少し手前の強さのブレーキといった感じだ。

なお警報音は、1次ブレーキが「ピッ、ピッ、ピッ」、2次ブレーキの段階で「ピーーーー」となる。

この音についてあえて言えば、一般的なありふれた警報音で、プリクラッシュブレーキが作動するような緊迫したシーンには似合わないと感じた。より大音量の警報音らしい警報音に改善した方がよいと思う。

 

30km/hがアウト!セーフの境目?

↑ 衝突回避テスト30km/h by 松田秀士

国交省で認可される条件として、自動運転感覚を回避するため、通常ではドライバーが危険を感じてブレーキを強く踏み込むタイミングより意図的に遅く自動ブレーキがかかるようにしてある。

このため、30km/hの速度で自動ブレーキが作動すると、障害物から20〜30cmという本当にぎりぎりの距離で停止する。逆に言えば、衝突までの予測時間から逆算して自動ブレーキをかけるタイミングを決めているわけだ。

ただし、路面がアイスバーン、圧雪など滑りやすい路面ではABSが作動し、制動距離は伸びるので衝突は避けられない。

もちろん普通のドライバーであれば、衝突を避けるために2次ブレーキがかかる前に反射的にブレーキを踏み込むため、この2次ブレーキを体験することはないだろう。

30km/h以上の速度差の場合は衝突は回避できないが、衝突被害は軽減できる。30km/hが目安になっているのは、国際的にも日本でも30km/h以下の事故が約7割を占めるという事実で、これはボルボも参加しているスウェーデンの交通安全研究機関の研究結果と整合する。

またプリクラッシュブレーキの初期段階の1次ブレーキの作動と同時に警報が鳴るが、ドライバーが警報によりブレーキを踏んだ場合は、自動的にブレーキアシスト(BAS)が作動し、最大限の制動力が得られるようになっている。

なお自動2次ブレーキの0.7Gの制動力は、ブレーキが発生できる最大制動力の8割程度である。自動ブレーキの油圧元はVDCのポンプにより供給され、以前の別体アシストタイプよりシンプルにされている。

なお、プリクラッシュブレーキが作動中にステアリングを切ると、衝突回避操作をしたものと判断され、プリクラッシュブレーキとしての機能はストップするが、BAS(ブレーキアシストシステム)は作動している。

 

もうひとつのプリクラッシュセーフティ

世界初のAT誤発進抑制制御もプリクラッシュセーフティの機能のひとつ。これは、クルマの前方にある障害物を検知すると、例えブレーキペダルと間違えてアクセルペダルを思い切り踏み込んでも、エンジンに強力なトルクダウン制御が働き、出力を抑制し、車輪止めを乗り越えないように制御している。

もし車輪止がない場合は、ほぼアクセル全開でもアイドリング状態で前進するといった感じだ。この機能は、カメラが前方の障害物を認識している状態で、アクセルペダルを踏み込んだときに作動する。したがってカメラが認識できないボンネットより低い障害物や、真っ白の壁では作動は不可能。ただしコンビニの入り口に多いガラスドアの場合はガラス越しに内部の物体が認識されるため作動可能ということだ。

意図的に壁際ぎりぎりに駐車しようとするような場合は、この抑制制御が作動してしまうため、カメラ横のアイサイト・オフのスイッチを押し制御をカットしてから駐車することになる。

ぶつからない

 

ドライバー支援が楽チン

他のレーダー、カメラを装備するアダプティブクルーズコントロール装備車でも、前走車に追従走行が可能で、設定したクルーズ車速の範囲では車間距離を保ちつつ減速、加速を行い、前走車が急減速した場合、追突を発生しないように自動ブレーキも作動するが、停止はしない。

前走車が停止した場合、それに合わせて減速、停車できる全車速追従機能付きは、ボルボとスバルが最初となる。

アイサイトver2は、ステアリングに設けられたクルーズ・スイッチをオンにし、3段階の車間距離と、40km/h〜100km/hの車速設定を行うことでアダプティブクルーズが可能になる。

アメリカの郊外道路など、交通量が少ない道路やハイウェイでは設定車速を維持して巡航できるが、日本のような道路事情、特に都市部では、交通状況により頻繁に減速、加速が行われ、渋滞に遭遇することも少なくない。

この場合は、特に車間距離を維持しながらの加減速の性能が重要になる。減速はエンジン制御や自動ブレーキで行い、レジューム・スイッチを押すことで加速するというのは、従来からのアダプティブクルーズコントロールと同じである。

問題は、渋滞路だ。渋滞が発生し、前走車が停止すると、それに合わせて自動ブレーキにより減速、停止する。これまでは、自動ブレーキは0.4G程度までに制限されていたが、アイサイトver2は0.7Gまで高められているので、前走車が急ブレーキをかけたような状態にも対応して停止することができる。しかも停止中は自動的にブレーキを保持し、一定時間を経過すると電動パーキングブレーキに切り替わる配慮までされている。

前走車が動き出した時、ドライバーがそれを見落とし、発進が遅れるときは「先行車発信報知機能」が働き、ドライバーに気づかせるようになっている。

停止状態から加速する場合、従来はレジュームスイッチを押して加速させたが、ゆっくりとした加速しかしなかった。これが、今回レジュームスイッチだけではなく、アクセルの踏み込みにも対応しており、前走車の加速状態に合わせてアクセルペダルを踏むことができるのだ。しかもペダルを踏んでもキャンセルされず、再び、追従機能が働くのもうれしい機能だ。

したがって、日本の交通環境を考えると、アダプティブクルーズ機能は、渋滞路でのクリープ追突防止、また、のろのろ加速と停止の繰り返しパターンでのドライバー負担は、大幅に軽減でき大きな威力となることと思う。なお、クルーズ機能でもプリクラッシュブレーキ機能でも、自動ブレーキが作動している低速時にもブレーキランプは点灯している。

アイサイト制御

 

アクティブセーフティの役目

最後に予防安全機能は、前走車に接近しすぎ、あるいは追突の可能性がある場合の車間距離警報、走行レーンからはみ出すようなよそ見運転などは不注意と判定され車線逸脱警報が作動する。また、車線を左右で繰り返しまたぐような走行は、居眠りと判定されふらつき警報が鳴り、ドライバーに注意を促すようになっている。

これらの仕組みは、やはりステレオカメラの機能によるもので、車間距離警報は、前走車との距離、相対速度差をステレオカメラが演算している。車線逸脱警報やふらつき警報は、ステレオカメラが走行レーンの白線を認識しており、レーンをまたぐことで警報を行うようになっている。

今回レガシィのアイサイトver2は、多くのモデルに設定され、実質的な価格が10万円と相当に割安な設定となっていることから、これまで高級車にのみ設定されていたプリクラッシュセーフティやアダプティブクルーズコントロールを300万円クラスのクルマに普及させる契機となるだろう。

実際、アイサイトver2モデルを発売以来、レガシィの販売台数の50%が装着をしているという。いいかえれば、それだけユーザー層にもアピールしているのだ。また、このアイサイトver2搭載モデルを購入したとしても、プリクラッシュブレーキを実際に体験することは少ないとは思うが、安心感を高める働きは強いだろう。

一方、アダプティブクルーズコントロールは、渋滞が多い日本の道路では大いに威力を発揮するはずだ。ステレオカメラの優位性をうまく生かし、なおかつ従来より大幅にコストダウンできたことで実現している。将来的にはドライブレコーダー機能などにも拡張性などが考えられるが、もちろんそのためには大容量のメモリーを追加する必要がある。

機能一覧

文:松本晴比古

 

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